この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。
朝の騒動――といってもここ川神では驚くべきことに日常と言って差支えがない出来事であるのだが――の後は特にこれといった事件もなく放課後を迎えることができた。
このあたりは流石はS組、特進クラスといったところか、これがお隣のF組であればこうも行かないであろうことは目に見えている。
現に昼休みに何かひと騒動あったみたいだし。
そして待ち望んだ放課後である。
「今日もよろしくお願いします」
さて、僕が何をしているかというと、道着を身に着けて川神院のお弟子さんたち百人と向かいあっている。
別に僕は川神院の弟子、つまり川神流と言うわけではない。
川神流と言う流派は多くが門外不出を謳いそのほとんどが住み込み、つまりは内弟子で固めているが別に閉鎖的というわけではない。
寧ろ対外試合という形であれば流派別の交流自体はかなり盛んな流派と言っていいだろう。
まあ、これが仕合や死合いとなればまた話は変わってくるのだが。
それでも僕のようにただひたすら経験がほしいといった手合いにはこの上ない修練場であることには違いがないのでしょっちゅう利用させてもらっている。
その甲斐あってか最近では高弟も含んだ百人組手などといった贅沢な仕様となっていて経験値ウマ―である。
僕の流派であるが、元々は家の近くの柔道場に通っていた。
この道場の師範というのがかの思考する柔術家 渋川烈火であり柔道と謳いながらも才能があったらしい僕はより実践的な柔術の指導をいただいていた。
そこで自信をつけたのがいけなかったのか現武神に手痛い敗北を喫することとなりそこで「力」の差を見せつけられた。
正直本物の化け物連中の「力」はあり得ない、そのかなうべくない現実を突きつけられてなお武術を続けているのは幼いころの敵愾心と自分の流派のおかげであろう。
そう、僕は「力」で対抗することをやめたのだ。
◆◇◆◇
「あ! 高坂君、今日もお疲れ様!」
川神院門下生との組手が終わり、門をくぐるときに声をかけられた。
「うん、一子ちゃんもお疲れ様。走り込みかな?」
この川神院の養女である川神 一子が汗をかき腰にタイヤを引っ提げて声をかけてきた。
「うん! 高坂君は今日も組手だけ?」
「そうだよ、今日も川神院の方たちにお世話になってきたんだ」
「おお~、少しタイミングが悪かったわね。もう少し早く戻ってくればアタシともできたのに、高坂君も一緒にやればすれ違わないわよ?」
「ハハハ、ありがたいけど僕には川神院の修業はちょっとね」
「う~ん、百人組手ができるんだからそんなことないと思うのにな~」
「僕は川神流ってわけじゃないからね、自分の修業と川神院の合同稽古じゃあ片手間ではできないよ」
「そっか、じゃあ仕方がないわね。それじゃあアタシ修業の続きがあるからまたねー」
「うん、頑張ってね」
そういって去って行く一子ちゃんを見ながら考える。
――川神一子 川神院の養子にして武神である姉川神百代に憧れ、その力になるために川神院師範代という狭き門に挑む少女、日ごろから多くの修業に一生懸命取り組んでいる。
その姿には武神に勝ちたいという僕の目標と相まって非常に好感を持てるが、いかんせん才能が足りないように感じられる。
その分を努力、根性、修業で補っているようだが……、ここが僕との道が分かたれら部分だろう。
正直僕は彼女よりは才能はあるだろうが目標である武神川神百代と比べると五十歩百歩であろうと思っている。
それでも現状、僕と彼女での試合は、まだ一敗さえもしていないという程度には実力差が開いてしまっている。
その差は何かというと――
「さて、着いたか」
親不孝通り、川神市において最低の治安を誇るこの場所で、僕の修業の続きが始まる。
「へへっ、今日も来やがったか。今日こそはこの俺の昂ぶりをお前のその体で沈めさせてもらうぜ!!」
着いてそうそうに目的の男たちが現れる。
板垣竜兵 この親不孝通り、堀の外において不良たちを束ねる不良のカリスマにして板垣兄弟の長男、今日もぞろぞろと不良たちを引き連れてお出ましである。
彼はステゴロ、タイマン大好きな不良の鏡ではあるが武術家ではなく、大人数で囲うことに抵抗を抱くような男ではない。
よってこのガラの悪い連中に囲まれるという状況が出来上がっている。
「うん、できるんならどうぞ、ヤられたいわけじゃないけど武術家として負けた時の覚悟はできてるさ」
余談ではあるが、僕の容姿は身長176センチで顔はやや童顔、まあ自慢ではないがそこそこに整っている方だ。
そして体には無駄な筋肉をつけないようにした見事な細マッチョ――こっちは自分で作り上げたものだから大いに自慢したいものだ――である。
何が言いたいかというと目の前の男、ガチである。
そしてそのストライクゾーンに僕はしっかり収まっているようであり、おかげでここでは十中八九喧嘩を売られ、実践相手には困らない。
うん、仮にも護身の武術を修めているために自分から喧嘩を売るわけにはいかない僕としては大助かりである。
「へへへ、いい度胸じゃねえか! てめぇらやるぞ!!!」
そう言って不良たちが襲い掛かってくる。
「死ねや!」
――さて、この修業は先ほどの百人組手の相手と比べて非常に格が下がる。
不用意に鉄パイプのような廃材で殴り掛かってくる男の懐に入りひじに手を添える、それだけで男の勢いはそがれその無駄になった動きに逆らわないように足を払う、支点は肘。
「ぺげぶ!」
――それでも僕の修練はここからが本番であるのだ。
何人かを巻き込み回転しながら倒れる男、次に来るのはやはり竜兵、この男だけは先の組手相手と比べても遜色はない地力を持っているだろう。
「今日こそは絶対にヤってやるぜぇぇ!!!」
迫ってくる拳に対し相手の内側に入り、右足を突き出しながら相手の腕を利用し己を滑車のようにした円運動を作り竜兵を巻き込む。
「ぐは!」
――何せこれは試合ではなく実戦だ、怪我をして止める人間がいなく一本を示すこともない
地面にたたきつけられる竜兵だが後続の人間がどんどんと向かってくる。
「おまえを倒せば名が上がるんだよ!!」
「へへへ、捕まえてリュウさんと一緒に3Pに混ぜてもらうんだ!!!」
「てめぇ! 痛ぇじゃねえか!! 今日こそぶっ殺す」
その中には最初の男に巻き込まれた男もいる。
――つまりは怪我さえさせなければ、心が折れるまで何度でも何度でも向かってきてくれるということなのだから
「さぁ今日も時間が許す限りよろしく頼むよ!!」
そう、僕と一子ちゃんの違いは柔か剛かというのももちろんあるが、何よりも
「上等だぁぁ!! 今夜は帰さねぇから覚悟しておけよぉぉぉ!!!!」
筋トレ、走り込みなどに精を出し地力をひたすら上げ続ける一子ちゃんに対し、ただ只管に投げ、受け、透かし、まれに打つを繰り返し続け、つける筋肉にも技にも一切の無駄をつけないようにはげみ続ける僕と言う差だ。
一子ちゃんを否定するわけではないが、才能の差がある以上無駄を省くべきだという結論にたどり着いたのだ。
こんなことして退学にならないとは素晴らしきかな喧嘩に寛容な校風、みんなもおいでよ川神学園。
というわけで、他の板垣姉妹も騒ぎを聞いて駆けつけてくれることを期待しながら僕はただひたすらに投げ続けるのである。
……ていうか、こいつら竜兵の影響かガチな奴多すぎないか?
お読みいただきありがとうございます。
三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。
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