煙草好きな提督の日常 作:八白
12月12日、日曜日。
今日は遠征以外の艦娘はお休みだ。演習もないが、自主練する艦もいる。そんな感じに皆思い思いの日を過ごしている。
ー俺は今日は特に予定がないので、一人鎮守府のーを歩いていた。
「特別作戦も終わったし、今年も轟沈0で終われるかな……?あれ?」
大きく背伸びをして独り言を呟いていると、初霜が一人で海を見ているのに気が付いた。
「おーい、初霜」
「あ、提督」
呼びかけると、彼女は気が付いて俺の方に歩いてきた。
「何かお呼びでしょうか?」
「いや、一人でいたから、何かあったのかって思っただけ」
「そうでしたか……」
そう言って、初霜は再び海の方を見る。
「……初霜」
「はい?」
「少し俺と一緒に歩こうか」
俺がそう提案すると、
「……はい」
少しの間を空けて、頷いてくれた。
★
「今年も終わるな」
「そうですね」
他愛ない世間話をしながら、初霜のペースで海岸を歩く。
「なぁ初霜」
「はい?」
「何か悩みがあるんじゃないか?」
「……」
俺が切り出すも、初霜は何も答えなかった。
「どうしてそう思うのですか?」
「お前とは俺がこの鎮守府に来て以来の付き合いになるんだぞ。悩んでいる事ぐらい分かる」
「……流石は提督です」
初霜は観念した様に、小さく笑った。
「悩み聞いてもらえますか?」
「もちろん!」
★
海岸に打ち上げられた朽ち木に座って、俺は初霜の悩みを聞く事にした。
「実は最近、悪夢を見るようになって……」
「どんな?」
「提督、私の艦としての歴史は分かりますか?」
「あぁ。
初霜の戦果は、奇跡と言われたキスカ島撤退作戦、そして大和の最期となった特攻作戦で戦死者無しの記録を出した……大体そんな感じかな?」
俺がそう言うと、「ありがとうございます」と礼を言って続けた。
「それじゃあ提督、私の坊の岬での“もう一つの顔”は知ってますか?」
初霜は少し悲しそうにそう聞いてきた。坊の岬とは、大和の最期となった場所の事で、鹿児島にある。
俺は少し間を空けて、
「あぁ、知ってるよ」
そう答えた。
「提督は本当に何でもご存じなのですね……」
「まぁ、これでも結構勉強してきたからな。全てとまではいかないが、大体の事は知ってるよ。
でも、どうしてそんな事聞くんだ?」
「実は最近ですね、“あの頃”の記憶を夢で見るんです……」
初霜の震えた声に、俺は何も返せなかった。
ー初霜の言っていたもう一つの顔……それは、救助艇にしがみ付く生存者の手首を切り落としたり、手を蹴って生存者を海中に落としたという、残虐な史実を持つ。
しかし、
「でもそれは、否定されてきただろ?」
確かにそう書かれた書物は残っているが、初霜のこの史実は根も葉もない事だと否定された。
それでも初霜は、
「そうだとしても、私にはその事実は“記憶”として残っているんです……!」
身体を震えさせながらそう強く答えた。
ー艦娘は、まだ実際の艦だった頃の記憶を持って生まれてくる。
今回の様に、例えそれが事実とは違っても、記録として残っている以上、記憶を持って生まれてくる艦娘がいるというのを聞いた事がある。
「寝る度に、あの時の生き残った人達が私を恨んで、「どうして殺した?」「何故見殺しにした?」と恨み言が永遠に聞こえてくるんです……」
ついに初霜は泣き出してしまった。
ここまで悩んでいたのに、俺は気づいてやれなかった……提督失格だ。
(って、嘆くのは後だ。今は彼女を安心させねば)
正直こんな経験はないので、イチかバチかで賭けを行う。
ー俺は、彼女を抱き締めた。
「!ふぇ、提督……?」
初霜はかなり動揺してる。まぁそりゃそうか。やってる俺だって結構動揺してる。
「初霜」
構わずに俺は話をする。
「艦の歴史はお前ら艦娘に大切な事だ。けどね、そんな歴史を否定する事も大切なんだよ」
そう言って俺は、さらにギュッと強く抱き締める。
「俺はそんな過去に苦しめられてる大切な艦娘(おまえら)を見てるとな、心が痛むんだよ。お前らは平気じゃないんだ、一人の人間として生きていて欲しいんだよ」
「提督……」
「それに“初霜という艦娘”はそんな事はしないだろ?」
優しく問いかける様に言って、初霜から離れて、彼女の真っ赤に染まった目を見る。初霜は鼻をすすりながらコクンと頷いた。
「辛い時は姉妹艦や仲間に頼りなさい。もし言えないなら俺もいるんだから、今回みたいに一人で抱え込む事だけはしないでくれ。それが一番辛い事だから」
そう言って、俺は初霜の頭を撫でた。
「ありがとうございます。提督は本当に優しいのですね……」
榛名みたいなことを言った。
「当たり前だ。俺はお前らの提督だからな」
俺はそれに当然といった感じに答えた。
★
あの後、初霜が元気になってこの場を離れた。
俺は周りに誰もいないのを確認して、煙草をくわえる。
「海岸は喫煙じゃぞ」
「おわぁ!!?」
初春がいた。マジでビックリした。
「いるなら言えって」
しぶしぶ煙草を直しながらそう言うと、
「それはどうでも良いのじゃ。
初霜の事で、礼を言う。ありがとう提督、お主の言葉であやつの悩みは解決したようじゃ」
そう言って、初春はぺこりと頭を下げた。もしかしてどっかで見てた?
「そんなの別にお礼とか言われる筋合いはないよ」
手をヒラヒラさせて俺はそう言った。
「いや、妹の悩みをしっかり解決できなかったわらわのせいで」
「あいつが言わなかったんだろ?それに、この艦隊では俺の方が付き合い長いんだから、逆に気づかなくてごめんな」
初春の言葉を遮って、俺はそう言い頭を下げた。
「お前ら艦娘と俺の関係は、提督(じょうし)と艦(ぶか)だ。部下の悩みを見つけられなかったのは、上司が輪悪い。だからお前は今回の件には関係ないよ」
「それでもわらわは初霜の姉じゃ!わらわにも関係ある!」
そんなの怒らなくても俺には分かってるよ。
「だから初春にはさ、アフターケアをしてもらいたい。お前にしか頼めない、できない事だ」
「わらわにしか……?」
「あぁ。多分、まだ完全にはアイツの悩みを解決したとは言い切れないからね。今度は初春に聞いてもらいたい」
言い訳になるかもしれないが、今回みたいに一人一人悩みをじっくり聞いてやれる時間がないし、姉にも頼ってもらいたいって、俺は思ってる。
「できるか?」
「提督……うむ!任せるのじゃ!」
少し間を空けて、初春は元気良く答えてくれた。
「いつ静」というより「止まり木」みたいな雰囲気になった気がする……次回からは、アンソロみたいにはっちゃけます。