せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

29 / 50
ども、給料日前でたばこを買うか悩むお財布具合……。
執筆の時に吸ってるものがないとちょっとさみしかったです。


第二十八話 怪我の影響

 期末試験が近い。

 多くの学生が焦りだす時期となっている。

 こう見えても僕はS組、つまり特進クラスだ。

 身体能力で足りない分を補う意味でも学ぶことに手を抜くこともない性分なので別にどうってことはない時期なのだ。

 ――いつもならば。

 

 「井上ー、次のノート貸してくれ」

 

 「あいよ、怪我ってのは大変だよな。遅れた分取り返すだけでてんやわんやじゃねーか」

 

 そう、今学期の僕は一月近くを怪我で休学してしまっていた。

 と、いうわけで、休日である今日、おごる代わりにと井上を呼んでファミレスで勉強中だ。

 

 「お前っていっつも成績どのくらいだっけ?」

 

 「んー、30台をうろちょろしてる」

 

 因みに家のクラスは50位を下回ると強制転落、いわゆるS落ちをすることになる。

 

 「あー、なら何とかなるか? 幸いお前理系得意みたいだから今回は暗記をなんとかすれば乗り切れるんじゃないか?」

 

 「そんな感じかな? でも日本史が鬼門なんだよなー」

 

 「ああ、マロか。確かにたいていは普通だけど数問、配点大きいのに平安時代のディープなのだしてくるからなぁ……」

 

 うちの日本史教師の綾小路 麻呂、不死川家に並ぶ三大名家の人間で公家贔屓なせいで授業の九割が平安時代と言うクレイジーな教師だ。

 

 「あれ上位狙うと結構きついんだよね。あれだけで順位が10位上下してもおかしくないし……」

 

 「違いないな。まあ頑張るこった」

 

 なんだかんだ付き合ってくれているこいつは友人思いなんだろう。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 試験一週間を切っている今、流石に組手を後回しにして(結局やる)居残り勉強をしていた。

 

 「おい、高坂。俺はそろそろ切り上げて委員長探しに行くがまだやるか?」

 

 何人か人が残っている教室で井上が声をかけてきた。

 因みに委員長と言うのは家のクラスの委員長である英雄のことではなく、お隣F組の委員長甘粕 真与さんのことだ。

 このロリコンが探すということで、当然ながら見た目がちょっとアレな人だ。

 

 「んー、じゃあ僕も今日はこの辺にして川神院でも行こうかね」

 

 「あー、お前さんもよくやるね」

 

 などと、大した中身のないことを話しながら校舎を歩いていると、

 

 「あ、直江大和が年上に憑りつかれてる」

 

 「憑りついてるんじゃない、これは私のだ」

 

 武神が直江を捕獲していた。

 

 「なんとかならねぇか、姉さん背中からはがれないんだ」

 

 あ、経読もうとした井上が吹っ飛ばされた。

 

 「こうなったらお前だけが頼りだ! 頼む高坂!」

 

 こっちに水が向いたな。

 うん、それなら

 

 「椎名でも呼ぼうか?」

 

 「やめて! 好転する未来が見えないよ!!」

 

 ははは、こやつめ。

 

 「んでー、お前が残ってるって珍しいなー。いつもならもう人投げまくってる時間だろ?」

 

 「あー、今回休み多かったから先に勉強してた。ちょうどよく怪我で控えめにしてるしね」

 

 「この状況で何事もなかったかのように会話しないでくれ、てか何気ない会話が物騒!?」

 

 えー、めんどくさいなー。

 

 「とりあえずこれから川神院行く予定だし一緒に行く?」

 

 「おー、そうだな。ハイヨー! 大和号!」

 

 「結局降りてはくれないのか……」

 

 「いや、だって口でそう言ってもそんなに嫌がってないじゃん」

 

 僕の観察眼はパンチラのためだけにあるんじゃないんだぞ?

 

 「んー、そうだろー。実は嬉しいんだもんなー弟よー」

 

 「恥ずかしいんだって!」

 

 わがままだなー。

 しゃーない。

 

 「ほら、モモ先輩、自分で歩きなさい」

 

 そう言って手を取ってやる。

 

 「えー、って、おま! 痛! 痛いって!! 分かったから離せよー!」

 

 もちろん捻りながら。

 

 「おおー、あの姉さんをなんとかするとは流石だ」

 

 「むー、いくら羨ましいからってそれはないだろー」

 

 あ、今度はこっち来た。

 

 「ヘルプ、直江。このボ〇ビー今度はこっち来ちゃった」

 

 まあどっちも神だし似たようなもんか。

 

 「頑張れ!」

 

 コイツ、今度地獄を見せてやろうか?

 

 「お前、碌な死にかたしないぞ?」

 

 「ははは、聞こえないなー」

 

 「ほら、さっさと動け!」

 

 結局、背中に武神乗せたまま行くことなにってしまう。 

 その道中、

 

 「あー……、今日も一日よく働いたなぁ。自分にビックリだ」

 

 ガラの悪い大人が歩いていた。

 

 「あ、釈迦堂さん、バイトお疲れ様です」

 

 バイト?

 

 「え? あの人普通に働ける人だったの?」

 

 「いや、本人前にして失礼だろ!」

 

 いや、直江よ、お前あの人のこと良く知らないからそう言えるだけだって。

 

 「あぁ? あー、にーちゃんか。お前さん百代侍らすとはやるねぇ」

 

 「どうも。これ次の目的地に着くまで離れそうにないんですよ。すれ違ったんだし持っていきます?」

 

 ぐえ! 首しまってる。

 

 「カカカッ! 百代相手にそんな口きけるたぁ大したもんだ。ん? なんだお前、まだ足治ってなかったのか?」

 

 いや、お前たち化け物の回復速度と一緒にしないでくれませんかねぇ。

 

 「あれ? 釈迦堂さんコイツの怪我のこと知ってるんですか?」

 

 「知ってるも何も、やったの俺だぜ?」

 

 「「は?」」

 

 「あー、まあ今月中には何とかなるんじゃないかと思ってます」

 

 うん、頑張ってもそんなもんだろう。

 

 「いやいやいやいや、お前釈迦堂さんと戦ってたのか?」

 

 「あー、やっぱり高坂ってまともじゃないんだなー。普段見てると忘れそうになるよ……」

 

 言ってなかったっけ?

 まあ、わざわざ話すことでもなかったしな。

 

 「オウよ、二回やって二敗しちまってな。そいつのせいでこうしてまじめに働いてんだよ」

 

 「おお! 社会復帰の力になれたようで何よりです」

 

 「おまえー、ずるいぞー、私も強いやつと戦いたいのにー」

 

 背中でじたばたと、うっとおしい。

 

 「だ、そうですよ? 釈迦堂さん。と言うことでこれ持ってきませんか?」

 

 「馬鹿言うな、おじさん働いて疲れちゃってるんだよ」

 

 「ずーるーいーぞー!!」

 

 結局川神院についても駄々っ子は収まらなかった。

 

 

 

 そして、組手後。

 

 「あ! 高坂君だちょうどいいわ」

 

 ん? 

 あら、一子ちゃんだ。

 

 「捕獲ーーーー !!」

 

 あら、飛びついて来た。

 

 「どうしたの? まだ組手する?」

 

 「違うの~、あのね? 勉強教えてほしいの」

 

 あら、なるほど、それで涙目なわけね。

 

 「まあ、いいけど。今回僕もそんなに余裕ないよ?」

 

 「そうなの? でもS組よね?」

 

 「うん、まあ、40位台で何とかしようと頑張ってるよ」

 

 「お願いします!!!」

 

 こ、これは! 腹をこちらに向けた犬の服従のポーズ!!

 

 「おーい! モモせんぱーい! 妹さん流石に変な調教受け過ぎじゃね!?」

 

 「ん、あーそれやったの大和だ」

 

 直江よ、お前の罪を数えろ!

 

 「あー、まあ、直江は今度ちょっとお話しするとして、じゃあ一緒に勉強しよっか?」

 

 「本当!? ありがとー!」

 

 「ははは、頑張れよ。妹よ」

 

 あ、武神この場から離れようとしてる。

 

 「待たんかモモ」

 

 「っち! じじいか!」

 

 「お前さんもちっとは勉強せんか!」

 

 「しょうがないだろ! あいつら2年、私3年だ!」

 

 「関係ないわい! あの高坂でもやっているのに恥ずかしいとは思わんのか!」

 

 「う……、そ、それは……」

 

 オイ……、オイ! どういうことだそれは?

 こら武神、なんでこっちに勉強道具もってくる?

 そこはいつも通り抵抗して逃げるところだろうが!!!

 よし決めたぞ。

 一子ちゃんの成績上げて武神に吠え面かかせよう。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 試験一日目。

 

 「やはり期末試験だけあって、かなりの緊張感だな」

 

 「ピリピリしてるね。……特にあそこ」

 

 うるせー。

 こちとら結構ギリギリなんだよ!

 クラスメイトが余裕綽々で話している中、僕は最後の悪あがきと只管暗記をしていた。

 

 「高坂っていつもあんな感じなの?」

 

 「いいえ、いつもなら彼も余裕を持っているのですが」

 

 「アハハー、トラは今回休みが多かったから必死なのだ~」

 

 英雄たちの同情の視線を受けながら最後まで悪あがきを続けたおかげで、いつも通り程度には手ごたえを感じられる結果だった。

 




以上でした。
次回作について考え出しました。
活動報告の方に候補となる原作並べて見ました。
良ければ意見など書いていってください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。