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川神市某川原に年頃十を過ぎたかどうかの少年と少女がいた。
少年は倒れ臥し、それを少女が見下ろしていた。
「なんだ~、もう終わりか? まぁ結構持った方か」
失望感、程ではないが達観のこもった様子でそうこぼす少女、彼女は強かった、故に孤独。
そんな気持ちから漏れた言葉であった。
――しかし、少女の気持ちはどうあれ、そんな言葉をかけられた少年はどう思うのか。
これがただ喧嘩をしただけならば悔しさはあれど忘れられただろう。
通りがかりを殴られたなどであれば憎しみは残ってもそこまでだ。
少年の年がもっと幼ければ無意識に心が折れてそこで終わっていた。
逆にもう少し大人になっていれば諦めの感情が先に立ったであろう。
少年は諦めるには子供すぎ、心が折れるには育ちすぎていた。
少女が一礼をして立ち去った後、少年は声を殺して泣いた。
「ち……っくじょう……ぐぞ、ぢくじょうぅぅぅ……」
ここから少年の一途な青春は始まった。
◆◇◆◇
みんなに聞きたいことがある、心に残っている挫折ってどんなことだろうか?
僕こと高坂 虎綱は小さいころ自信を持っていた武術で負け、失望された。
自信を持って勝負に臨んだが結果は圧倒的な力負け、化け物っかってくらいの力の差を見せられた。
小さなことかもしれないけれどもう一人称が俺から僕に代わるくらいの挫折だった。
それから僕はただひたすらにあの時の圧倒的な力に対抗するために腕を磨いてきた。
すべてはあいつに勝つために。
「 痛てえええええ! 俺の腕がぁぁぁぁ!」
「あぁーん、今日もモモ先輩超かっこいい!」
「流石モモ先輩、まさに覇王だぜ!」
……うん、周りが騒がしいのは聞かないことにしたいな。
現実逃避を続けたい限りではあるが、何をどう間違えたのか僕が勝ちを望む相手というのがあの武神なのだ。
あ、もうほとんどのやつが骨外されて積み重ねられてる。
「ふふっ、美しく積みあがったな」
「姉さん、これもはやホラーだから」
おっと、終わったみたいだな。まああまり参考にできる戦いではなかったけどまぁいいか、学校に向かうか。
そうして心に刻む。
――なに、こうして敵の強大さをしょっちゅう確認できるんだ。なればこそ僕の歩みは早々止まらないさ。
っとかっこいいことを考えながら目の前にモモ先輩に飛ばされた男が横切り乾いた笑しか浮かばなかった。
さらに後ろから女を漁る武神の声なんか聞こえてない。
うん、なんか情けない気分になるから断じて聞こえていないのだ。
「らんらんるー」
などと考えていると僕の所属するクラスである2年S組のクラスメイトである榊原小雪が何か絶対言ってはいけないような気がしてならないセリフを吐いていた。
「おはようユキ、井上、で、早速だが保護者としてあれはいかんでしょう。なんでいけないのかはわからないけど唐突にハンバーガーが食べたくなったんだけど」
「やめろユキ!!クラスメイトがなんか唐突に変な宗教に引っかかった感じになっている!!」
「おー、ハゲは朝から元気だなー、トラーおはよー」
「いや、ここは全力でいかないといけないような気がしたんだよ。おはようさん高坂」
うん、なんか気になりはするけど追求してはいけないな。
そのまま二人と連れ立って雑談に興じようとしていると後ろからやけにまぶしい気配を感じた。
そして人力車を引く音と、
「フハハハハハハハ!!!!」
この笑い声である。
間違いないなこれはあいつだ。
このテンションは知っている奴なら全員が全員あいつだとわかるだろう。
「おはよう! 庶民!」
「おはようございますみなさん! さあ元気に英雄様にご挨拶してくださいね☆」
そういって予想通りの金ぴかとメイドが現れた。
「おはよう、英雄今日も金ぴかだね」
「おはようさん、朝から元気だねー」
「おー、おはよー。ねえねえ、準の頭とどっちの方が眩しいかなー?」
なんかひどいこと言ってるな。
「うーん、部分的な強さであれば間違いなく太陽拳が最強だけどやっぱり全体的には英雄の方が眩しいんじゃないかな?」
「おー、そーなのかー」
「使えないから! 太陽拳なんて使えないから!!」
使っている気がするんだが。
「ところで英雄、次っていつあのバイト入れそう?」
「ウム! あずみ!!」
「はい!! これからしばらく九鬼は一大プロダクションに掛かりっきりになりそうですのでしばらくはできないと思います!」
「そうですか、ありがとうございます。ヒュームさんと揚羽さんや他の従者の方たちによろしく言っておいてください」
「かしこまりました☆」
うん、しばらくは収入は望めそうにないな。
こうして僕の川神での朝は過ぎていくのであった。
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