赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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英雄派考察回なインターミッション。
水増し英雄は、一部を除き名前だけで出番が終わる予定です。


第73話「英雄の挽歌」

「大変だ曹操、想定外の事態がっ!」

 

 泥の様な深い眠りについていた俺を覚醒させたのは、声に危機感を乗せて非常事態を宣言する腹心の呼びかけだった。

 

「……騒々しい。それは旧魔王派が裏切ったとか、対禍の団に編成されたと噂の選抜悪魔特別チームが強襲して来た的な緊急性の高い話なのか?」

「そう言う話じゃない。今更どうしようもない案件ではある」

「なら、話は後で聞く。せめて昼まで寝かせてくれ」

「珍しく怠惰な」

「俺は体力馬鹿の赤龍帝や白龍皇と違い、人よりほんの少し優れただけの人間でしかない。昨晩は君を魔王城にメタルギアさせる為に、アンチモンスターを率いて大活躍したことは知っているだろ? さすがの俺も、首都防衛隊を相手にぶっ続けで聖槍を振るい続けてグロッキー。使う予定の無かった禁手のリバウンドで全身が痛い」

 

 昨日は以前から準備していた計画の算段がようやくついた為、俺の動かせる手勢を総動員し、とある物を奪取すべく魔王のお膝元たるルシファードを襲撃したのである。

 ちなみに組織弱体化に伴う人員不足と求心力低下により、俺の供回りを務めたのは人間ではなく魔獣創造を用いて産み出した対悪魔特化型モンスターの群れ。まだ未完成で不確定要素の多い試作型ではあったが、想定以上の働きを見せてくれたことは嬉しい誤算だった。

 現時点でこの成果なら、正式採用版を今後の冥界戦役でも主力に据えられる。

 当初の目的を果たしたことに加え、そんな確信を抱けたことも大きな成果だったと思う。

 

「そうは言うがな、そもそもアレは曹操が私事の為に必要とした無理難題じゃないか。恨み言は鏡に向かって言うべきだと思うがね」

「真理だな」

 

 ミクロの視点では、恋路を叶える為だけの作戦に見えるかもしれない。

 が、マクロの視点で捕らえたなら話は別。

 危険を冒してまで得た収穫は、直接的に役立つ神滅具、聖剣の類とベクトルこそ違えど、扱い方次第で冥界を破滅に追い込む可能性を秘めたパンドラの箱だ。

 まだ精査は終わっていないが、ざっと見た限り中身は全て災い。

 流出先が堕天使なら、災いは世界に飛び出さなかった。

 天使でも、箱の底に希望の欠片は残されていただろう。

 しかし、人間の手に渡った場合だけは話が違ってくる。

 

「まぁ、アレの価値は十分理解している。唯の皮肉だから聞き流してくれ」

「お前なぁ……」

 

 気がつけば軽口を叩ける朋友も、片手で数えられる程に減ってしまった。

 メッキの偽者に烙印を押され、故郷に逃げ帰る羽目になったジャンヌ。

 板野サーカス(笑)と後ろ指を指さることに耐え切れず、自主的に二つ名を返上して姿を眩ませたヘラクレス。

 派閥立ち上げの頃から行動を共にしてきた二人に留まらず、魔法使いを含む多くの同胞たちが英雄派に失望して組織を後にしている。

 気持ちは痛いほど分かる。俺とてトップの立場でなければ、当の昔に自分探しの旅に出ていただろうさ。

 しかしアザゼルのハメ手から、多くのことを学べたと思う。

 現代戦において最も重視すべきは情報戦。これは人の世に限らず、人外の世界においても同様だということを嫌と言うほど理解出来た。

 

「さて、ボチボチ目も覚めた。話を聞こうか」

「実は悪い話とかなり悪い話があるんだが、先にどっちを聞きたい?」

「……心の準備の為にも、軽い方からで」

「ええとだな、ウチに属してない方のジャンヌが居るだろ?」

「うむ」

「奴にオルレアン聖剣団が、丸ごと引き抜かれてしまったよ」

「……は?」

 

 え、ちょ? 思わず表情が凍りついた俺だった。

 

 

 

 

 

 第七十三話「英雄の挽歌」

 

 

 

 

 

「実はシャルバから、あの女狐のライブチケットが団員達に送られていたらしくてな? 連中、もう一度だけ真贋を確かめると意気込んで会場に乗り込んだらしい」

「で?」

「結論から言うと、帰って来たのは全員分の脱退届を持った団長代理のみ。これは昨日の話で、俺も事後報告を受けた形だ。既に書類は正式に受理済みと聞いている」

「何でそうなる!?」

「何を言っているのか分からないだろうが、俺も同じ気持ちだ。催眠術だとか、超スピードだとか、そんなチャチな物が通用しないレプリカ聖剣持ちの軍勢が、いきなり掌を返すとかありえん」

 

 いやだってあの騎士たちは、ジャンヌ(禍)が副官とフランスに戻った後も、牙無き者の牙となると言う高い志を掲げて組織に残った高潔な英傑達だぞ?

 それが見た目だけのアイドルにあっさり鞍替え?

 天地がひっくり返る方が、まだ信憑性の高い異常事態だ。

 

「……俺たちが留守にするタイミングを熟知しているあたり、これは悪意を持った第三者が堕天使の仕込みに便乗した形か」

「だろうな。と言うか主犯はシャルバしか居ない。特に言論統制も行われていないことから察するに、向こうは唯の善意で済ませる気だと思われる」

「しかも俺たちは、それに異を唱えられない」

「うむ。シャルバは人間が主役の興行に善意で招待しただけ。そもそも新撰組の様に違反すると処罰される法度が在る訳でもなく、組織への参加・脱退は原則自由と言うのが英雄派だ。例え洗脳されていようと、それを証明出来ない時点で打つ手が無い」

 

 そう、元より英雄派は一枚板とは程遠い寄り合い所帯。人の世の為に働くというスローガン以外の主義主張は個人の自由であり、最優先で尊重すると言うのが基本方針である。

 本音ではトップダウンの強固な組織を目指したかったが、英雄だろうと、英雄だからこそ宗教や人種の壁は余りにも厚すぎた。

 例えば十字教と回教は溝が深すぎて分かり合えず、百年戦争でフランス代表のジャンヌと、イギリス代表のエドワード黒太子の様に、国家間&個人同士の因縁が深い間柄同士が大人しく轡を並べられる筈もない。

 しかも英雄の多くは欧州出身。この呉越同舟の中、設立者とは言え王や指導者揃いの各々彼らからすれば”誰?”と首を傾げる中華王が強権を発動すればどうなるか。それは火を見るよりも明らかだ。

 俺に出来たのは出身が亜細亜と言う中立の利を活かし、利害関係を調整する管理職として体裁を整えることだけだった。

 あまり誇れる話ではないが、思い返して欲しい。

 俺が行動を共にする英雄は、駒王学園、魔王城を始めとする死地に乗り込む時でさえジークフリートとゲオルクだけだっただろ?

 仮にも英雄派を束ねる長が、余りにも無用心だとは思わなかったか?

 

「曹操?」

 

 そのからくりは簡単だ。

 比較的素直なジャンヌ、ヘラクレスも、自己の判断と命令を天秤にかければ必ず前者に傾く規則違反の常習犯。従順なレオナルドでさえ、仲の良いゲオルクの付き合いで曹操派に組しているに過ぎないと言う悲しい現実がその答え。

 ああ、そうさ。忠実な部下として俺に従う英雄は、あの二人の他に居ない。

 誰もが属する派閥の利益を最優先。一致団結? 何それ美味しいの?

 綺麗事で人は動かないと言うことを、嫌と言うほど理解させられた俺だよ。

 ちなみに問題児を例に挙げるなら、お前は慢心金ぴかなのか、ポケット持ちの青狸なのかと問い詰めたくなる量の秘密道具を持つアストルフォで

 

 ”武帝? そやーっ! え、何故殴ったって? いやだって君が打ていと”

 

 と、ハイマットがフルバーストな自由奔放さで人の話をまるで聞いてくれない。

 むしろ、今、どこで、何をしているのかすら分からん。

 あいつはどうして俺達と合流したんですかね……。

 

「おーい?」

 

 三発の回数制限に目を瞑れば、瞬間火力で聖槍にも勝るティルフィングを佩くスウァルフルラーメなど、そもそも味方ですらない始末である。

 何せあの男は、オーディンの血を隔世遺伝で発現した半神半人。ヴァルキリーを侍らせて喜ぶ祖父に、禍の団の情報を横流しする為だけに参入した獅子身中の虫だぞ?

 

 ”余は力こそ貸さんが、知恵なら貸すぞ? 当然、代価は頂くがな”

 

 風下に立つことを良しとせず、北欧系を率いて対等の立場を譲らないあんにゃろうと比べれば、ぼっちで天然のアストルフォが優等生に見えるから怖い。

 二心が無いって大切だと思うのさ……ほんと。

 

「そーそーさーん?」

 

 そして俺のSAN値をゴリゴリ削る三大問題児、最後の一角は輪をかけて酷い。

 人界平和は何処吹く風。所属する目的は英雄派の乗っ取り&冥界勢力とのコネクション作りであることを隠そうともしないあの小娘。

 当初は吹けば飛ぶような極東の弱小勢だった癖に、着々と人を凋略して勢力を拡大。気が付けば他の派閥も無視出来ない発言力を確保している悪夢。そんなダークホースの正体は、忌々しいことに俺より年下の中学生だ。

 奴が掲げた公約は”天下布武”。今世でも魔王を名乗り、木瓜紋を掲げて異世界征服を狙う姿勢は、事情を知らぬ者からすると唯の厨二病だろう。

 しかし、伊達や酔狂で大言壮語を吐いている訳でもない。

 何故なら―――

 

 ”魔王は三千世界に一人で十分。四大魔王とやらは全員潰す”

 

 と、神殺しの武器をせっせと集めさせているあたりに本気が伺える。

 幸い今は趣味の相撲と蹴鞠……もとい、サッカーの監督として全中三連覇に夢中らしく、地球の地盤固めも含めて卒業までは本格的に動かないと言うのが本人の弁。

 仮に俺が三年以内に何も為せなかった場合、結果主義の彼女はどう動くのやら。

 人間の敵は最後まで人間。

 そんな予感をひしひしと感じさせるのは、後にも先にもこの娘だけである。

 

「帰って来い!」

 

 肩を揺さぶられて我を取り戻した俺は、辛い現実に立ち向かうことにする。

 どうせ避けては通れない道だ。

 事実は事実と受け止め、出来ることから片付ける他あるまい。

 

「まだ寝ぼけていたらしい。気を取り直して、さらに悪い話も聞かせてくれないか?」

「本当に大丈夫なんだな?」

「当然だとも」

「と言っても、二点目は曹操個人に関わる大事なだけなんだが……」

「ん?」

「君がご執心の香千屋爰乃が、アスタロトとの非公式ゲームでトラブり行方不明だ。現在進行形でヴァーリを始めとする取り巻きが血眼になって駆けずり回っていることから察するに、まだ身柄の確保には至っていないと思われる」

「そうか」

「……焦ったり、取り乱したりするとばかり」

「彼女は偉大な武帝の隣に並び立つ関帝さ。俺が心配せずとも、爰乃ならばどんな状況下からだろうと自力で乗り越えてくれることを確信している。むしろ、そうでなくては王の后に相応しくないとは思わないか?」

「……歪んだ愛情表現なことで」

「褒め言葉だよな?」

 

 爰乃を失う不安はある。しかし、彼女を守る騎士たちは非常に優秀だ。

 表立って動くことの出来ない俺は、彼らに期待する他に無いのである。

 ならば上に立つ者として、無様にうろたえる姿を見せるだけ無駄。

 泰然と構え、状況を見守ることこそ最善なのだと思う。

 

「報告は以上で終わりか?」

「今のところは」

「ならば、早速シャルバの所に出向こう。今回の件をネタに交渉を迫り、何らかの譲歩を引き出せれば御の字。何らかの形で意趣返しを仕掛けるぞ」

「大事の前の小事に流されない姿勢は立派だな。よし、護衛にジークを呼んでくる。その間に―――」

「正装を含めて準備は済ませよう」

「了解だ。暫し待て」

 

 足早に部屋を後にした相棒をぼんやりと見送りながら背伸びを一つ。

 俺の置かれた苦境が運命なら、爰乃に訪れた災難もまた定められた運命。

 香千屋爰乃、俺は一足先に問題解決へと挑む。だからお前も無事に帰って来い。

 そんなエールを込めて、俺はタフな外交へと向かう覚悟を決める。

 

「二度目の再会は遠からず訪れる。信じているよ、我が愛しの君」

 

 この時の俺は、まだ知らなかった。

 事実は小説よりも奇なり。その言葉の意味を。

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