μ'sに生涯の忠誠を誓った男子校があるようです   作:sigma

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 どうにか2話目。
 かぎかっこ重ね掛けが多いのは許してください。


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 ―――ここは私立安津学園。…あぁ、サイコパスの温床だ、ということは前に説明したね。

 ―――それじゃあ今日は、そんなサイコパスどもの「習性」を順に説明していこうか。

 

 

 

 僕はユウイチ。って、前にも説明したな。悪い、忘れてくれ。…いや忘れるな。

 コホン、まぁいい。今回は、この安津学園の1日を、ダイジェスト方式で振り返ろう。…ただ別に、見ても面白いものではないんだがな。むしろ気持ち悪いものなんだが。なんだ、俯瞰で見ると、また変わって見えるんだろう。ちょっとは期待して聞いていてくれ。

 

 語る気も失せる無駄に濃密な毎日の朝が終わり、始業のチャイムが鳴ると、僕らは席に着く。…半分忘れていたが、僕らは高校生だ。スチューデンツなのだ。僕ら安津学園生、きちんと勉学に励んでこその、μ’s聖騎士(パラディン)。というか、勉強できないと、我らが女神に顔向けができないだろう、普通。―――まぁ、おかげで安津学園生徒の成績は全体的に底上げされており、今年6月、安津学園2年生全員が全国成績上位400番の中に食い込むという快挙を成し遂げたのだが、それはまた別の話だ。

 あの邪教徒(たんにん)が教卓に出席簿を置いているのを尻目に、先日の席替えで運よく窓側の席を確保できた僕は、することもなくぼけっと外を見る。でも、こうしていると、どうにも集中していられるのだ。無我の境地が一番集中できる、というアレだ。しかも、クラスメイトの様々な声が、静かな耳に割とクリアに聞こえてくる。不思議なことだ。

 

 『あぁ…今日も我が女神は美しい(;゚∀゚)=3ハァハァ…ぜひとも生でお会いしたいものだ…』

 『真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん』

 『おうふ!!チクショウ、フルコン逃したじゃねぇか!!どうしてくれんだ、これよぉ!!』

 『机の下でスクフェスするテメェが悪い。しかも、海未推しか…はぁ、これだから』

 『んんwww今、我の女神を侮辱する声が聞こえましたぞwww粛清www粛清www』

 『KKEは素晴らしい!!何故日本政府はこの可愛さを法律にしない!?バカじゃないのか!?』

 『それはいいな。俺ら希派閥、力を貸すぞ。…まずは国会占拠しに行くかな、そうだな』

 『はぁ~。やー、今日もパンが美味いっ!!っていうかマジ美味い。もぐもぐもぐもぐ…』

 『かぁーっ、んな喉乾くもん飲んでんじゃねぇぞ。米を食え、コメを。おにぎり食え』

 『あっ…えっと、その…ぱぱぱパンは、ちゃんと、食べるべきだと、思う、ぞ…』

 『ほら見ろコミュ障の吉田までそう言ってんだ、ことり派はパンを食べるぞ絶対』

 『ハァ?日本人は基本的にコメが主食なんだっつーの。パンはさっさと帰れ童貞野郎(チェリー)ども』

 『凛派の首領・宇城(男の娘)がそう言うんなら仕方ねぇ、凛派閥はご飯に味方する』

 『オイ見ろ、μ’sが12月に2冊目の写真集出すらしいぞ!!公式サイトマジぱねぇなぁ!?』

 『『『詳しく聞かせろ』』』

 

 ―――うん、なんだろう。この、何を語っても「語るに落ちる」状態になるって、何だろうな、本当に…。いや、いろんな意味でフリーダム過ぎるだろうお前ら。秩序というものはないのか。もう少し先生の話を聞いてやれ。ていうか先生、最後あんたまで入って来るなよ。今の僕のツッコミが2行で破綻したじゃないか。帰れよ。

 ちなみにうちの学校は携帯禁止である。

 

 まぁいい。ここからが本番だ。この学校の変態どもの「習性」を、洗いざらい話そうじゃないか。冒頭でも言ったが、ダイジェスト方式で話していこう。なんせ、あいつらの習性を本に著そうものなら、軽く辞書が作れるからな。表題は「興味深い生物の生態」。

 ―――よし、行くか。

 

 まず授業。

 

 「はい、それじゃあ始めるぞ~。教科書176ページを開けー、ノート用意しとけよー」

 『うーす』

 『せんせーい、教科書忘れましたー』

 「普段なら廊下に立たせているところだが仕方ない。写真集発売を記念した女神様の慈悲だ。特別に俺のを貸してやろう」

 『あざーす!』

 「おい、ちゃんと女神様にも感謝しとけよ」

 『女神様、此度の慈悲、拝受できましたこと、誠に感謝致します』

 『今後一層女神様のお力となれるよう、日々邁進して参ります』 

 「よし、それでいい。それで、176ページの話だが…」

 

 あのクソうるさい朝の様子とは違い、授業風景はいたって真面目だ。先生がしゃべり、生徒は真剣に授業をノートに書き写す。時折質問を返し、質問に答え。言葉の飛び交う、まさに授業の模範となるだろう素晴らしい授業だ。ここまで生徒が真剣に聞いてくれれば、先生冥利に尽きるだろう。たぶんここだけ見れば優良児の集まりとさえ呼べるかもしれない。

 

 「…よし、これは分かったな。じゃあ次は、日本神話の話でもするか」

 「えー、おもんねぇよー!!」

 「スクフェスしたい…」

 「音ノ木坂行きたい」

 「あーもうお前ら静かにしろ。俺がすると言ったんだからするんだ。異論は認めん」

 「コイツ横暴すぎんだろ。よく教師出来てんな…」

 「おい宇城、なんだ、文句あんのか?」

 「「「むしろ文句しかねぇよ」」」

 「お前ら…!―――チッ、しゃあねぇな。別の話にするか」

 

 …すまん、優良児じゃあないな。随分と反抗的だったな。まぁ、先生と生徒の距離が近い、ってことで納得してくれ。僕からのお願いだ。

 こんな風に、多少道がそれることがあっても、授業はつつがなく進行する。全員400番以内は伊達ではない。勉強は日々の授業の積み重ねというだろう。まさにそれだ。先生にかみつくことはあっても、学級崩壊は起こさない。それが僕ら。

 ―――まぁ、少しの難点があるとすれば。

 

 「…じゃあ、世界史上最も素晴らしい神話である、ギリシャ神話の話をしようか」

 『『『『『――――――』』』』』

 「ヘシオドスの『神統記』によれば、我らが女神の母体たる『ムーサ』は、天空神・ゼウスと知恵を司る女神・ムネモシュネとの間に生まれた9柱の芸術の女神を指す。彼女らに魅入られた瞬間、人間は詩人になる、とまで言われた素晴らしき女神たちだ。素晴らしき詩を詠む詩人は、彼女らが詩人の口を借りている、ともな」

 『『『『『つまり我らが女神は』』』』』

 「―――そう、神の子だ」

 『『『『『神の子!!!』』』』』

 「その名はカリオペ・クレイオ・ウラニア・メルポメネ・タレイア・エラト・エウテルペ・ポリュムニア・テルプシコラ。我らが9対の女神様(ミューズ)には、彼女たちの魂・想い・記憶がそれぞれ受け継がれている。けして我らと同じ人間というわけではない」

 『『『『『つまり我らが女神は』』』』』

 「―――そう、神の子らだ」

 『『『『『神の子!!!』』』』』

 「そう。神の子らなんだ!!!」

 『『『『『あぁ、女神様、その深き慈悲、麗しきお姿、尊き才に、我ら生涯の忠誠を誓わん!!!』』』』』

 

 どの授業でも、このギリシャ神話のやり取りが必ず繰り返され、生徒全員が「進○の巨人」における忠誠のポーズで2分間黙祷するくらいか。でも大丈夫だろう。毎日7時間、きっちりこれをしていると、だんだん慣れても来る。僕ら安津学園、μ’sに対する忠誠は1秒ごとに1.5倍になっていくのだ。この儀式を経ずして、この学校には通えない。

 …あぁ、その視線は分かっていた。「変態」と罵られても致し方ないさ。実際僕ら、客観的に見たら気持ち悪いしな。分かっていたよ!変える気はないがな。

 話を戻そう。

 

 1つ、特異点を挙げるとするなら、体育の授業か。

 この授業だけは、他の座学とは違う、特別な授業を行うことはある。各授業ごとに上の儀式を行うのはもちろんだが、それだけでなく、もうひとつ違った授業形態をとるのだ。たぶん、他の学校には絶対にない。僕らだけの専売特許だ。むしろここ以外の学校にあったら僕は軽く殴り込んでいるだろう。

 その授業は4月の後半・11月の中旬に2回やって来る。

 『特別体育』と銘打ったそのカリキュラムは、生徒全員が体育館に集められて行われる。

 目の前に巨大なプロジェクターとスクリーン(ちなみに質は最高級)。

 クラスごとではなく、()ごとに集まっている状況。

 多種多様の「()()()」を携えた生徒。

 

 『―――皆さん、こんにちわ!!私たち…μ’sです!!』

 「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!女神様ァァァァァァァァァァァ!!!!!!」」」」」

 

 ―――そう、実際は楽しい楽しい、μ’sのLIVE。

 正確には、3月()8月()に「研修旅行」としてμ’sのライブに赴いた、倍率30倍超の審査を勝ち抜いた一握りの生徒が、ライブ会場で許可を得て至近距離から撮影した至高の映像を、安津(うち)が誇るスーパースター・映像研究部が編集、ディレクターズカットを加えたもののお披露目会だ。これだけ聞くと総合、行事とも聞こえるが、ここにいるだけでフルマラソン並に体力を使うため、授業の中では体育に分類されている。

 これはもう最高だ。生徒・先生共に、一丸となって取り組むことでチームワークも高まり、新入生には安津(うち)流の歓迎を受け、ここの校風に染まることも出来る。そして、僕ら一般生徒は、女神様のリアルなお姿を見ることが出来るのだ。

 建前も本音もメリットしかない。これはすごいことだと思わないか。

 学校行事に付きまとう永遠の課題・「出るのが面倒くさい」がないのだ。

 先生にも生徒にも、ひいては学園運営にもよし、まさにWIN-WINの関係性だろう?

 え、違う?…ノリがキモい?変態集団?…それは置いておこうか。

 

 

 

 さて、そんな愛すべき聖騎士(パラディン)たる僕らだが、昼休みは少し違う。

 そうだ、次はこの昼休みの話をしよう。「安津の13時」、その時間、僕たちが何をしているか。

 

 「おっしゃ昼やーー!!!何食う!?ラーメン!?」

 「凛派閥本当にラーメンしか食わねぇな…生きるの大変そうだ…」

 「激しく同意、略してはげどー」

 「おいことり派閥変な略し方すんじゃない」

 「「「購買へGOだ!!!」」」

 「「「米研ぎ、いっきま~す!!!」」」

 「穂乃果派も花陽派も炭水化物しか食ってない件について」

 「ありゃ知らん…はぁ、まぁいいや。俺は弁当でも食うか」

 「出たよ、にこ派閥の手作り弁当」

 「文句あんのか、あぁ、テメェ?3枚におろされたいか?」

 「「「怒るの早いわ」」」

 

 12時50分。4限目が終わり、晴れて授業から解放された僕らは、思い思いに昼休みを過ごし始める。席で飯をかき込む奴、先生と口論する奴、購買へ走る穂乃果派、電気ケトル持参の凛派、米を研ぎ始める花陽派など、様々だ。まともな昼過ごしてる奴ほとんどいないな。名物風景:「昼休憩に調理室で米を研ぐ生徒」なんて学校、僕はここ以外に知らないぞ。あと、炭水化物率高すぎな。

 …僕?僕は団本部へ行って飯をかきこむ生徒のひとりだ。エリーチカ先輩の写真だけで白飯5杯は余裕でいける。ほら、僕は十分まともだろう?

 

 ―――まぁ、こんな協調性皆無の僕らでも、13時までには必ず昼飯を終える。

 何故って?安津(うち)の2番目の()()があるからな。しかも欠かせない奴が。それに今度のは2分じゃない、1()5()()だ。

 

 12時59分。10分前とは打って変わり、全員が席について静かに時を待っている。それはさながら彫像のように、一ミリも動かず、一言も口にせず。不気味だろう?だが、これが僕らの毎日のルーティンなんだ。批判は勘弁してくれ。

 ―――12時59分から鳴っている時報が、止まった瞬間が今日の儀式のスタートだ。

 13時00分00秒。何もしなくても、ひとりでにテレビに電源が入る。

 

 『―――時は来た』

 

 テレビの画面の中で喋るのは、安津学園校長・府川(ふかわ)。最近ますます肉がついて、なんだか()ってきたのではないかと評判の先生だ。…ひどいダジャレですまない。

 仰々しい喋り方で僕らを圧倒する彼に、僕らもまた、敬礼で応える。

 

 『今こそ、我らの団結力を見せる時ぞ!!』

 「「「「「応ッ!!!!」」」」」

 

 掛け声と同時に、校長が姿を消し、この学園の生徒会長・大森が姿を現す。漆黒の髪をワックスでしっかりと固め、かっちりと制服を着こなす彼は、生徒の模範たる生徒会長。胸にきらりと光るバッチがそれを物語っている。ちなみに彼は絵里推し、僕の同志だ。

 彼はテレビの前で一礼すると、僕らに向かって一言、呼びかける。

 

 『総員。訓戒…復唱ッ!!!!』

 

 刹那、吼える。一糸乱れず。天の果てに届けと言わんばかりの声で。

 

 ひとつ。

 

 「「「「「μ’sは数多の中枢なり!!!」」」」」

 

 ふたつ。

 

 「「「「「μ’sの幸せは我らの幸せ!!!」」」」」

 

 みっつ。

 

 「「「「「常に何事にも本気であれ!!!」」」」」

 

 よっつ。

 

 「「「「「グッズに傷をつけるべからず!!!」」」」」

 

 いつつ。

 

 「「「「「μ’sを穢す者には粛清を!!!」」」」」

 

 むっつ。

 

 「「「「「抜け駆けは最大の禁忌なり!!!」」」」」

 

 そして―――ななつ。

 

 『『『『『その眼に、奇跡を、焼き付けろッ!!!!』』』』』

 

 7つの大事な訓戒に縛られ、守られる僕らは、志等しく、拳を高く、叫ぶ。

 

 「「「「「WE ARE THE KNIGHTHOOD(俺たちは聖騎士だ)!!!」」」」」

 『我ら女神を支え、女神を守り、女神を讃え、女神を愛する者!』

 「「「「「WE ARE THE SERVANTS(俺たちはしもべだ)!!!」」」」」

 『我ら女神と共に在り、女神と共に生き、女神と共にゆく者!』

 

 相変わらずどこか中二病臭い、契約の文言みたいな文章を、僕らは臆することなく大声で叫ぶ。みんな自分の出せる最大音量だ。肚の底から、音ノ木坂に届かんという声だ。そこに羞恥はない。というかこの場合、恥ずかしがった奴のほうがむしろ冷遇される。周りが大声を出してるんだ、そこで一人だけ声を出さずにいるなんて、ノリが悪すぎる。まして、ここは「加減を知らない団結」が売りの安津学園。

 

 ―――今叫ばずして、いつ愛を叫べるのか。

 

 『アイドルは、好きかぁ――――――――――――――――っ!!!!!』

 「「「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」

 『μ’sを、愛してるかぁ――――――――――――――――っ!!!!!』

 「「「「「おうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」

 『大好きな人たちに、会いたいかぁ―――――――――――っ!!!!!』

 「「「「「そうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

 『真の女神は、』

 「「「「「μ’sにありぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」」」」

 『世界は全て、』

 「「「「「μ’sが回すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」」」」」

 

 コール&レスポンス。液晶の中の生徒会長の一言(コール)に、僕らは無条件反射で反応(レスポンス)を返す。…はたから見れば、ふざけているようにも見えるだろう。というか事実ふざけている。先生だっているしな。いわば公認の大フザケだ。

 ―――でも、僕らは真剣だ。これが当然なんだから。訓戒の3条を見ただろう。

 僕らは、μ’sがやってきたように、何事にも本気でぶつかるだけ、それだけの話だ。

 

 『―――さぁ、今日も一曲、行こうじゃないか!!!』

 

 そしてμ’sの曲がランダムで1曲流れ、僕らはそこで200キロカロリーほどカロリーを消費して、とても濃ゆい昼休憩を終える。かかる時間はおよそ15分。昼休憩の実に3分の1を詰め込んだ盛大な儀式である。おかげで、僕らの団結力は日ごとに上昇している。先生も含めて。―――強烈な副作用・依存性があるのが難点なんだが。毎日毎日していると、これをしないと落ち着かなくなるんだよ…。休日のときでも、13時になると踊り始めそうになるのだから。僕らは末期精神病の患者なのか。アスペなだけかもしれないが…。

 は?…曲が流れている時の僕らか?そんなもの。別に聞きたくもないだろう…。聞いてても鬱になるだけだぞ。止めておけ。

 

 …とまぁ、毎日の午前中はこんな感じで過ぎる。なんだこれ。

 ―――あぁ、ここまで聞いて、この学校に入りたいと思った奴は、今すぐ僕のところに来い。そいつは確実に僕らと同族だ。一緒に女神様にお仕えしようじゃないか。

 μ’sファンじゃなくても大丈夫だ。僕らは来る者を拒みはしない。ただ染めるだけなのだから。

 

 

 

 




 ちなみに作者はこの学校に通いたいです。
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