せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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今回は意外に交流のあるあるキャラとのお話です。


第二話 武術脳の弊害な過去

昨日、4時間に渡って不良を投げ続けていた高坂です。

 実力に大いに不足はあっても、実際に戦うというのは実に勉強になる。

 特に、僕のように理をもって相手を制すような戦いをする人間にとってはなおさらである。

 これは、僕がモモ先輩に一矢を報いるための大きなファクターだと思う。

 ワンパン劇場としか言いようがない試合を見ながらそう考える。

 彼女は戦いに充実感を求めすぎている。

 実力差がありすぎてつまらないというは仕方がないかもしれないが、完全な作業だ。

 もちろん、挑んできた相手に対しての礼は忘れていないようだが、それでもああいう一戦を自分の糧にしようという意志が感じられない。

 例えるなら、雑魚敵に逃げるコマンドは使わないが、二〇ラムで一掃するから経験値は入らないといった感じだ。

 彼女はもはやボスやはぐれ、コスト的においしいから一応メタルくらいにしか興味を抱いていないのであろう。

 才能というのが、一度に入る経験値の総量だとすればもったいないことこの上ないと思う。

 それであってもいまだに強くなり続けている。

 もう、幸せの靴でも履いてるんじゃないのかな?あの武神。

 話は逸れたが、一度に入る経験値の量で敵わないのであればひたすら狩り続けるしかないという考えは間違っていないと思う。

 川神院の制限やら、本人の在り方という面から何とか付け入る隙になるだろう。

 

 「……おはよう」

 

 考え事をしていると、見世物ではない方の仕合であるために人員整理をしていた椎名 京が声をかけてきた。

 

 「おはよう椎名、いつもありがとね。またお世話になりたいから空いている日に連絡くれると嬉しいな」

  

 「うん」

 

 非常に無愛想な反応であるが、これでも彼女にしてみればある程度親しい人間と認定されている。

 風間ファミリーと呼ばれるメンバー以外へ自ら挨拶すること自体が珍しいのだ。

 彼女との関係は、小学生のの頃にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 あの頃の僕は、モモ先輩に負けてから組手に只々打ち込んでいた。

 大人を相手に鍛錬の日々、今のように考えて組手ばかりしていたわけではなく、子供ながらに強くなるためには戦うのが一番と思っていたのだと思う。

 そして、いくら勝負できているとはいえ体格差と言うのは如何ともし難いものだった。

 負けるわけではないが、負担が大きいという現実にぶち当たっていたのだ。

 そんな時に見たのが椎名であった。

 

 『……うー』

 

 いわゆるいじめであったのだろう、女の子が石を投げられていた。

 助けようと思いそちらに向かおうとしたのだが。

 

 ――ぺシ ペㇱ

 

 『……え?』

 

 自分ですべて対処していたのだ。

 その身のこなしを見て感嘆した。

 僕にできるかと言われれば、むろん余裕でできたが、素晴らしい動きだった。

 対処されたせいで詰まらなくなったのか石を投げていた子たちはすぐにどこかに行ったので、僕はすぐにその子に声をかけた。

 

 『こんにちは』

 

 『……(ジー)』

 

 その時彼女は普通に声をかけられたのにビックリしたのか目を少し大きくしてこちらを見ていた。

 

 『僕は高坂虎綱、君強いね。何ていうの?』

 

 『……椎名京』

 

 『へー、椎名っていうんだ。お願いがあるんだけどさ、僕の組手相手になってくれないかな?』

 

 今思うと何言ってんだろう、僕は? と、いう流れであったが、その時は多分組手相手が見つかったことに舞い上がっていたのだろう。

 彼女も驚いていたが、了承してくれた。

 おそらく形はどうあれ人とのつながりに飢えていたのだろう。

 その時から僕と彼女はしょっちゅう放課後に組手をするようになった。

 

 『じゃあやろうか』

 

 『……(コク)』

 

 やはり彼女は強く、非常に実りがある組手となり、充実した時間を過ごしていた。

 彼女も言葉は少ないながらも時折楽しそうにするようになり、友人と呼んでもいいくらいには打ち解けていった。

 

 

 そして、そのまま形は普通でなくとも友人として関係を持ち続け、ある時彼女は風間ファミリーと言う集団に入ることになった。

 なんでもいじめから助けてもらったそうだ。

 その時、僕は愕然としたのを覚えている。

 僕は彼女が助けを求めているとは思わなかったのだ。

 何せ彼女は強かったのだから。

 何をされても自分で対処し、耐えていたのだから。

 言い訳をさせてもらえるのであれば、僕の流派と言うのが護身術の側面が強かったというのがある。

 己の身は凶器である、故に、不用意に抜かず。

 そういう精神を教えられ、格下相手に耐えることを選んでいた椎名はそういうものだと思っていたのだ。

  

 

 

 そんなことがあって、僕は彼女のファミリーには入れずとも友人ではあるという関係だ。

 

 「それじゃ、空いてる時に連絡待ってるね」

 

 「うん、またね」

 

 これまで通り空いているときに組手の相手をしてもらう関係である。

 助けられる距離にいて助けられなかったと知った時は、彼女に謝ったものだが、

 

 『普通に遊んでくれてすごく嬉しかったよ』

 

 そう彼女に言われて救われた思いだった。

 組手の相手と言う遊びと言っていいのかわからないような時間だったが、それが少しでも彼女の助けになっていたのなら、悪いことではなかったと思ってもいいのだろう。

 勝手な思いではあるが、目標を達成した時、強くなるのに協力してくれている友人に少しは報いることができるのではと思っている。

 なんにせよ、もう少しで僕は壁を越えられそうなのだ。

 そこさえ超えれば後はただひたすらに挑むだけ。

 

――勇往邁進だ。

 

 

 ……うん、一子ちゃんの真似してみたけど結構これいい気分になるな。

 因みに、その日の出来事と言えば、井上がラジオの放送中にモモ先輩に骨を外されただけだった。

 うん、いつも通りだ。




読んでいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
京フラグとニアミスすれど立てることはできず、もったいなすぎる虎綱君でした。
ここで立てて後々ラブコメと言うのも考えたんですがキャラの性格上やめときました。
まあこれで京攻略はほぼ不可能ですね。
彼女は一度フラグが立つと他のフラグは立つことはあっても決して折れませんから軍師一直線ですね。

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしております。

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