『人の気持ち考えてよ!』
明るい茶髪の彼女が言う。
考えたさ。
考えて考えて、考えた末の行動だった。
これ以外に思いつかなかったんだ。
なら教えてくれよ。
どうすれば良かったんだ。
相反する依頼を解決する、たったひとつの冴えたやり方って何だったんだ。
『貴方のやり方……嫌いだわ』
嫌いならなんで止めなかった。
なんで、手伝おうとしなかった。
確かに、お前は違うクラスで、恋愛事とか得意じゃないかもしれない。
それでも、何か、何かしてくれたって良かったじゃないか。
それに、お前は俺のやり方を見てきたはずだ。
だったら今回だってこうなるって、お前なら予測することぐらい出来たんじゃないのか。
もう、分からない。
何が何だか。
何が正しくて、何が間違ってて、何が偽物で、何が本物なのか。
もう分からない。
『もう彼には……来て欲しくないわ』
あぁそうか。
間違ってたのは。
俺なんだ。
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ーーー
ーー
ー
「………小町には置き手紙も残したし…おふくろにも貯金から引き下ろした全額置いてきた…もう……思い残すことなんてない」
橋の鉄骨の上に登る。
下を見ると、川が流れてる。
川の深さは多分、俺の膝辺り、ひょっとしたらそれよりも浅いかも。
その川を、鯉が泳いでる。
ここから飛び降りたら楽になるのだろうか。
「……まぁ、なんでもいいや」
どうせ間違ってるのは俺なのだから。
手を広げ、体を前へ傾ける。
体が風を切るのを感じる。
そしてそっと目を閉じる。
次に目を覚ますのは、川の石に頭をぶつけた時だろう。
それまでは目を開けない。
死ぬ時くらいは、現実から目を背けたって誰も文句は言わないだろうし。
その時だ。
あの懐かしい『聲』がしたのは。
「ぁめぇっ!!」
それと同時に横から何かがぶつかってきた。
俺の体は前ではなく、後ろに落ちていく。
硬い、コンクリートの道へ。
「痛ッ……誰…だよ」
目を開けるとそこには、栗色にも似た茶色の髪が目に入った。
女の子特有というのだろうか、甘い匂いが鼻をつく。
俺は、目を見開く。
そこにはかつて自分が拒絶した少女がいたから。
「ぁめぇっ!!」
耳の聞こえない彼女が、拙い言葉で必死に俺に何かを伝えようとしてたから。
彼女の細い指が、俺の服をシワになるくらい掴む。
むしろ痛い位に。
「ぁめぇっ!!」
彼女は何度も同じ言葉を繰り返す。
その目に涙を浮かべながら、何度も、何度も。
「ほぅしてえ!!」
彼女は俺の胸板を叩く。
そんな彼女を見てると、何故だか心が痛む。
「ひんじゃぁめぇっ!!」
「ぃきはやくん!!」
何故。
小学校六年の頃から会ってもいないような彼女に言われたぐらいで、何故こんなにも心が痛むのだろう。
「西宮……硝子…」
何故、彼女は、俺のことを覚えているんだろう。
最低なやり方でしか彼女を救えなかった俺の事を。
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ーーー
ーー
ー
「……おまえ……西宮硝子か?」
「………?」
俺が口でそう伝えるも、彼女は頭にはてなを浮かべてるだけ。
そうだった。
彼女は耳が聞こえなかった。
しぶしぶ、俺は鞄の中からノートを取り出しそこに先程言った内容を書き込み、彼女に見せる。
「……!?……!!」
すると、彼女は数秒ほど固まり、次の瞬間にはあかべこもここまでは振らないだろうと言えるほど首を縦に降る。
「あっ、そうだ……これ」
ノートを取り出した時に、たまたま見つけた水に濡れてしまったのか、すこしくしゃくしゃになったノートを取り出す。
「……ッ!?」
そのノートをみて彼女は目を見開き、ノートと俺の顔を交互に見る。
「それ……たまたま見つけてさ……返すのに何年もかかっちまったけど……って言ってもわからないか」
彼女はノートを腕の前で抱きしめながら頭を下げてくる。
ありがとう。とでも言いたいのだろうか。
そして、俺は彼女にあの部屋で『彼女』に言おうとしたことと同じ事を唯一覚えてる手話に載せて言う。
『俺と友達になりませんか?』
これは、耳が聞こえない彼女と。
目の腐った捻くれた俺の物語