赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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眷属情報は委員会に申請済みですが、相手の素性を探らないのが悪魔クオリティ。
親友の戦力すら把握しないRさん宜しく、Dさんも超適当です。

どうせ人間の手勢だ。ヴァーリ以外は雑魚さ、ハハハ ← 今ここ

彼の明日は、とても明るいと思います。


第63話「プレミアムチケット」

「条件を再確認しようか。僕が勝てば禍の団に鞍替えした事実を闇に葬り、同時に君の身柄は僕のもの。万が一にも負けた場合はアスタロト家は新人戦を辞退し、参加権をアドラメレク家へと譲渡する……これで間違いないね?」

「ええ」

「僕の好みは教会に通じた聖女だが、たまに趣向を変えて英雄とやらも美味しそうだ。果たしてレア属性がどんな顔で嬌声を上げるのか興味は尽きないよ」

「時間が惜しいので、早く始めませんか?」

 

 制服越しでも胸や腰を舐め回すような視線は気持ち悪いの一言。取らぬ狸の皮算用全開で舌なめずりを止めない男を前に、湧き上がるのは冷え冷えとした軽蔑心だった。

 彼の名はディオドラ・アスタロト。神聖で穢れを知らない聖女を犯すことが生き甲斐と言う、救いようの無いクズの中のクズです。

 

「じゃあ僕は君が呑んだルールに従い、最奥で待っているよ」

「……首を洗って待っていなさい」

「おお怖い。だけど僕が抱く体なんだから、急いで転んで傷をつけないよう気をつけてくれたまえ。中古は嫌いなんだよね、ははは」

 

 私の背後で膨らんだ殺意に臆すどころか、単純に気付いてもいないディオドラが涼しい顔で立ち去っていく様を見ながら思う。

 目の前に居る相手が家猫なのか、それとも野生の虎なのかを見分ける目も持たない時点で不合格。やはり一部の例外を除き、苦労を知らずに育った雛鳥は総じて使えないと。

 

「姫様、不埒者の首を即刻刎ねる許可を。今なら五秒で殺れます!」

「弦さん、ステイ」

「……駄目で御座いますか」

「アレは私の獲物。直接この手で処分します」

「御意」

 

 眷族の中で、最も猛り狂っていたのは弦さん。抑えきれない感情を刀をカチカチと鳴らして現せば、次点のヴァーリも追従する。

 

「ふん、ならば先鋒は俺に任せろ」

「宜しい、存分に蹴散らしなさい」

「俺の物に手を出す意味を教えてやるさ……」

「私はヴァーリの物じゃないと思うけど?」

「……むぅ」

 

 こらそこ、ションボリしない。

 平常心組を見習って、感情を一定に保つ努力を忘れずに。

 

「白龍皇が出るなら私は不要か」

「ゼノヴィアは二戦目以降……なんだけど、存外に落ち着いてるのは何故?」

「爰乃も知っての通り、私は元エクソシスト。メインに狩っていた低級悪魔は犯すだの、弄ぶだのを連呼する下半身直結型が八割だったんだぞ? とっくに様式美と割り切っているので、何も思う所は無い」

「なるほど」

「ちなみに我輩は借りてきた猫。ビジネスなので仕事はさぼらニャイが、他がミスってゲームで負けても知ったことじゃ無いニャ。適当にやるので、鳥とか蛇に期待するニャン」

「うん。猫さんだけ、やる気ゼロと知ってましたよ……」

 

 さすがよそ様の飼い猫。清清しいまでの他人面ですね。

 こちらとしても期待してませんし、予備戦力として役立ってくれれば十分です。

 だけど、悠然と構える怪獣組は違いますよ。

 

「敗北確立セブンナイン。スルー奨励」

「何だかんだと、一番の大人は鬼灯なのかもね」

「姫様姫様、アンも大人だよ? ちゃんと守るからね? どこにも行かないでね?」

「はいはい、墓の下で永眠するまではずっと一緒ですよ」

「うんっ!」

 

 そして両手を空に突き上げる、荒ぶるアンズーのポーズを取る同僚をやれやれと言った目で見守るのはチーム爰乃の参謀さん。

 この中では知性枠の私や弦さんも、大分類では脳筋に分類される生き物です。

 今日の段取りも全てレイヴェルの働きだし、頭脳担当の大切さが身に染みる染みる……。

 マネジメントに対外交渉、今後も全て丸投げするので頼みましたよ!

 

「気を引き締めてと言う前に、既に皆様のヘイトは最大値ですわね。大して強くも無いアスタロト如きに大人気ないとは思いますが、今回ばかりはオーバーキル推奨。主に負けず劣らずクズと評判の眷属共々、これを機に汚物は纏めて消毒ですわっ!」

「レイヴェルが何時になくやる気だ!」

「わたくし、ノブレス・オブリージュも理解しない貴族―――特に女性を玩具にする輩が大嫌いですもの。前々から気に入らなかったゴミ虫を合法的に駆除するチャンスを得たわたくしは、近年稀に見る上機嫌ですのよ?」

「……レイヴェルは良くも悪くも昔の英国貴族風味だよね」

「それはどのような意味ですの?」

「安心して全権を委任出来る部下だと褒めてるだけ。私もディオドラを許せないし、全力を尽くそうと思う。サポート宜しくね、宰相さん」

「イエス、マイロード。御身に勝利の栄光を」

 

 眷属全員の顔を見終えた私は、家臣を伴い決戦の地へ。

 全ては冥界から実家に戻った翌日に告げられた先生の一言から始まった。

 そう、あれは―――

 

 

 

 

 

 第六十三話「プレミアムチケット」

 

 

 

 

 

「名門貴族選抜の新人王争奪リーグ戦?」

「おう、グレモリーVSシトリー戦の番狂わせが原因で急遽決まった。何せ下馬評で無理ゲーと称された五位が、絶対強者の三位を危うげなく喰ったんだぜ? 机上の採点ではありえない結果が示された以上、もう直接ぶつけて優劣を測るしかねぇってよ」

「やはりサイラオーグさんも参加を?」

「あいつのランキングは一位だからな。呼ばれない方がおかしい」

「ですよねーっと、麦茶のおかわりは如何ですか?」

「悪いな」

 

 趣味の為なら親でも売る駄目大人だろうと、恩師は恩師。

 汗をかいた空のグラスに気付いた私は、ポットから麦茶を注ぐことを忘れない。

 

「で、ここからが本題だ。お前、参加してみないか?」

「え?」

「実はランキング四位のアスタロトに付け入る隙がある。そうだな、冷や飯喰らい?」

「……爰乃の役に立てたなら、待遇改善を一考して貰えるだろうか」

「内容次第」

「……これは旧魔王派に接近してまで得た情報なんだが」

 

 例の乱痴気騒ぎ以降、立場がゼノヴィアの下へと落ちたヴァーリさん。

 他の眷属が仲良く食卓を囲む中、一人だけ部屋の隅でカップ麺を啜らされ、女性陣からは冷ややかな目を向けられる真綿で首を締められるような制裁が発動して既に二日目。

 私に言わせればまだ二日目ですが、その憔悴っぷりは尋常じゃない有様です。

 それにしても三日目を待たずして心が折れるあたり、ハードボイルドの限界は知れたもの。

 禁手でどれだけ強固な殻を纏おうと、中身は柔らかい黄身と白身。実年齢よりも幼い精神面が改善されない限り、ヴァーリがクールな二枚目を気取るのは無理なんだと思う。

 

「ディオドラ・アスタロトは表向きこそ現政権に従順でも、実際は禍の団に属して情報をリークする裏切り者だ。親にも秘密にしているこの情報を盾に交渉を迫れば、小心者の奴は必ず乗ってくる」

「ほう」

「後は適当にゲームでも吹っかけて、選抜戦のチケットを奪い取ればしめたもの。お前を抜きにして最強を競う連中を、横合いから殴りつけて振り向かせてやれ」

「うーん、先生はどう思いますか?」

「アリだと思ってなかったら誘ってねえよ。そもそもアドラメレク家ってのは、他の六家に負けない家格。力量もグレモリー以上、バアル以下を示したお前に参加権を与えない委員会が悪いと思わんか?」

「しかし、上がすんなり私の参加を認めるのか疑問ですよ」

「そこはほら、人間の活躍は転生悪魔優遇政策を掲げるサーゼクスの思惑にも合致するから大丈夫だ。アスタロトから推薦さえ取り付けられれば、後はフェニックスの娘っ子がどうにかするだろうよ」

「……話が美味すぎます」

「ゼンイデスヨ」

「と言うか、わざわざお爺様が外出中に話を持ってくる辺りが怪しい」

 

 海千山千の老獪な化け物相手に腹の探りあいで勝てるとは思わないけど、牽制くらいは入れておかないとマズイ。ジト目で見つめて拒否する姿勢を見せると、以外にも折れたのは先生だった。

 

「今回ばかりは裏も無いんだな、これが。強いて言えば個人的に肩入れしているサイラオーグと、可愛い生徒の勝負をもう一度見たいという下心くらいか」

「また嘘っぽいことを」

「マジだって。例えばサイラオーグが今何処で何をやってるか知ってるか? 何と俺の紹介状を持ってアメリカに渡航し、一秒でも惜しいとボクシング漬けの日々を送ってるんだぞ?」

「お、ついに専門家へ弟子入りしたんですね」

「トレーナー曰く不器用で物覚えは悪いが、真摯な姿勢に好感が持てるとか。睡眠時間もナポレオン並に削って基礎練習に注ぎこんでるらしいし、どんな化け物になるのか楽しみでならんわ」

「完成が楽しみですね。私も負けじと修行に励まないと!」

「しかし、そこが問題なんだよ。サイラオーグは聞いての通り現時点では蛹にすらなれていない芋虫状態だし、爰乃も未だ神器をコントロール出来てねぇ」

 

 先生の指摘はごもっとも。

 今の私は大きく分けて通常、英雄モード、英雄+神器と言う三段階の強化形態を使い分けている状況ですが、実は全部乗せ形態の制御が非常に甘い。

 おそらく、使いこなせている力は三割程度。

 じゃじゃ馬を乗りこなしたとは言い難い、発展途上だったりします。

 

「お恥かしい限りです」

「お前の神器は単純で奥深いからしゃーない。オンリーワンだから俺も全然研究が進んでねぇし、責めてる訳じゃないから凹むなって。爺も気長にやれって言ってただろ?」

「……ええ」

「俺が言いたかったのは、一騎打ちでの決着はまだ早いってことだ。発展途上同士が中途半端にやりあっても、不完全燃焼にしかなりゃしない」

「ぐうの音も出ない正論だと思います」

「だから勝負するならチーム戦。前のパーティーで奴の言っていた、王の器量で競う集団戦を一丁やってみようぜ」

 

 拳闘を齧っただけの素人を倒すことに意味は無く、向こうも神器を持て余している私と闘うつもりも無いでしょう。

 しかし、彼と交わした次戦のレギュレーションは眷属込みの総合力勝負。

 直接対決は次々回に持ち越し、盤上で競うのも一興です。

 

「なるほど、確かにこれは半公式戦。舞台としては申し分ないですね……」

「だろ?」

「裏があろうとなかろうと、地位も名誉も不要な私が不利益を被る可能性は皆無。どうせ馬鹿をやるなら、率先して踊らないと損と言ったところですか」

「つまり?」

「決めました、この話に乗ります」

「そう来なくっちゃ。根回しは任せておけ!」

「はいっ!」

「……俺は何をすればいい?」

「お前の出番はもう少し先だな。下準備が済み次第フェニックス嬢ちゃんに同行し、アスタロトを強請る物証兼ボディーガードとして動け」

「分かった」

「爰乃は……まぁ、ゲームには眷属一丸となって向う努力をだな」

「分かってます。現時刻をもって兵士への制裁を解除。情報提供及び情状酌量の余地を考慮し、夕食のリクエストを受け付ける大盤振る舞いまで付けちゃいます」

「……やっと許されたか。ならば肉じゃがと豆腐の味噌汁を要求する」

「りょーかい。次は本気で眷属から叩き出すので注意するように」

「……エロ勝負は許可を得た上での行動の筈。解せぬ」

 

 日差しも強い縁側で夏休み以降の目標を決めた私は、結論を出すと同時に冥界へと飛ぶ。

 目指すはお馴染みのフェニックス家。荷造り中だったレイヴェルの元に押しかけ、新たな一大プロジェクトがスタートしたのでした。

 そこから先は色々在ったけど、ここでは割愛。

 893顔負けの誠意ある説得で追い込み、何とか勝負を受けさせただけのことですしねー。

 以上、回想終了。

 大切なのは私の貞操も賭金に上乗せした、負けられない勝負が始まったと言う点のみ。

 何せ提示されたゲームは無制限の戦力に守られた四つの区画で構成される神殿を、こちらだけ通常戦力で突破。最奥にある教皇の間……もとい、王座でふんぞり返るディオドラを討つと言う黄道十二宮突破スタイル。

 注意すべきは一度使った駒の再利用は不能と言うこと。

 フィールド毎に一戦とカウントされ、手駒がなくなっても負け。

 普通に考えれば余裕で余るとは思うけど、敵の戦力は未知数です。

 何処から誰を引っ張ってくるか分からない以上、駒のやりくりが勝負の鍵だと思う。

 

「さあ、俺の相手はどいつだ」

『君の目の前に居る全員さ。ま、楽しんでいってよ』

 

 第一の宮の入り口に腰を下ろした私は、安心した面持ちで見物を決め込む。

 敵の数は十名程度かな?

 全員フードを被っているから正体は分からないけど、この感じなら大丈夫。

 二天龍の名は伊達ではな―――あれ、そう言えば最近アルビオンの声を聞いてない気が。

 彼も一応私の眷属だろうし、落ち着いたら話をしてみますか。

 

『ちなみに内訳は、女王へプロモーション済みの兵士八に戦車二。如何に君でも数の暴力は覆せないんじゃないかな? お仲間を呼んで来たらどうだい?』

「御託は結構。胸を貸してやるから、キャンキャン吠える前にさっさと噛み付いて来い三下」

『ふん、雑種のルシファーもどきが言うじゃないか。お望み通り、食い千切ってやるよ!』

 

 売り言葉に買い言葉。

 苛立った主の鶴の一声で、彼の手勢は殺意も露に武器を構え出す。

 しかし、既に遅い。

 先に鎧を纏ったヴァーリの右手が持ち上がり、あの言葉が紡がれていた。

 

『DIVIDE!』

 

 さあ、楽しいゲームを始めましょうか。

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