せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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久しぶりの主役登場です。


第四十七話 最終決戦 其之四

 SIDE 燕 

 

 「ナ、トウ!」

 

 いやいや、ラスダンとは思えないほど楽だねー。

 要注意人物は軒並み誰かが何とかしてくれるし。

 九鬼従者とはいえそこらの人たちに手古摺るほど突入組は弱くないしね。

 

 「フン」

 

 それにこっち側の実力者がもう一人味方にいるし。

 石田君たちがいてくれて助かったよ。

 いやいや、件の項羽相手に決死の覚悟を決めなくてすんでよかったよ。

 

 「怖いほど順調であるな……」

 

 「そうですね……、壁越えこっちに残しとけと言っていた意味がよくわかります……」

 

 おやおや、九鬼主従が引いてるよ。

 身近に筆頭みたいな人がいるんだからそのくらいわかってたでしょうに。

 いや、味方に居るからこそその脅威がよくわかってなかったのかな?

 

 「ほらほら、紋ちゃん? そろそろ首謀者とご対面なんだからびしっとして」

 

 「ああ、そうであるな。順調なのはいいことなのだ、うん」

 

 「そうです。それに、流石にマープルの周辺には精鋭がいるはずですし、ここからが勝負ですよ?」

 

 うん、気を引き締めてくれて何よりだ。

 だって、もうちょっといったところにかなり強そうな子が控えてるしね。

 

 「来てしまったか。ここは梁山泊が一人としてこの林冲が通さない!」

 

 一際立派な襖の数歩前に一人の女性が槍を持って待ち構えている。

 うん、結構強い。

 まあ、ここまで来たら私も少し頑張って……

 

 「ガトリング・クロゥ!」

 

 と、思ったら横からものすごい連撃が横から放たれた。

 

 「ここは俺に任せてもらおう」

 

 「え? いいの? ここまで来たらみんなで凹っちゃったほうが早いけど……」

 

 あれ? なんでみんなそんな恐ろしいものを見るような目を向けるんだろう?

 あんなに勇ましかった林冲ちゃんも涙目だし。

 あれー? なんでだろーなー? フフ……。

 

 「いや、いい、行ってくれ。そもそも俺はどちらかと言うと部外者だ。家の大将と別行動になった以上はラストシーンまでいる意味もない。というか、この子が可哀想だから行ってくれないか?」

 

 ふむ、まあそれならそれでいいんだけどね。

 ……助かったね林冲ちゃん。

 

 「わ、分かった! ほら行くぞ松永の!」

 

 「はいはーい☆ 恐怖を振りまく子はさっさと退場しましょうねー」

 

 「ウヒョ―!! 俺に構わず先に行けってやつか!! 燃える展開だぜ!」

 

 うーん、なんか扱いがちょっと酷くなったような気がするな……。

 まあ、進めるんなら進んじゃおうかな?

 

 「あ、ま、待て! 私は守らなくては!」

 

 ん? やっぱり通れないのかなぁ?

 

 「おま!? ガトリング・クロゥ!!」

 

 「っく!」

 

 「ほら! 早く行け! 何やらかすか分からないだろうが! 早く……間に合わなくなっても知らんぞ!! お前も下手に鬼を刺激しようとするな!!」

 

 「で、でも守らないと……」

 

 九鬼のメイドさんに引っ張られながらも聞こえてるんだよなー。 

 大村君はひどいこと言うなー。

 ……お仕置きかな?

 

 

 

 

 

 

   ――――

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、着いたぞ」

 

 そう言って下車を促される。

 いやー、九鬼の機械って本当に高性能ですねー。

 数分に一回の舌うち機能に、素晴らしいサスペンションで揺れを感じないはずなのに、なぜか局所的に大揺れを起こすことができるなんて。

 さらに、なぜか一部に直接エンジン熱を伝えることができ、尚且つ他の機能に影響がないなんて、正に新機能の目白押し!

 ……ぶっ壊してやろうか?

 

 「どうした? 妙に疲れているし、なんだか焦げ臭いぞ?」

 

 あー、そうでしょうとも。

 本当に優秀な奴だよ、あのマシンはよ。

 この怪我だとそれだけでも結構な負担になるってのに……。

 

 「ハハ……、今度あのマシンにしっかり教育しましょう?」

 

 「??」

 

 ああ、主人にはわからないのか、そうですか。

 あのメイドと言い不良執事と言い九鬼ってそんなんばっかりか……。

 もっと部下をしつけておかないからこんなことになっているんだろうが!

 

 「? まあいい、それで? お前はどうやって俺を楽しませてくれるんだ?」

 

 うわ、やべ。

 着いたとたんにやる気になってやがるよこの暴君。

 さっき怪我人どうこう言ってたくせに!

 落ち着け、こういう時は……、

 

 「凛々しい顔も素敵だよ?」

 

 「……おい」

 

 あ、一気にやる気が漏れてしまったようだ。

 うん、呆れてるけど微妙に照れてるって眼福だよね。

 

 「お前……、お前! 普通こうまで舞台に上がったならすぐにでもやりあうだろうが! それをなんだ!? 凛々しい顔? ああ、それはそうだろうさ! あの凶悪執事が嬉しそうに話すんだ。それは期待位するさ! それがなんだ? 正反対のフ抜けた顔でいきなりおべんちゃらって!」

 

 おおう、ヒートアップしていらっしゃる。

 なんだ? 

 あれか、今日は覇王覇王する覇王の日なのか?

 

 「いや、デートって言ったしまずは褒めるものかなぁと思いまして……」

 

 「いや、言ったけど、確かに言ってたけど! あの時の俺を挑発したあのふてぶてしいほどの覇気はなんだったんだ!? この……」

 

 あれ?

 こういう時ってまず褒めるのが正解なんじゃないの?

 なんか怒っていらっしゃる……。

 くそう、女の子をどう扱っていいかわからないぜ。

 助けて武神!

 そんな時武神なら……。

 

 「ハハハ、照れちゃって☆ かわいいんだから」

 

 「……殺すぞ?」

 

 なん……だ……と?

 くそぅ、やっぱりあれは武神並みの美形で初めてできる技なのか?

 せっかく精一杯の笑顔で……くそぅ。

 やっぱり世界は不公平だ……。

 

 「いや、なんで絶望的な顔してるんだよ……。褒めるんだったら雰囲気大事にしないと喜べるわけないだろう」

 

 「……そうなの?」

 

 覇王様による恋愛講座が始まるか?

 うん、お相手役ってだけで大盛況間違いなしだね。

 

 「いや、食いつくなよ。それ、デートとしても落第だろう……」

 

 ああ、今僕は憐れまれている。

 初デートでこれってトラウマになるのではないだろうか?

 

 「はぁ……、もういい、それだけなら俺は帰るぞ?」

 

 こ、この上飽きられて相手に帰られるというのか!?

 それはまずい!

 連れ出した目的としても男としてのプライドと言う意味でも!!

 

 「いや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! だめ、お願いだから捨てないで!!」

 

 「おい! っちょ、離せ! ってなんだこいつ? 怪我人のくせに気持ち悪いくらい絡みついて? って、いい加減に! 分かった、とりあえず話聞くから離せ、な?」

 

 ふう、とりあえず引き留められたか……。

 なんだろう、これはこれで情けなすぎる気がする……。

 

 「はあ……、はあ……、なるほど、あのヒュームが認めているというのも伊達ではないようだな……、いや、もっとましなとこで発揮してくれればいいのに……」

 

 「いやいや、それほどでも」

 

 「褒めとらんわ!! お前、いくら時間稼ぎとは言っても誇りはないのか……。まあ、俺が戻れば勝負がつくから仕方がないが……」

 

 ハッハッハ、何をおっしゃるのか。

 

 「いえいえ、時間稼ぎはしてますが、連中が失敗しようがどうでもいいんですよね」

 

 「何?」

 

 うん、自分で言っといて結構最低じゃね?

 

 「いや、あれですよ。向こうに松永先輩いるじゃないですか? あの人なら下手したら勝っちゃうかもしれないじゃないですか?」

 

 「ふむ、あの一番強いやつか。まあ、俺が負けるかは置いといて、お前からすればそれに何の問題があるのだ?」

 

 いや、まず目的が全然違うからな、他の人たちとは。

 だから最初頼ろうとしてたのは竜兵と辰子さんだけなんだよね。

 

 「うん、僕としてはね、待っていてもらいたいんだよ」

 

 「待つ?」

 

 そう、今どこかであの化け物執事で戦っているあいつを。

 

 「誰が来ても叩き潰す。そう言うのであればあの武神も叩き潰してくれないとね」

 

 ああ、先ほどとは違った意味で僕の顔は満面の笑みを作っているのだろうな。




以上でした。
皆が頑張っている中高坂君ェ……

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