赤蜥蜴と黒髪姫   作:夏期の種

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次で四天王戦は終了です。


第84話「聖なる炎」

 轟々と燃え盛る炎の波と、間欠泉の様に吹き出す氷柱の群れ。

 それらがもたらす暑いんだか寒いんだかよく分からない温度の風は新鮮で、私のテンションは右肩上がり。思わず口の端が自然と持ち上がる楽しさだった。

 あ、今は部室で手持ち無沙汰にしていた木場を拉致っての模擬戦中だ。

 火、水、風、雷、etc、あらゆる属性魔剣を操るグレモリーの騎士は遊び相手として面白く、暇を見つけては挑むのが私の日課だからな。

 

「インチキ幻想を全て打ち砕き、剣の最高峰がエクスカリバーであると知らしめてやる」

「いやいや、君の手に入れたソレって量産型のイミテーションだろ。果たしてオリジナルと寸分変わらない僕のジェネリック魔剣と、数打ち劣化品のどちらが上なのやら」

「折れた方が弱い!」

「それで構わないけど、先ずは目の前のピンチを乗り越えたらどうだい?」

 

 木場の言う通り前回の勝負ではデュランダルぶっ放しで雷撃を凌ぐも、オーラの全力解放に伴うなまくら化が影響して詰み。

 敗因は聖剣ビームを一撃で後腐れなく使い切る性分と理解はしている。

 しかし、所詮私は野生の力押しゴリラ。次に繋げるペース配分を考えられず、直感と本能に身を任せた刹那的な生き方しか出来ないのだ。

 

「応とも。今必殺の左エクスカリバァァァッ!」

「残念、ただでさえ聖魔剣は聖剣に優位なのに、質で劣る量産型で相殺出来るわけが……ん? 左 ? 今、聞き捨てならな―――」

 

 撃てるビームは一発。しかも使った瞬間、便りの聖剣は棒切れ。

 かと言って大技を封じると、か弱い人間は決め手を失ってじり貧の悪循環。

 そんな悩みを抱えた私に転機が訪れたのは、冥界遠征の少し前のこと。

 何時ものように晩飯をたかりに来たアザゼルから、天啓としか言いようのないアルバイトを紹介されたことが解決の糸口だった。

 曰く、量産型エクスカリバーを天然物の聖剣因子保持者に試して貰いたい。

 雑に扱って壊してもOK、今後もアップデート版を無償で供給する。

 その代わり、たまに回収するので実働データを取らせろとのこと。

 これぞ渡りに船。

 やはり神は居ないが、悪魔と堕天使は僕を見捨てないと実感した瞬間だった。

 

「そして、木場には初公開の二刀流右エクスカリバー!」

「ちょ、何処から出した!? そもそも複数所有は聞いてないけど!?」

 

 かくして私の手中には、1ダースのエクスカリバーとデュランダルが勢揃い。

 赤龍帝に張られた “頭のおかしい爆裂娘の派生” レッテルともおさらば。スナック感覚で最大火力をばら撒くようになった私に隙はないぞ。

 さらに言えば天叢雲剣に、フェニックス家から分捕った魔剣やら、気が付くとちょっとした剣コレクターになっている私だ。

 マスターや弦は武器が変わると落ち着かないらしいが、私は気にしない。

 重さが変わろうが、長さが変わろうが、それこそ包丁だろうが刃物は刃物。

 自分が使いやすいように振り回せば、戦い方なんて自然とついてくるからな。

 

「この通り、もう手数では負けないぞ」

「……まだ大量に隠し持っていると」

「残りの数はノーコメント。早速だが、追加カリバーはこちらです」

「エクスカリバーの大安売り止めようよ!?」

「景気よく剣を使い潰すお前にだけは言われたくない!」

「痛いところを突くね……」

「ともかく私のターン! 瞬間火力は猊下を超える、秘剣エックスカリバーァァァアッ!」

 

 木場ご自慢の神器をオーラ斬りで相殺した私は、すぐさま輝きを失った二剣をポイ捨て。

 次の聖剣を謎空間からリロードし、シンプルな二刀流の構えを取った。

 そこから放つのは交差する×の軌跡。思い付きで試したら出来ちゃった技だ。

 これぞ理屈は分からんが相乗効果で威力は数倍ドン。嫌々ながらも試し斬りの的を引き受けてくれた鬼灯の首を、結界の上から三本飛ばした絶対殺す奥の手その一っ!。

 我ながら模擬戦で使うのはどうかと思うが、ぶっちゃけノリと勢いだから許せ。

 

「何、その殺意の塊!?」

「はっはっは、私は誰かさんの大技を正面から打ち破った。まさかとは思うが、逃げないよなグレモリーの騎士?」

「分かったよ! これだから訓練で自重しない君の相手は嫌なんだ!」

「何でもアリルールを快諾したのは木場なのに……」

「ああそうさ、どうせ一発耐えれば終わりと甘い目算を立てた僕が悪いさ!」

「まぁ、私も少し反省している。なので本当は相手が死ぬまでズバァする無限コンボだが、自重して追撃は行わない。安心して防御に専念してくれ」

「大味の火力勝負はもうゴメンだ! この後は剣技縛りにしないと、勝負は打ち切りにするよ!」

 

 地面を砕きながら迫る剣閃を迎え撃つのは、雨後の筍の如く次々と屹立した剣山が放つ鋼の輝き。

 残念ながら普通の人間である私には聖魔剣最大のメリットである光と闇特攻と言う持ち味は生かせないが、聖剣の波動はどう転んでも光属性だ。

 つまり木場なら半減くらいは朝飯前。どうせ口だけの焦りに違いない。

 ほら見ろ、鋼の城は木っ端微塵に出来ても本丸は無事じゃないか。

 

「焦った割に余裕なのがいやらしい。腕の一本くらい、サービスで落とすのが礼儀だと思わないか?」

「……聖剣の癖に無属性のデュランダルだったらマズかったけどね」

「なるほど、当たり前過ぎて気付かなかった」

 

 それでこそ幾度となく挑んだ私を、全て跳ね除けてきた剣士。

 次は忠告に従ってデュランダル&エクスカリバーの合体技をぶち込み、守りを全て剥ぎ取った上で本命の天叢雲でズバァならどうだろう。

 頑丈が売りの木龍さえ泣きを入れた毒なら、さすがの木場も対処は難しいんじゃないか?

 

「君さ、ろくでもないこと考えてない?」

「そんなことは……む、爰乃から電話だ。少し中断だ」

「どうせ訓練、構わないよ」

 

 肩をすくめるライバルには悪いが、下っ端は上に逆らえないのが世の常。

 出来れば面倒なお使いより、カチコミの助っ人とかであって欲しい。

 そんなことを願いながら携帯を開く私だった。

 

 

 

 

 

 第八十四話「聖なる炎」

 

 

 

 

 

「ストライク!」

 

 目算が甘かった。全てはその一言に尽きる。

 私のバットに空を切らせたボールは、軽くメジャー最速を超えるもの。

 しかもその変化は素人目にプロとの差が分からない切れ味で、ちょっと手に負えるレベルじゃない凄さだった。

 

「先輩、我が校の甲子園連覇は確定した未来ですね」

「どうだろう。これは精霊パワーを使っているからで、彼が公式試合で出せる実力じゃない。ま、それでも基本スペックの高さは事実。期待は裏切らないとは思う」

「で、ですよねー。さすがに普段からこんな投球しませんよねー」

 

 何せ四天王の二番手を勤める小学生が投げる球は、文字通り物理的に燃えているアフターバーナー搭載のファイヤーボール。

 分かりやすい属性付与、リスクを感じさせない身体強化を使いこなす球児君と比べ、実はあまり土関係なかったガス欠さんは何だったのか。

 同じ精霊使いですよね?

 精霊さんの愛され方って、そこまで違うものですか?

 

「しかしながら、球児君は普通に天才だ。しかも情報によれば君は野球の素人! つまり彼の得意分野に持ち込んだ時点で我々の勝利は揺るがない!」

「くっ、正直野球に興味なし。自分のストライクゾーンさえ正確に分かりません」

「聞いての通りだが、決して侮るなよエース君。分野こそ違えど、彼女はその道のプロだ。反射神経と膂力だけで場外まで飛ばすことを忘れないように!」

「はい、先輩! 丁寧に四隅を付いて掠らせもしませんよ!」

「その調子で、しまっていこう!」

 

 そこは慢心しようよ小学生。

 ついでにキャッチャー役の先輩も、本職のような安定感を止めて頂きたい。

 と言うか子供相手だからと勝負内容を任せた私に対し、一切の妥協無く自分たちが一方的に有利な野球対決を持ち出すのは如何な物か。

 確かに先輩の勢いに負け、反射的に頷いてしまった私が悪いとは思いますよ?

 でも、さすがに文句の一つを言いたくなる気持ちも分かって欲しいところ。

 

「確かにプロ野球も高校野球も見ませんが―――」

 

 そんな愚痴は兎も角、これでも勝算があるから受けた訳でして。

 球児君が野球に全てを捧げているなら、私だって武の一芸特化型。

 見様見真似のバッティングに固執するから勝ち目が無いのであって、修めた技を環境に適合させれば話は違う。

 そう決断した私は即座に打撃フォームを崩し、普通に野球をすることを諦めた。

 

「パワプロでコールド鬼の異名を取った私の打率は八割越え!」

 

 本業は無手ですが、これでも剣術家の端くれ。

 お爺様の十八番たる居合いは、憧憬から特に力を入れて模倣した私です。

 残念ながら剣客には通じないレベルの児戯ですけど、体の真横を通り過ぎるだけの的を斬るだけなら何とかなるような気が。

 大丈夫、刀もバットも同じ棒っ切れ。やってやれない筈がありません。

 

「やべ、構えが堂に入ってる。嫌な雰囲気だぞ!」

「問題ありません、僕の全力は付け焼刃で打てるほど安くない!」

 

 球児君が投じた二球目が迫る中、私が取るのは左手を発射台に見立てた半身の構え。

 実測で0.5秒、体感は0.1秒で目の前に現れたボールは相変わらず炎を纏っていて回転は見えず、球種の判別は限りなく難しい。

 でも大丈夫。どんな球が来ようと、射程内を通過するのがルールです。

 なので、そこを叩き斬―――そこっ!

 

「冷やりとしたが、シンカーには対応出来ずか」

 

 またしても空振り。

 目では追えている。でも、変化を視認してからでは対応が間に合わない。

 なら、いっそ勘に任せた決め打ち?

 それは駄目。球種の上限が分からない以上、余りにも勝算が無さ過ぎる。

 つまりこのまま続けても、同じ結果が見えていると言うこと。

 

「先輩、一つお願いが」

「ん、負けを認めて降参か?」

「いえいえ、最後まで足掻くのが私のポリシー。アウトが死を意味するなら、最後の一球まで諦めるつもりはありません」

「だと思った。で、お願いとは? 先に無理を通した負い目もあるし、余程の難題でも無い限り受け入れるぞ?」

「やはりバットは慣れません。そこでより当たり判定が狭く、長さも同等の品との交換を要求します」

「さっきの構えから察するに……刀か」

「はい」

「宜しい、その要求を呑んでインターバルを取ろう。道具を取りに行くなり、作戦を練るなり好きにしろ。我々はここで待つので、準備が出来たら声をかけて欲しい」

 

 私の提案を快く受け入れてくれた先輩に頭を下げ、私は携帯を取り出してコールする。

 連絡先は、必要なピース持つ筈のゼノヴィアです。

 彼女に場所を伝え、待つこと数分。

 旧校舎の方から現れた戦車から勝利の鍵を受け取った私は、久しぶりに握った刀の感触を確かめるように一通りの型をなぞった。

 うん……ご無沙汰なのでブランクが不安でしたが、今でも刃が思い通りの軌跡を描いてくれる。

 この剣先まで神経が通っている感覚は、ずっと練習用として苦楽を共にしたこの子であればこそですね。

 

「事情は分かった。しかし武器を全て持ち歩く私だから兎も角、いきなりお下がりで貰った鍛練用の刀を貸してくれと言うのは余りに難題だぞ?」

「こんな無茶振り、私の可愛い戦車以外にしませんよ」

「なら良し。で、それはそれとして野球なんだろ? なら普通の刀よりビームが出せる剣の方が適任だと思うんだ」

「は?」

「ふっ、知らないなら教えてやろう。野球にはバスターなる技が認められていて、首尾よく敵を壊滅させれば点差無視の勝利が成立すると聞く。そしてバスターと言えば、聖剣使い伝統芸能の皆殺しビームの別名だ!」

 

 胸を叩いてドヤ顔のゼノヴィアは、唖然として固まる私を気にも留めずに続けた。

 

「爰乃は聖剣を使えないから、後は代打の私に全て任せろ。全力デュランダルからのクリティカルバスターチェインで、四天王とやらを全員皆殺しにしてやる!」

「手出し無用、黙って見ているように」

「……これはお前の喧嘩だったな。頑張れマイキング」

 

 幾ら国技がカルチョの国で育ったとは言え、さすがにこれは酷すぎる。

 本音ではツッコミと説教を入れたい。

 でも、今はぐっと堪えてノータッチ。

 優先すべきは、身内に切られた集中の糸を繋ぎ直すこと。

 微妙に乱された心を鎮め、次の一振りに全神経を注ぐ準備をしなければ。

 

「話が纏まったなら、試合を再開しても?」

「どうぞ」

「それと、先に遊び玉は使わない三球勝負を宣言しよう。但し球児君も人間。意図しない失投で枠の外に行っても勘弁してくれ」

「その正々堂々さ、種目にも発揮してほしかった……」

「あーあー、聞こえませーん。プレイボール!」

 

 某自称アイドルに負けず劣らずのフリーダムさに呆れつつ、このピンチを乗り切った暁には何でもありルールでぶん投げることを固く誓う私だった。

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