せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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はい、少し短いですが区切りのためこんなもんです。


第一七話 一大事の足音

 ああ、僕は進級大丈夫なのだろうか?

 結局、適度な組手はともかくとして、怪我が良くなるまでは川神院に軟禁されてしまった。

 これでひと月分近く学校を休むことになってしまっているのだが……。

 うん、鉄心さんを信じよう。

 最悪九鬼を頼れば何とかできそうな気がするしな。

 

 「高坂君……、リハビリとか言ってそんなに戦ってて大丈夫なの?」

 

 組手を終えて将来について不安なことを考えていると、学校から帰ってきた川神姉妹がいた。

 

 「おまえ……、本当に怪我してるのか? 瞬間回復しなくてそれっておかしいだろう……」

 

 二人とも心配してくれている……のか?

 少なくとも一子ちゃんは心配してくれているようだ。

 

 「いや、僕みたいのは戦い続けてないと勘が鈍っちゃうからね。怪我については慣れてるから」

 

 そう、紙装甲である僕は、やっている修業方法から大怪我なんてしょっちゅうだった。

 何せ、町の不良の凶器攻撃でさえ受け流せなければ大怪我だからね!!

 ……悲しくなってくるな。

 

 「ムー、アタシもまだまだ努力が足りないのかしら……」

 

 「オイ、ワン子やめてくれ、こんなやり方してたら普通死ぬぞ? いいか? こんな怪我慣れてるとかいうのはただの変態だからな?」

 

 おおう、変態認定されている。

 て、言うか女漁っている奴に言われたくないよ。

 

 「うーん、でも、高坂君はお姉さまと戦えたんでしょ? ならそのくらいは……」

 

 「一子ちゃんはやめた方がいいと思うよ? 師範代目指すっていうならこんなやり方は邪道だと思うしね」

 

 「そうだぞワン子、これみたいになるのには師範代試験なんかよりずっと厳しい道だぞ」

 

 二人して説得をする。

 僕としては一子ちゃんがお姉さまに勝ちたいという思いを優先させるというならこっちに来てもいいとは思うが、彼女はそうではない。

 

 「うん、そうね! アタシの夢は師範代になることだもん! やり方は違うわよね!」

 

 「そうだぞ、ダークサイドに落ちる必要なんてないんだ!」

 

 ちょ、おま、ダークサイドって。

 

 「そうよね、アタシダークサイドには落ちないわ!」

 

 「……な……んだ……と?」

 

 一子ちゃんに、あの一子ちゃんにダークサイドって言われた……。

 僕は思わず膝から崩れ落ちてしまった。

 にやにやしながら一子ちゃんを連れて去っていく武神が憎たらしい。

 これはこっちから攻める方法が至急必要なようだ。

 と、決意を新たにした。

 

 

 ―――

 

 

 そんな治療生活を終え、無事出所し、いつも通り親不孝通りへ向かった時、衝撃的な情報を得ることになった。

 

 「人が、少ない?」

 

 そう、いつもなら湧いて出えくる僕の組手相手が非常に少ないのだ。

 これに疑問を覚え、竜兵を探し出して事情を聞いてみた。

 

 「ん?ああ、てめえか。不良が少ないだ? ああ、最近九鬼の奴らが介入してきやがってここらの馬鹿どもが少なくなっちまったんだよ。んで、丁度いいな。そのせいで俺の獣の昂ぶりが発散できなくてな、どうだ? そこの陰で……へぶっ!!」 

 

 親切に説明してくれたのは感謝するが、その後がいただけない。

 とりあえずブン投げた後、九鬼本社に向かって走る。

 

 今回は訓練のバイトではなく、本格的に強襲することになるかもしれない!!

 

 

 ――――

 

 

 「っく! 中途半端な飛び道具は無駄だ!! 全員で囲め!!」

 

 「ああ! 35位が投げられた!! 穴をふさげ! そいつは隙をつくのが病的に上手いぞ!!」

 

 周りの従者達が僕をとらえようと叫ぶ。

 しかしこちらとしては目的さえ達成できればどうでもいいので、気にせず呼びかけさせてもらう。

 

 「揚羽さァァァァァん!!! ヒュゥゥゥゥムさぁぁぁぁぁん!!! 説明してもらうぞぉぉぉ!!」

 

 

 おそらく今回の件の責任者だと予測できる二人の名を叫びながらひたすら建物を目指す。

 そして、建物の前には二人が待ち構えていた。

 

 「どうしたのだ? 高坂よ。こうも騒ぎを起こされるのは我としても見逃せなくなるぞ?」

 

 「まったくだ。何のつもりだ小僧?」

 

 流石に警戒した様子で尋ねてくる。

 何のつもりだと?

 それはこっちのセリフだ!!

 

 「今回の件どういうつもりですか!? おかげ親不孝通りは不良が少なくなってしまったじゃないですか!!」

 

 「む? 何か不都合でもあるか?」

 

 「いいことではないか。貴様は何をそう喚いている?」

 

 ああ、この二人はわかっていないようだ。

 あそこは、あそこは僕の大切な!!

 

 「人の組手スポットを駄目にしたのはどういうつもりかと聞いてるんですよ!!!」

 

 「「……は?」」

 

 呆ける二人。

 

 「あそこは、怪我さえさせなければいくらでも相手が出てくる素敵スポットだったんですよ? しかも向こうからケンカ売ってくれるから問題にもならない! それを! それを!! どんな理由があって駄目にしてくれたんだ!!!」

 

 

 「……あ、ああ、すまないな?」

 

 「ふむ、そ、そうか?」

 

 おお、この二人が戸惑うなんて超レアだ。

 特にヒュームさんがうろたえたところなんて初めて見た。

 だが理由を聞いていない。

 

 「理由は? 納得のできる理由はあるんでしょうね?」

 

 「あ、ああ、これから九鬼の新プロジェクトの問題として治安が悪すぎることはよくないのでな、掃除させてもらったのだが……」

 

 ふむ、ちょっと仕様がない気もする。

 だけど、大犯罪者がいるとかならともかく、町の不良程度のことだ。

 あそこまでやる恐怖政治の理由としては弱いと思う。

 

 「でも、あそこの中だけなら迷惑もかけずに集まっていた人たちもいるはずです! やりすぎでしょう。おかげで組手相手が……」

 

 「わかった。ならば川神百代にくれてやろうと思っていた案件、お前に任せると約束しよう。それでどうだ?」

 

 ん? つまり、組手相手は保障される?

 ……ならいいか。

 

 「わかりました。それで納得しましょう」

 

 「あ、ああ、そうしてくれ」

 

 「ふむ、では小僧?」

 

 良かった、話はまとまったようだ。

 んじゃ、もう用はないな。

 

 「はい?」

 

 「落とし前の時間だ!!!」

 

 そうして、また即死技連発の無限ループを体験することになるのだった。

 

 




ありがとうございました。

Sルート確定!!

それではまた次回。

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

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