赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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予定よりも長くなりすぎた為、キリの良いところで分割。
原作ヒロインが一人脱落しましたが、因果応報アルヨー(


第51話「特別の意味」

『聞いての通り、白龍皇はグレモリー&シャルバ卿の名門悪魔ズ。赤龍帝がオーディン翁、バラキエル氏、王子からの支持を受けました。結果、三票を獲得した赤の勝利っ! おめでとうイッセー君、これで三戦目に挑む権利をギリ手に入れたね!』

「はっはっは、さてはジャンヌちゃんは知らないのかな」

『んー?』

「レースってのは先行させておいて、最後にケツから捲るのが格好良いんだぜ?」

『みなさーん、この人はちょっと前の無様を忘れてますよー』

「かさぶたも出来てない傷口に、塩を塗りこむのはやめて!」

 

 情け容赦のないセメントなツッコミは痛烈だが、やらかした事は事実。

 しかし経過はどうであれ、首の皮一枚繋がった事もまた事実だった。

 そんな中で分からないのはヴァーリの思惑だ。

 奴が二戦目に提示して来たのは体操服とブルマのセット。初戦のスク水で薄々感づいちゃいたけど、今回でついに確証を得た。

 すなわち、これらは間違いなくウチの学校指定の物であると。

 俺だって松田が盗撮した写真の横長し品を大切にコレクションしているし、健康美とエロさが共存するエクセレントな服装だと俺も思う。

 だが、今回の課題は非日常。最低でも普段から見慣れている木場の票を得られないと分かっているのに、あえてコレを出して来た意図がまったく読めない。

 一番良いと思っているものを出しただけ、そんな短絡的なら相手なら苦労はしないさ。

 アイツが勝ちを二の次にするなんて考えられん。

 何らかの意図が隠されているに筈なのに、いまいち読み切れないんだよなぁ……

 

「ふむ、二次元と言うジャンルもあるのか。まったく分からないと言うのも情けない、手始めにエロゲーとやら手に入れて勉強しておこう」

「全然応えてないっすね。つーか、勉強言うな」

「君はこの道では先駆者、背中から学ぶ姿勢を見せて何が悪い」

「その狂った余裕が怖ぇんだよ!」

 

 俺は非日常を単純に捉えて、普通に生きていればコミケにでも行かない限り拝めないふともも全開なエロゲーインチキ巫女コスプレをチョイス。

 かなりの露出度にも関わらずギリギリおっぱいが零れない胸部や、見えそうで見えない絶妙な配置のミニ袴が想像を掻き立てる渾身の出来だったと思う。

 他にも色々と思いつくネタはあったが、ヴァルキリーを囲い込んでるっぽいオーディンは巫女とか好きそうだし、原作プレイ済みの木場も件のキャラが好きだと言っていた事でコレを選んだ。そして予想通りの賛同を得て勝利もしたさ。

 そう、これは同じ失敗を繰り返さず自分の好みを前面に出しながらも勝つ為の選択。

 例えれば、好きなラーメン屋が複数ある中からツレの好みに合わせただけ。

 コッテリ系、アッサリ系etc、色んな味付けの旨い店をキープしているなら、どれを選んでもそれは俺にとっての最高に替わりは無い。

 部長のお父さんが求めていたのは、こう言う姿勢だったのだと思う。

 まさかヴァーリの奴、この考え方に気づいていないのか?

 いやいや、基礎スペック全般で上を行く宿敵に限ってそれは在り得ない。

 なんつーか、知性じゃなくて本能的な部分で分かったような気もするんだが……ぐぬぬ、言葉に出来ない自分が口惜しい。

 拾った勝ちは大局的に意味を成さない、戦術レベルの無意味さな気がしてならんのよ。

 

「兵藤、最後の最後で勝負を汚すなよ?」

「……おう」

 

 惑わされるな、俺。

 仮に孔明並の深慮遠謀だったとしても、どの道もう手を打つには機を逸した。

 シンプルに最善を尽くす、この言葉に従うのみ。

 が、何時の世も策士を破るのは馬鹿の読めない行動だから大丈夫。

 ヴァーリが知略の得意な頭脳派かと問われると、俺とは若干ベクトルの違う常人に理解されない馬鹿サイドな気もするが……まぁ、細かい事は気にするな。

 どうせ分からんもんは、いくら考えても分からん!

 

『それでは皆様お待ちかね、最終戦の課題を発表しちゃいますよー!』

 

 俺達のやり取りが一区切り着いたのを見計らったのか、ジャンヌちゃんは良く通る声で会場に呼びかける。

 そして周囲の目を一転に集め、最後の試練を俺達に提示するべく口を開いた。

 

『コンテスト王道の水着と言う穏やかなせせらぎから始まり、意外性の激流すらも乗り切った二枚の花びらは、流れ流れ大河を越えてゴールたる海へと至りました。同様の旅路を終えることでゴツゴツした巨岩すらも角が取れて円熟期を迎える様に、流れを見守った二人の若者も無駄を削り落とし完成形へと近づいた事でしょう』

 

 えっ、これってそんなに高尚なものだったの!?

 少しは精神的に成長したかもしれんが、言うほど劇的に変わってないっすよ?

 

『ならば、この期に及んで縛りを設けるのも無粋。ありとあらゆる制限なしのフリースタイルで、悔いの残さない決着を付けて頂くのが粋ではないでしょーかっ!」

 

 何度も頷く審査員の姿と、観客席から湧き上るシュプレヒコールは肯定の証。

 一部の女衆は”さっさと死ね”と親指を下に向けて喉を掻っ切るジェスチャーを向けてくるが、こればっかりは男の矜持が賭かっているので一歩も引くつもりは無い。

 ロリコンでインド人に憑かれた大佐風に言えば”男同士の間に口を挟むな!”。

 だって、気分は夏休み明けに宿題が真っ白の小学生ですよ。

 どうせ説教されるのが分かってるなら、ギリギリまで遊ばなきゃ損だ―――あれ、ヴァーリって怒られるのか? と言うか、怒れる奴は居るのか?

 王様らしい爰乃が有力候補だが、素直に着せ替え人形の立場に甘んじてる時点で許可を取っている目算が高い。つまり、雷を落とさねえよな。

 次点の総督さんは、主催やってるくらいだし”よくやった”と褒める側だろう。

 ひょっとしなくても、小猫ちゃんを筆頭とする身内に折檻されるのは俺だけっすか。

 おおおお落ち着け、クールになれ兵藤一誠。まだ慌てる時間じゃないぞ。

 これは奴の仕掛けた高度な情報戦に違いない。

 惑わされてペースを崩すな、今だけは確実に訪れる惨劇から目を逸らせ!

 

「どうした兵藤、いつも以上に挙動不審だぞ?」

「べべべ別にテメエの立場が羨ましくなんてないんだからねっ!」

「?」

 

 目の泳いでいた俺を咎める様なライバルの言葉に、思わず本音が零れてしまう。

 チクショウ、やはり何をやっても許されるのはイケメンに限るのか。

 考えてみりゃ俺が女の子に声をかければワンチャンも与えられず犯罪者扱いでポリスに連行コースだが、ヴァーリなら喜んで自主的にお持ち帰りされる未来しか見えない。

 今更ながら、女の扱いこそ二枚目の独壇場だったんじゃね?

 

「ジャンヌ、赤龍帝の頭がおかしくなったんだが……」

『それで平常運転っぽいよー?』

「そうだな、今更の事だったか。手間を取らせて悪かった。進行的には大丈夫か?」

『地上の乱戦はボスと手勢がきっちりコントロールしてるからよゆーだよ。一応混乱に乗じての解散まで織り込み済みだけど、悪いと思うなら結果の見えた延長戦をさくっと片付けてくれると助かります』

「任せろ」

 

 ツーカーな二人のやり取りからも分るとおり、この場に味方は誰も居ない。

 絶望的にやる気をそがれた俺は、足取り重く部長の下に逃げ帰るのだった。

 そして全てが決した後に気付く。

 聞き流していたジャンヌちゃんの発言の意味を。

 

 

 

 

 

 第五十一話「特別の意味」

 

 

 

 

 

 泣いても笑ってもこれが最後。ヴァーリが後攻を選んだ事で先手となった俺は部長と話し合った結果、転送魔法を使わず堂々と花道を進む事を決めていた。

 

「いまだに何がどうなればこんな勝負になるのか分からないけど、勝負事で負けてはグレモリーの名に傷がつくわ。白星を掴み取ると信じて構わないのよね?」

「そのお姿を見てドキドキしない男は絶対に居ないと、この兵藤一誠が太鼓判を押します! 下僕ではなく、一人の男として贔屓目無しに見ても最高です部長っ!」

「なら、自分の選択に自信を持って胸を張り背筋を伸ばしなさい。不安を見て取れるようでは私の下僕失格よ」

「はいっ!」

 

 これだよこれ。俺の王様はこのノリでなきゃ始まらない。

 意外とぽんこつで、しかし高貴で気高いお姉さま。

 立場的にも将来を考えたお付き合いとかは考えられないが、上司とか先輩止まりで単純に可愛がられる関係でなら一生支えてあげたい女の子だ。

 高校の入学式で一目惚れした美貌の先輩は、眺める事しか許されない天上人だった。

 だから憧れたし、彼女になって欲しいと夢に見た事もあったよ。

 だけど高嶺の花は、手が届かないからこそ価値がある。

 手折った時点でそれは何処にでもある花。甘いと信じていた葡萄が、実はすっぱくてマズイ葡萄だったと気付いてしまうのだろう。

 部長が大切な存在である事に疑いは無いが、毎日の食卓に必要な米ポジの爰乃と、まだ馴染みは薄くても朝には欠かせない主食パンなアーシアとは意味合いの違う特別さなんだと思う。

 俺が部長に抱く感情はLOVEじゃなくてLIKE。

 これが、ヴァーリと争う中で見極めた結論だった。

 そんな答えが出たところで、ふと気が付いた。

 今、俺は何を思い描いた?

 部長をどんなイメージで捉えていた?

 

「部長、やっぱり別の衣装に着替えましょう」

「悩み抜いた上での選択なのに、土壇場での思いつきに身を任せるのは危険よ?」

「それでもです。どうせなら初心に帰って、俺が一目で心奪われた部長の姿をみんなに見せ付けてやりたい。だって思い出しちゃいました。俺が目を閉じて想像する部長はいつもたった一つだって事を!」

「もう……時間が無いから急ぐわよ。何を着ればいいの?」

「アレです」

 

 部長が身に纏っていたのは、胸元も大胆に開いた髪と同じ色の真っ赤なレオタード。

 肩と背中は当然の様に露出し、首には付け襟と蝶ネクタイがあしらわれている。

 下半身は黒のタイツで覆われていて、主張の激しい胸元に負けない魅力がたまらない。

 これが何か分からないと言うのであれば、頭の上を見て欲しい。

 そこには心がピョンピョンする兎の耳が踊っているから一目瞭然だ。

 つまりあれです、バニーガールって奴っす。

 この男の夢とロマンが詰まった伝統芸能を、究極完全態グレートモスなプロポーションを誇る部長に装備させれば神をも超える。

 そう信じて送り出そうとした選択自体にミスは無い。

 しかし俺にとっての部長像を考え直した結果、これは一般論の最高でも兵藤一誠の最高ではなかった事に気付いてしまった。

 なら、間違いは正さなければ為らない。

 自分を偽った上での勝利には、何の意味も無いのだから。

 

「本当にコレでいいのかしら? 私的には面白みも無いと思うわよ?」

「奇をてらわず、ありふれているからこそ気を引く場合もあります。安心して下さい、今の部長のお姿こそ俺のイメージするリアス・グレモリーです。この尊さ、きっとみんなも分かってくれると確信していますから」

「ふふっ、普段は見せない男の顔も素敵よイッセー。どうせこれは貴方が主役の戦いだし、妥協せず好きにやりなさい」

「お任せ下さい部長っ!」

 

 あの日、桜の花びら散る中で見た女神様の近寄りがたい美しさ。

 綺麗でもなく、可愛いでもなく、唯々美しいと感じた光景を俺は忘れない。

 始まりにして頂点。手札にある事を気付けなかった最強のカードの準備は万端。後はそれを上回る手役を提示されたなら俺の負けだな。

 俺がヴァーリなら迷わず着物で勝負するが、果たしてどんな答えを出すのやら。

 どんな結果が待つにしろ、待ち時間を楽しむだけの余裕は手に入れた。

 そしてお前のレイズに見合うだけのチップを詰み、コールの宣言も終えている。

 さあ、オープンと行こうじゃないか!


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