せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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ども、今日遅かったんで寝ようと思ったら腹痛で眠れない!
気を紛らわせるために書きました。
ではどうぞ。


第三十二話 相談事の多い日後編

 武神を倒せ?

 なに言ってんだろうこの人?

 ずっと前からそのためにやってるって言ってるのに。

 は! まさかぼけたか?

 まあ、ご老齢だし仕方が……

 

 「殺すぞ小僧。俺はまだまだ現役だ」

 

 「はて? 何のことでしょうか。」

 

 いや、心読むなよ。

 

 「フン、まあいい。俺が言いたいのはそう言うことではない。九月までに(・・・・・)アイツに敗北を教えてやれと言っているんだ」

 

 「……へぇ」

 

 「松永の娘が失敗したからな。いずれは俺が直接鍛えてやるつもりだが、その前に一度折れておくのが好ましい」

 

 「つまり……、僕に武神を倒せと依頼をするということですか?」

 

 「ああ、貴様の目的とも一致するだろう?」

 

 ほう、ああ、全身の血が冷たくなっていくのが分かる。

 駄目だ、こらえられないな。

 

 「ボケた方がましだろう。舐めるなよクソジジイ」

 

 「ム……? 俺の聞き間違いか? 聞き捨てられん言葉を吐かれたような気がするが」

 

 「耳まで遠くなったか? もう一度言ってやるよ。舐めるなクソジジイ!」

 

 「お仕置きだ……」

 

 即座に飛んでくる蹴り。

 ああ、望むところだとも。

 いつもより無駄な感情が入っているせいで皮一枚分多く持っていかれて腕から血が飛び出るが知ったことか。

 

 「何!?」

 

 いつも通りに受け流す。

 それを見越してか引きの動作を速めていたクソジジイから驚きの声が漏れる。

 目の前のクソジジイに向かって

 

 「くらいやがれ!!!」

 

 思いっきり拳をたたきつけた。

 

 「……何のつもりだ小僧? その程度の拳効かないことなど百も承知のはずだろう?」

 

 あまりにも予想外だっただろうことと、避ける必要がゼロなことからまともに顔面に受けたクソジジイに聞かれた。

 

 「あ? あんまりにも腹立ったから殴った」

 

 「おい……、あまり失望させるなよ? 貴様には期待していたのだがな」

 

 「うるせーよ! いいんだよ。今はてめーに怪我させるとか勝つとかどうでもいいんだ!」

 

 「ム?」

 

 「いいか! よく聞けクソジジイ! この戦いだけは! 武神との戦いだけは()の戦いだ! 踏み込んでくるんじゃねえ!!!」

 

 依頼だと?

 期限だと?

 糞食らえだ。

 人様の意図なんざ一欠けらだって背負ってやるもんかよ!!

 

 「……」

 

 「あー糞! 殴った手の方が痛いってどういうことだよ!」

 

 これだから化け物は。

 でもそれでもいい。

 痛みなんかより拳だから乗せられるものってのは確かにあるんだからな。

 

 「ククク……」

 

 「あ? なにがおかしいんだよ?」

 

 「いや、小僧、違うな。高坂虎綱。無粋を言った。すまなかった」

 

 え?

 頭を下げた?

 あのヒュームヘルシングが?

 

 「あ、はい。わかればいいですよ……」

 

 呆然としか返事できねって、これは。

 

 「ククク、お前の言う通り年かもしれんな。忘れていたよ。お前がどのような人間かをな」

 

 「はあ……」

 

 「覚えているか? お前が俺のもとに来るようになった時のことを?」

 

 「ええ、まあ」

 

 確か中学生くらいの時にめきめき頭角表す武神に焦って現役最強とか言われてるヒュームさんに挑んだんだったな。

 なすすべもなく凹られたけど。

 

 「本当に取るに足りないガキだった。かなり手加減したつもりだったが殺してしまったかと思ったぞ?」

 

 うん、確かにあの時肋骨おられたなー。

 

 「殺したと思った……はずがだ、その一週間後にまた訪ねてきたな。百代のように瞬間回復どころか本当に一般人程度の回復力で、呼吸で激痛が走っているだろう様でだ」

 

 「あー、確かに痛かったっすわ」

 

 「そして、その次の週も、その次の週もだ。確かに怪我が増えているはずなのに、ただのガキが目だけ爛々と光らせて掛かってくる。怖気が走ったぞ。俺の祖先が狩ったヴァンパイアなぞよりよほど不可解だ」

 

 ひど、人のことなんだと思ってるんだよ?

 

 「ああ、そうだ。揚羽様を弟子にとった合間だった。才能のある方だ。それと対比するようにただのガキが挑んでくる。正直に言ってやろう。この俺が恐怖した。才も実力も吹けば飛ぶようなガキにだ。ククク……クハハ!! そうだ。誰になんと言われようともそのままで行けばいい!! ああ、実に正しい。殴られて当然だったな!!」

 

 あー、なんか超嬉しそう。

 

 「言われずともってやつですよ。……言いなりにはならないけどアイツに挑むのをやめる気はありません。挑む勝負は勝つ気でいます。だから、ヒュームさんが望む時期に勝つこともあるかもしれません」

 

 ああ、つまり

 

 「ハハハハハハハハ!!! 期待するのは勝手だ、黙ってみていろと言うことだな?」

 

 その通りだ。

 あとからついてくるものに期待する分にはどうだっていいことなんだからな。

 

 

 ――――

 

 

 さて、本日最後のお話と言うことで川神院に来ています。

 

 「あー、御馳走になりました」

 

 いい時間だったのでついでと言うことでご飯食べさせてもらっちゃいました。

 顔なじみって得だね。

 そして中庭で武神と二人っきり。

 

 「なあ……。えっと、あれだ。あー」

 

 すごく言いよどんでいる武神。

 まあ、待ちましょうか。

 

 「あー……、うまく言葉にできないんだが。燕のことどう思う?」

 

 「美少女?」

 

 もしくは化け物。

 

 「いや、まあ、そうなんだが……、そう言うことじゃなくて今日の試合のことだ」

 

 まあ、予想通りだよね。

 

 「んー? 詰めが甘かったね。ポテンシャルあるのに大火力に目が言って持ち味おろそかにしちゃってちゃあねぇ」

 

 「うん……、それで、勝つために必死だったっていうのはわかるんだが……。なあ、私の気持ちってどうすればいいと思う?」

 

 「いや、勝者として堂々としていればいいんじゃない?」

 

 「あー、まあ、そうなんだが……、正直な? お前と燕だけなんだよ。同年代で遠慮せずに戦えて、友達として気楽にできたのは。まゆっちなんかは戦おうとしない分遠慮しちゃうし……。それがな? 気楽にできてるのは私だけだったんだ……」

 

 おー、これは悪い方入ったネ。

 

 「いや、気にしなくていいんじゃない? てゆーか研究とかって意味なら僕もかなりしてますよ?」

 

 「でもお前は只管真っ向から来てくれてるだろう? あれだ、うん、そうだ。不安なんだよ。今までのが全部私の一人相撲かもしれないって思うとさ。なあ、トラ。私と燕って友達でいいのか?」

 

 「それはこれから次第じゃないですか? 向こうの気持ちもこれからも付き合っていけばわかるだろうし」

 

 「ああ、でもなぁ……」

 

 ああああああ!!!

 ウジウジウジウジめんどくさくなってきた。

 もういい、あれだ。

 

 「モモ先輩、ちょっと待ってて!」

 

 モモ先輩を残して院内に入る。

 その途中にちょっと電話を

 

 「あーもしもし。僕です。高坂です。今から時間あります? それじゃあ最高速度で川神院来てください。え? 行きづらい? いや、まあ、いいから来てください。それじゃああとで」

 

 そんでっと。

 

 「鉄心さん! ちょっと来てもらっていいですかね?」

 

 

 

 

 

 流石は化け物、鉄心さん連れて行く間にもう来てました。

 

 「えーと、どうしたのかなトラ君?」

 

 「…………」

 

 気まずそうな二人。

 武神なんかはどういうことだとにらんできちゃってます。

 おー、こわ。

 

 「いや、まあ、それじゃあ、存分になぐり合ってください」

 

 「「「は?」」」

 

 おお、三人の声そろったよ。

 

 「いやいやいやいや、聞いてないよ? そもそも何の準備もしてないし」

 

 「そうだぞ! いったい何のつもりだ?」

 

 「それにこの二人に仕合させるんなら相応に準備せんといかんのじゃぞ?」

 

 三人が言い募ってくる。

 準備?

 何のつもり?

 仕合?

 

 「何言ってるんですか? 友達同士の喧嘩なんてそんなもんでしょう?」

 

 あ、三人とも固まっちゃった。

 

 「いやのう。この二人に戦われては大変じゃと……」

 

 「だから鉄心さん呼んだんじゃないですか? あれですよ。もう二人とも言葉でどうしていいかわからないって言ってるんです。これしかないでしょう。立場も、記録もクソもない。勝敗すら関係なしにただ思いっきりぶつかり合う喧嘩ですよ。鉄心さん? 武人以前に学生なんだからこういう形じゃないと蹴りつかないことだってあるんですから武人としてではなく保護者として頑張ってあげてくださいよ」

 

 

 「…………ック、ハハハハハハハハハハ!!!! ああ、そうか。そうだな。難しく考えることなんてなかったか。せっかくそれができる友達なんだ」

 

 「アハハ……あーもう! こんな風に戦わされるの初めてだよ!」

 

 そう言いながらいきなりクロスカウンター決めたような形で拳を繰り出す二人。

 

 「燕!! お前どういうつもりだ!! あんなに一緒にいたのに依頼って!!!」

 

 「しょーがないじゃん!! 家名轟かせて有名になっておかんに帰ってきてもらいたかったんだもん!! そもそも何さあの理不尽な一撃は!!!」

 

 おーおー、武神とかつい最近まで公式戦無敗とか言ってたやつらとは思えない無様な戦いなことで。

 あ、引っ掻いた。

 うわー、松永先輩がかみついてるよ、キャラじゃねー。

 

 「……ふう、しょうがない奴らじゃのう」

 

 「そう言う割には嬉しそうじゃないですか?」

 

 「まあのう。考えてみればモモには子供らしい喧嘩なんぞさせたこともなかったしできんかったじゃろうしの。……そんなことも体験させずに精神修行だ何ぞと言っておったんじゃ。親としては失格かもしれんな」

 

 あーそれは可哀想に。

 

 「いやー、それにしても楽しそうになぐり合ってますねー」

 

 「そうじゃのう。……何か思うことがあれば言ってもよいんじゃぞ。なあにこの場には爺が一人おるだけじゃ。何も気にすことなどないじゃろう」

 

 あー、やっぱり敵わないな。

 

 「……羨ましい。ねえ、鉄心さん? なんであそこにいるのって俺じゃないんですかね?」

 

 「ふむ……」

 

 「ああ、すげーな。殴りあってる。有利不利はあってもあんなに対等に……。ああ、どうして僕はあそこに上れなかったんだろうなぁ……」

 

 必死に武神に届く牙を得るためにやってきたが、あんな光景魅せられると妬ましくて仕方がない。

 僕だってあの武神と真正面からぶつかってみたかった。

 

 「はっ!!!」

 

 切望のまなざしで化け物二人の殴り合いを見ていると、隣の鉄心さんがいきなり手刀を放ってきた。

 

 「んな?」

 

 そしてそれを察知した瞬間体は勝手に動いてくれる。

 そして川神鉄心と言う化け物を地面に叩きつける。

 

 「ホッホッホ。流石じゃのう。わしをこうもたやすく投げられる人間なぞそうはおらんわ」

 

 投げられた鉄心さんはまさに教え子を諭す優しい目でこちらを見ていた。

 ああ、そうだ。

 妬もう、いくらでも、どこまでも羨もう。

 それでも、僕が勝つにはこれしかないんだ。

 

 「ありがとうございました」

 

 ああ、いい機会だ。

 一人には土足で踏み込むことで無理やり起こされた。

 もう一人には諭すように確認させてもらった。

 うん、丁度いい。

 今日、今日初めて本人に宣言させてもらうとしよう。

 

 

 「はあ……、はあ……、何も使わなくてもやれるじゃないか」

 

 「ふう……、ふう……、いやー、こんな泥仕合はもう御免だよ」

 

 どこかすっきりしたような二人、倒れていた松永先輩に肩を貸してこっちにくる武神。

 

 「あー、ありがとうなトラ。スッキリしたよ」

 

 「いやー、もう考えるのがバカバカしくなっちゃったよ」

 

 二人の問題は解決したようだ。

 何よりである。

 それじゃあ、ちょっとばかり僕のターンをもらいましょうかね。

 

 「モモ先輩、いや、武神 川神百代。お前に初めて負けてからおよそ十年、ただお前だけを見てきた」

 

 「は? い、いや、いきなりどうしたんだ? わ、私だけを見ていたとか」

 

 「ん? えーと、何が始まるの?」

 

 「先の決闘でやっと、やっとお前の視界に入ることができた。やっとお前に僕を見せることができたんだ」

 

 「む、ああ、そうだな」

 

 「いやー、モモちゃん真っ赤になってるヨ?」

 

 「それでもまだ足りない! 僕はお前を倒したい! そのために戦ってきたんだ。これから先お前に挑み続けるだろう。付き合ってもらうぞ百代!」

 

 十年越しに、本人に直接たたきつける挑戦状。

 ああ、何とも気力の満ち溢れることか。 

 




気が付いたら三十話超えてますねー。
当初の予定通り五十話前後で完結になりそうです。
丁度五十話で完結とか気持ちがいいんだろうなー。

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