せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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どーも、武神戦最終局面です。
基本的にここまで持っていきたいお話でしたので皆さんにもご満足いただけると幸いです。


第三十九話 対武神、三度目の正直 後編

 「はあああああ!!」

 

 武神の攻撃を躱し、完全に受け流す。

 

 「っちぃ!」

 

 急に僕がダメージを受けることがなくなったことに武神はだんだん焦れてきている。

 僕がこんなことをできるようになった理由はなんのことはない。

 ただ単に一瞬見ることができるようになっただけだ。

 

 「これならどうだ!?」

 

 いままで僕でさえもその威力に多少なりとも削られていた正拳。

 しかし、今それを明確に知覚することができる。

 今までであれば経験に任せた予測のみで、一回一回が命がけに感じていたそれである。

 しかし、身を捨てる覚悟を得た今は、それを一拍置いて明確に見れるようになっていた。

 

 限界ギリギリだと思っていたそれも、もはや当たることさえいとわなくなればコンマ一秒に満たない時間であろうとも見極めに使えるようになった。

 この生まれた時間の有無に天と地ほどに差があった。

 

 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、か」

 

 自分で言うのもなんだが、今までよくあんな目をつぶったような状態で対処できていたな。

 攻撃に移る瞬間の情報が山のように積もっている瞬間を見られるようになると信じられないくらいだ。

 試合であれば審判が迷いなく一本と叫ぶこと間違いがない綺麗な小外刈りで武神を静める。

 

 「なんか変わったか? ただでさえ薄い手ごたえがなくなったぞ?」

 

 「おかげさまで」

 

 一本腕が使えなくとも武神に対処できるほどに至った。

 しかし、そこまで状況好転していないなー。

 

 「まあ、いい。なんにしろしっかり一撃決めてやればいいだけだ」

 

 そうなんだよなー。

 ぶっちゃけこっちの方が消耗激しくて時間伸びただけなんだよね、

 攻め手に欠ける状況は全く変わってない。

 でも、

 

 「気持ちいいな」

 

 「こっちは訳が分からなくなってるが、な!」

 

 武神の攻撃を躱し、投げる。

 言葉にすると実に簡単なそれをこうもたやすくできる。

 言われた通り武神にとっては訳が分からないだろう。

 何せそう言わしめるほどきれいに決まっている自信がある。

 

 武神が動く。

 いやな予感が、自分を貫くであろうビジョンが幾通りも頭を駆け抜ける、

 そして、それを越えた瞬間、立った一つのイメージのみが僕を襲う。

 ああ、此処か。

 これだけ絞り込めるなら、これは僕にとっての脅威ではない、

 これを脅威に感じるほど温い時間を過ごしてなどいない。

 

 「んー? なんだ? このすり抜けるような感じは? おいトラ。お前本当に生きてるか? さっきの一撃で化けて出てきたんじゃないだろうな?」

 

 「いや、地に足つけてますからね? 結構いっぱいいっぱいだけど生きてますよ」

 

 なんかちょっと怯えながら失礼なことを言われた。

 実際ここに至るまでの消耗のせいで力尽きて倒れるイメージがひしひしと感じられるんだよなー。

 

 「そうか、それならいいんだ。殴れるのなら問題はない」

 

 心底安心したように言われるが

 

 「ああ、それは無理じゃないかな?」

 

 もう、それには何の脅威も感じていない。

 

 「ククク……」

 

 「ハハハ!」

 

 「上等だ!!」

 

 「来いよ!!」

 

 ここにきて武神の猛攻は激しさを増していく。

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 ふむ、本当に千日手、と言うには僕の体力が尽きるまでと言う制限があるのが厄介だな。

 時間に余裕ができたのだから勝機くらいは掴みたいものだ。

 

 「あーー、クソ! 土まみれじゃないか!」

 

 幾度目になろうか、ダメージを負ってはいないが地に伏せられた武神が素早く立ち上がる。

 ああ、やはり勝つためにはこんな温いことを繰り返すだけではいけないらしい。

 

 「なんなんだ? 一撃入れたと思ったら前にもまして……」

 

 幸いこのままタイムアップまで繰り返す気は彼女にはないようだ。

 明らかに焦れている。

 まあ、打ち崩したいと堂々と宣言しているのだから当然だろう。

 これなら時期に勝機は廻ってくる。

 その証拠に

 

 「っく! あー、また掴みそこなったか!」

 

 いま、彼女は打撃よりも僕を捕まえに来ている。

 人間爆弾、武神を中心に面として襲ってくる衝撃。

 これだけは掴まってしまってはどうしてもうまく受け流せないであろう天敵だ。

 武神もそれはわかっているのだろう、僕を打ち崩して勝つためにそれを狙ってきている。

 

 「まあ、そう簡単には掴まらないさ」

 

 そして、そう簡単に掴まってやるほど甘くはない。

 幾度も地獄の抱擁を交わしている。

 だからこそ、今武神は焦れに焦れている。

 

 「ふん、いつかは掴まえるさ。一度でも捕まれば二度目があっても簡単に掴まえられるだろう?」

 

 うわ、とてもちびりそうな笑顔だよこれ。

 確実に通用する手を持つ武神が、他の手が通じないままタイムアップを迎えそうになっているのだから当然の状況になっている。

 お互いに挑戦者。

 本気で武神が僕を倒しに来ているというのはなんと心地よいことか。

 よくちびらないものだ。

 

 「まー、もう何やろうとしてるか分かってるだろう? 結局今回もお前打ち破れそうなのはこれだけになってしまったみたいだが、それでもお前は一回でこれを破らなきゃいけない。できるか?」

 

 「いや、無役茶言わないでくれませんかね?」

 

 そう、無茶だ。

 なにせ自分の力で武神の体に大きく傷をつけるほどの衝撃を生む技、それをゼロ距離で全身を越えておおいこむような範囲で叩きつけられる。

 こんなもん早々破れるわけがない。

 

 「ふふん、そうだろう。だからしっかりと逃げろよ!!」

 

 千日手だった状況もここに至ってはまるで鬼ごっこ。

 結局は連発が聞く状況を作られたのならば武神にとって必勝パターンと言える此処に行きつけたことがまず大きな成果ともいえるだろう。

 

 躱す、投げる、距離を置く。

 時間が経つにつれ余裕は消えうせる。

 もとより片手はつぶされ、体はボロボロ。

 いくら追加でダメージを受けなくなったからと言ってもすでに負ったダメージはごまかしようもない。

 せめて開始からここに至っていれば、と思わなくもない。

 ああ、そろそろ本当に限界か……。

 そう思える故に、自分を包む腕に、やはりかと言う思いしかない。

 

 「捕まえたぞ? それじゃあ一発目行ってみようか!?」

 

 そう、絶望感など一つもない。

 

 「川神流!」

 

 技を宣言する武神。

 咄嗟に抱きつかれ礼る武神の左腕の小指をできる限り捻りあげる。

 完全に間に合わないタイミングであろうが拘束は緩む。

 この程度は予想の範囲内だろう。

 何せここからでは絶対に無傷ではいられない。

 武神も何発でもやってやるという意志があるのだろう。

 が、

 

 「人間爆弾! ……!?」

 

 そこで武神は驚きを顕にした。

 

 駄目だよ?

 しっかり掴まえとかないとね。

 

 そのまま武神の片腕をしっかりと掴まえてやった。

 

 絶対にこの手を放してなどやらないよ?

 

 やっと待ちに待った瞬間が来たのだ。

 もう覚悟など決まっているんだ。

 そう、破る気なんて捨てているのだからね。

 

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。

 

 力を捨て、身を捨て、捨てて捨ててのこの状況。

 たとえ力尽きようともわが志は浮かんでくれるだろうさ。

 

 

 

 

 「ああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 全身を襲う猛威。

 しかし絶対に手は離さない。

 不安定な僕の体は猛威にさらされるが中心からは離れない。

 武神を軸にして暴れまわる僕の体。

  

      情けないことだが、考えてみれば当然のことだ。

 

 何度も武神の体と地面を叩く。

 

      三度の戦い、いや、一度目は例外にしてもだ。

 

 地に足もつかぬ状況では決してコントロールもできない暴力が全身を襲っている。

 

      もっとも武神を傷つけることができたのはなんだったのか?

 

 早く、早く。

 叩きつけられる度にこの絶対的な力は削られている。

 体中が壊されていくというのになぜか恐怖も感じない。

 

      誰が見ても明らかなことに武神のこの技ではないか。

 

 力尽きそうな激痛の中、足が地面を掴んだ。

 折れている。

 がくんと更に沈むが、それでも地を掴んだ。

 

 「ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 ああ、僕の手は、僕は決して武神を離してなどいないはずだ。

 ならばもう何も心配はいらない。

 

 自分が叩きつけられた反動そのままに、武神を地面に叩きつける。

 型も糞もあったものではない、この暴力の流れをそのまま叩きつける。

 

 ――――――!!

 

 人の力では成し遂げられるはずもないような音が地面を揺らす。

 もう立っていることもできない。

 うつぶせに勢いのまま倒れこむ。

 この暴力の力をできうる限り使ったのだ。

 間違いなくこの一撃だけは化け物の領域と言える威力を誇っているはずだ。

 ただ、僕は間に合ったのか?

 疑問を晴らすべく最後の力を振り絞り顔を持ち上げる。

 

 そこには、自分の技で付けたダメージを回復させることもできなくなった武神が斃れていた。

 

 ああ、間に合った。

 化け物級の力でさえも足りないのであろうが、自爆の怪我が消えないうちに叩き込んでやれた。

 いまだに放していないその手はピクリとすら動かない。

 先ほどとは違う明らかな満身創痍なうえに意識まで奪えた。

 ああ、これなら

 

 「うああああああああわおああああああああおあおわあおお!!!!!!!!!!!!!!」

 

 言葉になどなっていない獣のような雄叫びを響かせる。

 

 「そこまで! 勝者! 高坂 虎綱!」

 

 胸を張って僕の勝と言えるだろう。 

 

 意識が保てているかもわからないが、手だけは絶対に離していないという確信があった。




以上でした。
結局のところ最後まで武神の力を頼る戦い方です。
爽快感と言う意味では結構不足でしょうが、これが家の主人公だと思って書きました。

因みに全話の引きに使った覚醒ですが、トンデモになりすぎないものと言う風にしてるつもりですがどうだったでしょうか?

ありがとうございました。

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