せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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いやー、真剣恋ってキャラが多くて動かすの難しいですね。
一応メイン的なキャラが出てきたってことでつくづく実感しました。


第二十五話 親馬鹿再び

 せっかくの休日、またもや午前中は川神院にお世話になり、昼食もご一緒した後のことだ。

 

 「おーい、高坂―、暇だー。構え―!」

 

 「高坂くーん! あそぼー!」

 

 昨日に引き続き駄々っ子が来た。

 今日は一子ちゃんも午後は稽古はないようだ。

 川神姉妹の遊び、これを顧みるに結論は一つだな。

 よし

 

 「うん、じゃあ道場行こうか」

 

 「「おい」」

 

 二人に両腕をとられた。

 二人同時とは、武神だけでも手に余るのに地獄だぜ。

 

 「お前ー! 怪我してるくせにそんなに突っかかるなよ」

 

 「高坂君、無理はいけないと思うの」

 

 いやまあ、一応自粛してるけどさ、据え膳じゃん?

 

 「だってモモ先輩に誘われるってことは……、ねえ?」

 

 「あー……」

 

 「おいこら待てよ。どういうことだ? ワン子もなんで納得する?」

 

 知らぬは本人ばかりだね。

 

 「くっ! まあいい。それで、高坂よー燕を大和に寝取られて暇なんだよー」

 

 へー、直江ってば手が早いこと。

 と言うより寝取られるも糞もねーだろうが。

 

 「まあ、僕も修練しないなら暇だから遊ぶのはいいんだけど何すんの?」

 

 「わーい」

 

 「おー、そう来なくちゃ。因みに金はないぞ。と言うわけで金がかかる遊びは却下だ」

 

 おお、わかりやすいね。

 おごってもいいんだけど黙っておこう。

 一度甘い顔をすると調子に乗りそうだし。

 

 「じゃあ、川原で体でも動かしましょ!」

 

 おお、稽古の後でも元気だね。

 

 「あ、ごめん。僕怪我してるからあんまり体動かすのはちょっと……」

 

 「「おい!」」

 

 またもやユニゾン。

 

 「おまえ! いや、正論だけど……。戦うのはよくて体動かす遊び駄目ってどういうことなんだ!」

 

 「流石にどうかと思うわ」

 

 いやだって、組手は強くなるけど遊びじゃあねえ。

 

 「あー、それなら釣でも行く? 七輪でも持って軽くバーベキューでもしながら」

 

 「あ! いいわね! その場で焼いて食べるってのがまたそそるわ」

 

 「おー、ならそれでいいか。……てか戦うか食うかって感じだなお前。わたしもこんなんだったのか?」

 

 言われてみればそうかも。

 そして落ち込むなよ武神、僕に失礼だぞ。

 

 

 そんなこんな軽く食料を川神院から拝借し、ついでに買い出しをした後に海を目指して出発する。

 その場で食べるってんなら海釣りだよね!

 

 

 

 釣り場についたら先客がいた。

 

 「お、キャップのバイト先の店長か? どうもーこんにちはー!」

 

 「こんにちはー!」

 

 「おう! バッキャローどもか! お前らも釣か?」

 

 おおう、会話がいきなり罵声だ。

 まあ、暗い感じがないから気風のいい人って感じなんだろうな。

 

 「どうも」

 

 「ん? 見ない顔がいるな」

 

 「ああ、こいつは高坂って言ってたまに家に修業に来るんですよ。今日もその終わりです」

 

 「おう! そうか、俺ぁ金柳で本屋なんてやってるんだ。兄ちゃんもよろしくな!」

 

 「はい、よろしくお願いします。知り合いのようですしご一緒にどうですか?」

 

 まあ、満腹になるの目的でバーベキューするわけじゃないので人数が増えてもどうってことないし誘ってみる。

 

 「お? いいのかい? そんじゃあこいつも食っときな」

 

 そう言ってバケツを差し出された。

 中には数匹のハゼが泳いでいる。

 

 「わーい! ありがとうございまーす!」

 

 釣る前から目的の魚が手に入って嬉しそうなワン子ちゃん。

 まあ、とりあえず店長さんと一緒に火でも起こそうかね。

 

 

 

 

 そんな感じで大人含んだ四人で釣にいそしんでいると、この前知ったばかりの気配が近くをうろついてる。

 これは松永先輩と直江か。

 まあ、デートみたいだしわざわざ教えることもないか。

 などと気を使ってたのに向こうから近づいてくる。

 

 「お? あれモモちゃんじゃない?」

 

 「あれ? 本当だ。高坂もいるしこんなところで何してんの?」

 

 おいおい、せっかく気を使ったのにさー。

 てか、松永先輩や、これわざとだろ?

 百歩譲って僕と一子ちゃんの気配に気が付かなくてもここに居わすは天下の武神様だぞ?

 気付かないはずないやろ。

 

 「おー、燕と弟かー。見ればわかるだろー釣しに来てんだよー」

 

 「ぐまぐま、カサゴって焼いてもおいしーのね」

 

 ちょっと疑惑の視線を松永先輩に向けるが意味ありげな笑いで流される。

 まあ、どうでもいいか。

 と、考えるのをやめて竿に目を戻すと強烈な当たりが来た。

 

 「んー、おお! いいサイズのメバルだ!! これ30超えてるんじゃない!? てんちょーさーん! これ記念写真撮りましょうよ!!」

 

 「おう! でけーじゃねーか! 待ってろよ、網もってくからよ!」

 

 今日一番の当たりに興奮する男二人。

 

 「わーすごーい! 手伝うわ!」

 

 大きな獲物に目を輝かせて怪我人の僕を手伝いに来てくれる一子ちゃん。

 

 「ありゃー、せっかくの登場が流されちゃったね」

 

 「ははは、もうあの三人の意識の外ですね。……て、本当にデカいな!」

 

 「しゃあーー!! 捕ったどー!!!」

 

 「どーーー!」 

 

 結局、記念撮影をご一緒した後に二人はまたデートに戻っていった。

 ちゃっかり小さい魚を食べてカップ納豆が人数分置かれていたのは流石だろう。 

 

 

 

 ――――

 

 

 さて、休みが明け、学校も終わり、義経ちゃんたちの決闘の選別も落ち着いてきたのか量が少なかった。

 物足りないので川神院にでもお邪魔しようかと思ったら僕にお客さんのようだ。

 

 「高坂、時間は大丈夫か?」

 

 お供を連れたクリスだった。

 

 「んー? 大丈夫だけどどうしたの?」

 

 「この後暇か? 暇なら一緒に来てほしいのだが」

 

 なんだろう?

 嫌われていないとは思ってたけど、名指しで誘われるとは思わなかった。

 

 「高坂虎綱、中将殿も貴様が来ることを望んでいる。準備なさい」

 

 「マルさん! 駄目だろう! こっちは頼んでいるんだからそんな風に言っちゃ!」

 

 「は! 申し訳ありませんお嬢様」

 

 あの親馬鹿がらみか……いい予感はしないけど娘さん使ってるってことは物騒なことはないだろう。

 

 「まあ、付き合うのはいいんだけどどんな御用なの?」

 

 「ああ、それはだな……」

 

 

 

 ――――

 

 

 「おお! よく来てくれたね、高坂君」

 

 僕の目の前には50人程度の軍人とその前にクリスとその父親が相対している。

 ……道着で。

 

 「それではよろしく頼むよ。なに、指導の範疇であれば立場のことなど気にしなくていい」

 

 それにしてもこの親子、非常に楽しそうである。

 なんでもこの親子は日本文化(間違い)が非常に大好きだそうで柔の技に興味があったそうだ。

 それでも中途半端に学ぶのは礼を失しているために本格的に入門するわけでもないのに高名な人に教えを乞うわけにもいかない。

 そんな時に、娘の学友で、流派の看板を背負っているわけでもなく気軽に頼めそうな僕に白羽の矢が立ったというわけだ。

 体験程度であるが、軍隊格闘技にも役に立つものであるために自分の部隊の人間にも学ばせよう、と考えこのようになったようだ。

 あー、まあ、というわけで

 

 高坂虎綱の一日限定柔術教室始まるよーー。

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 「今日は世話になったね。食事でも一緒にどうかね?」

 

 夜、成り行きでやることになった指導を終わらせた後にフランクさんに誘われた。

 バイト代にしては高額なお礼ももらったが、食べさせてくれるのならばと着いていったら、

 

 「うわぁお……」

 

 想像以上に豪華な場で驚いてしまった。

 道理で途中着替えもさせられたわけだ。

 ドレスコードの店に気軽に誘うとは流石中将。

 九鬼と付き合いあるお蔭で初めてではないけど面喰ってしまう。

 因みにクリスは体験教室が終わった後に寮に帰って行った。

 

 「おっと……、そうだ、マルギッテ頼んだぞ」

 

 「は!」

 

 そう言ってマルギッテに自分の武器を渡す中将さん。

 するとマルギッテは店の外に出て行った。

 なんだろなーと思ってみていたが、

 

 「ふむ、これで私の武装は解除したよ。その代わり店の周りはうちの部隊で見張りをしてもらっているがね。もしもの時は頼んだよ?」

 

 そう言って、悪戯気に笑いかけてきた。

 あー……、この胆の座り方は流石だな。

 この前のことに筋を通すにしてもこんなことやってのけるとは、あんまり信じてなかったがやはりこの人は人の上に立つ器らしい。

 

 「はあ、一応怪我人ですのであまり期待しないでくださいよ?」

 

 ちょっと困り気に行ってみてもハッハッハとさわやかに笑うだけだった。

 

 

 最初は僕の柔術のことやらの世間話だったが、食事が進むにつれて本題に入るようだ。

 

 「それで、この前は失礼な結果に終わってしまったが、今回はできるだけ和やかな場を用意したつもりだ。

まあ、ここまで言えばわかるとは思うがクリスのことなのだが」

 

 うん、やっぱり親馬鹿には違いがないようだ。

 無駄に凛々しい顔つきになっちゃってるヨ。

 まあ、それでもあれだ、娘のためにと、ここまでされたからには僕も襟を開こうかね。

 

 「はい、前にも言ったと思いますが、僕には今そう言う風に考えるつもりはありません」

 

 「! ん、ゴホン。そうか、まあ、君を信用しないわけではないのだが可愛い可愛いクリスのことだ。すぐに納得はできないのだよ。特に君のようにやろうと思えば我々の力で抑えきれないかもしれない人間に対してはね」

 

 あ、こいつ右手懐に突っ込んだよ。

 銃がなかったから冷静に戻ったけどこの前の焼き増しになるところじゃねーか。

 可愛いのところにアクセント置き過ぎだぜ。

 まあ、ここまでした理由も理解できたな。

 なるほど脅威に思われていたとはね。

 

 「まあ、少し僕のことを聞いてもらってもいいでしょうか?」

 

 そう言って話すは、僕の原点ともいえる挫折から今までに至るまでの鍛錬のこと。

 おそらく僕の素性など調べに調べているだろうからこのことに関して疑う余地などないだろう。

 

 

 

 「――と言うわけで、僕の誇りと言うか、拠り所と言ったものは今もあの日に置きっぱなしでして。それ取り戻すまでは恋愛とかは考えられない……うん、言葉通り考えられていないようなんですよ。確かにクリスなんか見てると可愛いなーとかも思いますけど、それで行動を起こすとは考えられなくなっているんですよ」

 

 ああ、ここまで詳しく人に話したのっていろんな人たちに教えを乞いに行った時以来だ。

 更に恋愛どうこうなんて言ったのは初めてで少し恥ずかしい。

 それでも、この話をする時と言うのは何よりも誠意を見せる時だという意志は伝わっているようで、フランクさんの顔は穏やかなものとなっていた。

 

 「そうか。ふむ、素晴らしい志ではないか。私は実際に日本に来てこの国の現状に失望していたが、なるほど。少し歪ではあるが日本人の意志の強さと言うのは存在していたのだな」

 

 そう言った時のフランクさんの表情はどこか救われたようなものでもあった。

 




以上です。
ありがとうございました。

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