命の危険がない平和を求める! 作:逃走経路
森、それは木々が密集したところを表す言葉であり、好んでその中に入っていこうとする者はいないだろう。森という言葉に林という字を付け足すと森林となる。森林となれば木々が密集している範囲が広範囲に変わる。日の光をある程度遮られ、周りの視界も良くない。そんな場所に私こと、
「理解できないことがあると驚きを通り越して冷静になるのか。全く嬉しくない発見だな、こりゃあ」
高校2回目の夏休みで初日から徹夜を決め、小腹が空いたからコンビニに向かうためにドアを開けてみりゃあなんだここ。最近はやりの異世界転移か何かですかね。でもこんな所に転移しても得どころか、人生さよならデッドエンドへ全力疾走始めそうなんだが。
こんな所に放り出されても何とかなるタイプの人間はアレだ、隠された力が解放されて無類、無敵、最強なやつになってどこぞのお姫様をお助けしてラブラブするタイプの人。
そんな力は私にはないのでどうするか。
1番、奇跡的になんかの街を発見するために適当に歩き出す。
2番、奇跡的に誰かが来るかもしれないのでゆっくりと待つ。
3番、奇跡は起こらず自ら引き起こすために強くなる。
「ふぅむ、冷静になってるようでだいぶ混乱してたのな」
口に出すと冷静の皮を被った混乱がこんにちはと顔を出して来た。おかえりください。ダメですか、そうですか。
ここ突っ立てるより少しは歩くか。きっと、もしかしたら、運が良く何かに会えるかもしれないしネ。何もしないという0より何かする1を選ぶぜ!
1を選んだ結果同じ場所におかえりして来ました。
「フザケンナ!」
方位磁針も目印も何もない状態で、こういう場所を歩くと同じ場所をぐるぐる回ると聞いたことあるけど、マジな話でした。
なぜだろう、こんな森林に来てからあまり時間は経ってないはずなのに、本当にデッドエンドへの道を全力疾走してる感覚がする。相当ヤバイ雰囲気がする。
そんな時、ナニカが正面から歩いて来る足音が俺の鼓膜を振動させた瞬間、身体中から嫌な汗が噴き出し、口内が乾き、動悸が速くなる。
俺自身の本能が命の危機を直感したのだろうか、どんどんこちらに近づいて来るのを理解すると身体が震え始め汗の量が増えていく。動悸も更に速くなり痛みのようなものを発し、身体の震えが大きくなり歯が何度も何度も細かくぶつかり合い、足音の他に俺の歯の音が響き始める。
「っはぁ……っはぁ……」
今まで呼吸をするのを忘れていたかもしれない。それともこの恐怖にやられたのかもしれない。呼吸が荒くなっているのに今更気付く。
一歩一歩、歩く音が鼓膜を震わせるごとに、ナニカが近づいて来てることを理解するごとに、恐怖が増大する。確実にそのナニカは俺の命を奪いに来ている。
「そこにいるのかな」
声が聞こえる。完全に場所がバレたのか。逃げろ、速く逃げろ、と脳が命令をする。だが、身体は恐怖で竦んでその命令を実行できない。後ろを向いて走るだけ。そんな簡単な行為ができない。後ろを向いた瞬間、死んだことも理解できずに殺されるのではないか。そう考えてしまう。だから俺は余計に後ろを向けない。
「逃げないの?」
声が聞こえる。暗闇の中からぼんやりとナニカの姿が俺の眼に写り始める。その形は人とそう変わらず俺よりも背が低い。ガタイも良いというわけではなくむしろ細いかもしれない。服装がはっきり見え始める。それは和服。なぜ和服なのかはわからないが着ていた。顔は、まだ見えない。
「ふふ」
声が聞こえる。その人の形をしたナニカがまた一歩踏み出した瞬間、恐怖が消え失せた。高鳴っていた動悸も、止まらず流れ続けていた汗も、身体の震えも、まるで最初からなかったかのように全て消えていた。
ただ1つ、残ってるものがある。それは俺の命が目の前のナニカによって奪われるということ。その奪われる瞬間はナニカが、次の一歩進んだ時だ。それがわかる。
本能は恐怖がないのだから大丈夫だと、理性は命が奪われるのがわかるのなら逃げろと、全く違う答えを出す。
どちらが正しいかなんて考える必要はない。このままいたら死ぬとわかっているなら逃げるのが当たり前だ。だが、これが間違っていて、殺されたとしてもどうせ殺される。ならば最後まで、ナニカによって命が奪われるその時まで逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、生き延びてみせる。
「あれ?」
後ろを振り返り、走り出す。地面は湿っていて少々走りにくいが、走れるのであるならば全然いい。木々が生い茂りまっすぐ走れないが、ナニカから流れるのであればいい。
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
今は生き延びることが最優先だ。遠くへ、あの場所から遠くへ、ただ、ただ、遠くへ逃げる。
「ああーあ、逃げられた。あんなにうまく逃げられたのは初めて。面白いなぁ。食べないでオモチャにするのもいいかも。それは今度会った時に決めようか。その時まで死なないでね?」
だいぶ遠くまで走っただろう。もう限界。走るのやめ。疲れ死ぬ。そこの木で休もう。あ、この木とてもいい感じ。一息一息。
「ふぅ……ってうおお、いてぇ! いや、しみる!」
汗が走ってる時についた擦り傷や枝でやった切り傷に入ってしみる。てか汗を吸い込みすぎて服が水につけて絞ってない状態並みにやべぇ。
「でも、生きてる。生き延びてる! 俺は生きてるんだ! ははっ、ははははははははは!!! やったぜちくしょう! 俺はなんてついてるんだ!」
こんなしみる痛みなぞ生きてる喜びに比べれば、へのかっぱよ。ああ、でも疲れて眠い。このまま寝たら確実に永眠してしまう。そんなことは許されん。せっかく生き延びたのに死ぬなんてことは、神が許しても私が許しません。
でも疲れすぎて動けないし、ちょっとは寝ても大丈夫。死なない。眠いから寝るんじゃない。疲れてるからその休養をするだけ。睡魔に負けたわけじゃない。徹夜しようとしたけど結局してないし。
寝て目が覚めたら自宅なんていうおいしい話はないだろうから起きた後は起きた俺に任せるぜ。それでは休養させていただく、決してただ寝るんじゃないんだからね。
誰に言ってんだろ。
「ん? 人か!? おい、 大丈夫か君! おい、おい! …………息はあるな。相当な体力を使って疲労のあまり意識が落ちたのだろう。妖怪に襲われでもしたのだろうな。よく生き延びた、よく頑張った」
寝心地いい地面だ。走った疲れも癒されるふかふかさ。身体もベタベタしてないし不快感は全くない。しかし、こんないい場所で寝ていたのだろうか。少し目を開けるか。……ああ、寝てる場所ベットじゃないか。まだ寝ててもいいよな。
「にしても、ふかふかのベットいいわぁ」
………………いや、まて。なぜベットで寝ている。なぜこんな良いところで寝ている。焦るな、焦るな。冷静に考えて助けられたと見るのが妥当だな。擦り傷や切り傷の手当てがされてるし。服も着替えてるから洗われてるのかな。周りにはなんか凄そうな機器が置いてあると。詳しくは俺にはわからん。
けど、病院のような医療施設かな。消毒液の匂いがうっすらとするような感じがあるし、そんな雰囲気もあるから大丈夫だな。
変に騒いで迷惑かけるより大人しくしていた方がマシだろう。周りには凄そうな機器が置いてあるけど何に使うんだろう。俺が病院行った時にはあんな感じなのはなかったし、それとも凄そうな機器に見えるだけで実はただの置物みたいな。
そんなことを考えているとドアが開く音がする。
「おっ、どうやら起きたようだね。身体に不調はないかい?」
腕は動く、身体も動くし、痛みもない。
「大丈夫です」
「よかった。目立った怪我もなかったから大丈夫だとは思ったけど本当に大丈夫みたいだね」
「はい。いきなりで申し訳ないんですが、聞きたいことが」
「私に答えれる範囲であれば答えるよ」
このまま話を進めても俺には理解できぬからな。ここについての状況を何も把握もしてないからな。自己紹介を始めつつ、こっちの経緯とこの場所について教えてもらうとしますか。