それではよろしくお願いします。
今日は挑戦者はいないようだ。
毎日いるわけではないのは当然ではあるのだが、少しでもモモ先輩の力を見ておきたい立場としては物足りないものである。
たまには一撃以上持ちこたえる猛者に期待するのは悪いことではないはずだ。
「ギャアアア!! 助けてくれぇ!!」
「ははー、まて、こいつぅ」
と思っていると武神が一般生徒を襲いだしたようだ。
武神ご乱心! なんてテロップが頭の中をよぎる。
「ついに箍が外れたか? 何とも恐ろしい……」
なーんて、流石に追いかけている相手が風間翔一であることからそんなことはないとはわかってるけどね。
と内心考えながらもつぶやくと。
「これこれ、人聞きの悪いことを言わんでくれないかのぉ」
後ろから好々爺が話しかけてきた。
「いや、わかってますって、学長。ただいつものイベントがないから退屈だったんで言ってみたお茶目ですよ。ってか、独り言に反応しないでください。しかも学園の門から、ビックリするじゃないですか」
――川神 鉄心 川神院総代と言う立場につく年齢不詳のおじいちゃん、ぶっちゃけ化け物である。
そして、僕はまだ学園に行くためには渡らなくてはいけない大橋――通称 変態の橋――を渡っていない。
それなのにこのお爺さんは僕の呟きに反応してやってきたのだ、しかも回り込んで後ろに。
「ふぉふぉふぉ。よう言うわい、あと少しでも間合いに入ってれば投げられとったじゃろ、わし?」
「いえいえ、別に害意が無いのでそんなことはしませんよ。そんな短い付き合いというわけでもありませんから信頼していますし」
まあ、投げられることは否定しないけどね。
うん、もしも触れられていたら投げていたかもしれないな。
この人、あのモモ先輩の祖父だけあってたまに妙な悪戯心出すしな。
「ならええんじゃが、ところでモモの箍が外れたといったが、そうなる前にやらんのかい?」
「ご冗談を、すぐに負けてしまうような勝負はしませんよ」
僕の予想では最初の数撃を凌ぎ、投げて極めても、本気になったモモ先輩の一撃が一度でも当たればその時点で負けることになると思っている。
「ふむ、モモ相手に暫らく粘れるというだけでも大したもんだと思うがのう。ぶっちゃけ、お主のようなものと戦わせればモモも精神修行に目を向けんかと期待しておるんじゃが」
「ハハハ、まあ、ゴールデンウィークに少々遠征を考えているので、その結果次第ではモモ先輩に挑み始めようかと思っていますので、期待していてください」
この爺さん僕に妙な期待をしているのだ。
身体能力で圧倒しているはずの相手に手古摺れば今までよりも技や精神修行に打ち込むと考えているのだろう。
まぁ、確かに今のモモ先輩の精神じゃ後を継がせるのは不安なんだろうがね。
この前なんて川神院に入って師範代を目指さんか? などと言ってきた。
一子ちゃんの目標と努力を知っている僕としては何とも言えない気分になったものだ。
鉄心さんも苦渋の決断なんだろうけどね。
大きな組織を背負っている人間だし情だけでは何ともできないのだろう。
「そうか、そうか、では期待して待つとするかのう。ほれもうすぐ予鈴じゃ、いきなさい」
「はい、それっでは失礼します」
そう言って学園に向かう。
「ふむ、その年でわしを投げられるような技量を持つというのは末恐ろしいものじゃ……」
後ろから何か聞こえたが、まぁ気にすることでもないだろう。
◆◇◆◇
「たるんどる!!喝っっっ!!!!」
朝礼にてあの爺さんの一喝が響き渡る。
きちんと聞いていたS組の面々はいいとばっちりで、ビクッとしていた。
飢えや野心を持てとのお言葉だが、ちょくちょくこっちに熱視線を向けてくるのはやめてほしいものだ。
隣にいる井上なんか視線に押されて少し憔悴しているではないか、可哀想に。
「ふう、なんか妙なプレッシャーだったんだがなんでだろうな?」
「そう? 小さい女の子追いかけまわしてたのみられてたんじゃない?」
「そんなことするか! 俺は愛でているだけだ! 穢れを知らない天使たちを!!!」
はいアウト、今度は付近の生徒から厳しい視線を向けられているね。
さてさて、今年の一年生に一人ものすごいのがいるようだが、うん、彼女も護身の方かな?
うまい具合に隠しているな、まだまだ隠し方が甘いけど。
あれじゃあそれこそ自分より強いのには丸わかりだ。
いや、育ちが良すぎて姿勢を崩せないってだけかな?
◆◇◆◇
次の日、今日は人間力測定である。
普通に体力測定でいいと思うのだが……、鉄心さんの趣味だなこれは。
僕の結果はと言うと、
「スゲーな、ぶっちぎりの一位じゃねーか、細いのにどうなってんだ?」
「すごいですね、蚊トンボを自称する私三人分くらいですかね? 素敵です」
「まぁ一応鍛えてるからね、あと葵はもう一歩分離れてくれないかな?」
そうなのである、いくら筋トレ、基礎トレを省いているとはいえその運動量をなめてはいけない、そりゃ組手、組手と毎日7時間以上してればクラス一位くらいは余裕だ。
隣のクラスなんかには筋トレ筋トレで僕よりはるかに高い筋力を持つ男なんかもいるがそんな例外でもない限りは流石に同年代には負けないだろう。
因みにわがクラスには同年代じゃないのも……、やめとこう、この手の話題は碌な結果を生まないものだ。
どっかのぶりっ子の仮面がはがれかけていることに恐怖なんか感じていない。
感じていないんだからね!
なぜだか実力で勝っていても勝てないと思うようなことがしばしばある理不尽はさておき、純粋に驚いている井上に対し、なんか口説きに入っている男は葵 冬馬、学力NO1にして自他ともに認めるバイである。
後半のせいであまり近づいてほしくない。
因みに彼のせいでそっちに目覚めた男もいるため非常に厄介な人間だと思う。
何より女の子も漁っているのが許せない。
どっちかに絞れや! このイケメンが!!
……、ちょっと取り乱したな、反省反省。
「それでもすげーよ、俺だってそれなりに鍛えてるんだぜ?」
「僕も僕も~、がんばってるよー、ホッ、ホッ!」
「そうですね、二人ともなかなか強いんですよ?」
「それでも川神では何とか上の下って所じゃないかな? 小雪、あんまり暴れないでね?」
いきなり激しい動きをし出す小雪に注意をしながら言うが、実際そんなものである。
川神で本格的に武術をやっている人間たちの中に入れば僕なんてそんなものだ。
目の前のイケメンを除いた二人も実際はもう少し上の身体能力を持っているだろう。
……、まだ僕の方が上かな?
まぁ、本物の化け物連中に比べれば誤差誤差、五十歩百歩に目くそ鼻くそ、やってらんないね。
「まあ、川神には川神院があるからなー、そりゃあそのおひざ元じゃあ大した自信にならないか」
「そうだね、僕は何度もお世話になってるから基準がねぇ……、それに毎朝のように見せられる理不尽もあるし、やっぱりたいしたことないんじゃない? どう思う? 毎週骨外されている井上君」
てか、実際言葉にすると真剣で悲惨だな井上、これでロリコンじゃなかったら同情しているところだ。
「違いない、俺、片手で自分の骨入れられるようになったんだぜ?」
「準はロリコンだからねー、あ! ハゲだから関節なくなってふにゃふにゃになるんだねー」
「怖いわ!! いくら俺の頭がツルピカでもたこにはならんわ!! てか、ロリコン関係ないよね!!」
……うん、ロリコンでも同情してやってもいいかもしれない。
そして次の日、周囲の環境がさらに騒がしくなる一助となる出来事が襲来することになるのあるが、そんなことは知らずに、その時の僕はただ目の前のハゲを憐れんでいるのであった。
読んでいただきありがとうございます。
女の子だと思ったか! 爺でした!!!
うん、なんかごめんなさい。
大勢と一斉に絡み始めるのは原作プロローグが終わったころになると思います。
そこが書く側としても難易度の山かなぁ、果たして人数増えてまともに作品を回せるのか?
あとこういう投稿ものにどんなタグをつけていいのかわからない……、助けてエロい人!
何て言いながら、また次回お会いしましょう。
この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。
三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。
ご意見ご感想お待ちしております。