魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~   作:サニーブライト

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お久しぶりです。
気が付けば通算UA5000突破しており皆様に感謝です。

昨日から各地で異常なほどの大雪でしたが皆様どうでしたか?

さて今回はソウルジェムの秘密を知った一同がどうなるのか
どうぞお楽しみください。


――OP『コネクト』――



第8話『悲劇の人魚姫』 Aパート

 

 

~~早朝・公園~~

 

 

 

「はっ、はっ…」

 

スズメ達が鳴く見滝原の朝。松風天馬は一人、早朝ランニングをしていた。マミの家から少し遠くなった思えるほど走った辺りで遠くの方で昨夜さやかと杏子が決闘しそうになった鉄橋が目に入る。

 

「………」

 

天馬は足を止め、鉄橋を見つめる。体が温まったことで額から一筋の汗が流れ、顔色も少し熱を持って自分を照らす朝焼けの様に赤くなっていた。しかし表情はその晴れ晴れとした朝焼けとは裏腹に雲がかかったように暗いものだった。

 

 

 

 

 

 

~~昨夜・鉄橋~~

 

 

 

 

「騙したのね…」

 

ソウルジェムの秘密を知ったさやかがキュゥべえに詰め寄る。ソウルジェムが魔法少女の魂だということが判明しマミとまどかはスカートの端を掴み、杏子は歯を強く食いしばり、ほむらは目を閉じて無表情で、雷門一同は彼女たちを心配すると同時にキュゥべえに失望の眼差しを向ける。

 

「僕は魔法少女になってくれときちんとお願いしたはずだよ。事実、その対価として君たちの願いを叶えてあげたじゃないか」

 

「なんでそんな大事なことを言わなかったのよ!」

 

「訊かれなかったからさ。知らないままでも別に不都合は無いからね」

 

「不都合は無い、だと…!?体から魂を切り離されて、良いはずがないだろう!」

 

神童は怒りに悲しみを混ぜて怒鳴りつける。

 

「その質問は矛盾してるね。そもそも君たち人間は、魂の存在なんて自覚してないんだろう?」

 

キュゥべえは天馬たちの頭から胸元にかけて視線を向ける。

 

「君たち人間は頭や胸の中に魂があると言われているけど、そこには神経や体の循環機能の中枢しかなく、人間たちの間でも信憑性は低い。そのくせその部分が損傷すると精神と共にすぐに命を失う。僕は魔女との戦いでその部分が傷ついても精神力ですぐ直せるように魂を安全な形で保護できるようにしたまでだよ」

 

「大きなお世話よ…!そんな余計なこと、頼んだ覚えはないわよ!」

 

さやかは唇を噛んで反論する。

 

「そうだよキュゥべえ!今すぐさやかさんたちの魂を元に戻してよ!」

 

「それは出来ないよ、信助。一度ソウルジェムとして切り離した魂は僕でも元に戻すことは出来ない。魔法少女との契約でもしない限りね」

 

「そんな……」

 

「それに君たちは戦いというものを甘く見すぎてるよ」

 

するとキュゥべえはさやかの足元に置かれた彼女のソウルジェムを軽く踏みつける。

 

「うぐっ…!」

 

「さやかちゃん!?」

 

さやかは突如苦しみだし、その場で倒れて腹を押さえていた。

 

「ぐ、あぁ…!!」

 

「さやかさん!?どうしたんです!?」

 

天馬たちが慌てて駆け寄る。

 

「これがお腹を槍で貫かれた痛みだよ、さやか」

 

そう言うとキュゥべえはさやかのソウルジェムから手を放す。

 

「はあ…はあ…」

 

それと同時にさやかも肩で息をしながらゆっくりと起き上がる。

 

「どうだい、これが本来の痛みだよ。さやか」

 

当然であるかのように冷静に話すキュゥべえ。

 

「君が何故佐倉杏子との戦いで彼女の槍を何度も受けていたはずなのに生き延びることが出来たと思う?それはソウルジェムによって君の痛覚がある程度遮断されていたからだよ。これもソウルジェムとして魂が肉体から分離していたからできた芸当だよ」

 

「何が芸当だ!人の魂を弄びやがって!この野郎…!」

 

「やめてください!」

 

「水鳥ちゃん落ち着いて!」

 

キュゥべえに殴りかかろうとする水鳥を葵と茜が押さえる。

 

「離せ!この野郎をボッコボコにしねぇと気がすまねぇ!」

 

「落ち着いてください!今キュゥべえを痛めつけてもなんにもなりませんよ!」

 

「………チッ!」

 

葵の言葉で水鳥は舌打ちしながら上げた拳を降ろす。

 

「まあ、慣れてくれば痛覚を完全に遮断することも出来るけど、動きが鈍るからあまりお勧めはしないね」

 

何事もなかったかのようにただ淡々と話し続けるキュゥべえ。

 

「何でよ…?どうしてあたしたちをこんな目に…?」

 

さやかはキュゥべえを睨みながら顔を歪ます。

 

「どうして―――?」

 

キュゥべえはいつもの調子で答えた。

 

「戦いの運命を受け入れてまで叶えたい願いがあったんだろう?それは明らかに叶ったじゃないか」

 

その後、重苦しい空気にまま自然とバラバラに解散していった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「キュゥべえ……友達だと思ってたのに……」

 

天馬は哀しげに空虚な空を見上げる。昨夜マミの家に帰ってからもマミは葵たちが作った夕飯にも手をつけず部屋に引きこもり、今日もいつも起きてくる時間になっても出てこなかった。誰よりも長く自分の側にいた存在に裏切られた心の傷は天馬たちの想像以上に深かったようだ。

 

「やっぱりマミさん、ショックだろうな……まどかさんやさやかさんたち……大丈夫かな…」

 

 

 

 

 

~~同時刻・さやかの家~~

 

 

 

「これが…あたしの本体…」

 

夕べの事で一睡もできなかったさやか。今はベッドの上で布団にくるまり、その中で淡く輝く青いソウルジェムを見つめていた。

 

「こんな体にされて………あたし、恭介にどんな顔で会えばいいの…」

 

さやかもまたマミ同様、一人で塞ぎこんでいた。

 

(いつまでもウジウジしてんじゃねーよ、ボンクラ)

 

「!」

 

突如頭の中に声が響き、さやかはベッドから飛び上がる。そしておもむろに窓のカーテンを開けると、外の通りで紙袋に入ったリンゴの一つをかじっていた杏子がいた。

 

(ちょっと話がある。ついてきな)

 

「………」

 

 

 

 

~~廃教会~~

 

 

 

さやかが連れてこられたのは杏子と剣城が出会った教会だった。橙色の朝焼けが壊れた壁や割れたステンドグラスの隙間からこぼれ出ていた。二人が外れた扉から教会の中心まで入ると杏子は持っていた紙袋からリンゴを取り出す。

 

「食うかい?」

 

それをさやかに手渡す。しかしさやかは受け取りはしたものの口に運ばず、

 

「…いらない」

 

そう言って投げ捨てる。その直後、杏子は紙袋を置いてさやかの胸倉を両手でつかみあげる。

 

「ぐっ…!」

 

「食い物を粗末にすんじゃねぇ…!殺すぞ…!」

 

杏子は睨みを利かせながらただならぬ殺気を放つ。やがてさやかが苦しそうにしているのを見るとその両手を放して解放する。

 

「ゲホッ、ゲホ…」

 

杏子は両膝を地面に着けながら咳き込むさやかをよそに投げ捨てられたリンゴを拾って階段上のボロボロの教壇まで足を運ぶ。すると杏子は語りだした。

 

「ここは―――あたしの親父の教会だった」

 

「え…?」

 

「あたしの親父はこの教会の神父をしていた。馬鹿みたいに正直すぎて優しすぎる人でさ。新聞の記事を見るたびにどうして世の中は良くならないのかっていつも涙を流していたよ。真剣に考えすぎて、ある日時代を救うには新しい信仰が必要だって言いだしたんだよ。だけどさ、それがいきすぎて教義に無い事まで説教するようになったんだ。それが原因で本部から破門され、信者も寄り付かなくなった。」

 

杏子はここで一息入れ、憂い募らせるように俯く。

 

「当然さ、傍から見たらただの胡散臭い新興宗教だもの。当たり前の事を言ってても、世間からしたら鼻つまみ者さ。あたしたち家族は信者たちからの少ないお布施でなんとか生活できていた。それが途絶えてあたし達は食うモノにも困っていた。あたしは悔しかった。父さんは何も間違ったことを言ってないのに誰も聞き入れてくれないのが。だからあたしはキュゥべえに願ったんだよ。『みんなが父さんの話を聞いてくれますように』って」

 

「!」

 

その瞬間さやかは理解した。彼女も自分と同じ『誰かのために願いを叶えた』魔法少女だと。しかし、話の中の杏子と今の杏子の人物像が明らかに違っていた為、もう少し耳を傾けることにした。

 

「願った翌朝、父さんの説法を聞かせて欲しいと数多くの人たちがウソのように集まった。父さんもやっと自分の思いが通じたって大喜びしたよ。そのおかげでお布施が増えて生活も楽になった。そしてあたしは晴れて魔法少女の仲間入りさ。いくら父さんが説教しても、人々を脅かす魔女はいなくならないからな。あたしは意気込んでいたよ。父さんとあたしで表と裏から人々を救うんだって」

 

「じゃあ、マミさんと出会ったのも…」

 

「ああ、ちょうどその頃だ。正義の魔法少女としてやっていたマミと一緒に魔女退治を始めたのは。二人で魔女や使い魔から人々を守るって張り切っていたんだ」

 

寂しそうに語る杏子の姿を見て、さやかはその当時の杏子とマミが楽しそうに笑いあう姿を想像する。想像の中の二人は本当に信頼し合っているように幸せそうな笑顔だった。そんなイメージを浮かばせることができたのは今の自分が当時の杏子と同じ状態であったからかもしれないとも思った。しかし、今の寂しそうな杏子の姿がさやかを今の現実に戻す。

 

「だが、今にしてみれば浮かれていただけだったけどな」

 

「……え?」

 

「ある日、親父にカラクリがばれた。ここで魔女が現れたんだよ」

 

「…!」

 

「魔女を退治していたところを見られたんだ。あたしは隠してても仕方ないと思って全部打ち明けた。親父ならわかってくれると信じてな」

 

「………」

 

「だが…親父はブチ切れたよ。信者たちは心から親父の話を聞きたがっていたんじゃなく、あたしの魔法で聞いていただけだったことに絶望しあたしを悪魔と契約を交わした、人を惑わす魔女だって罵った。笑えるよな、こっちは毎晩本物の魔女と戦っていたって言うのに。まあ、今となってはキュゥべえは悪魔みてぇなもんだったけどな。それから親父は説法することもやめて酒浸りになっちまった。その果てには教会に火を放って一家心中さ。あたしを残してね」

 

「………」

 

杏子の話を聞き終えたさやかはなんとも言えない気持ちになっていた。自分が嫌っていた魔法少女にそんな悲しい過去があったなど想像もしていなかったのだった。

 

「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ。この教会の様に。」

 

さやかは改めて教会を見渡す。今にして思えば、あちこちの焼け跡や壁のひび割れは杏子の凄惨な痛々しい過去の傷痕だった。ひととおり見渡すとさやかは何気なく聞く。

 

「……家族が死んだ後、マミさんに相談しなかったの?同じ家族を亡くしてたマミさんに…」

 

「…はあ?何言ってんだよ!家族を亡くしたつっても、事故で失うのと、自分のせいで死なせるんじゃ全然違うだろが!」

 

杏子は逆鱗に触れられたように怒鳴りつけ、さやかはビクッと体を震わせて黙ってしまう。

 

「………」

 

しかし直ぐに杏子も自分を落ち着かせるように深呼吸をする。

 

「……わりぃ。取り乱した…マミも同じことを言いやがったから…」

 

「ううん…あたしも余計な事を言ったから…」

 

二人が落ち着きを取り戻した頃、杏子は後ろを向いて紙袋から新しいリンゴを取り出す。

 

「そう…あたしのせいで親父が絶望し、家族もみんな死んじまった。他人の都合を知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、結局、誰もが不幸になった」

 

杏子は物悲しそうにリンゴを見つめる。

 

「その時、心に強く誓ったんだよ。もう二度と、他人の為に魔法を使ったりしない。この力は自分の為に使い切る、って。奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」

 

杏子は皮肉るように笑う。

 

「だからあたしはこんな体にされたってわかったところでそれはもう大したことじゃないんだ。くだらないことに大事な願いを使った自業自得の人生だと思ってるからさ」

 

「自業自得の人生……」

 

「そ、だからあんたも魔法少女になったからには開き直って好き勝手やればいいのさ。自業自得の人生を」

 

「………」

 

杏子の言葉に少しだけ考え込むさやか。しかし彼女には一つだけわからないことがあった。

 

「自分の事だけ考えているあんたが、どうしてあたしにそんな話を?」

 

「あんたはあたしと同じ間違いから始まった。これ以上後悔する生き方をするべきじゃない。対価としては高すぎるモンを支払っちまってるんだ。これからは釣銭を取り戻すことを考えなよ。」

 

「あんたみたいに…?」

 

「そうさ、あたしはもうわきまえてるけど、あたしは今も間違え続けてる。見てられないんだよ…そいつが」

 

さやかはようやくわかった。彼女がここに連れてきたのは魔法少女としての始まりが同じだった自分を励ますためだった。あんなに悪ぶっていたのも、過去に負った心の溝を埋めるための行動だった。彼女も本当は誰かの事を放っておけない深い優しさを持つ少女だったのだ。

 

「あんたの事、誤解してた。それはゴメン、謝るよ」

 

さやかの謝罪に杏子は一瞬自分の考えを理解してくれたのかと思った。

 

「でもね、あたしは人のために祈ったことを後悔してない。その気持ちを嘘にしないために後悔しないって決めたの。これからも…」

 

さやかはまっすぐな瞳でそう宣言した。

 

「なんであんたは…」

 

「あたしは高すぎるモノを支払ったと思ってない。この力は使い方次第でいくらでも素晴らしい物にできるはずだから。マミさんみたいに大勢の人を救えるようにね」

 

「…!」

 

さやかの固い意志に杏子は顔を歪ませ、その赤い髪を教会の隙間から吹いた風がなびかせる。

 

「それからさあ、あんた。そのリンゴはどうやって手に入れたの?お金はどうしたの?」

 

「こ、これは盗んだものじゃねえよ!あいつが買ってくれたもんだ!」

 

杏子は一度手に持ったリンゴを見てから反論した。

 

「あいつって剣城のこと?知ってた?そのお金、マミさんが剣城に渡してくれた分も入ってるんだよ」

 

「!?」

 

「その様子だと知らなかったみたいだね。やっぱり昔の弟子は放っておけないみたい。あたしはそんな優しくて素敵なマミさんみたいになるって決めてるから」

 

「…!~~っ!」

 

さやかはそう言うと出口に向かって歩き出し、杏子はさやかの頑固さに唇を噛む。

 

「バカヤロウ!あたしたちは魔法少女なんだぞ!他に同類なんていないんだぞ!」

 

自分の思いが伝わらず、激情にまかせて咎めるように叫ぶ杏子。

 

「あたしはあたしのやり方で戦い続ける。それが気に食わないって言うならまた殺しにきても構わない。あたしは負けないし、恨んだりもしない」

 

「~っ!」

 

さやかは振り返る事もなく教会を出ていってしまった。杏子は悔しそうに手に持ったリンゴを強く握りしめる。しかし食べ物を粗末にしない彼女はそれを地面に叩き付けることもなく、さやかの姿が見えなくなるまでやけ食いするようにリンゴを貪った。

 

 

 

 

 

「………」

 

仲違いしたまま別れた二人は教会の外側の壁に寄りかかって話を聞いていた剣城の存在に気付くことはなかった。

 

(彼女の決意は固そうに見える…だがあれは意地を張って一人で突っ走ってるだけだ。もしあの決意が揺らぐようなことがあれば……)

 

剣城は脆く崩れやすいさやかの意志の本質を見抜き、危惧する。

 

(それにしても……あのとき感じた雰囲気から何かあると思っていたが…)

 

剣城は悔しそうにリンゴをかじる杏子を一度見てから視線を空に向ける。

 

(やはり、彼女は……俺と―――)

 

剣城は目を細めながら静かな空を見上げる。その瞳は何かを憂いているようだった。

 

 

 

 

~~朝・見滝原中学~~

 

 

(ソウルジェムの秘密が知られてしまった……これでは美樹さやかがこれまでの様になってしまうのは時間の問題ね……今回はあのイレギュラー達のおかげで生き延びた巴マミもこの現実に耐えられるかどうか……)

 

見滝原中学の廊下で一人何かを考えていたほむら。

 

「ほむらちゃん……」

 

ふと後ろに振り返ると見知った人物が立っていた。

 

 

「まどか……」

 

 

 

 

 

~~放課後・河川敷~~

 

 

 

「いくよ!信助!」

 

「うん!」

 

雷門一同は今日も河川敷で練習していた。

 

「………」

 

私服のマミが河川敷の端に設置されたベンチに座りながら練習を見ていた。彼女は昨日のショックが抜けず今日は学校を休み、引き籠っていた。今は葵たちに誘われて午後から天馬たちの練習を見ていたのだった。

 

「マミさん……やっぱり元気ありませんね…」

 

「気晴らしになるかと思って連れ出したんだが、あんまり効果は無かったか………」

 

葵はマミを心配し、水鳥は失敗したかと頭を掻く。

 

「神童先輩、いきますよ!それっ!」

 

パスッ

 

「あっ」

 

神童が天馬からのパスをトラップミスする。神童も朝から調子が悪く、このような基本的なミスが目立っていた。

 

「神サマもいつもの調子じゃない………」

 

茜が心配している中、トラップし損ねたボールはマミの足元に転がる。

 

「すいませ~ん」

 

「はい」

 

「ありがとうございます」

 

ボールを信助に手渡すマミ。しかしその表情にはいつもの柔らかな微笑みは無かった。

 

「「………」」

 

ソウルジェムの事で深く落ち込むマミに信助も顔を曇らせる。

 

「あの、マミさん………」

 

「信助くん、心配してくれる気持ちは嬉しいわ。でも…今の私はこんなに小さなものなの」

 

指輪形態のソウルジェムに触れるマミ。

 

「信助くん…私ね。自分の命を救ってくれたキュゥべえに心から感謝していたの。でも、あの子がしてくれたのは私をこんな人間まがいの身体にしただけだった…」

 

マミの脳裏に事故の記憶が蘇る。あの時は願い事を考える余裕もなく、自分の命を助ける事しか頭になかった。しかし、どんな願いを叶えようと待っていた結果は変わらなかった。

 

「私、わからなくなったの……あの時自分だけが助かって良かったのか…あの時お父さんたちと一緒に死んでいれば良かったかなって。そうすれば、たった一人で戦い続けることも、こんな裏切られる悲しみを味わう事も無かったかもしれないって」

 

「マ、マミさん…」

 

「こんな………人間じゃなくなって、私が生きたいって願ったのは何だったのかしら……それともこれは私が自分一人だけ助かった罰なのかも…」

 

「そんな……っ!」

 

マミの手に雫が落ちる。信助が顔を上げるとマミの目からそれまで堪えていた涙があふれて出ていた。

 

「私が魔法少女になった事に…意味なんて無かったのかな……今の私が生きている事に意味なんてないのかもしれない……ううっ…うっ…」

 

マミは震える声で嘆いていた。その様子にマネージャーたちも悲しげな表情を浮かべ、信助と神童も顔を俯かせていた。

 

「………」

 

しかし天馬だけは何かを決したように拳を強く握る。

 

 

 

 

「マミさん……」

 

いつの間にか河川敷の上の道路に来ていたまどかもマミに同情していた。

 

 

 

 

「あるじゃないですか、意味なら」

 

「…?」

 

マミは目に涙を溜めて顔を上げる。信助も後ろを振り向くと天馬がこちらに歩み寄っていた。

 

「天馬くん…?」

 

「確かに魂がソウルジェムにされるなんて俺でもショックですよ。でも俺はマミさんが魔法少女になった事が……生きる事を願ったことが全て間違いだなんて思いません」

 

「ど、どうして…?」

 

「だってマミさんが魔法少女だったからこそ俺たちはこうして出会えたんですよ!」

 

「…!」

 

「ただ出会えただけじゃない!魔法少女だったマミさんが俺やまどかさんたちを助けてくれたから、信助たちともまた会えたし、俺たちはこうして友達になれたんじゃないですか!」

 

「!!!」

 

そう、天馬があのショッピングモールでまどかやさやかと共に魔女の結界に取り込まれた時、天馬は化身を出すことが出来ず、マギカボールの使い方も知らなかった。もしあの時マミが助けていなければ三人は命を落としていただろう。

 

「友達…」

 

「俺は何もわからない世界に来て戸惑ったけど、この世界に来て良かったと思ってます!だってマミさんたちと出会えて友達になれたんだから!それでも魔法少女になったことが全部間違いだと言うなら、マミさんは俺たちやまどかさんたちと出会った事を後悔しているんですか?」

 

「!そ、それは…」

 

天馬の質問にマミは否定することは出来なかった。彼らと出会い、共に戦う仲間が出来たことに確かに喜んでいた自分がいたから。

 

「俺たちだけじゃない!これまでマミさんが魔法少女になって魔女を退治してたからこそ、多くの人たちの命が助かったんですよ!それはこれからも変わらないじゃないですか!」

 

「!」

 

「それにマミさんは自分が人間じゃないって言いますけど、本当に人間じゃないなら俺たちと同じ、泣いたり笑いあう事だって出来ないはずですよ!それだって魂がソウルジェムでも俺たちと変わりなかったじゃないですか!」

 

「「!!!」」

 

天馬の言葉に目を見開くマミとまどか。

 

「魂がソウルジェムでも、変わらない………」

 

「そうですよ!そんな風に悩んだり苦しんだりすることも感情がある人間の証です!あなただけじゃない、ほむらさんもさやかさんも杏子さんも、魔法少女はみんな俺たちと同じ、生きてる人間だって誰がなんと言おうと何度だってそう言います!」

 

天馬はありったけの自分の正直な気持ちをぶちまけた。

 

「天馬…」

 

マミに同情して悲しげな顔をしていた神童たちも仲間を元気づけようとするいつもの天馬の姿に徐々に表情に明るさを取り戻していった。

 

「天馬くん…」

 

「そうですよマミさん!」

 

マミが信助に顔を向けると信助が突然マミのソウルジェムが付いた彼女の手を両手でぎゅっと強く握った。

 

「し、信助くん!?」

 

「だってマミさんの手、こんなに暖かいじゃないですか!」

 

「!」

 

「こんなに暖かくて、僕たちにいつもおいしいご飯やお菓子を作ってくれるマミさんが……いつも僕たちにやさしく微笑んでくれるマミさんが人間じゃないなんて………そんなの僕は絶対認めない!!!」

 

信助は自分の思いの丈を出し切るように精一杯叫ぶ。

 

「信助くん………」

 

「俺も信助と同じです」

 

「天馬くん…」

 

「マミさんがどんなだろうと、マミさんはマミさんです!正義の魔法少女で、まどかさんたちの先輩で、俺たちと同じ人間で、俺たちの仲間であるマミさんです!」

 

「…!」

 

天馬が言い切ると同時に神童や葵たちも微笑みながらマミの側に集まる。自分たちも天馬と同意見だと証明するために集まったようだった。

 

「天馬の言うとおりですよ、マミさん!」

 

「そういうこった!だから元気出しな!あんたがどんなだろうが、あたしたちは仲間だろ!」

 

「み、みんな………!」

 

天馬たちの、いつも自分が彼らに見せているような柔らかな微笑みに包まれるマミ。するとマミは顔を俯かせる。

 

「やっぱり…ダメだなぁ……私…」

 

マミは大粒の涙を流しながら震える声で呟いた。

 

「先輩として、年長者としてしっかりしなきゃいけないのに……皆に支えられてばかり……でも…」

 

マミは顔を上げて一同に顔を見せる。しかしマミが見せたその顔は、

 

「ありがとう……みんな…!」

 

嬉し涙の笑顔だった。もうその顔は絶望に染まってはいなかった。立ち直ったマミに天馬たちも自然と笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

「良かった………マミさん…」

 

一部始終を見ていたまどかも天馬たちの笑顔がうつったように安心しきった笑顔をする。

 

「あれ?まどかじゃねぇか!そんなとこで何やってんだ?早くこっち来いよ!」

 

「あっ、うん。今行くね!」

 

自分に気づいた水鳥に誘われ、河川敷を下りていくまどか。

 

(さっきの天馬くん……カッコ良かったな……天馬くんが雷門のキャプテンになった理由がわかった気がする…)

 

そんなことを思いながら天馬に視線を向けるまどか。

 

(天馬くんって、やっぱりすごいな…///)

 

まどかは頬を少し赤く染めながら河川敷に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(天馬、やはりお前にキャプテンの座を託して正解だった)

 

まどかが笑顔でマミと話し出す中、神童は自分の判断が正しかったことを再確認する。

 

(お前の言葉が、いつも皆を元気づける……そのおかげで俺たちは強くなれたんだ。他ならぬお前と一緒に…)

 

マミやまどかと楽しそうに話し合う天馬を見てそう思った神童。

 

(お前なら、どんな絶望だって乗り越えられると信じてる………だが…)

 

ここで神童は何故か顔を曇らせる。

 

 

 

 

 

(さやかさんの事を思うと………胸がざわつく…)

 

神童は再びあの虫の知らせを感じていた。そのざわつきは今までで一番強く感じ、その顔から一筋の汗が流れる。

 

 

 

(何だ…!?……この重苦しく渦巻いてる感覚は…!?今までに無いくらい、嫌な予感は…!………!?)

 

その時、無意識で現れたのか神童の脳裏にあるイメージが浮かぶ。それはさやかがこちらに後ろ姿を向けながら歩いていると、彼女の前から闇が広がるように現れ、彼女を飲み込むイメージだった。あまりにも深く激しいビジョンと心のよどみに神童は緊迫する。

 

(……まるでさやかさんが深い闇に飲み込まれるような……そんな気がする…)

 

神童の心の内に広がる危険信号は笑いあう仲間たちの中にいても強く響き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私たち、お買いものに行ってきますね」

 

「ええ。よろしくお願いするわ」

 

数分後、葵たちマネージャーはマミの代わりに夕飯の買い出しに行くことを買って出たのだった。

 

「マミさん、元気になって良かったです!」

 

信助はマミに笑いかける。

 

「ええ。心配をかけたわね」

 

「えへへ」

 

マミはいつもの頼りがいのあるマミに戻っていた。

 

「じゃあ神童くん。例の特訓、始めるわよ」

 

「はい!」

 

葵達が夕飯の買い出しに出かけたのは元気を取り戻したマミがこれからの戦いに向けて神童にある特別レッスンをするためであった。

 

「あの…マミさん」

 

始めようとしたときにまどかが話しかける。

 

「ん?何かしら?」

 

「さっきの杏子ちゃんの話……」

 

「………」

 

あの後、元気を取り戻したマミは天馬たちに聞かれこの前の杏子の過去の話の続きを聞かせた。杏子の哀しく暗い過去に一同も悲しげな顔を浮かばせる。

 

「あの人も、そんな辛い過去があったんですね…」

 

信助も杏子はただ自分勝手な魔法少女という認識を改め、反省する。

 

「ええ。でも、あなたたちなら彼女も変えられると思うの…」

 

「はい。それに今は剣城が側についています。あいつと一緒なら大丈夫だと思います。剣城が杏子さんの側についた理由も今ならわかります。……なんとなく感じ取ったんでしょうね……」

 

「…?どういうこと?天馬くん?」

 

「ええ、それは…」

 

 

 

「こんなところで特訓か?」

 

「「!」」

 

 

 

~~そのころ・街中~~

 

 

 

 

「さっきの天馬くん、カッコ良かった」

 

「ああ!さすがはキャプテンってとこだな!」

 

「天馬って普段は頼りないところありますけど、どんどんキャプテンとして成長してますよね」

 

「あいつの言葉はいつも心に響くからな」

 

「早くさやかさんにもこの事を伝えてあげたいですね……ん?」

 

葵がふと横を見るといつもまどか達が利用しているファーストフード店に入っていくさやかと仁美の姿があった。

 

「さやかちゃんと、仁美ちゃん……」

 

「噂をすればって奴か……でもあいつら二人だけか?なんか仁美の方は真剣な顔してるぞ?」

 

「……ちょっと行ってみませんか?」

 

 

 

 

~~店内~~

 

 

 

「仁美さんたち、一体何を…」

 

葵はとりあえず近づいて声を掛けようとする。

 

「待て。なんか様子が変だぞ」

 

水鳥が腕を伸ばして葵を制す。そして三人はさやかたちの声が聞こえてなおかつ二人から見えない位置に当たる座席に座って聞き耳を立てる。

 

 

 

「……話って何?」

 

仁美と向き合う形で座席に座っているさやかがそう聞くと、仁美はアイスティーを一口飲んでからまっすぐにさやかを見据えて言った。

 

「恋の相談ですわ」

 

仁美のその言葉にさやかも葵たちも息を飲む。

 

「実は私、さやかさんたちに秘密にしてたことがあるんです」

 

そして仁美は一度息を吸ってから一言で言いきった。

 

 

 

「ずっと前から―――私、上条くんのことをお慕いしていましたの」

 

 

 

その時、一瞬だけさやかたちの思考が制止した。

 

「………へ、へぇ~…そうだったんだ……仁美が恭介をねぇ………」

 

さやかはあくまで平静を装うとしていたが明らかに動揺していた。その一方で仁美は緊張気味で聞いてくる。

 

「さやかさんは、上条くんとは幼馴染でしたわね」

 

「あ………うん、そう――まあ、腐れ縁ていうか、なんていうか」

 

「本当に、それだけ?」

 

「………」

 

「私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって」

 

仁美はまっすぐにさやかを見つめる。

 

「あなたはどうですか?さやかさん、あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」

 

「仁美………」

 

仁美のまっすぐな眼にさやかは言葉を詰まらす。しかし、仁美はさやかに対しハッキリと宣言した。

 

「私、明日の放課後、上条くんに告白します」

 

「「「!!」」」

 

「丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは、後悔なさらないように決めてください。上条くんに―――気持ちを伝えるべきかどうか」

 

仁美はそう言うと飲み干した自分のアイスティーの紙コップを持って立ち上がり、それをダストボックスに入れて店を出ていった。葵たちは仁美に見つからないように顔を伏せて仁美が出ていくのを確認するとさやかを見る。

 

「………」

 

一人残されたさやかはまだ先ほどまでの出来事を受け止められずに呆然としていた。仁美のその宣言は今のさやかが聞くにはあまりにもタイミングが悪すぎた。完全に遅れを取ってしまった葵たちは悔やむと同時に今の出来事が神の悪戯(いたずら)か、悪魔の仕業に思えた。

 




………ああ、雪かきやだなぁ…。

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