うわー、化け物って怖いなー。
そう言えば僕って化け物相手にした回数より化け物同士の喰い合い見た回数の方が少ないんだよね。
松永先輩は最初の一撃以外、只管品変え物変え節操のないことで。
グラウンドで楽しそうにしている武神と松永先輩を見ながらそんなことを考えていると
「ヌンチャク、三節棍と来て、太刀に鞭、ハンマーに薙刀、あげくに弓矢に槍にスラッシュアックスときたもんだ。よくあれだけ武器が扱えるよな」
などと準が話しかけてきた。
ついでに、心なしかクラスの人間が僕に解説を求めるように注目していた。
「いや、あれは面白いね。あれは別に武器を習熟させた結果じゃないよ」
「ほー、どういうことだ? 全部すごく上手く使ってると思うんだが?」
「いやまあ、ある程度は練習してるんだろうけどさ。ほら、よく見てよ。間合いで分けて広、中、狭でのフォーム、あんまり変わってないでしょ?」
「おお、確かにそうじゃな。しかしそれでもあれだけの種類じゃ、それなりですむ練習とは思えんぞ?」
「いや、武器一つ一つは問題じゃないんだよ。問題なのは間合い。その間合いさえ体に覚えさせればもう武器の種類じゃなくて、どれだけ武器っていう付属品を自分の体の一部として使えるかって話さ。極論、あの人にとっちゃ似た長さのものなら槍だろうと薙刀だろうと変わらない、ただし片方にできてもう片方にできない、みたいな専門的なものは難しいって感じだね。納得できないなら受けの動作に注目してみな」
だから槍にしては突きに決定力がなく、薙刀にしては守りに欠ける。
棒にどうやって有効部位が付いてるか程度の認識での使い方だね。
「おお~!! ホントだ~! 受ける時の動きがほとんど一緒だ~!」
まあ、器用貧乏と言ってもそこは化け物じみている。
あれだけ幅広い鍛え方してさえあれだ。
くわばらくわばら。
軽く嫉妬してるとどうやらタイムアップで終わったみたいだ。
握手をする二人に全校から称賛が浴びせられている。
「ま、何よりも武神の一撃を素手でいなせたって所が一番見るべきところなんだけどね……」
あのパフォーマンスで彼女の等身大を見れたのはそこだろう。
僕の呟きを目ざとく聞き取ったのは弁慶と与一だけだった。
因みに、その日の放課後は義経たちの歓迎会の準備で盛り上がっていたようだが、僕は例の選別作業に只管精を出していましたマル
――――
そんなこんなで歓迎会当日、流石に九鬼からの依頼である選別作業はなかった。
それならと、他の組手の伝手に向かおうとしたところ暴力執事に拉致られたでござる。
「小僧、今日は義経たちの歓迎会だ」
などと言う普通なセリフなのにあれは立派な脅迫であった。
「直江大和。2-S全員連れてきたぞ。あずみと英雄は仕事で帰還しているが」
軍人さんが幹事に報告している。
「ついでにあと一人普通に帰ろうとしてたけどな」
続いて準が余計なことを報告しながら笑いかけてきた。
「おい、薄情だな……」
直江に白い目で見られてしまった。
うん、心が痛むね、これは。
お、電話が来たと思ったら直江が出て行った。
まあ、ばっちり聞こえてたけどね。
与一がごねているようだ。
ということで汚名返上のために手でも貸してやるかなー。
「伏せろ与一!!」
とりあえずと言うことで与一がいる屋上に向かったのだが、入り口で最高にホットなショーを目撃してしまった。
厨二二人ってカオスだね。
あ、二人がこっちに向かってきた。
「ん? ああ、高坂か」
「!! お、お前いつからそこに!?」
普通に軽く驚いた与一に比べて直江はこの世の終わりと言わんばかりの驚愕っぷりであった。
そして小さな声であとで交渉がしたいと伝えてきた。
うん、今度満足いくまでおごってもらおうかな。
ところ変わって歓迎会。
「ふむ、此方と語らうだけの格がある連中と言うのはやはり少ないものじゃのう。そう思わんか? 高坂――って聞いておるのか!?」
「うん、ひいへるふぉー」
いやー、学校での小規模なものとは思えないほどいい料理が並んでるねー。
「こりゃ! 食べながら返事をするではない!!」
うん、心よ、始まってからうろうろしていたと思ったら結局こっちに来て僕相手に只管しゃべって、寂しいんだろうなー。
因みに僕はあたりさわりがない挨拶を一通り終えたころから只管に食べてます。
たまにこっちに来る人も心の態度にすぐどっかに行ってしまう。
と、ニューチャレンジャーが来たようだ。
「高坂さん。お料理は口にあったでしょうか?」
「おー、由紀江ちゃんが作ったんだ。普通にすごいね。嫁に来ない?」
「よ、嫁!?」
軽口程度で真っ赤になる由紀江ちゃんマジいい子。
「む、これ、高坂よ、この娘は誰なのじゃ?」
「あ、はい。私は1-C所属の黛由紀江です。不死川先輩ですよね? あ、あの、よろしくお願いいたします」
おお、顔怖!
心もにょわー、とか奇声上げてビビッてらーな。
あ、立て直した。
「ほほーう、黛とな。不死川ほどではないがそこそこの家じゃのう。剣聖の娘がなぜ川神に居るのじゃ?」
お、名家センサーに黛は引っかかっていたようで心が由紀江ちゃんにアプローチかけ始めた。
てか、あの態度でしっかり話しするって由紀江ちゃんぱねぇ。
以外に弾む会話を傍らに料理を食べてしばらくすると、触発されたようにワン子ちゃんが近くで食べ始め、今回の歓迎会の料理の半分はこいつらが食べたといわれるような見世物となるのだった。
――――
歓迎会の次の日、午前中川神院にて組手をした後、待ち合わせの場所へと急ぐ。
一応けが人であるからして、流石に一日中組手は自粛している。
昨日の歓迎会の後に今日会う約束をしたのだ、あまり待たせるわけにはいかない。
「ごめん、まった?」
うん、代名詞みたいなセリフだ。
「……いやそうでもないよ。それよりなんでいるの? 姉さん……」
はい、相手は直江さん家の大和君です。
ついでに隣の武神は川神院で連れて行けと駄々をこねました。
「なんか着いて来ちゃった」
「ずるいぞー、弟ー、私にもおごれ―」
そうです。
例の口止め料です。
おごってくれと言った時は歓迎会で僕の食べた量を思い出して涙目になっていたね。
「おい、高坂。お前だけでもきつそうなのになんで連れてくるんだよ……」
「いやだって武神だぜ? 振り払えないってばよ」
「くそ! 納得だよ!!」
おーおー、可哀想に。
流石に安い店にしてやろう。
「それで? どこに行くんだ? 弟のおごりで!!」
それにしてもこの武神上機嫌である。
「はぁ……、で? どこでおごればいいんだ? もう覚悟は決めたよ……」
「ハッハッハ! 高坂! 遠慮はしなくていいぞ! コイツ定期的にあくどい金をため込んでるからな!」
あ、直江が裏切り者を見る目で武神を見ている。
「まあ、あれだ。仲見世通りで軽く時間つぶした後食べ放題のある店にでも入ろうか」
「高坂! 信じていたよ!」
僕+武神にしては安く済みそうな提案に直江が感激して抱きついてきた。
そっちの趣味はないんだけどなー。
「ちえー、詰まらんなー。そんなもんなら稽古が終わったころ合いにワン子も呼ぶかー」
「この悪魔に比べてなんていいやつなんだ!!」
武神の提案にさらに抱き着く力が強まった。
コイツ、竜兵でも呼んでやろうか?
そんなこんな、結局食べ放題コースのある焼肉屋に、川神姉妹と直江との四人で入ることとなった。
その場での話題は自然とここ最近大きな話題となっている転校生たちの話となっていた。
「義経たちはいつも決闘で大変そうだけど実際武人から見たらどうなの?」
結構気にはなっていたみたいで直江が聞いてくる。
強いとはわかっても測り兼ねていたのだろう。
諦めた出費分も情報を! と言う意気込みが感じられるね。
「三人とも強いわねー。今のアタシじゃ勝てそうにないわ」
一子ちゃんは正直である。
「あー、全員戦ってみたいと思うくらいは強いぞー。ただ与一はちょっと好みから外れるかなー。二つの意味でな、義経ちゃんは可愛いなー、あれはちょっといじめた後に抱きしめたい。弁慶ちゃんはもうエロ過ぎだろう! あの体!」
想像通り武神様は目の付け所が違うようだ。
まあ、余計なの呼んじゃった原因は僕だしちょっとは気を使っとくかねー。
ただ、美少女二人に関してはおおむね同感である。
「とりあえず三人とも化け物だね。何よりパーティーとしてみた時すごくバランス良いよね。前衛パワータイプの弁慶、中衛にバランスのいい義経ちゃん、後衛に与一、隙がない組み合わせだねー。流石英雄って呼ばれてただけあってどっちかていうと集団戦向きな連中じゃないかな。僕らに比べると」
「あー、確かにそんな感じかもなー。個人戦では勝てても集団戦、消耗率とかも考えたら私でも危ないかもしれん」
武神も同意した。
まあ、個人戦でもおかしいくらい強いのは間違いないんだけどね。
「大和~、レベルが違い過ぎて自信がなくなっていくわ~」
あ、ワン子ちゃんがちょっと泣きついてる。
「なるほどね、参考になるけど理解できないな。じゃあ意外に運動神経がいいと話題の葉桜先輩は?」
「清楚ちゃんマジ清楚!!!」
即答の武神。
食い気味過ぎて不気味である。
んで、僕は
「よくわからんから苦手」
これに尽きる。
「さっきと打って変わって短いな。何が苦手なの? すごくいい先輩だけど」
「そうだそうだー! あんな美少女が苦手とか男としておかしくないか?」
なんか一名ほどブーイングをたれてやがるぜ。
「でも、珍しいわね。高坂君こういう時ってビックリするくらい細かいところとかも教えてくれたりするのにわからないって」
あら、ワン子ちゃんってたまに鋭いよね。
バ……ゴホン、純粋さゆえの強みと言うやつか。
「あー、そうなんだよ。僕は単純なスペック低いから観察は怠らないようにしてるはずなんだけど、どうしても葉桜先輩があやふやでさー。嫌いとかじゃないけど気味が悪くてね」
「あー、なるほどって言っていいのかわからないけど、だから苦手なんだな」
「ほう……、同じクローン組だし高坂がこう言うってことは清楚ちゃんも何かあるのか? これは美少女を口説くのに楽しみが増えたかな?」
理解はできないが納得はできた感じの直江に対し、武神は何か考え込んでいるようだ。
「んじゃ、最新の転校生、燕先輩は? 姉さん相手にできるってだけで驚きだけど、実際のところどうなの?」
「おお! 燕かー。あいつは面白いな。話しやすいし戦ってて楽しいし。最近は私と渡り合ってくれる奴が出てきてお姉ちゃん嬉しいぞー」
こっちに流し目を向ける武神。
「うー! アタシも負けてられないわ!」
気炎を上げる一子ちゃん。
「まあ、あれだね。才能に物言わせた僕って感じのタイプだと思うな、松永先輩は」
「ほう、その心は?」
「あの人は間合いの取り方や体の使い方が上手いね。僕から見ればまだ荒いけどあれで化け物スペックなんだから笑えないなー」
そう、タイプ似てても基礎能力差が笑えない。
「あー、そんな感じかもな。決定力なくても私の攻撃を受け続けてたし。と、言うよりお前がぶっ飛びすぎなんだよ。百回は殺したと思っても流れで反撃してくるなんておかしいぞー」
おい! 殺したって! オイ!
「そう言えば大和はいつの間にか燕と仲良くなっちゃってるよなー。このジゴロめ」
あ、そうなんだ。
「直江、仲良くなったら松永先輩にアピールしといてくれない?」
「お? なんだー? お前燕狙いかー? 目の前にいる美少女二人放っといてそんなこと言っちゃうのか?」
「え? アタシも?」
絡んでくる武神。
赤くなってる一子ちゃん可愛いです。
まあ、けど
「いや、戦ってくれないかなーと思って」
「「「ああー……」」」
しれっと答えたら全員から呆れた目で見られてしまった。
解せぬ。
こんな感じで、結構珍しい僕の友人との団欒の時間は過ぎて行った。
因みに店を出る時僕と一子ちゃんついでに武神のせいで店員は涙目だった。
以上でした。
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