煙草好きな提督の日常 作:八白
2016年12月10日、土曜日。
福岡にある玄海鎮守府、そこで俺は提督をしている。
ー現在、朝の7時。ここの鎮守府では、毎朝この時間に今日の秘書官ならぬ「秘書艦」が俺の部屋、執務室にやってくる。秘書艦は当番制だ。
と、やってきたな。
「司令官さん、今日は電(いなずま)が秘書艦なのです。よろしくなのです!」
「おぉ、今日は電か」
駆逐艦の電は、俺がこの鎮守府に着任してきた時からの付き合いで、いわゆる「初期艦」と呼ばれる艦である。提督になって右も左も分からない俺と共に、一緒に歩んできた。当然、駆逐艦の中では一番練度が高く、我が鎮守府の中でも三番目に練度が高い。ちなみに、二番目は金剛、一番目は榛名である。
「何か一番最初の頃を思い出すよ……まぁいいや、今日はよろしくな」
「はいなのです!」
さて、今日も一日頑張るか!
★
俺の仕事は、出撃や遠征の指揮、書類関係が主だ。午前中に書類をまとめて、午後からは日によって違う。駆逐艦の子供達と遊んだり、訓練の様子を見学したりしている。
その中で俺が一番楽しみにしているのは、休憩中の煙草だ。ただのニコ中であるが、艦娘達に煙が行かない様に、艦娘のいる所では決して煙草を吸わない。
「ふぃ~」
休憩を取って一服。もちろんこの間にも、艦娘の事を考えている。今日の出撃は上手くいくのだろうか?とかね。
俺が煙草を吸う時間は、一本当たり大体10分。ちびちび吸うタイプだ。
「さて、そろそろ戻るか」
煙草の火を消し、執務室に戻る。
★
我が鎮守府は、昨日まで秋の特別作戦(大本営発表では「イベント」と呼ばれてる)をしていて、作戦が終了した今、備蓄していた資源がかなり減った。なので今は、減った資源を回復させるために、艦娘の仕事は遠征メインだ。
「第二艦隊は神風、長波、水無月、高波、鬼怒、瑞穂の6隻で鼠輸送。で、瑞穂に「大発動艇」を乗せて」
「了解なのです!」
「で、次に……」
朝食を取ってすぐに、俺は秘書艦に今日の遠征のメンバーを伝え、遠征に行かせる。まぁメンバーも内容もほぼ固定されているが、良いだろう。
「……と、以上だ。それじゃあ電、よろしく頼む」
「はい!なのです」
電の「なのです」は口癖だ。俺がここに来た時からだから、特に触れない。
「次に出撃だが、現在の育成艦は皐月だ。あと少しで改二に必要な練度になるから、もう一踏ん張りだと伝えてくれ」
「僚艦は誰にするのです?」
「三隈、榛名、雲龍、大鳳、で、新艦のサラトガ。装備は三隈にドラム缶ガン積み……」
出撃は、昨日まで特別作戦の編成だったから入れ替えもやって、サーモン海域に出撃させる。作戦名は「東京急行」。これを毎日行う。
★
遠征と出撃の指令が終わったら、書類の片付け。今日は特に特別作戦の後だから、片付けなければならない書類も多い。
ー電と一緒に頑張ってノルマを終わらせる頃には、既に昼食の時間を過ぎていた。
「やっとお昼なのです……」
「お疲れさん、今日は食堂だな」
昼は基本秘書艦が作る事が多いが、料理が苦手な艦や今日みたいに遅い時は、食堂に行く。
「あ、司令官だー!」
「珍しいですね、提督」
なので、食堂に行く事が珍しいから駆逐艦達に囲まれる事が多い。他の軽巡や重巡なんかも嬉しそうにしてる。
「司令官、私達と食べよう!」
「あー、抜け駆けはズルイよ」
「ジャンケンで決めようよ!」
駆逐艦がこぞって俺と一緒に食べたがる。早く食べて食後の一服がしたいので、俺の独断で勝手に決めさせてもらう。選ぶ基準は特になく、ランダムだ。まぁ連続で同じ艦にならないように、メモしたりしてる。
今日は時津風と食べる。これをしてたら、皆渋々とはいえ諦めてくれる。
★
昼休憩を1時間、12時から13時まで取る。これは一般企業のやり方を採用させてもらっている。
今日は電と一緒に、午後の鎮守府を散歩がてら、皆の訓練を見る事にした。
「今日はお天気が良いのです」
「そうだな」
本当は煙草を吸いながら歩きたい所だが、この鎮守府の掟として「艦娘の近くは禁煙」というルールを俺が立てたので(じゃないと吸わせてもらえなかったから)、煙草ではなく棒付きキャンディーを舐めて歩いている。
「電もいるか?」
「はい!」
電にもキャンディーを分けてやると、嬉しそうに食べてくれる。
ー今日は、特別作戦の終了した次の日という訳だから、自主練してる艦娘ぐらいしか特訓してなかった。
★
17時、秘書艦の仕事はここで終了だ。そして、提督としての仕事もここまで。残業?知らない子ですね。
「電、ご苦労様。今日のご褒美」
電を労って、俺は財布の中から間宮の券を一枚電に渡した。間宮とは、この鎮守府の唯一の甘味処の事で、給糧艦娘「間宮」が経営してる。昼間は甘味、夜は居酒屋みたいに酒を提供してる店だ。
「はわわ!いつも良いのですか?」
「良いの。秘書艦には特に報酬が付かないから、俺からのささやかなプレゼント」
そう、秘書艦になったからといって、特別な手当ては付かない。だから、俺から間宮の券一枚を、特別手当として渡してる。
「それじゃあ、いただきます。ありがとうございます!」
「今度もよろしく頼むよ」
「はいなのです!」
そう会話して、電は執務室を出た。
★
仕事終わりの一服を吹かして、俺は間宮に向かった。他の鎮守府では、軽空母の鳳翔が小料理屋を開いているらしいが、この鎮守府では鳳翔は間宮の手伝いに入るぐらいだ。
ーという訳で、他の艦娘達は仲間と楽しく飲んでいる中、俺はカウンターで一人で日本酒を飲んでいた。
「今日も一人ですか?」
「ん?おぉ、神通か」
横には、軽巡の神通がいた。「隣良いですか?」と聞かれたので、「良いよ」と言って神通を座らせた。
「他の艦は?」
「川内姉さんは夜戦の特訓、那珂ちゃんは……よく分かりません」
神通の妹、那珂ちゃんは艦隊のアイドルとして日々トレーニングをしているから、多分それだろう。
まぁ良いや。俺もちょうど神通に聞きたい事があった。
「それより神通、お前また二水戦の駆逐をしごいたんだってな」
「しごきじゃありません」
俺の言葉をキッパリと否定した。飲み物は、俺と同じく日本酒で、お猪口に入った酒をクイ、と飲み干した。
「神通の訓練は鬼だって、この前駆逐艦が言ってたぞ」
「鬼ですか……」
からかう様にそう言うと、彼女はふぅ、と息を吐いて、
「沈まずに帰ってきて欲しいと願う鬼は、ダメでしょうか?」
自嘲気味に笑って、そう言った。
ー今回、俺は神通に厳しすぎる特訓を組む理由を聞きたかった。だから、
「私はいくら嫌われても構いません。それであの子達が帰ってきてくれるのなら……」
彼女のそんな答えが聞けて良かった。
「そうか……駆逐艦の子供達もそれは分かってくれると思うよ」
俺の言葉に、「はい」とゆっくり答えてくれた。
ーそろそろ煙草が吸いたくなったので、今日はここまで。
「ほい、じゃあ神通。これで払っといてくれる?」
俺はそう言って、彼女に金を渡す。
「提督、少し多いですよ」
神通はすぐに俺の酒代が多い事に気づいた。
「お前の分も少しだが払う」
「他の奴には内緒な」と俺は口に指を当て、神通の顔を見ずに俺は店を出た。
「提督、ありがとうございます……」
去り際、神通の声が聞こえた。
★
「提督」
「ん?何だ榛名か」
店を出てすぐに、この鎮守府で唯一俺とケッコンしている、俺の嫁、戦艦榛名に出会った。
「何だとは失礼じゃないですか」
「わりぃ。それより早く煙草が吸いたい」
「ダメですよ、身体に悪いんですから」
「今日はあんまり吸ってないよ」
そんな会話をしながら俺と榛名は執務室に向かう。この会話をしている時が、煙草を吸っている時よりも幸福かもしれないな。
ーこうして、俺の一日は終わる。
★
この物語は、ニコチン中毒の提督と艦娘の日常である。
基本更新は不定期ですが、よろしくお願いします。