せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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昨日のあとがきで遅くなると言っていたが、あれは大ウソだ。
こちらから別サイトに来てくれていたことが分かり、テンションが上がってしまった。
と言うことで午前休だったので書き上げてしまったので出かける前にひっそり更新


第十五話 対武神 数年来の激突

 決戦の日、胴着を持って川神院の門をくぐる。

 そこに待っていたのは、川神院総代 川神鉄心、師範代 ルー・イー、そして武神川神百代。

 

 「お前が挑戦者か、クリスに勝った奴だな。期待しているぞ」

 

 いつもの砕けた口調より幾分か固い言葉使いでそう言ってきた。

 しかし、その言葉に反し幾分か期待はずれであったという雰囲気が見え隠れしている。

 

 「はい、今日はよろしくお願いします」

 

 そう言って、着替えるために一度川神院の中にお邪魔する。

 

 ――ああ、遂に、遂にこの時が来たんだ。

 

 先ほどの様子を見ると、彼女は僕のことなど覚えていなかったのだろう。

 それはそうだ。

 だって、彼女にとっては数多いたすぐに倒すことのできた挑戦者たち、そのうちの一人でしかなかったのだろうから。

 だが、だがしかし、僕はあの日から、ただの一度も彼女のことが頭から離れたことなどなかったのだ。

 そして、今僕は、彼女と戦うために川神院の仕合場にいるのだ。

 

 「それでは、双方、準備はいいのう?」

 

 その言葉に二人とも頷く。

 

 「西方、高坂 虎綱!」

 

 「はい」

 

 この勝負、勝てるとは言い切れないだろう。

 

 「東方、川神 百代!」

 

 「ああ!」

 

 当然だ、彼女であれば全勝していてもおかしくはない仕合に、何とか勝ち越しただけなのだから。

 

 「いざ尋常に!」

 

 だが、それでも、あの日のように失望したように、諦めたように見下される結果など

 

 「始めいっ!!!」

 

 断じて認められないのだ!!!

 

 「川神流無双正拳突き!!」

 

 数多の挑戦者を開幕直後一撃で敗北に追い込んだ、試金石ともいえる彼女の一撃。

 しかし、本気でもないただの打撃など、

 

 「舐めるな!!!」

 

 ――ゴキッ!ゴキン!!

 

 「っく!?」

 

 射線から体をずらしながらの横からの一撃で関節を外してやる。

 それも加減のある一撃なのだから、余裕をもって手首、肘の二つをだ。

 

 「はは! 確かに舐めていたな。だが、どこまでいけるかな?」

 

 そう言う彼女には、外れたはずの間接はその痕も残っていない。

 これが、武神と呼ばれるポテンシャルの代名詞であろう瞬間回復だ。

 普通であれば一度使うだけで気を消耗しきってしまうであろうその技を、彼女は平気で連発するのだ。

 

 「そら、だんだん強くしていくぞ! 無双正拳突き!」

 

 支障など全くないと言わんばかりに二度目の正拳を放ってくる。

 言葉通り威力を増してくるのだろう。

 

 二度目、二つの間接を外してやる。即回復。

 三度目、同上

 四度目、二つはきつくなった、肘に絞る。即回復

 五度目同上、六度目同上、七度目同上。

 八度目、流石に余裕がなくなりただ受け流す。

 九度目同上、十度目同上、

 十一度目遂に威力に変化が見られなくなった。

 

 「上手く受けるもんだな。じゃあ、数はどうだ? 川神流無双正拳突き乱れ撃ち!!!」

 

 拳の弾幕、しかも威力を落とさずにだ。

 しかし先ほどと違い、次の動きを意識に入れた流れのある攻撃だ。

 であるならば、

 

 「捕った!!」

 

 少しずつ受ける際に力の流れを変えてやり、生まれたつき手と引手の間に生じた空白、その間に彼女の腕の袖をつかんでやる。 

 掴むことによってこちらに掛かる武神の突きの力。

 その力を利用して行うは

 

 「大外ぉぉ!!!」

 

 柔道に於いて基本とされる足技だ。

 

 「ぐあ!?」

 

 そして、掴まってはその力だけでやられてしまいかねない故に、残心もそこそこに距離を置く。

 しかし、すぐに立ち上がる武神。

 肉弾戦の後、距離ができた。

 次に来るものと言えば大体の予想は着く。

 

 「ハハハ!! 本当にやるなあ! じゃあ、こんなのはどうだ? か・わ・か・み・波!!!」

 

 迫りくるは気による攻撃。

 だが、

 

 「読んでるんだよぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 こんなことはもはや体験済みだ。

 気による攻撃、そのほとんどは単純なエネルギーによる衝撃だ。

 つまり、方向性の決まった力の流れなのである。

 だというならば、

 

 「受けられない理由なんかないんだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 僕でも使える内気功、それによって、僅かながらでも耐久を上げる。

 そして射線上からわずかにずれ、後は己の身を歯車のようにしてその流れを受けるだけだ。

 

 「ああああああああああああああああ」

 

 気による衝撃には肉体による攻撃とは違い明確な実態がない。

 故に理論では可能でも、実現は難しかった。

 しかし、気が使えるような連中との仕合の中で、勘を掴み、骨を掴み、只管経験を積む。

 その中で実現したことである。

 故に

 

 「ああああああああああ!!!!!!」

 

 肉弾戦と変わらずその流れを調整し

 

 「ギ!!!?」

 

 近づいて相手にたたきこんでやるのだ。

 

 「はぁ……はぁ」

 

 気弾の勢いを使った渾身の一撃で武神を吹き飛ばすが、流石に力の濁流の中では無傷とはいか無かった。

 歯車はすり減るものなのだから。

 対して、

 

 「ハハハハハハ!!! こんな対処をしてきたやつは初めてだぞ! 避けるわけでも打ち消すわけでも跳ね返すわけでもない!! むちゃくちゃじゃないか!! だが、何発耐えられるかな?」

 

 やはりすでに回復していて、次弾を放ってくる。

 

 ―――

 

 五発、上位の気弾である星殺しも含めて繰り返された。

 やはり僕にはダメージはたまっていく。

 そして、

 

 「星殺し!!!」

 

 すでに六発目が放たれていた。

 こうまで繰り返せばもはや流れ作業のように反撃を見舞ってやる

 

 「今度は私が掴まえたぞ!!」

 

 が、吹き飛ばされながらも僕の腕を掴み

 

 「川神流炙り肉!!!!」

 

 性質を炎に変えた気をその腕に纏った。

 流石に熱エネルギーをどうこうなんてできるはずがない。

 故に

 

 「がああああ!!!……っらくさい!!!!」

 

 

 完全に根性論で耐えながら投げつけてやる。

 掴んでいるというならばそれは僕の間であるのだから。 

 

 「なあっ!?」

 

 流石に単純に耐えて投げられるのは予想外であったのか、無防備な状態で投げられ、素直に放してくれた。

 

 「ぐ、ぐああああ!! ……はぁ……はぁ」

 

 そして、熱いものは熱く叫び声をあげて耐える。

 その叫びに触発されたように 

 

 「クハハ!! クハハハハハ!!! すごいぞ!! 吹けば飛ぶはずなんだ! 一撃だって耐えられないはずなんだ!! それなのに倒しきれない!! 楽しい! 楽しいぞ高坂!!! さあ、私の技では決定打にならないというなら、倒れるまでやってやろうじゃないか!!!!」

 

 驚きながら、ものすごく楽しそうに大笑いした。

 そして、やはりダメージの消えている彼女が、絶望ともいえる持久戦を宣言してきた。

 が、

 

 「望む……所だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 こちらとて引く気などかけらもないのだ。

 

 「禁じ手!! 富士砕き!!!!」

 

 最初の拳とは比にならないほどの威力での突きが放たれる。

 対処はできたが、やはり体に残るダメージも格段に多い。

 本格的にこちらを取りに来て、なおかつ消耗もさせるつもりのようだ。

 だが、大技ばかりは続けてられないのだろう。  

 最初の一撃以外はただがむしゃらな連打であった。

 

 疲れる、受ける、折る、回復、蹴られる、流す、投げる、回復、打たれる、流す、撃たれる、流す、反撃、回復…………………

 

 ―――

 

 

 ただ只管に繰り返される中、再び掴まれてしまう。

 また、気の性質変化かと急ぎ薙げようかとする――が、少し様子が違った。

 

 ――まずい!!

 

 「川神流!! 人 間 爆 弾!!!!!」

 

 一瞬で地を蹴り、衝撃を少しでも抑えるよう後ろに跳ぶ。

 同時に彼女を中心にした全方向への衝撃の塊が発生する。

 僕がどうしても対処しきれないものの一つである爆発が襲ってきた。

 逆方向への跳躍、少しだけ衝撃の緩和。

 次いで内気による衝撃の相殺、微量ながら成功。

 次に筋肉の一斉収縮によって衝撃の吸収、いまだに向かってくる衝撃は甚大。

 吹き飛ばされ、最後の最後に全力で受け身を取る、やはりダメージは甚大。

 すべてを終え、ぼろぼろながらも立ち上がる。

 

 「はぁ……はぁ、っく……」

 

 「ハハ……、遂に致命的なダメージを通したぞ!!!」

 

 そう言って立ち上がる彼女、その体は即座に回復――していなかった。

 

 「ハハハハ……!? な、回復が間に合っていない!!?」

 

 その様子に彼女は大いに動揺していた。

 

 「やっとか、……やっと終わったか!!!」

 

 「何を言って……!!? まさか!?」

 

 彼女も気が付いたようだ。  

 なにも彼女が回復できなくなったのは何か特殊なことをしたわけではない。

 ただ単に回復できるほどの気がなくなっただけだ。

 何せ一度でも膨大な気を使う瞬間回復だ。

 関節を戻すだけとはいえ、何度も何度もただ只管に繰り返させていたのだ。

 大技を廃し、一撃で決める賭けの機会を見逃してまでこの確実に勝機となりえる瞬間のためにだ!!

 

 「これで持久戦に勝ち目が出てきましたね?」

 

 にやりと笑って言ってやる。

 

 「ハハハハ!!! 言ってくれるじゃないか! 私の瞬間回復を破った奴は初めてだぞ!! しかもこんな正攻法でだ!! でも、明らかにお前の方がボロボロだぞ!?」

 

 そう言って襲い掛かってくる。

 しかし、やっと、やっと僕にとっての勝負を始められるのだ!!!

 

 ――

 

 また繰り返すように受け、透かし、流し、反撃し、投げる。

 回復力がかなり落ちたとはいえ、少しずつは回復する相手に、こっちは気力のみで繰り返す。

 

 「ハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 もはや彼女も特別なこともせずに笑いながら繰り返す。

 しかしその体には確実にダメージは蓄積している。

 

 「クック! 川神百代オオオオオ!!!!」

 

 その壮絶な壊し合いの中、思わず叫ぶ。

 

 「ハハハハハ!! 楽しいなぁ!! 高坂虎綱ァァァァァ!!!!」

 

 笑いながら殴られ、技を掛ける。

 僕らはいったいどう見えるのだろうか?

 

 「くあっ!!」

 

 遂に彼女の回復は追いつかなくなってきていた。

 

 「クハ! クハハハハハ!!! 川神百代!!! 僕は、……俺はここまでたどり着いたぞォォォォ!!!!」

 

 「ハハ!! ハハハハハハハハ!!!!!! そうか! 遂に来たか!!!!」

 

 彼女は昔のことなど覚えておらず、自分が回復できなくなったことに対して言っているのだろう。

 それでも構わない!

 

 「今度こそは! 今度こそはお前を地に着けてやる!!!!」

 

 そう言ってもはや両の腕の間接などなくなっている彼女を投げるために掴む。

 

 「そうか! そうか!!! だが! 負けてやる気などない!!!!」

 

 それに合わせて彼女は僕のもはや襤褸になっている道着に噛みついてきた。

 

 「ほへぇほふぁひは!! ふぁはふぃふう!! ひんふぇんふぁふはふ!!!

   (これで終わりだ!! 川神流!! 人 間 爆 弾!!!)」

 

 回復も使えなくなって、まさに自爆となった技を、それでも勝つために使ってくる。

 急ぎ投げるが、彼女は受け身を取る努力さえ捨てていた。

 

 「っく!!!!!!!」

 

 先と同じ対処、しかし、もはや投げと言う行動に入っていたため一瞬行動が遅れる。

 

 「「ああああああああああああああああ!!!!!」」

 

 二つの悲鳴ともつかない叫びが重なり、片やその場に、片や吹き飛ばされ倒れこむ。

 

 ――まだだ、まだ立てる。

 

 それが止めになってしまったのか、もはや自分の体が動いているのかもわからない。

 しかし、目には同じく立ち上がったであろう彼女が映った。

 

 ――なら、まだ戦うしかない。

 

 もはやどのくらいの速さが出ているのかもわからない歩みで近づく。

 彼女も同じくしてぼろぼろでありながらも向ってくる。

 

 ――あと一撃、あと一撃で倒せる。

 

 そう確信できるほど彼女は満身創痍であった。

 そして、

 

 ――掴んだ!

 

 彼女を掴み、投げようと力を入れると、世界が向きを変えた。

 

 ――――者――――神――――代!!

 

 彼女が倒れる音を聞くことはなく、最後に感じじたのは自分に何かがのしかかってくる感触だった。




以上でした。
状態以上無効な武神さんはまさに天敵なのです。
紙一重ながらも結果は敗北でした。
瞬間回復切れるまでのダメージが只管痛いかいでした。

ではまた次回。

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

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