爰乃というイレギュラーの参加により、タイムスケジュールに狂いが出始めて……?
果たして猶予を上手く使えるのはどちらの勢力でしょうか。
第06話「決闘はティータイムの後で」
どうしてこうなった。
私は恥も外聞も無く机に顔を押し付け、泣きたくなる気持ちをぐっと押さえ込む。
微妙な時期に転校生が居ると思えば、貴方でしたかシスター。
しかも狙い済ましたようにイッセー君と同じクラス。
誰かがお膳立てしたとしか思えない采配ですよね。
具体的には学園の大スポンサーらしい赤い悪魔とかが。
どこぞの土地の管理人宜しく、宝石魔法でも連打して破産すればいいのに。
「前に助けてくださり、教会でもお会いした方ですよね?」
「違います、人違いです」
「で、でも、その声も顔も同じだと思いますけど……」
「すみませんが、私はSAN値減少の悪夢に精神的な余裕がありません。アルジェントさんはイッセー君とラブラブしていればいいと思います」
「わ、私はまだイッセーさんとはそんな仲じゃ……」
「開幕でイチャイチャしておいてそれを言いますか……なら、関係を深めてさっくり彼氏彼女の関係を築いては? 自分を安売りしろとはいいませんけど、非モテの彼は甘い言葉一つで簡単に堕ちる筈ですよ」
「イッセーさんはリアス部長が好きみたいですし、私なんかじゃ無理です……」
「なら、お好きにどうそ。とにかく私と貴方は初対面、もしも何らかの恩義を感じているならそういうことにして下さい。おーけー?」
「お、おーけー……」
やっと離れてくれましたか。
ぶっちゃけ、教会の一件は私の気まぐれ。
誰がなんと言おうと、見物した事実はなかったのです。
深い意味は無いのに、イッセー君が絶対に勘違いするので止めて頂きたい。
と言うか、短期間で日本語ペラペラなシスターちゃんに驚きを隠せない私です。
これが噂のスピードラーニングでしょうか。
「なぁ爰乃、悩みがあるなら聞いてやるぞ?」
「主な原因は、ごーばっくっ!」
なぜか上から目線のイッセー君に堪忍袋の緒が切れた。
顎を掠めるショートフックを叩き込んで黙らせると、この光景を見慣れていないアルジェントさんだけがあわあわと慌てている。
こんなの日常茶飯事ですよ? クールになりましょう、クールに。
「いい気味だ。美少女幼馴染が標準装備の癖に、学園二大お姉様やらロリ界の巨匠小猫ちゃんとまで仲良くなる裏切り者には当然の末路。胸がスッとしたぜ!」
「まて、むしろ香千屋の拳はご褒美。制裁については、後ほど考えるべきでは」
「さすが深いな元浜」
「余罪として、アーシアちゃんと言う大罪も忘れるな。奴を野放しにしておくと理不尽で俺の頭がヤバイ。後ほど一人くらい紹介してくれるよう交渉し、決裂の場合は友情のツープラトンを決めてやろうではないか」
「異議なし!」
元浜君に松田君、君たちとイッセー君の熱い友情に乾杯。
二人に比べれば、そこの悪魔が真人間に見える底辺っぷりは笑えない。
そこを直さない限り永久にモテ期はやってこないんじゃないかな。
やれやれと溜息を吐きながら目線を動かせば、甲斐甲斐しく介抱を続けるアルジェントさんの姿。イッセー君は、ご主人様よりこっちの天使を選ぶべきだと心底思う。
「馬鹿絡みの面倒毎は避けられない星の下に生まれたのかな……」
空の快晴さとは裏腹に、私の心はどんよりとした雨マーク。
高気圧という名の解決策が来ると信じて、授業の準備を私は始めるのだった。
第六話「決闘はティータイムの後で」
早いものでアルジェントさん、もといアーシアが転校してきて一月と少し。
私と彼女はすっかり仲良くなり、今では親友と言える間柄です。
話してみれば、やっぱり彼女は女神だった。
その身こそイッセー君宜しく悪魔に落ちていても、優しくて気も利く内面の美しさはいささかも損なわれていない。
さらに致命傷だろうと平気で直せる神器持ち。
どう安く見積もっても、至れり尽くせりの女神様としか形容出来ません。
唯一の懸念は彼女の住居。
身寄りの無いアーシアは、リアス先輩の下僕悪魔に成った際に面倒を見てくれていた教会と離縁。行く宛てを失い、今後どうするかと思えば、主の指示で兵藤家で同棲生活を始めている。
彼の両親は大喜びだそうで特に問題になっていないけど、それはどうなんだろう。
思うに堕天使の一件で活躍したと言うイッセー君へのご褒美であり、敵対勢力から下ってきたアーシアに対するテストと推測しています。
さすが部長、やることに隙が無い。
まぁアーシアはベタ惚れでイッセー君も満更じゃないようだし、このままゴールしちゃえばWIN-WINの関係だよ。
頑張れアーシア、負けるなアーシア。
部長も嫌いじゃないけど、香千屋爰乃は君を優先的に応援します。
「さて、ぼちぼちティータイムのお時間。姫島先輩の入れてくれる紅茶は、ロハなのに美味しいから素敵です」
私はグレモリー眷属に属していませんが、無関係でもないのでオカルト研究会に入部済み。
今日は一念発起してクッキーを焼いてきた。
かなり頑張って作ったので、皆さんのお口に合うといいな。
これぞまさしく放課後ティータイムで爰乃紅茶。
すっかり通いなれた部室の扉を上機嫌で開くと、飛び込んできたのはイッセー君だった。
そう、物理的に飛んできたのだった。
「……は?」
反射的によけようとするも、苦悶の表情を見てしまったのが悪かった。
思わず受け止めようと努力したけど、やっぱり重量が違う。
出会って十年を越える年月の中で初めて押し倒された。
人の胸に顔を埋めている事に気づいてどうしてやろうかと考えた私だが、どうも様子がおかしい。見れば腹を抑えていて、大絶賛吐血中に驚く。
原因は何かと部室を覗き込むと、リアス部長と多くの女性を従えた見知らぬ男が激しい眼光をぶつけ合っていた。
「ええと、何事ですか?」
「またタイミングの悪い時に来たね。ちょっとしたお家騒動の真っ只中だよ……」
「悪魔同士の?」
「そうだね。端的に言えば、部長が政略結婚を迫られて拒否。断られた側が面子を潰されたと怒って因縁をつけてきたんだ。それに憤慨したイッセー君が殴りかかるも返り討ち、こんな所かな」
「分かりやすい説明で助かります。皆さんお怒りの中、木場君は冷静なんですね」
「顔に出さないだけで僕も相当なものさ。悪いことは言わない、部外者の君は関わらない方が身のためだよ。今なら見なかったことに出来るから……って、ええっ!?」
苦しむイッセー君をアーシアに任せ、私は満面の笑みを木場君に向け立ち上がった。
笑うと言う行為は本来攻撃的なもので、獣が牙を向く行為が原点らしい。
きっと今の私はソレを体現できていると思う。
静かに、しかし殺意にまで昇華した怒りを体中から発散しながら部室に入っていくと、そこに居並ぶ顔ぶれが一瞬だけでも硬直する。
「……イッセー君を私にぶつけたのは?」
「え、ええと、彼女よ」
さすが部長、仕事が速くて助かります。
そこの似非和服が犯人ですか。その手の棍でイッセー君を突いたんですね……
「な、何よ?」
「貴方が誰をどうしようと私には関係ありません。でも、人様に迷惑を掛けるというなら話は別。土下座して謝罪するなら許しましょう、そうでないならJOJO的な意味で泣いて謝るまで殴ります。さあ、選んで下さい。私の堪忍袋は時限式、時間がありませんよ?」
「はっ、あなたは唯の人間でしょ? どうしてミラが謝らなければならないのよ!」
「じゃあ軽く腕から」
鼻で笑われた事で、導火線が瞬時に焼き切れる。
宣戦布告と受け止めた私は、手始めに手首を掴んで腕全体をロック。
逆方向からの掌打で肘を動かない方向に90度曲げてみる。
続いてがら空きになった脇腹へと浸透掌。どうもこの気と言うか波紋的な力は悪魔やら堕天使やらに特攻補正が入るらしく、加減したのに肝臓らしき臓器を破裂させた手ごたえが在る。
余談ながら、肝臓自体に痛覚は無い。
それでも急所になりうるのは、神経系が付近に固まっているからなのです。これ豆知識。
さて、もう終わりとか思ってませんよね。
でも残念、私のエンド宣言は行われていない。
リバースカード発動、バーサーカーソウル!
豚の様な悲鳴を無視して転ばせると、あえて急所を狙わず鎖骨を踏み抜いた。
ドロー、モンスタカード! 効果により粉砕、玉砕、大喝采!
でも”次は耳だ”と大佐の真似をして、一瞬止まってしまったのが悪かった。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい爰乃!」
「HANASE!」
「幾らイッセーが怪我をしたからといっても、やりすぎよっ!」
「おや、何やら見解に相違がありますね」
「何ですって?」
「私のソウルに火をつけたのはそんな理由じゃ在りません。見て下さい、せっかく作ってきたクッキーが粉ですよ、粉! おまけに血は落ちにくいと言うのにこんなにべったりと……ぐぬぬ」
私を羽交い絞めする部長にイッセー君の体当たりで砕け散ったクッキーだった物を見せ、さらに上着を染めたどす黒い赤をアピールする。
確かにイッセー君は心配ですけど、男の子の喧嘩なんて良くあること。
怪我の度合いはどうであれ、返り討ちにあった位じゃ私は関与しませんよ。
「ミラに何をしやがる人間! リアスの手前穏便に済ませてやろうと思ったが、消し炭にしてやろうか!」
「黙りなさい低脳悪魔、人に無礼を働いておきながらその言い草は何ですか。ああ、貴方の言う人間風情に手も足も出ないような小物を飼っているお山の大将でしたね。難しい言葉では通じないのも道理。言い直しましょう、謝罪しなさい類人猿」
「よし、死ね!」
「その喧嘩、買いました」
その身に炎を纏い始めたチンパンから放たれるプレッシャーは強大。
でも、その程度は涼風の様なもの。
悪魔である事を明かして以来、修行中のお爺様は本気の殺気を浴びせてくれる。
つまり、より上位の殺意に慣れつつある私に中途半端な脅しは意味を為さないのです。
さて、死なない程度に頑張りますか。
手始めにアザゼルさんが宅急便で送りつけてきた、試作型超高濃度聖水とやらを試してみよう。
悪魔への使用は大変危険ですって注釈もあったし、効果は期待出来そう。
そう決めてポケットに手を入れたところで、部長が割って入ってくる。
「ライザー、彼女は少しこの世界に関わっただけの人間。本気で手を出すつもりなら大事になるわ」
「冗談は止めろ、今の力はエクソシストか何かだろ」
「グレモリーの名に懸けて本当よ。但し、爰乃の保護者はあのベノア・アドラメレク。この意味が分かるかしら?」
「大戦で死んだとされる化物が生きているとでも言うのか!」
「ええ、先日お会いしてきたわ。話の分かる方だけど、爰乃に手を出すならあの方と敵対する覚悟が必要よ」
「……虎の威を借る小娘が」
尋常な勝負に親は関係ないのに。
しかしお爺様のネームバリューが、想像よりもずっと凄くてびっくり。
魔王級とは聞いていたけど、ものすごい有名人みたいで誇らしいです。
「皆様、落ち着いてください。この場で争うようなら私も黙っていられなくなります。サーゼクス様の名誉のためにも遠慮等しないつもりです」
そう言いながら揉め事の中心へ姿を現したのは銀髪の美人メイドさん。
すみません、頭に血が上っていて眼中にありませんでした。
「ええと、どなたでしょう?」
「彼女の名はグレイフィア。仮にここに居る全員で挑んでも勝てるかどうか分からない強力な悪魔にして、私の兄の女王よ」
「ああ、それでお猿さんも大人しくなったと。さすが野生、空気を読む能力だけは長けていますね」
「爰乃、お願いだから言葉を選んでくれないかしら……」
「前向きに善処します。それはそうと、先ずはグレイフィアさんの話を聞きますか。私の乱入は想定外でも、こんな展開になることを予測していた様ですしね」
「何故そう思ったのですか?」
「全員纏めて叩き潰せる力を持っているからです。だって付き合いの短い私ですら、望まぬ結婚を強いられた場合に部長がどう動くか想像出来ます。部長のお兄さんは双方に被害を出さないように抑止力を遣わせたのではないでしょうか」
「概ねその通りです。説明の手間も省けましたので、主からの最終手段を提案いたします。お互い自分の意志を貫きたいのであれば、レーティングゲームで雌雄を決するのは如何でしょう」
強者は弱者に従うその論理、実に悪魔的で好感が持てる。
オールオアナッシング。シンプルで、誰から見ても分かりやすい決着です。
「いいわ、ゲームで決着をつけましょう。ライザー、異論はあるかしら?」
「俺は構わない。俺が勝てば即結婚、そう捉えていいんだな婚約者殿」
二人揃ってやる気満々、形だけでも交渉した成果は何処にあるのだろう。
最初からこうしてくれていれば、私は無関係だったのに。
「それでは両者の合意を確認しましたので、私グレイフィアが立会人としてゲームの指揮を取らせていただきます。宜しいですね?」
「それは構わない。しかし、俺は正式なゲームも何度か参加しているのにリアスは未経験。これはあまりにもハンデが大きい。そこで準備期間を与えよう、試合は来月の頭でどうだ?」
「……ハンデのつもり?」
「そりゃそうだ。俺の可愛い下僕に対抗出来そうなのは雷の巫女くらいだが、彼女すら集団戦の経験が無い。負けても後悔の無い様に、力を尽くせるよう準備しろ。君なら一月もあればどうにか出来る、その程度の才能を秘めていなければ花嫁には相応しくないしな」
露骨な嫌味に部長は唇を噛んで無言を貫く。
文句一つ口にせず耐える姿は正に伏龍。ゲームで空を舞い、その威容を見せ付ける事しか考えていないに違いない。
「ああ、そうそう。小娘、お前も参加しろ」
「喜んで」
「どうせ正式なゲームじゃないんだ、かまわんだろ審判?」
「彼女も部外者ではないようですし、認めましょう」
「あの方とて公正なゲームでなら踏み潰してもとやかく言うまい。後ろ盾のない人間風情に地獄を見せてやる。逃げるなよ?」
「そちらこそ」
完全に侮られていますね。
きっと実力差はライザーの予想通りなんだろうけど、彼は大事なことを忘れている。
人間は悪魔に比べてあらゆる能力で劣っている事は事実。
でも、神や悪魔を最後に倒すのはいつだって人間だよ。
今の私じゃ届かなくても、明日は? 明後日は?
決して短くない猶予期間を与えたことを後悔させてやります。
魔法陣の中に消えていくライザー軍団を睨みながら、私はそう誓うのだった。