せめて、せめて一勝を   作:冬月 道斗

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いや、最近不眠症気味で久しぶりにじっくり読みに回ろうとしてランキングから探してたら、日間ランキングに掲載されていてお茶吹きました。
幸いノートで画面超えて壁に吹きかかって無事でした。

そんなわけでミラクルハイテンションで書いてしまいました。

それではどうぞ


第八話 有限地獄連続組手 一日目後編

今日、第一線目のルー先生に負けた高坂です。

 そして今僕はSMクラブにいる。

 別に目覚めたわけじゃないよ? 凹されて気持ちよくなっちゃったとかじゃないよ?

 うん、誰に言い訳してるのかわからないが、今僕はそのクラブのベットの上で女王様を待ちながら体を休めている。

 

 「なんだい? 見たことがあると思えば、よく殴りこんでくるボウヤじゃないかい。いつも来るのは甚振られたかったからってことかい、ならそういえばいいのに」

 

 ボンテージ姿で現れたのは板垣 亜巳、板垣さん姉妹の長女である。

 とても心外な勘違いをしてくれているが、もちろんそんな理由でここに来たわけではない。

 

 「どうも、亜巳さん。違うから嬉しそうな顔で鞭を振りかぶるのやめて。いや、っちょ? 真剣で!」

 

 「遠慮しなくていいんだよ? 金払ってきてるんだ。アタシに嬲られる権利はあるさね」

 

 「ホント違いますから! ここには亜巳さんに会いに来たんですよ! 予約さえ入れればここなら確実に会えるから!」

 

 「なんだい、口説きに来たのかい? それならもっと従順な豚になってから来な。……いや、結構かわいい顔してるしそうなるように調教してやるのもいいかもねぇ……」

 

 ひぃ! やばい、なぜか何言っても危険な方向に行っている。

 いやそりゃこんな場所であってるんだから仕様がないけどさ。

 クソ! 自業自得か?

 

 「いや、本当に会いに来ただけだって。ついでに今夜の時間をもらいたい。仕事と言うことで金も払う準備もできてる」

 

 「なんだい、抱きたいのか。まぁ金額次第じゃ考えてやってもいいけど高いよ?」

 

 墓穴ぅぅぅぅぅぅ! なんだよこの場所! 違和感ないよ! ちょっとは仕事しろよ違和感!!

 もういい! さっさと用件を伝えてしまおう!

 

 「本当に勘弁してください。ちょっと亜巳さんに頼みたいことがあったんですよ」

 

 「頼み? こんな場所で何を頼むつもりだい?」

 

 やっと話を聞いてもらえるようだ。

 いや? 残念だなんて思ってないよ? ホントに。 

 ……少ししか。

 と、気を改めて用件を伝えよう。

 

 「辰子さんと戦わせてほしいんだ」

 

 「辰子と?それなら本人に頼めばいいじゃないか。たまにやっているじゃないか」

 

 そう、たまに戦っている。

 でもそれは――

 

 「違うんだよ。今日は真剣な辰子さんと戦いたいんだ」

 

 空気が変わった。

 先ほどまでの流れから少しからかうような雰囲気が一気に払拭されている。

 

 「……アンタ本気かい? 死ぬよ? いつもの辰子と戦っていて勘違いしているならよしときな。アンタの想像以上だよ」

 

 そんなことを言われても、

 

 「覚悟の上だ」

 

 その上と戦う覚悟まで決めているのだ今更である。

 言いながら札束を取り出す。

 

 「これから一晩分の代金を含めて百万用意した。いつも上客を取っている亜巳さんでもこれだけあれば足りるよね?」

 

 そういって取り出したお金に本気度を悟ったのか息をのみ、

 

 「わかった、ついて来な」

 

 了承してくれた。

 

 「ありがとうございます」

 

 うん、九鬼でバイトしててよかった。

 あそこ能力給だから払いいいんだよな。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 堀の外にある工業地帯、その廃工場の一つで待っていると、ずいぶん眠そうな女性を連れて亜巳さんがやってきた。

 この女性が板垣 辰子、板垣姉妹の次女にしてその実力は壁を越えたものと言える。

 この人も実に才能に愛された人間であるが、やはり武神には及ばないであろう。

 ならば腕試しの一つとしてふさわしいではないか。

 そのあとに続いて二人ほど人が入ってくる。

 一人は見覚えがあり、小柄なツインテールの女の子、板垣 天使である。

 この子、名前の読みがエンジェルでありその名にコンプレックスを持っていて呼ぶと切れる、ブチ切れる。

 そしてもう一人はなんかさえない中年だった。

 だがその醸し出す雰囲気は――間違いない、この人も化け物だ。

 

 「そちらの人は?」

 

 「オウ、こいつらの師匠やってる釈迦堂っていうんだが、本気の辰子とやりたいなんて言うアホがいるっていうから見学に来たんだわ。まあ、今日生きてたらヨロシクな」

 

 釈迦堂……!! そう言えば川神院にはもう一人師範代がいたな、僕と接点のないうちに破門になったらしいから覚えてなかったがなるほど、この人が釈迦堂 刑部か、なるほど、強い。

 

 「そうだぜ、いつも好き勝手やってるからって調子に乗りやがって! ウチが負けておねんねしてるのを思いっきりショットしてやンからな!」

 

 うん、何て姉妹だ。

 一番の化け物である辰子さんが癒しとはこれいかに?

 

 「ん~~、あ~、高坂君だ~。本当にやるの~? 痛いのやだなぁ~」

 

 ほんわかしてる。

 非常に申し訳ないことにこの人にこれからとっても痛いことをしなくてはいけないのだ。

 ……なんかひわ、いやいや何考えてるんだ? 

 さっきの亜巳さんとの会話が後を引いてるのか?

 

 「辰子、今日は相手がお望みなんだ、真剣でやっていいよ」

 

 そう亜巳が言うと空気が変わった。

 

 「ウ……ウアアアアアアアアア!!!」

 

 突然襲い掛かってくる辰子さん。

 そうだ、これだ。

 この亜巳さんの言葉がキーになるからわざわざあんな所まで行ったのだ。

 迫りくる手、もう型もくそもない只々野生の一撃に笑みを浮かべ――

 

 ――ゴキン!

 

 「へぇ、やるじゃねぇか見誤ったか? 思い上がったガキかと思ったが」

 

 あいさつ代わりに手首を外してやる。

 速度の出ている物体は、横からの一撃に弱いのだ。

 固定された棒、骨への大きなダメージは期待できないが勢いがあるものほど軌道をずらされると大きく暴れ、繋ぎ目を破壊する。

 それを見て外野は何かを言っていたが、

 

 「ウガァァッぁぁぁ!!!」

 

 こうなった辰子さんは獣だ。

 この程度の怪我などものともしない。

 むしろ手負いの獣となる。

 ならば、

 

 「動けなくなるまでやり続けてやるよ!!」

 

 これしかないのだ。

 

 左手で来る、こちらも外す。

 外れた腕で殴り掛かってくる、肘まで届かせる余裕はない。

 ならば勢いを利用して円の動きを作り顎を打つ。

 すさまじい威力のためすべては流し切れない、夕方の一戦が響く、がまだまだ動ける。

 捨力は伊達ではない、体がきちんと動くならばまだまだやれる。

 少しは脳が揺れたようで動きの精彩が欠ける、流石に脳が揺れれば万全とはいかないのだろう。 

 それでも足が来る、好機、幾ら獣でもここをやれば格段に弱体化だ。

 精彩が欠けて揺れた動き、これなら投げられる! 振り切った瞬間を狙ってさらに跳ね上げ、上がった右足を軸に捩じりながら倒れこみ巻き込む。

 空中での移動力は格段に落ちるため大した抵抗もなくひざを折りながら倒れこむ。

 それでもまだ立とうとするが、流石にこれなら僕からも仕掛けられる。

 肩を支点にした投げ、――一番脳が揺れる小刻みな振動が頭に伝わるもの――をかけてやれば、流石にもう起き上がってくることはなかった。

 

 

 二戦目、板垣 辰子戦、白星。

 

 「っしゃあ!!!」

 

 きつかった。

 少しでも戸惑えばすぐに持って行かれる威力だった。

 夕方のダメージも加えて非常に辛い、――が

 

 「ひゅー、すげえじゃねぇか兄ちゃん。その程度の才能で辰子をやるか、舐めてたわ。それで、おじさんとも遊んでくれないかねぇ!!?」

 

 今夜はもう一戦やってやらないといけないらしい。

 

 「川神流無双正拳突き!!!」

 

 川神流師範代二人と一日のうちに戦うとか一般人には悪夢だな。

 いや、もう日付跨いだか。

 迫りくる正拳に先の辰子と同じ要領で勢いをそらす。

 が、流石に磨かれた正拳は脱と緊が絶妙で、関節を外すには至らない、しかしそれでも軌道はずれる。

 即ち、崩しの出来上がりだ。

 それならばやることは一つで投げるだけ!

 ルー先生戦で分かったことだが、やはり崩してさえしまえば柔の理からは逃れられず、化け物連中でも十分に投げられる。

 力がないということは、力では抜けられないということだ。

 

 「ぐあ!!」

 

 それを証明するように、無双正拳突きの勢いそのままに釈迦堂さんは地面にたたきつけられ、ダメージを避けられなかったようだ。

 それもそのはず。

 受け身をとれないように投げたからだ。

 受け身と言うのは、それぞ衝撃を逃すためのキーがある。

 後ろ受け身なら背の着く流れ、横なら方の入る位置、前なら腕をつく位置もしくは共通して回転に変える動きだ。

 それを、今のように腕を封じて前に叩きつけてやれば、ダメージはそのまま、むしろ倍増して届く。

 

 「ちぃ! やるねえ!!」

 

 辛そうではあるがまだやれるようだ。

 接近戦は不利と悟ったのかルー先生の焼き増しのように間合いを開けられる。

 と言うことはだ。

 

 「そんなら、こんなのはどうだい? リング!」

 

 やはり来た! 

 だが。

 

 「んな?」

 

 「伊達に夕方に撃たれまくってないんだよ!!!」

 

 もう対策はできている!

 あとは体が持つかの持久戦だ!!

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 「……はあ、負けちまったよ。才能はないはずなんだがなぁ……」

 

 突発第三戦目、釈迦堂 刑部戦、白星

 

 「あ……り……ウ……まし……た」

 

 それにしてもどっちが勝者かわからない差である。

 倒れ臥しながらもまだしゃべる余裕のある釈迦堂さんと、見下ろしながらも息絶え絶えな僕、ってもうだ……め……。

 

 そこで意識は途絶えた。

 

 「あ~あ~、無理しちまって。おい、亜巳、天、とりあえず辰子連れてこい、まず骨入れるからよ。それ終わったらこの兄ちゃんと一緒に運んでくれや。丁重に扱ってくれよ、辰子と俺に勝った褒美だ」

 

 「仕様がないね。まぁ有り余る代金ももらってるし、今日は泊めてやるか」

 

  

 聞いた話では、その時天ちゃんは、信じられないものを見たと呆然としていたらしい。




ありがとうございました。

と言うことで二連戦、辰子とはそりゃあまぁ相性いいですよね。
釈迦堂山との戦いは、武神戦のためにいいところを丸々カットです。 

アンチタグの件は見送ることにしました。
ただ、白に近いグレーっぽいので、不快に感じた方がいたらすぐに足しますのでおっしゃってください。

余談ですが、前話書いてて感じたことです
ルーてめー変換めんどくせーんだよ! 嫌いにないかけたわ!!

この作品は一人称の練習も兼ねているのでよろしければ批評をお願いします。

三人称での練習としてなろうで「妖怪って厨二病の華だと思うんだ。」という作品も連載しているのでよろしければそちらの批評もよろしくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしております。

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