赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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ガンプラは自由な発想で作っていいんだ、と偉い人は言いました(謎


第56話「黒龍の牙」

 部長の立てた戦術は、本気を出せば誰も追随出来ないスピード型の祐斗先輩、頑丈で多少の抵抗は押し通せるパワー型の兵藤先輩と私の特色を生かして二方面から侵攻。混乱に乗じ、面制圧に優れた部長、姫島先輩、アーシア先輩が敵本陣を叩くと言うものです。

 

『てすと、てすと。聞えてますかぁ?』

「……こちら小猫、問題ありません。おーばー」

『まだシトリー眷属は発見出来ず。調査を続行しますぅ』

「……らじゃ」

 

 いつもなら連絡手段に携帯を使う所ですが、残念な事に冥界は圏外。

 そこで代わりを務めるのはギャー君です。蝙蝠に化ける事で端末を広くフィールドに分散させ、リアルタイムの偵察網を構築しています。

 そして、各チームに張り付いた小蝙蝠を使えば横の連携もばっちり。

 お陰さまで分散していても、チームとしての体を為せるのです。

 

「不気味なくらいに静かだなぁ」

「……祐斗先輩も接敵していません。敵は何処に潜んでいるのやら」

「これって情報戦で負けてる証拠じゃね?」

「……同感です、兵藤先輩」

「時に小猫さんや」

「……何でしょう」

「前はイッセー先輩と、親しみを込めて呼んでくれたじゃないか」

「……そんな時代もありましたね」

「何故に苗字へ変更を?」

「……平然と女性を見世物にするクズと距離を取りたいだけです。むしろ男の甲斐性と笑って済ませた部長と副部長、少し怒っただけで許したアーシア先輩が寛大過ぎかと」

「爰乃も部長と同じく、納得づくで合意してくれていたと思ってんだよ……」

「……ぶっちゃけ、今の先輩の好感度はマイナス街道まっしぐら。身内なので最低限のコミュニケーションは取りますが、仕事以外でのお付き合いは拒否する間柄です」

「マジですか」

「……嘘をつくメリットがあるとでも?」

「ですよねー」

 

 むしろ、どうして元の鞘に戻れると思っていたのやら。

 この人は悪い事をした自覚が無いのでしょうか……

 

「……少しでも待遇を改善したいのなら、今回のゲームで汚名を雪ぐだけの大活躍を見せて下さい。香千屋先輩はともかく、私はそれで少しは見直すかもですよ?」

「超頑張るよ! だから見捨てないでっ!」

 

 これから先も続く長丁場を見据えると、退職も転職も許されない株式会社リアス・グレモリーの同僚を見捨てる事は出来まない。

 何故なら手を貸したくない、助けを頼めない、そんな不協和音のツケを払うのは結局のところ自分。チームの輪を維持する為に、ある程度の不平を飲み込む度量は必要なのです。

 

「……期待していますよ、兵藤先ぱ―――」

 

 肩をすくめるジェスチャーを返し、そろそろゲームに集中をと思った瞬間だった。

 

『リアス・グレモリー様の僧侶一名、リタイヤ』

 

 唐突に聞こえたアナウンスは、想像もしなかったまさかの悲報。

 何を言っているのか分からない私は、兵藤先輩と顔を突き合わせて大混乱です。

 

「れ、冷静に考えて、やられたのはギャスパーだよな?」

「……携帯代わりの蝙蝠が消失しています。確実にギャー君が餌食です」

「まじかよ……」

 

 倒し難い群体だったギャー君をこちらに気取られる事なく無力化した手段は不明ですが、先ず敵の眼を封じる戦術は王道中の王道。私でも取る普通の一手です。

 重要なのは、いきなり部長の作戦が足元から崩れ去ったこと。

 いつもの事と言えばそこまでですが、連絡手段を失った各チームがスタンドアローンで動かざるを得ない事態は想定外過ぎます。

 

「……連絡手段を失った今、リアルタイムでの連携は不可能となりました。私達は他のチームを信じ、後ろを振り返らず前進あるのみ。一人でも多くの敵を葬り去りましょう」

「俺達が暴れて敵を引きつければ、木場や部長側が手薄になる……そう言う事か」

「……攻撃は最大の防御です。さて、手始めに接近中の二人を潰しますか」

「やっとお出ましかよ。で、距離は?」

「……気付くのが遅くて済みません。私も少しばかり油断してたかもです」

「ん?」

「……探査に引っかかっていたのはブラフ。真上ゼロ距離、迎撃を!!」

 

 

 

 

 

 第五十六話「黒龍の牙」

 

 

 

 

 

 天井を突き破って伸びた黒い糸状の何かは兵藤先輩を目指し直進するも、篭手を盾にした獲物の体を貫く事は無かった。

 しかし、間髪居れずに落下してきた人影を今度は防げない。

 重力を味方にした重く鋭い蹴りは、先輩の防御を崩してダメージを与える事に成功。

 きっちり着地も決めて、見栄を切りながら彼は言う。

 

「よう、兵藤。暇だから遊ぼうぜ?」

「誰がお前なんか―――って何だコレ、取れねぇ!?」

「お前と比べりゃ玩具かもだが、俗に言う神器って奴だ。おっと、漫画やらアニメみたいに解説はしないぞ? 効果は自分で考えやがれ」

「ケチ!」

 

 仲が良いのやら悪いやら。強襲してきた敵の兵士、生徒会書記の匙先輩は友人への気安さで兵藤先輩に声をかけている。

 匙先輩から放たれた黒いラインは兵藤先輩の篭手に接続され、力を入れて引っ張っても千切れない強固さ。確か神器の効果は繋がった相手の力を奪う事なので、世間話を装い少しでも時間を稼ぐ作戦なのかもしれません。

 

「……兵藤先輩、ソレを放置していると力を吸い取られてピンチです。どうにかラインを切り離すか、使い手を瞬殺して対処急いで下さい。その間に私は片割れを潰します」

「ちっ、気付かれてたか。そっちは頼むぞ仁村!」

 

 私が構えを取ると同時、開いた天井から二人目が飛び出してくる。

 

「ソーナ・シトリーが兵士、仁村留流子推参!」

「……リアス・グレモリー眷属の戦車、塔城小猫。相手になります」

「同じ一年生同士前々から戦ってみたかったわ、売り出し中の猫さん」

「……駒王学園一年最強の座は渡しません」

「そんな称号要らないよ! この子は番長でも目指しているの!?」

 

 私の敵は、たまに顔を見る程度の間柄。平生徒会員で同学年の仁村さんです。

 私はオカルト研究会、彼女は生徒会と他人レベルの付き合いですが、格闘技を嗜んでいる事は前々から知っていました。機会が在れば白黒を付けたいと思っていたので、こちらとしても望むところ。

 ここでしっかりと格付けをして、誰が頂点なのかを教え込んでやります。

 そう決めた私は、気息を整える為に大きく息を吸い込む。

 拳を交える機会の多い香千屋先輩には、純人間、同属性と言う事もあり、いまいち効果を発揮しない気の力も、対悪魔に限れば圧倒的なアドバンテージを持つ切り札です。

 一撃を入れるだけで気脈を乱し、悪魔の命である魔力を根本から封じるこの力。

 あのアーシア先輩ですら癒すのに梃子摺る特殊属性なので身内には加減して使っていましたが、今日ばかりは本気で練り上げようと思います。

 

「……ふっ!」

 

 私は大師匠や香千屋先輩のような縮地を使えない。

 だから違うアプローチを選んだ。

 息を吐き出すのに併せて溜めたバネを全開。同時に足裏に溜めた魔力を解放する。

 直後に来る膝への負荷は甚大だが、銃弾の速さへ一瞬で到達。大気を切り裂き敵が動き出すよりも早く先手を奪った私は、決して気負わず拳を振るう。

 祐斗先輩に瞬間最大速度なら互角とまで言わしめた加速力は得られた。

 そして、同じ速さで振るわれる刃を私は回避出来た試しがない。

 だからこそ殺った、そう確信していた。

 しかし、そんな考えを嘲笑うかのように仁村さんは笑う。

 

「悪いけど、足の速さには自信があるのよ」

「……なっ!?」

 

 後から動き出したのにも関わらず、彼女は同等以上のスピードで後の先を奪取。まだ攻撃態勢に入る前の私をカウンターで蹴り飛ばすと、親指を立てて勝ち誇るように言う。

 

「私は才気溢れる塔城さんと違い、神器も特殊な能力も持たない典型的なB級転生悪魔。だけど、やり方次第ではこんな結果も生み出せるわけ」

「……ありえない力です。どんなトリックを使ったのですか」

「人間の知恵って奴よ」

「……意味が分かりません」

「妖怪変化には分からないかもしれないけど、人は原則として弱い生き物なの。弱いから武器を作り、技術を磨き、やっと獣と戦える」

 

 不味い、完全に虚を突かれて無防備な状態で喰らってしまった。

 この分だと肋骨の一本や二本は折れているかもしれない。

 痛みが何だ。早く、早く、早く立ち上がれっ!

 

「と言う事で、私も神器で武装しました。まさか卑怯とは言わないでしょ?」

「……神器が流通しているなんて聞いたこともありません」

「ところがどっこい、私の相棒は人工神器。ツテさえあれば手に入るんだよね」

「……じ、人工神器?」

「入手先は内緒。おっと、大人しく寝てなさい!」

 

 私の呼吸が安定し始めたのを見逃さず、容赦のないサッカーボールキックがお腹に炸裂。胃液をぶちまけながら壁まで飛ばされてしまう。

 しかし蹴られた瞬間にはっきりと見えた。仁村さんの両足に装備された銀の脚甲、そこから生み出された力が全身に供給されている。

 十中八九、あれが人工神器とやらで間違いない。

 

「小猫ちゃん!」

「おっと兵藤、余所見は禁物だ。モテ期の訪れているお前だけは絶対に許さん!」

「殺る気の源はそこかよ!」

「男一人だけのハーレム構成は同じなのに、こっちはスパルタで甘やかさない主義の会長のせいで美味しい思いを何一つしてねえんだよ! それなのにお前は学校でお姉さまズやらアーシアちゃんやらとイチャイチャしやがって……くたばれリア充!」

「悔しかったら主様のおっぱいの一つでも揉んでみろ!」

「待て待て待て、下僕にそんな事が許される……のか? からかってんだろ?」

「部長に抱き枕にされる時なんて、素肌の谷間に顔を埋めていますが何か」

「マジで」

「さらに言えば、基本オープンな朱乃さんは裸を見放題」

「ごごごごご冗談を」

「アーシアの膝枕はとても心が落ち着きます」

「健全な癖に一番羨ましいのは何故だろう」

「いいか匙、俺はこの歳になって知った。女の子の数だけおっぱいがあり、一つとして同じものは無いんだ。大事な事だからもう一度言おう。おっぱいは一期一会、これが世界の真実だ」

「比べる以前に誰のも揉んだ事ねぇよ、チクショウ!」

 

 ちらりと兵藤先輩の方を見やれば、何故か優勢な筈の匙先輩がOrzの体勢で号泣中だった。

 どうやら二人は同じ穴の狢。私には理解出来ない世界で勝負がついたらしい。

 

「いやその、先輩も普段は優秀で頼れる人なのよ?」

「……またまたご冗談を。どう見ても変態枠じゃないですか」

「へ、変態じゃないし! 匙先輩は兵藤先輩と違って普通のイケメン枠だもん!」

「……まさか、アレが好きだったりします?」

「絶賛生中継中の面前で言えるかぁっ!」

 

 顔を真っ赤にした彼女は勝負を焦ったのか、慌てた雰囲気で試合を決めにかかる。

 おっと、感情に任せて合理性を欠いた今こそチャンス。

 一撃必殺を狙った胴回し蹴りを回転軸の内に飛び込む事で無効化。同時に体の内側から掬い上げる形で肘を打ち込み、仁村さんを少しだけ空にかち上げる。

 残念ながら回復に全力を注いだ為、気を攻撃に回せなかった。

 本当なら今こそ一気呵成に攻め立てるべきなのだろう。

 でも、私の体に蓄積されたダメージがそれを許さない。

 悔しい事に、まだ足が言う事聞いてくれないのです。

 

「……恋バナはまたいずれ。仕掛けもわかった以上、もう好きにはさせません」

「そうしてくれると助かります。でも、これでやっとダメージもイーブン。勝負はスタートに戻っただけよ」

 

 宣言と同時に仁村さんの姿が視界から消えた。

 見た感じ一歩踏み出す足場さえあればノーリスクで最高速を得られる能力は、同種でもリバウンドの大きい加速術と比べて優れていると認めざるを得ない。

 しかし苦心の果てに身に着けた力と、手に入れたばかりの力では意味が違う。

 所詮貴方は人工神器とやらに頼っているだけ。

 それを今から教えてやりましょう。

 

「……そこ」

 

 背後からの奇襲を振り向きもせず回避。続く脚払いは体の軸をずらして空振らせ、割り込むように反撃を挟む。と言っても反射的なもので、手頃な位置にあった顔面をとりあえずぶん殴っただけですが。

 

「痛っ、ウチのメンバーが訓練を繰り返しても反応できなかったのに、どうして初見の人間が普通に対応出来るのよ!」

「……内緒」

「ここで意趣返し!?」

 

 この戦いを想定したとしか思えない予習がなければどうなっていたやら。

 悔しい事に模擬試験で出された問題が殆どそのまま出題……もとい、例題の方が完成度が高いとか、香千屋学園の指導方針は色々とおかしい。

 緩急を付ける為にあえて静止する瞬間を作っていた先輩に対し、次の行動に移る前に一度止まらざるを得ないストップアンドゴーの仁村さん。

 多分、ちゃんと神器を使いこなせば毎度止まる必要が無いのだと思う。

 おそらくカタログスペックも知っている先輩は十全に性能を発揮した前提で仮想敵を演じたのでしょうが、要求水準が高すぎです。

 どちらにせよ、勝つべくして勝つ事が恩師への義務。

 やるべき事は変わらない。

 

「やっぱりリアス先輩のチームは凄い。悲しいけど、会長の言葉は正しかった」

「……敗北宣言ですか?」

「さーて?」

 

 ネガティブかと思いきや、仁村さんの目から闘志は失われていない。

 この眼は危険だ。意識を刈り取らない限り、何度でも立ち上がってくる不屈の覚悟が籠っている。

 あれは香千屋先輩と同質のもの。敵に回すと最高に厄介な存在であると直感した。

 ふと時計を見ると、針が想定以上の位置で止まっている事に気づく。

 最早混乱を起こすどころか、動きを読まれてこちらが切り崩されている。

 このまま足止めされれば、前衛の居ない部長達がどうなるか分からない。

 

「……会長は何処まで読みきっているのやら」

「お察しの通り、私達は足止め要員。だけど、別にそれだけで満足するほど枯れてもいない。倒せるなら倒す。それくらいは狙いますよ」

 

 厄介だ。逃げる訳にも行かず、だらだらと時間を潰せばどんどん不利になる。

 チームの人数で負けている以上、人員の一対一交換はそれだけでピンチ。

 この分だと祐斗先輩も罠に嵌ってそうですし、一刻の猶予も残されていない。

 気が付くと、立場が入れ替わっていた。

 仁村さんが攻め急いでいるように見せたのは罠。

 全ては私に受身を取らせ、だらだらとした展開に誘い込む布石でしたか!

 これまでの無茶な攻めから一転、安全マージンを大きく取ったヒットアンドアウェイに切り替えた彼女をどう料理したものか。

 こうなれば、せめて兵藤先輩だけでも先に行かせてバランスを取らないと。

 この結論に至った私は、間違って居なかったと思う。

 そう、この時までは。

 

「このままじゃ埒が開かねぇ。出し惜しみは無しだ!」

「させるかよ!」

 

 少し眼を離していた隙に、魔力弾の応酬やら殴り合いやら、まっとうな戦いを繰り広げていた先輩たちの戦いもついに佳境。

 隠密行動に不向きだからと温存していた鎧をついに使うらしい。

 今は正面からゴリ押しが最善手。少しだけ見直しましたよ、先輩。

 

『Welsh Dragon Balance braker!!!』

 

 龍衣へ変化する反動で繋げられていたラインを跳ね飛ばし、ついに最強フォーム光臨。

 こうなってしまえば軽く無敵、そう思ってた時期が私にもありました。

 が、現実は非常なもの。いつもならヒャッハーとダッシュする筈の先輩が、何故か膝を付いて立ち上がれない。

 

「危ねぇ、ギリ間に合ったか」

「ちょ、俺に何を? ありえんくらい調子悪いぞ?」

「遅ればせながら神器について説明しよう。コイツの名は”黒い龍脈”。端的に言えば、接続先の力を奪って弱体化させたり、身内に接続して力を送り込んだり出来る支援用だ」

「いやいや、この吐き気と眩暈は力を吸われたって感じじゃねえぞ」

「正解。今回お前に使ったのは送り込む方。魔力も体力も何一つ奪ってないさ」

 

 ああ、だから先輩は無理にラインを外そうとしなかったんですか。

 

「ひょっとして、あれか? 毒物的な何かを……送り込んだ?」

「正解者に拍手、よく出来ました。商品として兵藤の体に流しそこねた洗剤の残りを進呈。何とテナントで入ってるジャ○コブランドの新製品だぜ!」

「え、マジで? あそこのPBって色々ヤバイんだろ? 俺、死ぬの!?」

「ぶっちゃけ篭手越しだからか、いまいち浸透が悪くてなぁ。もうちょい血管への進入が遅れていたらやばかった。おっと、悪いがコレもルールの許す範疇だ。汚い手段だと俺も思うが、悪い事をしたとは思わない。会長曰く、悪魔なら多分死なないらしいから安心して逝け」

「……くっ、非モテ族の僻みはこの為の時間稼ぎだったのかっ!」

「いや、あれは本音トーク」

「試合に負けて勝負に、勝っ、た」

 

 苦痛で集中が切れたのか、鎧が自動で解除された先輩は詰んでいた。

 止めとばかりに胸倉掴んで持ち上げられて、何の変哲も無いアッパー一閃。

 期待されていた活躍を見せる事無く、赤龍帝はフィールドから消えやがりました。

 

『リアス・グレモリー様の兵士一名、リタイヤ』

 

 ま、まあ、これはさすがに備えろと言うのが無理なパターンです。

 ここまで手段を選ばないとは、お釈迦様でも思いませんよ。

 私が薬局から青酸カリを持ち出そうと提案したのと同じく、シトリーも自軍領土の資源を有効活用しようと考え、そして実行した。

 この分だと、シトリー側にあったホームセンターから何を持ち出しているやら。

 開いた口の塞がらない私は、考えの纏まらない頭で必死に思案する。

 最近汚れてきた私の心は、今更漂白剤を流し込んだところで汚れは落ちません。

 と言う事で、意味がないなら断固として拒否します。

 怪我をして病院送りならまだしも、毒を喰らっての闘病生活だけは嫌です。

 しかしながら、状況は最悪の一言。

 現在進行形で相対中の仁村さんは差しの勝負なら九分九厘勝てますが、一撃必殺な匙先輩の支援を受けられる前提でシミュレーションすると雲行きが怪しい。

 

「搭城さん、次は君の番だ」

「……最低でも、どちらか一人は地獄に送ってやります」

「怖い怖い。よーし仁村、主役はお前だ。好きに動け」

「はいっ、先輩!」

 

 ゲームへ取り組む姿勢が余りにも違いすぎた。

 果たして私が二人を倒せたとして、そこに意味は在るのやら。

 天上から盤面を睨む会長は、既に終局図を見据えて駒を進めている気がします。

 

「……後は任せましたよ、祐斗先輩」

 

 頼みの綱である騎士に、全てを託す私だった。


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