せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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どもども、とりあえず連投できてますね。
他の作品も書いてみたいので完結のめどが立つよう頑張りたいと思います。


第二十二話 結局執事に振り回される

おはようございます。

 真夏一歩手前の刺すような日差しがつらい中、皆様はいかがお過ごしでしょう。

 私、高坂 虎綱は――――

 

 「Good morning 小僧、着いて来い」

 

 朝から拉致宣告を受けております。

 この爺今まで川神一か所に留まることがなかったから気が付かなかったけどこんなにうっとおしいのか!!

 因みに、僕は軽く型を流していました。

 自分の力をコントロールするには早く動かすよりゆっくり動かす方が難しかったりするんだぜ?

 

 「……おはようございます。朝から威圧的すぎませんかね?」 

 

 「うむ、寝ていなくて命拾いしたな。俺の目覚ましは致死率67%だったぞ」

 

 おい、気配だけかと思ったら行動に移す準備まで整ってたのかよ……。

 この人近づいてきて寝てるとかありえないけど恐ろしすぎる。

 

 「それで、何のよ……」

 

 ―――シュッ

 

 

 「……うですか?」

 

 うわー、早ーい。

 化け物の速さを体感しちゃったね。

 質問言い終わる頃にはもう川原ですヨ。

 そしてこっちに気付いたガラ悪い5人組、板垣さんと釈迦堂さんじゃないですか。

 

 「おう、あんときのガキじゃねえか。それと、爺さんは……、ああ、見たことあると思ったらヒュームとかいったか?」

 

 「ああ、お前は才能の塊だったが、腐ったようだな。どうだ? 大した才能もない小僧に負けた気分は?」

 

 おお、喧嘩腰だねぇ、不良中年共演ってか。

 と言うよりそんな嫌味のために連れてこられたんだろうか?

 

 「あ~、トラ君だ~。お鍋食べる?」

 

 「ああ、丁度いいね、どうだい? 金払えばまた辰とやらしてやるよ?」

 

 「どもども、亜巳さんや、あなたは誤解を招く言い方しかできないんですかね?」

 

 以前と言いこの人は妄想爆発する物言いしかしねえなぁおい。

 言いながらも朝ごはんに御呼ばれしてちょっと和気藹々。

 敵意の天使ちゃんはいいとして欲情の竜兵はどうにかならんのだろうか?

 

 「俺が勝ったら、俺やこいつらに干渉するなよ。って、俺いいこと言ってるのになんか楽しそうだなおい?」

 

 お、なんかお二人が戦うみたいだ。

 いい見取り稽古になりそうだ。

 

 「と言うわけだ、小僧。やれ。」

 

 「ふえ?」

 

 多馬川でとれたてであろう魚を食べながら見ているとまさかのご指名入りました。

 

 「おら、早く来いよ。それとももうやっちゃっていいのか?」

 

 うん、経緯が待った分からないが僕学校前だぜ?

 怪我したらまた欠席増えるね。

 でもまあ、

 

 「やるんだったらいつでもいいですよ?」

 

 立ち上がりながら言ってやる。

 ああ、呆然としている板垣一家の視線も、いい笑顔を見せてくれている執事も今はどうでもいい。

 今日は会朝からいい経験ができそうである。

 

 「小僧。負けたらわかっているな」

 

 脅しの言葉と共に向かってくる釈迦堂さん。

 とりあえずはいつも通りに受けに回りますかね。

 

 

 

 

 「うるぁ!!」

 

 うん、腐ってたとは物もいいようだ。

 確かに一か月前と大して変わってないねこの人。

 僕が前この人とやった後どれだけの化け物と戦ったと思ってるんだろう?

 

 「ほいな!」

 

 うん、後ろに弟子たちいるからか気弾は使ってこなかったね。

 なんか人質とってるみたいだなぁなどと考えながら、慣れたものになってしまった化け物の速さに対して余裕を持って対応できる。

 お手手を取って一本背負いだ。

 この人攻撃に意識行き過ぎで威力はあるけど投げやすいよね。

 

 「ちい」

 

 まあ、単純な形だからこそ向こうも受け身捕りやすいんだろうけど、対化け物を想定しててそこで終わるはずもなく。

 

 「げ、ぐあああああああ!!!」

 

 衝撃の跳ね上がりと同時に顔面踏み付けである。

 小刻みに地面と僕の靴で5バウンドくらいかな?

 化け物でもこれは痛いだろう。

 

 「うわぁ……」

 

 「えげつないねぇ」

 

 外野の板垣さんたちも声を漏らしていた。

 それでも笑顔の観客が多いってのはこの場は異常なんだろうなぁ。

 やめて! 亜巳さん! 仲間を見る目で見ないで!!

 

 「てんめぇ!! 調子に乗んなよおオオ!!!」

 

 「げ……」

 

 やば、引き際ミスった。

 足首掴まれた。

 これはまずいなぁ。

 

 「獲った!!!」

 

 いい笑顔で握り潰してくれる釈迦堂さん。

 これは外せないなぁ。

 しゃーない。

 

 ――――ゴギン!!

 

 骨の砕けるいやーな音が辺りに響き渡り。

 

 そのまま膝を釈迦堂さんの頭に叩き込むように倒れる。

 

 ついでにいい具合に視界もさえぎれてるし手も片方は僕の足。

 

 ―――コキン!

 

 と言うわけでもう動かしにくくなった方の足は捨ててしまおう。

 

 自分で膝を砕いた足を絡めて頸動脈をくいっとね。

 

 数瞬後、釈迦堂さんは驚きに目を見開いたまま落ちていた。

 

 

 

 

 

 「ご苦労、小僧」

 

 うん、足が痛いね。

 膝は嵌めても皿割れてるし自分じゃどうしようもないよ。

 

 「どうも~、ヒュームさんヘルプ!」

 

 「心配するな。すぐにクラウディオが医療班と共に来るさ。そんな怪我を負うとは情けない。……と、言いたいところだが、貴様のスペックで足一本ならまあ上出来だろう」

 

 おお、褒められた。

 まあ、前やった時は動きに支障なかったけど全身ボロボロだったし、いい進歩かな?

 足一本程度ならもう一戦位できるしね。

 次は文字通り命がけだろうけどな!

 

 「これ学校いけますかね?」

 

 「ふん、治療に時間はとらせんよ。起きろ釈迦堂。」

 

 うへ、出たよ致死率六割強の目覚まし。

 確かにあれは僕なら死んでるねぇ。

 お、クラウディオさんが来た。

 

 「それではみなさんまた会いましょう」

 

 何て手を振りながら運ばれていった。

 因みに辰子さんだけは手を振りかえしてくれた。

 他の三人は異常者を見る目で見ていたよ。

 勝つためなら足の一本や二本捨てるのは当然だろうに。

 

 

 ――――   

 

  

 九鬼の医療班が優秀なのは知っていたが、まさか送迎付きとはいえ遅刻もしないとは思わなかった。

 因みにギブスでがちがちなのに杖もつかない僕に周囲は白い目だ。

 

 「高坂君、それは怪我を悪化させるのではないでしょうか?」

 

 「んにゃ、まあ、使わないよりは悪いけど一応しっかりかばってるよ。何より片足生活はせっかく作ったバランスを崩しかねないんだよね」

 

 そんな会話にクラスメイトは呆れていた。

 軍人は少し納得していたが……。

 

 「高坂君、確かに言いたいことはわかるが、怪我をしているなら無理はしない方がいいんじゃないか?」

 

 「うわー、いたそー」

 

 ん、義経が我がことのように心配そうに声をかけてきた。

 ええ子や、そして弁慶はもうちょい心配しても罰は当たらんぞ?

 

 「ありがと、だからできるだけ動かないようにはしてるさ」

 

 「フハハハ! 紋! 学校でも会えて嬉しいぞ!」

 

 「フハハハ! 我も同じ気持ちです、兄上!」

 

 うん、なんか来た。

 背景に黄金屏風が見えるぜ!

 お、こっち来た。

 てか、メインは義経たちだなこれは。

 

 「義経、弁慶! クラスでうまくやっているか?」

 

 ほらやっぱり。

 うん、酒……ゴホン、川神水飲んでるのが普通になるっておかしいよね。

 

 「高坂よ! 朝はご苦労であったな! その怪我も九鬼の依頼で負ったものと聞いたぞ。不自由があれば何でも言うがいい!」

 

 「どーも、紋ちゃん。すでに従者の方には世話になってるから大丈夫だよー」

 

 うん、今食べている大量の弁当も九鬼が用意してくれた。

 恥ずかしながら大食漢です。

 動いた分は食べないとねー。

 

 「うむ、そうか。だが、その怪我では義経たちの相手の選抜は他に用意しなくてはならぬだろうな……」

 

 え? 何て言ったよこの子?

 

 「ちょい待った。やるよ? 僕やるよ?」

 

 ――え?

 

 あ、教室で聞いてた人が全員引いた。

 今度は軍人さんも引いてるze。

 

 「え? あーと、大丈夫なのか? こちらから頼んだこととはいえ無理をする必要はないぞ?」

 

 「もちろん大丈夫だよ。一応心配してくれるなら一本丈夫な棒用意してくれる? 義足代わりに足固定するから」

 

 「あ、ああ、それはいいのだが……」

 

 む、やっぱり怪我してたら実力に不安があるのかね?

 

 「このくらい大丈夫だよ、ね? ヒュームさん?」

 

 彼女が信頼しているだろう人物に確認を取ってやる。

 

 「はい。紋様、やるというのであればやらせて大丈夫でしょう」

 

 音もなく現れてそう伝える執事。

 まさに神出鬼没である。

 

 「ほ、本当に大丈夫なのか? 義経は心配だ」

 

 「うえー、化け物だね」

 

 うん、義経ちゃんはええ子や。

 そして立ち往生の君には言われたくないですね。

 

 

 ――――

 

 

 そんなこんなで放課後、予定通りに変態の橋の下。

 足に一本筋を通して動いても大して負担の無いようにして多くの挑戦者たちを前にする。

 

 「それでは、僕に決定打を入れられた方は合格になりますので頑張ってください」

 

 つまり化け物か、準化け物級なら合格と言うことだ。

 ああ、不良たち相手にするより質の高い組手になりそうだ。

 

 

 けが人相手で馬鹿にされていると気丈を上げる挑戦者たちが次々と掛かってくる。

 が、それじゃあ駄目だよねぇ。

 舐めてかかるようじゃ実力が全く読めてないってことを宣伝してるようなもんだ。

 

 ――案の定、今日は合格者はいなかった。

 

 一応応援か交代要員かで見学している武神を余所に今日の組手を終えたころ。

 

 「うわぁ、足一本負傷してるのにこれって……。見た目怖くないから逆に不気味だなぁ」

 

 「やっほー、高坂君」

 

 「ん、トラだ」

 

 「おお、高坂殿か」

 

 「高坂さんお疲れ様です」

 

 ちょうど帰り道らしい風間ファミリーと遭遇した。

 あ、一子ちゃんちょい元気ない、こりゃあ義経辺りに負けたかな?

 

 「お疲れー、そっちは今帰り? てか、殿はやめないかな? ちょいくすぐったいし」

 

 「ああ、ワン子の決闘終わり」

 

 「ううー、負けちゃたわ~」

 

 「……フム、しかし武士を相手に敬意を示すには……」

 

 うん、まあまだ化け物には届かないだろうな。

 やり方次第では準化け物級には届くんだろうけどなー。

 特に義経ちゃんなんかはバランス良いから付け入る隙少ないだろうし。

 てか、一人絶対ずれてるよね。

 大丈夫か? この子? 

 

 「それにしても、すごいな。見たところかなり強い相手もいただろうに」

 

 「はい、確かに壁を越えた方はいらっしゃらないようですが、片足でとは……」

 

 「ははは、見て分かる通り、僕自身が大したことないからね。動けさえすれば多少のハンデなんて誤差だよ」

 

 うん、素早さ100の相手に50だろうが10だろうが関係ないしね。

 

 「謙遜……、てわけでもなさそうだな。どっちにしろとんでもないな」

 

 「そうだ、とんでもないぞ~! そのせいで私の出番は結局なかったんだ。だからもっと私に構え~!」

 

 そう言って後ろからのしかかってくる。

 怪我した足に負担にならないようにしてるのは流石と言ったところか。

 ていうかやっぱりおこぼれ狙いかよこんにゃろう。

 

 「ふむ、そんなに戦いたいか。川神百代」

 

 なんか急に執事が会話に入ってきたぜ。

 

 「ええ、最近は抑えていますが正直に言えば……、もしかしてお相手してくれるんですかね?」

 

 キャー、好戦的ー。

 どうでもいいけど人の背中でおっぱじめるとかないよな?

 ヘルプまゆっち~~!

 てな感じの目で一番頼りになりそうな子に視線を送るとおろおろし始めた。

 ええ子や。

 

 「ふん、焦るな。冬までにお前の鼻っ柱を折る奴が現れるだろう」

 

 お? 冬までかー、期限つけるとかきついよー。

 

 「うぬぼれるな。最近負けたばかりだろうが負け犬」

 

 「ぐは!」

 

 心を読んでさらに傷つけられた!

 酷い!!

 

 へたり込んだらワン子ちゃんとクリスと由紀江ちゃんが慰めてくれた。

 ドヤ顔の武神め! いつか屈服させてやる!!

 

 

 

 




以上でした。
ありがとうございます。

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