せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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どもども、夏のお話なんか書いていると海いきて~と言う思いが留まらぬ。
この時期の冷えたビールのうまさは異常です。


第二十七話 水上体育祭後編

 午後の部、レクリエーション要素が強かった午前に比べて体力勝負が増えてきている。

 

 「そおぉい!」

 

 今もまた遠投で、弁慶の手によって一つのボールが星になった。

 いや、半端ない。

 

 「お疲れーっす」

 

 「う~す。頑張ってきたよ~」

 

 とはいえ、競技に参加していない僕はまた糸を垂らしてのんびりしていた。

 そしてこういう空間が好きなのかちょくちょく弁慶が来るのだ。

 

 「ほいよ、今釣れたばっかりの鱚天」

 

 「おー、素晴らしい気遣いだね、この店は」

 

 そう言いながら手に持った川神水を煽って、空いた杯に満たして渡してきた。

 

 「あー、どうも。っと、―――ッカー! 来るねー」

 

 「おお、予想以上に言い飲みっぷりだね~。て、言うか高坂がこういう風にのんびりする性分だとは思わなかったな~。いっつもすぐ帰って戦ってるらしいし」

 

 杯を返すと弁慶に意外そうに言われた。

 

 「そりゃあ、強くならなくちゃいかんしね。まあ、でもそう言う時じゃないんならゆっくりしてたいさ~」

 

 お、なんだ雑魚か。

 リリース。

 

 「へ~、こっちの高坂なら仲良くなれそうなんだけどね。転校していきなりがっついてきたときは面倒くさいと思ったもんだよ」

 

 「うーん、別に時々仕合ってくれればいいし、そこまで一人に執着はしないつもりだから安心していいよ」

 

 ただし武神は除く。

 

 「へー、それならまあ安心かな。っと、なんか歌合戦みたいのが始まったね」

 

 「まあ、いいBGMじゃないかい? うわ、軍人エキサイトしすぎだろ……」

 

 あ、蛸が連れた。

 下ごしらえ面倒なんだよなー。

 

 「おお、立派な蛸だこと」

 

 「これって漁権どうなってんのかね?」

 

 「さあ?」

 

 流れてきた洗脳納豆ソングを肴に二人で杯を傾けた。

 

 

 

 そして遂にファイナルステージが始まるらしい。

 

 「んじゃ、そろそろもどろっかね?」

 

 「うん、そうだ―――!!」

 

 弁慶に返事を返そうとしたら急に強い気配が近付いてきた。

 

 「ふぉっふぉっふぉ。中々楽しそうじゃのう」

 

 学長だった。

 

 「どうも。食べます?」

 

 「どうも。飲みます?」

 

 二人してもっていたものを差し出してみる。

 

 「おお、ありがとのう。で、高坂よ、今日一日退屈して居ったんじゃないかのう?」

 

 そう僕に話しかけてきた学長だが目線は完全に弁慶に行っていた。

 このエロ爺が。

 いいだろう、さっきまで独占していたぜ!

 

 「いやー、でも怪我人なんで余計な運動は……」

 

 「そうかい、――これは独り言なんじゃが。最終競技は怪物退治と言ってのう。着ぐるみに入った川神院の修行僧をチームワークで倒す速さを競うものなんじゃが。今年はちょっと不安が残るクラスが多くてのう。1-C、ヒュームには手を出させんように言っておるから1-Sはいいとして、2-F、2-S、3ーFと元気なクラスがいっぱいでちょっと怪物の中身がもの足りないとか思っておるんじゃが……」

 

 「やります!」

 

 「そうか、助かるぞい。ワシが入るかとも思ったんじゃが流石に監視のために待機しておきたかったんじゃ」

 

 「はぁ、やっぱり疲れそうだな、こいつは……」

 

 笑い合っている俺と学長に対して弁慶は呆れてため息をついているのだった

 

 

 

 ――――

 

 

 まんまと学長につられたクマーした結果、クマとも何とも言えない着ぐるみの中に居ます。

 うん、意外と通気性いいクマ。

 無駄に素晴らしい技術で作ってる着ぐるみですこと。

 

 「なー、つばめ―、この競技ってやっぱり私たちは自粛した方がいいんだよな?」

 

 「まーね、中の人にもよるけどあんまり張り切っちゃだめだと思うな」

 

 「あー、じじいかルー先生でも来るかと思ったら、少なくとも爺はあそこにいるしなー。つまんないなー」

 

 「まあ、しょうがないよ。大人しく応援に回ろう」

 

 中の人などいません。

 僕の向かうことになった3-Fの問題となった二人は少しさみしそうに会話をしている。

 しかし、イベントだからお互い本気はないとしてもそんな心持で倒されるわけにはいかんのだよ。

 お、合図だ。

 んじゃ、行きましょうかね。

 

 「お、きたぞー! 川神さんたちは様子見みたいだしとりあえず俺たちでやろう!」

 

 「「「「おお!!」」」」

 

 おー、何人かで一斉に来た。

 

 「おー、おー、内の男子どもが掛かって行ったぞ。まあ中身も大して強そうじゃないし……って! あれ? この気配は?」

 

 「あ、一斉に投げられてる。ねえ、モモちゃん? もしかしてこれって私たちも行った方がいい気がするんだけど」

 

 「そうかもなー。おい! お前トラだろ?」

 

 化け物二人が近付いてきた。

 ついでに僕に気が付いたようだ。

 

 「中の人などいないクマー」

 

 あ、二人ともこけた。

 ノリがいいことで。

 

 「あー……、これは間違いないな。まあ、最後の体育際としては楽しめそうだな」

 

 「そだねー、私としては初のでもあるんだけどね」

 

 さて、この着ぐるみのせいで投げにくいけどまあ、イベントだ。

 クラスのチームワーク見れるまでは粘ってみようかね。

 

 

 

 

 「そら!! ……っと、いや、やっぱり不思議だよな。よくもまあここまで力を操作できるもんだ」

 

 「てや! ほりゃ! うわー、手ごたえほとんどないや。ちょっと自信なくしそう……」

 

 とりあえず粘ってみているが……。

 いやいや、イベントだけあって下手に骨外すわけにも絞め落とすわけにもいかないからマジできつい。

 あっちも場をわきまえてるお蔭でもってるけど、相手にダメージとおさずに時間稼ぐって、僕にとって不向きもいいところじゃね?

 

 「ハハハ! こうしたらどう受けるんだろう、な!」

 

 「くらえー! 愛と友情のツープラトン!」

 

 おおう、挟撃かい、確かにチームワークだけど二人だけって……、ルール的に倒されるわけにはいかんのだよなぁ……。

 

 「そんな物騒なのは投げキャン(投げキャンセル)だ!」

 

 とりあえずまだましそうな松永先輩の中段蹴りを上方にずらしてそのまま蹴り足に密着。

 相手の軸足をそのまま軸にして位置を入れ替えて仕上げに軽く払う。

 

 「わわ!」

 

 完全な投げにはなっていなかったが、迫りくる武神の拳に対応するために焦って転んでしまう松永先輩。

 

 「悪い! 大丈夫か? 燕」

 

 「うん、へーきへーき。いやー、話には聞いてたけど想像以上に厄介だね。正直舐めてたよ」

 

 「ああ、あいつのは受けてみないとわからんよな。これでもネチネチした反撃無いからすっごく楽だぞ」

 

 「うへぇ、ネチネチの詳細は怖くて聞けないなぁ……」

 

 結構好き勝手言ってくれるな武神よ。

 しゃーないじゃん、普通に攻撃しても効かないんだからさー。

 

 「まあ、でもそろそろ時間も時間だしなー。っていうか粘られ過ぎてイライラしてきた」

 

 「えー、モモちゃん……、この場でその右手のものぶっ放すのはどうかと思うよ?」

 

 「大丈夫だ。あいつは最大出力の星殺しも何とかして見せた」

 

 「うわ……、両方どうかしてるヨ……」

 

 げ、遂に気弾使おうとしやがたよあの子。

 

 「まつクマ―! 流石にイベントでそれはどうかと思うクマー!」

 

 「この期に及んでその語尾って腹が立つと思わんか? 燕よ」

 

 「アハハー、確かにそのくらい大丈夫な気がしてきたかも☆」

 

 ちょ! なに言っちゃってるんでしょうか御嬢さんがたは!

 下手に受け流したら周りの生徒さん死ぬんじゃね?

 

 「よーし、いっくぞー(はぁと」

 

 「ちょ、え? 真剣クマ?」

 

 とりあえず後ろに人がいない海を背にする方向へ移動する。

 

 「最後までクマをつけたその根性は認めよう。かーわーかーみ、波ぁぁぁ!!」

 

 本当にやりやがった!

 

 「緊急脱出!!!」

 

 着ぐるみだけ残して抜け出し砂浜を転がって迫りくる凶弾を躱した。

 いや、まじ無駄な技術で作られてて感謝だわ。

 

 「おいこら! 化け物ども! TPO弁えろや! 死ぬかと思ったわ!」

 

 「おお、着ぐるみから出たらもうクマってつけないのか」

 

 「てか、化け物どもってひどいなー。こんな美少女達掴まえてさー」

 

 いや、化け物だろ!

 うん、間違いなくギャラリーたちと心が一つになったぜ。

 何せ周りの目がひとつ残らず同情の視線だからな!

 

 「いやいや、見てただろが! 割れちゃってたよ? 海!」

 

 「いやいや、お前なら何とかできると信じてたさ!」

 

 ハッハッハー! と笑う武神の一言で、ギャラリーから信じられないものを見る目で見られた。

 

 「いや、それにしても方向悪かったら怪我人出てたぞ!?」

 

 「そうならないように何とかしたろう? 流石じゃないか」

 

 「ほんに、流石じゃのう。じゃが、お前はちょいとはしゃぎ過ぎじゃよ、モモ」

 

 笑っていた武神の声がピタリと止まった。

 

 「じ、じじい……」

 

 「これはお話が必要じゃのう?」

 

 おおう、流石は川神院総代。

 光った眼は半端なく怖いっす。

 

 「い、いや……、その、な? 悪かったよ」

 

 「ふむ、流石にそれじゃあ済ませられんよ。 喝っっっ!!!!」

 

 うへ、強烈な拳骨。

 あ、武神も涙目。 

 ざまぁ。

 

 「ふむ、ご苦労じゃったのう、高坂よ。まあ、お前さんが着ぐるみから出た瞬間が退治と見てええじゃろう」

 

 「そうっすねー、お疲れ様でしたー」

 

 正直ヒヤヒヤしたせいでかなり疲れた。

 因みに松永先輩は流石と言う感じで鉄心さんが来る前に逃げおおせていた。

 




以上でした。
ありがとうございました。

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