赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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月が変わってしまう前に、前半だけでも更新。
三戦目は次回決着予定です。


第67話「猫の目」

 いやほんと、どうしてこうなった。

 口ではさっさと来いと言いながら、まさか時間を稼ぐ羽目になるとは……。

 中級以上の眷属だけでは怖いと世界最強クラスの助っ人を呼び、しかもダメ押しとばかりに不利な条件を押し付けた僕の目算は果たして甘かったのだろうか。

 客観的に見ても答えは否。普通は邪龍が一匹混じるだけで相手は絶望する。

 まして、相手は若輩の小娘を仰ぐ集団だ。

 常識的に考えて、同世代の赤龍帝を擁するグレモリーだろうが、若手最強と謳われるバアルだろうが、訳の分からない武器を使うシトリーだろうが、全員纏めて小細工無しに正面から叩き潰すことの出来るラードゥンを配置した時点で普通は勝ち確だろ?

 と言うか、何だあのラインナップは。

 ヴァーリだけでも厄介なのに、邪龍をも配下に加えているなんて聞いてない。

 しかも序盤で白龍皇、八岐大蛇とエース級を景気良くぶち込んでくるあたり、未だ見せていない手札にはさらなる強札が潜んでいることは確定。

 通るかっ……! こんなもん……!

 一応僕のシンパを使えば数で押すことも可能だが、おそらく木っ端微塵に吹き飛ばされて終わり。ぶっちゃけこの手段を用いても、勝利のヴィジョンが全く見えない。

 

「これは禁断の手を使うしかない……かな」

 

 これが口約束だけなら、不利を悟った時点で契約を反故にしていたさ。

 しかし堕天使総督と、僕を破滅させるネタを抱えたヴァーリが一枚噛んでいる本件はそれが出来ないと言うか、やると自分で自分の首を絞めるだけ。

 せめてこれが唯の試合ならよかった。幾ら相手が人間でも化け物揃いに蹂躙されたなら言い訳も効いたが、新人戦の切符を賭けた上での敗北はマズイ。

 強請られているネタを口外出来ない為、何故そんなことになったのか弁明も出来ず、他家からは人間に屈した愚か者と蔑まされることは必至。

 つまり手段を選んでいる場合じゃないんだ。

 とは言っても、さすがにコレを使う日が来るとは夢にも思わなかったけどね。

 有難う、随分前に処分した北欧の巫女さん。名前は……うん、思い出せないけど気にするな。特別な玩具でもないのだから、忘れるのも当然さ。

 君から奪……もとい、譲り受けた遺品は、きっとこの日の為の物。

 下手をすればこのゲームフィールドはおろか、近隣一帯が血の海に沈むかもしれないが、そんなこと僕の知ったことじゃない。

 問題はパパをどう誤魔化すかだが……まぁ、知らぬ存ぜぬで通そう。

 願わくばアドラメレク一派が奮戦し、甚大な被害を追った上で災厄を処理してくれれば最良なんだけど、そこまでを人形に望むほど僕は鬼じゃない。

 そもそもアレを駆除できるとすれば、最早僕の手に余る存在と言うこと。

 遅刻どころか欠席も見えてきた二人目の助っ人に頼れない以上、ここでケリをつけて後顧の憂いを断たないと身の安全が危ういので、全滅して貰うのがベターだろう。

 

「さて、腹も据わった。一応、逃げる準備だけはしておくかな……」

 

 異教の魔術文字が刻まれた召喚札を僧侶へと与えた僕は、少しだけ手を震わせながら貴族らしい優雅な所作で下僕へと指示を与えるのだった。

 

 

 

 

 

 第六十七話「猫の目」

 

 

 

 

 

「次はアンね、アンがたたかう! ぎったんぎったんにするの!」

 

 アドラメレク眷属で最も精神年齢の幼い鳥は、見ているだけに飽きて耐えられなくなったんだろうニャぁ。目を爛々と輝かせ、両手を天に突き上げる様は正しく子供。ムードメーカーにしても、猫的に騒がしいのは勘弁。

 と言うか、我輩に言わせれば自主的な労働を望むとか狂気の沙汰ニャ。

 人生とは何者にも束縛されず、如何なる行為も強要されない自由なもの。

 普通の猫などは一日の大半を寝て過ごし、気が乗らなければ飼い猫ですら主人の命令を無視して気ままに日々を送ると言うのに、他の種族はプライベートより仕事を重視する始末。

 本当にワーカーホリックっておっかないニャ……。

 たまに散歩で見かけるグレモリーの猫又は真面目に下積みに励んでいるようニャが、きっと人型に生まれ付いた時点で本質は人間。イレギュラーは統計に不要ニャン。

 が、大変遺憾なことに我輩もアレと同じ立場の勤め猫。

 猫喫茶で愛想を振りまく重責を背負う同輩と方向性こそ違うが、上司の身内の接待、遠くまでの出張、言葉の通じない化け物との殴り合い、と面倒くさい仕事を抱えているのニャ。

 

「最大戦力を最終戦に温存しないのもアレですが、馬鹿鳥を持ち越すと姫様の望む直接対決が望めません。下手をしなくても開幕の一撃で首魁が蒸発すると思われますが……如何致しましょう?」

「仮にここで女王を投入しても王、騎士、僧侶、兵士が最終戦に投入可能。この編成なら連携も取れて掛け算の力を発揮出来ます。どうせヴァーリも鬼灯も自薦した上での参戦ですし、一人だけ自薦を取り下げるのも可哀想だと思う」

「では」

「アン、やっちゃいなさい」

「ありがと、ひめさま!」

 

 実は我輩、鳥の戦闘力をよく知らないニャ。

 何故なら我輩は暴力を好まない平和主義者。弦を筆頭とするバトルジャンキー共と違い、闘争に関わるあらゆる行為に興味がニャい。

 と言うのもこのリオン、こと命のやり取りとなれば絶対不敗。

 何時如何なる場合、何処の誰であろうと絶対に負けない体質を生まれつき持っているので、戦いに関しては極めて大らかだからニャぁ。

 なので周囲が鳥の勝利を疑わないのであれば、采配に異を唱えるつもりは無い……のニャけども、高い精度を誇る第六感に引っかかりを感じる。

 見ての通り我輩は誰もが認める幸福の化身な三毛猫の雄。不幸を事前に排除し、マイナスをゼロ以上に置換する力が直感の形で警鐘を鳴らしてもおかしいことではない。

 これは何かある。経験上断言しても良いニャン。

 

「立候補制ならば、我輩も出るニャ」

「え、アンだけでオーバーキルですのよ?」

「頑丈な堤も蟻の一穴で崩れるもの。戦術的に考れば、ここで想定外の手を打って来てもおかしくないからニャ。保険は事故が起きる前にかけておくものニャよ?」

「……どうなされますか、マイロード」

 

 我輩の挙手に反応したのは、足代わりに肩を借りていたフェニックスだった。

 何事も対話で物事を解決しようとする姿勢と言い、ぱっと見で雑魚っぽい猫にも敬意を払ってくれる態度と言い、地味にこの娘は我輩のお気に入り。

 爰乃も似た感じニャが、アレは究極的には肉体言語に訴える系。原則として戦いを回避するという選択肢を選ばない奴は、火種を持ち込む可能性が高くて嫌いニャ。

 

「確かに何かを仕掛けるならこのタイミングですね」

「本来、玉座に敵を通しちゃ駄目だからニャー」

 

 頭さえ生き残れば勝利の世界において、頂上決戦に全てを賭けるのは愚策。

 魔王は勇者との直接対決を避けられなくなった時点で詰みであり、結果はどうであれ大局的には負け。組織の大黒柱を危険に晒しちゃイカンのニャ。

 なので本音を言えば爰乃もお蔵入りで済ませたいところニャんだが、所詮これは一応ルールの設けられたスポーツの一種。そこまで目くじらを立てずとも問題ニャい。

 

「忠告、有難う御座います」

「同意を得られたようで何よりニャ。聞け、アン。我輩はお前が撃破されるまで部屋の隅で見守り口も手も挟まニャい。その代わり鬼灯のようにパートナーを気遣う必要は不要ニャので、気兼ねせず暴れニャさい」

「はーい!」

 

 我輩を試食と称して丸呑みしたこともある蛇以外が正気を疑う目でこちらを見るが、冥王すら匙を投げた我輩のサバイバリティを甘く見るニャよ?。

 しかし、これも良い機会。どうせ藍華の友人であり、アドラメレクの血族な爰乃、ひいては愉快な仲間たちとは、これから嫌でも付き合っていかねばならニャい。

 ここで一つ我輩と争うデメリットを見せつけ、間違っても喧嘩を挑んで来ないように釘を刺しておくのも先行投資として元の取れる選択ニャん。

 本当は適当に勝つ予定ニャったが、本気を出すとするかニャ。

 

「少しは意欲を見せなさい」

「スポット参戦の助っ人が目立つのは如何な物かと思わんかニャ?」

「おや、今後も姫様の兵士として参加するのでは?」

「愛玩動物に戦力としての役割を求められる職場は真っ平ごめんニャ。我輩はこれから先も悠々自適な猫ライフを送るつもりなので、日本に戻ればおさらばニャのだよ」

「私の姫様に不満が無いのであれば結構。去るものは追いません」

「私のって……お前は本当に犬気質だニャ」

 

 我輩に与えられた使命は、最初から使い捨てのイレギュラー対策。

 そもそも我輩に爰乃の飼い猫になると言う選択肢は最初からニャい。

 何故なら我輩を愛でさせてやらんでもない権を保有しているのは、現時点で藍華のみ。アレが権利を放棄しない限り、我輩は誰の所にも行かニャイ。

 

『次のステージの準備が整った。さあ進んで来い!』

 

 そうこうしている内に、段取りの悪い悪魔の足止めもようやく終わり。

 果たして稼いだ時間の中で、敵がどんな仕込をしたのやら。

 

「毛繕いしてる間に終わらせて欲しいニャ」

「うん、アンがばばーんとやっつけます。猫さんは寝てればいいと思うよ!」

「我輩、騒がしいと眠れんから無理」

「静かにがんばる……」

 

 乱暴で一方的な子供は大嫌いニャけど、幸いにも鳥は気遣いの出来る子供らしい。

 会うのはこれで二度目ニャが、これで大体本質は理解した。

 

「アンズーも守ってやらニャいとな」

 

 尻尾を立てた我輩は、やっと開かれた扉の向こうへ悠々と進み始めるのだった。

 

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