命の危険がない平和を求める! 作:逃走経路
「少し頭が痛いな」
これは決して2日酔いによるものではない。沢山飲んだが肝臓が強いのかそう簡単にトバなかったし、記憶の残っている。ただ、完全にハイになってたから少々恥ずかしい部分もある。
で、肝心の頭が痛い理由はツクヨミ様と永琳さんに頭を掴まれて引っ張られたから。詳しく言うと先にどっちが研究するかと言う話になった。
『じゃあ、私からやらせてもらうね』
『いえ、それは違うわ。私からに決まってるじゃない』
『待て、俺の意見を聞いてもらおうじゃないか』
『私だ!』
『私よ!』
『おーい、おーい!』
そしていきなり頭を掴まれて引っ張り合い。それこそあんなに禿げたくないといってたのに禿げるかと思うぐらいやられて、更には視界がわけわからなくなるぐらいにシェイクをされた。吐くかと思った。
痛みというより気持ち悪さが出てるのもそれが理由だろう。
「あっ、思い出したらまた吐き気が……うっ」
み……水を。水をくれ。どこぞの世紀末救世主じゃないけど普通に水が欲しい。まだ誰も起きてないみたいだし自分から汲みに行こう。
真っ直ぐ歩ける、問題ない。視界は良好、体調は不良。急ぐ必要はないからゆっくり行こう。
「水が美味い。ここは……いい」
いや、水で何を悟ろうとしてんだ俺。俺がやらなくちゃいけないのは後片付けか。と言ってもそこまで散らかってるわけじゃないし、酒瓶をまとめるだけで終わりだから苦労することもないだろ。
「片付けしてないと思った? 残念してました」
「ああ、起きてたのツクヨミ様」
「予想と違う反応。それはいっか」
「驚いてけど、それよりも頭の気持ち悪さというか痛さが優っててね」
「可哀想な宮薙くん」
「一体誰のせいだったかなぁ? あっはっはっはっは!」
「本当にねー。あははははは」
まあ、酒に酔ってるってのもあったしこの事件はなかったことにしておくことが吉か。ほっとけば治るし。
「ツクヨミ様が起きたってことは永琳さんだけかあと」
「永琳は私と一緒に目が覚めて今はお風呂に入ってるよ」
「みんな起きたのは大体一緒か」
「それで今日はどうするの?」
「今日はどうするって俺に聞くんか。仕事とかあるんじゃないのか?」
「神って言ってもいつものやることがあるわけじゃない。私のような神は象徴でもある。その象徴がいつもの仕事に追われてたら目も当てられないし、効率も悪くなる」
「ぐうの音も出ない反論」
なんだって休憩は必要か。
にしても俺のやることか。単純に考えればツクヨミ様の身の回りのことをやるべきなんだろうが、それに関して何も言われてない以上する必要もなさそうだ。言われなきゃ仕事をしないってのもおかしいが。
そう考えれば、俺のやる事は縛られてくるか、俺のためにもなり、ツクヨミ様の暇潰しにもなるもの。率直に浮かんでくるものといえば能力か。
「能力の使い方、限度を知るのって今出来たりするのか?」
「出来なくはない。あんだけ引っ剝いといて言うのもなんだけど永琳が戻ってきてからだね。あと私も風呂入りたいし、宮薙くんも入るべきだから……それが終わってからだね」
「それまで待機って感じかぁ。あ、それと1ついい?」
「なんだい?」
「そろそろくん付けはやめて欲しいかなって。ツクヨミ様は俺なんかより立場も偉いから違和感が凄いし、何よりもむず痒いのが」
「宮薙くんから宮薙かぁ。それとも鏡戸もいいかな」
なんか悩んでるみたいだけど神でありながら俺にタメ口を強制してくん付けは、下手したらツクヨミ様をめちゃくちゃ敬ってる者たちに殺されてしまうかもしれん。
「無難に宮薙でいこう。それから私の好感度が上がったら鏡戸にしてあげる!」
「そんな、恋愛シュミレーションゲームみたいな設定は一体」
「私のルートは浮気すると即死です」
「浮気しないし、そもそも人と神はまずいし、何よりもツクヨミ様には性別ないでしょ!」
「私のルートは軟禁エンドでもいいかしら」
「ヒエェェ! って永琳さんも悪ノリはやめてください!」
「これじゃあ、私と永琳の同時攻略は無理だね」
「頑張ればいけるかもしれないわよ?」
「あの、俺の話を聞いてます?」
「「聞いて無視してる」」
「あっ、そうですか」
こんなノリばっかりだけど楽しいから何1つの問題はない。でも、永琳さんもツクヨミ様も公の場に立てばガラリと変わる人なんだろうね。俺には人の上に立つと言うことが苦手でまとめれた試しがない。
だからこそこういう場で自分を曝け出すのがストレス解消とかになると思ってたんだけど、多分これが普段のノリだ。
「次私入るね。それじゃ2人で待っててね」
「おう、いってら」
なんだかんだでここにきてすぐ適応したからなぁ俺は。酒の力もあるからなんか妙に複雑ではあるがホームシックっぽくなってないのは言い澱むまでもなくツクヨミ様と永琳さんのおかげだろう。変に気を使う必要がないからそうなんだろうな。
「早速で悪いけどまたあなたの話を聞かせてもらうわね」
「技術ですか? 俺自身のことですか?」
「そうね、あなたの知ってる限りでいいから技術も教えてもらいたいわ」
「ここまで発展した技術があれば俺の方はいらないとは思うんですが」
「そうでもないわよ。技術が進歩していても作れないモノ、そもそも作ろうとは思わなかったモノだってあるわ。私達には飛べる力があるし大勢で遠くに行く必要もなかったから、飛行機のことをあなたから聞いた時には驚いたわ。技術っていうのはやりたい事を簡単に、便利にする為に使う。だから技術があってもやりたいと思わなければ作ろうともしないから」
「な、なるほど」
なんか凄いことを聞いたぜ。技術があれば何でも出来る。けど必要がなければ作ったとしてもそれは時間の無駄。作る意義が見当たらないから。それをわかってるから作らない。人生にも通ずるモノを感じる。
「そうだなぁ、こちらにあって無さそうなものと言えば……船はどうだ? 空を飛んだ時にここは内陸っぽかったから大丈夫そうだけど」
「どういうものなのかしら」
「船は海の上を人を乗せて行く乗り物で……」
そんな感じでこの世界には無さそうなものを浮かべてどんなものか説明をしているとツクヨミ様が戻ってくる。続いて風呂に入ろうとすると、ツクヨミ様が目の前で俺の服を作ってくれた。神の力を使ってのことだったが初めて使うのを見たのは興奮したが、作ったものが服であるからか微妙な気持ちだった。作ってもらう側だから何もいうことはできないけど。
そしてその風呂はとても良いものだった。ツクヨミ様が住んでいるところだからか広く、使いやすく、風呂を楽しめるものだった。
俺が戻ってくると早速能力の話……ではなく遊ぶことになった。俺がうっかりトラ○プやU○Oのことを言ってしまったのだ。知的好奇心は他の者達より強いからどんなものか聞かれ、アレヨアレヨと俺はカード作成をすることになった。結局その日はカードゲームをやって寝ることになった。
次の日は今度こそ能力の話かと思いきや永琳さんがきた理由を思い出したのだ。どうやらそれはだいぶ秘密の話とのことだったのでお一人でお留守番。その日は何かをすることなく終わった。もしも俺があの森の中ずっとボッチでいた場合発狂していたかもしれん。冗談ではなく本気でそう思った。
たった1日1人でいただけで家族のこと、友達のことを思い出して情けなく泣いてしまった、身体を震わせながら。あの時の死の恐怖でさらに泣いて震えが止まらなくなった。
帰ってきたツクヨミ様と永琳さんには泣いていたことも理由も1発でバレた。1人ではないとあやされながら優しくされた。
1人で寂しかったことで泣いていたのは嘘の尽きようのない事だ。何も言わないでくれるのは助かる。暖かい目で見るのもまだ耐えれる。だが、寝るのを一緒はやめてくれ、いや、やめてくださいお願いします。みっともなく泣いた事をバレた時点で男のプライドもへったくれもないのはわかってる。けど、けどさ、一緒はもう恥ずかしいなランクを越えてる。どこまで俺の事が心配なのさ、それぐらい1人で大丈夫だって。
悪夢を見て目を覚ますかもしれないって俺はそこまで子供じゃないやい。子守唄もいらないって。わかった、わかったからこれ以上は俺が惨めになっていくからもうやめてぇぇぇぇぇぇ。
その日の夢はとても優しい夢でした。
実は言うと主人公の精神はそこまで強くなかったりする。