魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~   作:サニーブライト

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お待たせしました。更新再開します。

今回の後半は思ったより長くなってしまい、時間がかかってしまいました。
申し訳ありません。

絶望の序曲の後半、どうぞ。


第8話『悲劇の人魚姫』 Bパート

~~河川敷~~

 

 

「佐倉さん…」

 

「……よう」

 

河川敷に姿を現したのは剣城を連れた杏子だった。

 

「…どうしてここに?」

 

「別に…こいつを連れて魔女探ししていただけだよ」

 

仏頂面で剣城を親指で指す杏子。

 

「それならわざわざこっちに来なくてもよかったと思うけど?」

 

「あ、えと、その…」

 

マミに指摘された杏子は言葉を詰まらす。

 

「………なんとなくだ」

 

「…?もしかしてマミさんを心配して来てくれたんじゃ…」

 

「なっ!///」

 

まどかに不意を突かれた杏子は一気に顔が真っ赤になった。

 

「そういえば、真っ直ぐこっちに来てましたし、『マミの奴はどうしてんだろうな』と呟いてたような…」

 

「ふふっ、やっぱりね」

 

「そ、そんなんじゃねーよ!オメーも余計なこと言ってんじゃねーよ!///」

 

剣城とマミに図星を突かれ、まるで駄々をこねる子供のように両手を上下に振りながら怒鳴り散らす杏子。そんな杏子の姿にマミは懐かしむように優しく微笑む。

 

「ふふ、安心したわ。やっぱりあなたのその優しさは変わってなかった。そんな風に誰かを思いやれる心は失くしてなかったのね」

 

「ふん!どいつもこいつもバカばっかで嫌でも目に入るからだよ」

 

「それって見ていたら放っておけないって事?」

 

「う、うるせぇな!相変わらずムカつくんだよあんたは!///」

 

杏子は顔を真っ赤にしたまま必死にマミへの心配を誤魔化そうとするがまどか達には必死に照れ隠しする彼女の姿がかわいく見えてしまう。一方で杏子はいつもの調子を取り戻そうと深呼吸をして大きく息を吐くと腰に両手を当ててマミに向きなおす。

 

「つーかマミ。あんた、ソウルジェムの事を知って落ち込んでるかと思ったがずいぶん余裕じゃねーか」

 

「……ええ。私一人だったらきっと今でも落ち込んでいたでしょうね。でも…」

 

マミは一度まばたきしてから天馬たちに顔を向ける。

 

「今は、一人じゃないから……私を人間だと言ってくれる仲間がいるから…もう大丈夫よ」

 

マミは天馬たちに片目でウインクすると天馬たちもマミの感謝の表しに嬉しくなった。

 

「へっ………あたしもそんな風にあいつを説得出来りゃ良かったのによ…」

 

「あいつ…?もしかして美樹さんの事?」

 

「ああ。あの馬鹿、人が魔法少女としての生き方を指南してやろうとしたのによ…」

 

「佐倉さん、あなたやっぱり魔法少女の始まりが自分と同じだったから…彼女の事を…」

 

「さあな………始まりも何もキュゥべえと契約した時点であたしたちは皆同じだろ。ソウルジェムの事はさすがのあたしも驚いたけどな…」

 

「………その事なんだけど…」

 

ここでまどかがためらいがちに口を開いた。

 

「まどかさん?」

 

天馬たちが注目する中でまどかは意を決して話した。

 

「ほむらちゃん、魔法少女の本体がソウルジェムだって事を知ってたみたいなの…」

 

「え?」

 

「暁美さんが?」

 

「うん…」

 

 

 

 

 

~~数時間前・見滝原中学~~

 

 

 

「ほむらちゃんは知ってたの……?ソウルジェムの事…」

 

「ええ……」

 

「…」

 

ほむらはただ冷たい瞳をまどかに向けながら淡と返す。

 

「どうして教えてくれなかったの?」

 

まどかはソウルジェムの事実を知っていながら自分達に黙っていた事を哀しくも酷いと思った。しかし、ほむらは無表情を崩さぬまま聞き返す。

 

「話したところであなたたちは信じたの?」

 

「…ッ!」

 

ほむらの切り返しにまどかは言葉を詰まらす。魂を取り出され人間まがいの身体にされるなど、昨夜の出来事でもなければ信じる者はそうはいない。そしてマミやさやかがこんな現実を受け止められるかどうか、まどかにもわからなかった。

 

「……キュゥべえはどうしてこんな酷い事をするの?」

 

「あいつは、酷いとさえ思っていない」

 

ほむらは感情を全く窺わせないように答える。

 

「あいつは人間の価値観が通じない生き物だから。何もかも奇跡を叶えた正当な対価だと言い張るだけなのよ」

 

「そんな……さやかちゃんは、ただ上条君の腕を治したかっただけなんだよ!なのにあんな体にされて…」

 

「奇跡だということに変わりはないわ。上条恭介の腕はね、本来は現代医学でも治せることは不可能なはずだったのよ。美樹さやかは自らの魂と引き換えに奇跡を起こしてその不可能を可能にした。本来奇跡というのは人の命でさえ贖えるものじゃないのよ。それを持ち歩いて売ってるのがあいつ」

 

「………」

 

その時まどかは昨夜のあの白い悪魔の怪しく光る赤い目を思い出して足元が無くなった感覚に襲われた。

 

「じゃあ……さやかちゃんは、もう元の生活には戻れないの?」

 

「前にも言ったはずよ。美樹さやかの事は諦めてって」

 

ほむらはその黒髪をなびかせながらまどかに背を向ける。ほむらがそう言いつつもまどかは諦めきれなかった。ただ純粋に想い人の為に願った親友の事を諦めることなど彼女にはできなかった。

 

「さやかちゃんは魔女に襲われたわたしや仁美ちゃんを助けてくれたんだよ。魔法少女になったさやかちゃんがあの時助けてくれなかったらわたし達は今ここにいなかった。だったら今度はわたしがさやかちゃんの為に…」

 

まどかは自分達を救ってくれたさやかの為に力になろうと必死になる。

 

「感謝と責任を混合しては、ダメよ」

 

しかし、その想いを真っ向から否定するように冷たく言い放つほむら。

 

「あなたには彼女を救う手立てなんてない。引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて出過ぎた考えは捨てなさい」

 

「そんな……」

 

「誰も彼女の問題を解決することはできないわ。あなたも巴マミも、ましてや、あのイレギュラー達にもね」

 

「どうして…」

 

「…?」

 

「どうしてほむらちゃんは、いつも冷たいの?」

 

「………」

 

まどかはほむらの言葉を頭では理解しつつも彼女の冷酷ともいれる態度を哀しく思い、そう言ってしまった。

 

「………そうね。それはきっと……」

 

ほむらは少し黙ると哀しそうな瞳をしながら自分の中指のソウルジェムに触れる。

 

「―――もう人間じゃないから、かもしれないわね」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「ほむらさんがそんなことを………」

 

「うん…」

 

まどかの話を聞いて神童は顎に手をそえて考える。

 

「…確かに彼女のその考えと俺たちに真実を話さなかった判断は正しいかもしれない……だが…」

 

「何なんでしょう……このやりきれない気持ちは…」

 

葵はほむらの考えは理解できたがすべては納得できず、表情を曇らす。

 

「……でも俺、どうしてもほむらさんが心から冷たい人だと思えないんです」

 

「?どういうことだ、天馬」

 

「ええ、実は…」

 

まどかの話を聞いた天馬は以前この河川敷でほむらと二人きりで話した時のことを語り出す。その時の彼女もただ冷たく淡々と答えたが、最後の『自分に嘘をついている』という指摘にだけは動揺していた。

 

「その時のほむらさん、なんだか苦しそうでした…。たった一人で悩んでいるのに誰にも打ち明けられなくて……その時のほむらさんはまどかさんたちと同じ普通の女の子に見えたんです」

 

「ほむらちゃんが……」

 

「あいつもなんだかんだいってキュゥべえの被害者の一人だからな。まあ、あいつが何を願ったかは知らないがな」

 

「きっと彼女もソウルジェムの事で相当苦しんだんでしょうね…」

 

杏子に同意するように自分のソウルジェムを掲げるマミ。

 

「あれ?マミさん、ソウルジェムが少し濁ってますよ」

 

信助がソウルジェムを注視して気が付く。

 

「あら本当だわ。おかしいわね……さっき確認した時は確かに濁ってなかったのに」

 

「その後に魔法を使ったからじゃねーの?」

 

杏子は後頭部で両手の指を組みながら聞く。

 

「いいえ。その後魔法は一度も使ってないはずよ。とにかく浄化した方がいいわね」

 

あらかじめ用意していたグリーフシードでソウルジェムを浄化するマミ。

 

「………」

 

剣城は浄化されていくソウルジェムとその穢れを吸収するグリーフシードを何故かじっと見つめていた。その瞳は何かを推測しているようだった。

 

「それにしてもキュゥべえの野郎ムカつくったらありゃしねえ!あたしたちを舐めやがって!」

 

杏子は拳を自分の手のひらに打ち付ける。

 

「……キュゥべえにとって俺達は友達じゃなかったのかな…」

 

「天馬…」

 

気落ちする天馬を心配する信助。

 

「俺、前にキュゥべえとこんなことを話したことがあるんだ…」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「はっ、はっ」

 

「やあ、天馬」

 

「あっ、キュゥべえ!」

 

数日前、天馬が公園の中を走っているときに電灯の上からキュゥべえが話しかけてきた。

 

「ランニングかい?」

 

「うん、日課にしてるからね。キュゥべえこそこんな所で何してるの?」

 

「僕はどこかでグリーフシードが孵って魔女が現れていないか見回ってるんだ」

 

「そっか。いざ魔女が現れて街の人たちが襲われたら大変だからね。魔女が現れそうだったらすぐ俺たちに知らせて。マミさんたちが学校に行ってる間は俺たちが何とかするから」

 

「ありがとう、天馬。すごく頼もしくて、テレビでやっているヒーローみたいだよ」

 

「えへへ……そういえばキュゥべえ。今思ったんだけど、どうしてキュゥべえはあの怪物たちの事を魔女って呼ぶの?」

 

「…ああ。あれらは、そう呼ぶのが一番ふさわしいからさ」

 

「…?」

 

「それはともかく、魔女を放っておくことはできないのは確かだよ。危険な魔女を退治するのが魔法少女の仕事だ。でも君たちが戦ってくれればマミたちも助かるだろうし、僕としてもありがたいよ」

 

「うん!俺、もっと特訓して俺たちのサッカーが魔女退治に活かせるよう頑張るからキュゥべえも期待してて!」

 

「ああ、頼りにしてるよ」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「俺、キュゥべえの事を友達だと思ってたのに………」

 

今となってはその時のキュゥべえの親しげな姿は嘘だったのかと先ほどまでのマミと同じようにへこむ天馬。

 

「天馬。お前が落ち込む気持ちはわかるがアイツは魔法少女と契約をする際、どうなるのかちゃんと全て話さなかった。俺たちや魔法少女たちを騙していたことに変わりは無い」

 

「剣城……」

 

前からキュゥべえを信用していなかった剣城は今の現状を冷静に受け入れ天馬に対処する。

 

「これからはアイツの事は信用しない方がいい。それからまどかさん。わかっていると思いますがどんなことがあっても絶対に魔法少女の契約をしないでください。キュゥべえは前からあなたを魔法少女にしたがっていた……そこに何か狙いがあるのかもしれません…」

 

「わたしが魔法少女になることがキュゥべえの狙い…?」

 

「どういうこと?剣城」

 

「もしかしたらキュゥべえはまだ俺たちに隠していることが有るのかもしれない…。それが何かわからない以上、皆も絶対にアイツに気を許してはならない」

 

「「「………」」」

 

剣城の意見は天馬やマミにとってはあまり同意しかねないものだったがキュゥべえが明らかに騙していたこともあり、とりあえず他のメンバーと同様、肝に銘ずることにした。

 

(そうだ………アイツは、一体どうゆう(・・・・)つもりなんだ…?)

 

一同に宣言した剣城は表情を変えないまま誰にもわからないように小さく俯きながら胸の中でそう呟いていた。

 

 

 

 

 

~~~夜・さやかの家の前~~~

 

 

 

「………」

 

さやかは魔女退治と街のパトロールをするために自宅のマンションのロビーを出て外に出た。

 

「さやかちゃん」

 

「…!まどか…」

 

そこでは彼女の一番の親友が三人のマネージャー達と共に待っていた。

 

「どうしてここに…」

 

「ついていってもいいかな…」

 

「…!」

 

「わたし、さやかちゃんの側にいてあげたいの。何の役にも立たないけど、さやかちゃんがほっとけないから…」

 

「まどか…」

 

「さやかさん」

 

まどかに気を取られていたさやかは不意に名前を呼んだ葵に顔を向ける。

 

「あんたたちも…?」

 

「はい。私たちにとっても、さやかさんは大切なお友達ですから」

 

「な~に、いざとなったらあんたたちが指輪の力でまどかを守るからよ」

 

水鳥はニカッと頼りがいのある笑顔でそう言った。

 

「…みんな、なんでそんなに優しいのかな……あたし、もう死んじゃってるのに…」

 

さやかは自虐するように呟く。

 

「そんな……さやかさんは死んでなんかいません!天馬が言ってましたよ!魔法少女は私たちと同じ、感情を持った生きてる人間だって、私たちだってそう思ってます!さやかさんだって間違いなく人間ですし、マミさんと同じ正義の魔法少女じゃないですか!」

 

葵は天馬の言葉を借りながら必死にさやかを説得しようとする。

 

「人間で正義の魔法少女、か……そう言ってくれるのは嬉しいけど……今のあたしにそんな事を言ってもらう資格なんてないんだよ…」

 

「え?」

 

「…今日、仁美に言われたの―――恭介が好きだって」

 

「「!」」

 

沈んだ目をしたさやかの言葉に衝撃が走り、言葉を失うまどか。一方でその現場を目撃していた葵たちはその時の口をポカンと開けて人形のように固まったさやかの姿を思い出す。

 

「それで明日……恭介に告白するって言われたの……今日一日だけあたしに時間をあげるって言われたけど……告白なんて、できるわけないよ…」

 

「な、なんで…」

 

「いくら皆があたしを人間だって言っても…あたしはソウルジェムを失くしたらおしまいなんだよ?こんな小さな指輪を失くしたらただの死体になっちゃうんだよ…」

 

「さ、さやかさん……」

 

「あたしが死んでることに変わりはないんだよ…そんなあたしが人間だって呼ばれる資格なんてないんだよ………」

 

暗い夜の中でさやかのソウルジェムに一滴の涙が落ちた。さやかは恐れていたのだ。恭介に自分の身体が普通の人間とは違っていることを知られたら、恭介が受け入れてくれるのかと。拒絶されるかもしれない。化け物と呼ばれるかもしれない。仲間達に受け入れられて立ち直ったマミとは違い、想い人に拒絶される恐怖がさやかの心を押しつぶしていた。

 

「あたし、仁美に宣言された時……後悔しそうになっちゃった」

 

さやかは今にも消えそうな声で呟いた。

 

「あの時仁美を助けなければって……ほんの一瞬だけ、思っちゃった……こんなあたし、正義の味方失格だよ………マミさんみたいになれるわけがない……」

 

さやかは体を震わせながら嗚咽交じりで嘆いていた。憧れの先輩のようになれない自分が、後悔しない決意がこんなにも脆かった自分が情けなくて仕方が無かった。その時のさやかは普段の元気で能天気な彼女ではなく、少しのショックで壊れてしまいそうな繊細なガラス細工のようだった。そんなさやかにまどかは自然と手が伸び、そのまま抱きしめていた。口下手なまどかは天馬のようにうまい言葉など掛けられなかったが、彼女の哀しみを少しでも和らぐようにとその背中をさすっていた。

 

「仁美に恭介を取られちゃうよ……」

 

「さやかちゃん……」

 

「あたし……なんにも出来ない……だってあたし、死んでるんだもん……ゾンビだもん……こんな体で抱きしめてなんて言えない……キスしてなんて言えないよぉ……」

 

さやかはまどかを抱きしめながら大粒の涙を流す。まどかはそのあまりにも惨めなさやかをただその哀しみを受け止めるように共に泣き続けていた。

 

「さやかさん……まどかさん………」

 

葵たちも二人のその痛々しい姿に胸が張り裂けそうだった。悲劇としか言いようがないこの現状に葵たちは哀しむと同時にどうにもできない自分たちが悔しくて仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

―――その時、彼女たちの指輪が淡い光を放ち、ある事を起こしていた。しかしこの時は誰もその事に気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

~~工事現場~~

 

 

 

「珍しいわね。あなたが魔女を譲るなんて」

 

作業員が居なくなった夜の工事現場でほむらがそう言った。それは地面にできた魔女の結界の入り口を建設中の高台から見下ろしていた杏子に向けられていた。

 

「先に結界を見つけたのはあいつだ。だからこの結界のグリーフシードはあいつのもんだ。今回は使い魔じゃなく魔女の結界だから無駄な戦いじゃないしな」

 

そう言う杏子と同じように魔女の結界を見るほむら。そこからさやかの魔力が感じ取れた。どうやらさやか、まどか、マネージャーたちの五人が先にこの魔女結界を見つけ、杏子は彼女たちに手出しする事無くアイスキャンディーをくわえながら結界の入り口を通して彼女たちを見守っていたようだった。

 

「あなたがそんな理由でグリーフシードを譲るなんてね………ところで剣城京介の姿が見えないけど?」

 

「あいつなら念の為にって、中に入って行ったよ。一緒についている奴らを護衛するつもりらしいぜ?使い魔しか倒さないって言ったから別にいいやと思ってな」

 

杏子は以前自分が言っていた食物連鎖に他の者が割り込んでくることが気に入らなかった。剣城が魔女ではなく使い魔だけ狙うと言ったのはそんな彼女の気持ちを察してからだった。

 

「中に入らないから変だと思ってたらそういう事だったのね」

 

「!」

 

ここで二人の横からマミと天馬たちが到着した。

 

「巴マミ……」

 

ほむらはここにマミが現れるとは思ってなかったらしく彼女の登場に顔には出さなかったが驚いていた。

 

「佐倉さん、あなたやっぱり美樹さんの事も気にかけてくれてたのね」

 

「そ、そういう事じゃ…」

 

「フフフ、いいのよ。わかってるから」

 

「な、何がだよ!?///」

 

杏子をからかうマミの姿を見たほむらはポカンと口を開けていた。

 

「巴マミ、あなた…もう大丈夫なの?」

 

「あら、あなたも私を心配してくれるなんてね」

 

「っ!…それは…」

 

思いもよらぬマミの切り返しに動揺するほむら。

 

「大丈夫、ソウルジェムの事ならもう気にしてないわ。だって変わらないもの。私のやるべき事も、私自身の事も」

 

そう言って満面の笑みを見せるマミ。それは間違いなく普段まどか達に見せている頼りがいのある笑顔だった。

 

(巴マミがここまで立ち直ってるなんて………)

 

ほむらはマミがソウルジェムの真実を知ったのにいつもと同じく平然としている事に内心驚いていた。自分の知る巴マミはソウルジェムの秘密を知って立ち直れるような人物ではなかった。精神面が脆い彼女ならその真実を知ってしばらく塞ぎこんでいるだろうと思っていた。しかし、今自分の目の前にいる元気なマミの姿を目の当たりにし、ほむらは思い当たるようにマミの後ろを見る。

 

(まさか……また彼らが彼女を救ったというの……?)

 

ほむらは信じられないように天馬たちを見つめていた。彼女にここまで影響を与えた雷門の不思議な力にほむらは戸惑いを感じずにはいられなかった。

 

「マミさん、行きましょう!さやかさんや剣城の手助けに行かなきゃ!」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「まあ、待て。今回はお前らも手出しすんなよ。今回はお前らのお仲間もついてるしな」

 

中に入ろうとした天馬とマミを止めようする杏子。

 

―――しかしここで結界の入り口がグニャリと歪み、放っていた入り口の光が強くなった。

 

「……と思ったが前言撤回だ。あの馬鹿……てこずりやがって」

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「はああっ!」

 

その頃、結界の中ではさやかたちが苦戦していた。影の魔女、エルザマリア。彼女の結界の中は辺り一面がモノトーンな灰色の空間で結界内にいる自らも含めた全員の姿を影の様に真っ黒に塗りつぶしていた。それはまるで絵本にあるような影絵の世界をイメージしているようだった。

 

「デスソード!」

 

ヘビのような使い魔たちをさやかが長剣で切り伏せ、剣城がシュートで吹き飛ばす。しかし、予想もしない場所から次々と新たな使い魔が飛び出し、二人は影絵に塗りつぶされながらも苦悶の表情を浮かべる。

 

「頑張って……さやかちゃん…」

 

「剣城くん……」

 

そんな中でもまどかと葵たちはやはりバリアの中で二人を必死に応援することしかできなかった。

 

「くそっ!」

 

二人はまどかたちの前まで下がる。しかしこのままではキリがないと思ったのかさやかは奥にいる魔女の本体に向かって一気に駆け出す。すると多くの使い魔や魔女の本体から伸びた枝が飛び出し、さやかを包み込んだ。その直後、さやかは大きく剣を振り、使い魔や枝を吹き飛ばして再び魔女に接近する。しかしそれと同時に繰り出した攻撃が魔女に届く直前にさやかは魔女の無数の枝の影に飲みこまれた。

 

「ああっ!」

 

「さやかちゃん、危ない……!」

 

まどかたちが思わず叫んだ直後。

 

「たくっ………見てらんねえっつーの」

 

新たな一つの影が現れた。それは長いポニーテールを振りかざす杏子だった。彼女がその髪より長い槍をくるりと回転するとものの見事にさやかを包んでいた影を吹き飛ばした。

 

「杏子さん!」

 

「剣城!無事か!?」

 

「鹿目さん、美樹さん!」

 

そこへまどかたちの後ろから天馬たちとマミがやって来た。

 

「みんな!マミさんも…」

 

「俺たちは大丈夫だ。だが、彼女が……」

 

剣城が目線をさやかに向けると同時に天馬たちもさやかを見る。さやかの体には無数の傷が出来ており、そこからの大量の血が流れていた。

 

「さ、さやかさん!」

 

「待ってて美樹さん!今、手当てするから!」

 

神童が走り出したと同時に一同は駆け出し、マミも自身の魔法で治療するために走り出す。

 

「いいからもう、すっこんでなよ。手本をみせてやるからさ……」

 

そうさやかをかばうように魔女へ一歩踏み出した杏子に、

 

「邪魔しないでよ……」

 

さやかはゆらり、と立ち上がる。

 

「おい、お前――」

 

「一人で……やれるわ」

 

低い声で呟くと、さやかはふらつきながら剣を構え直し、魔女に向かって一気に駆け出す。

 

「さやかさん!」

 

神童の制止も聞かず、さやかは魔女に向かって突進する。すると再び魔女と使い魔の影が襲いかかり、さやかはそれらを剣で切り刻む。しかし、それと同時に影の攻撃によってのけぞったさやかの身体も傷ついていった。

 

「ああっ!」

 

「さやかちゃん!?」

 

まどかが思わず叫び、天馬たちも驚愕するが、さやかはすぐに踏みとどまって立ち止まる事もなく駆け出す。そして影が襲いかかるたびに自分の身体から血を噴き出させながら影を蹴散らしていった。だが、それは肉を斬らせて骨を絶つ、と呼ぶにはあまりにも無茶で無謀な戦い方だった。そもそも今のさやかは常人であれば立ち上がれないほどの傷を負っているはずなのになぜこんな無茶なやり方が出来るのか。

 

 

 

―――するとそこに、くすくすと誰かの笑い声が響く。

 

 

 

「はは……ホントだぁ………」

 

それはさやかの声だった。それは今まで聞いたことのない声色で、楽しそうに笑っているようだった。

 

「あはは……その気になれば痛みなんて………完全に消せちゃうんだぁ……」

 

「「「!?」」」

 

その寒気がしそうなさやかの声色が一同をぞっとさせる。それはまるでさやかとは思えず、一同は目を見開く。その見開いた目で見たさやかの姿はいつもの面影を残しておらず、魔女の放った枝によって体のあちこちを貫かれて血まみれになっており、その顔はまるで貼り付けたように乾いた笑顔だった。そんなさやかの凄惨な姿が恐ろしく感じた葵、茜は思わず手で口を押さえ、天馬たちもただ呆然として動くことが出来なかった。

 

「おい、お前…!?」

 

「まさか美樹さん、痛覚を消して……!?」

 

杏子とマミが息を呑んだ直後、さやかはゆらりと動きだして魔女に近づいていく。魔女はまるで怯えるように枝を伸ばしていくが、さやかもそれらを避けることもなく剣を振りかざし、血を噴き出しながら使い魔や枝を切り刻んでいった。そして使い魔が途絶え、さやかが魔女の前に立つと剣を振り上げる。魔女は命乞いするようにを枝を上げるが、

 

「―――っああ!!!」

 

ためらいなく魔女に向けて長剣を振り下ろした。

 

 

 

―――それからはまるで虐殺のようだった。魔女は必死に抵抗しようと枝を伸ばすが、さやかは上から何度も魔女を切り付け、その度に傷ついた身体から血が噴き出していた。そして徐々に魔女も抵抗する力が失われていき、その周囲に生やしていた影の枝が枯れていくように地面に垂れ下がっていった。

 

「あは……あははっ!あはははははっ………!」

 

「さ、さやかさん…!?」

 

しかしそれでもさやかはやめなかった。無邪気に楽しむように、ただ狂った笑い声を上げながら魔女を切り刻むばかりだった。そんなさやかの姿を見守りたいと言っていたまどかも思わず目を背けてしまう。

 

「………」

 

一同は未だに呆然としていたが、天馬だけは違っていた。

 

「さやかさん………」

 

天馬も最初は今のさやかの姿が怖いと思った。しかし、それを見続けているうちにその気持ちは徐々に薄れていった。それは決して今のさやかの姿に慣れたわけではない。

 

「はは!…あははっ…!」

 

「………」

 

今の天馬のさやかに対する思いは憐憫だった。天馬には今のさやかがただかわいそうで、彼女自身も魔女に八つ当たりするようにヤケになって悲しんでいるように見えたのだ。

 

「もう、やめて……」

 

一方でまどかはそんなさやかの惨めで哀れな姿は見ていられなかった。まどかはさやかの姿から背けるように目を閉じ、その耳にはいつまでも狂気に満ちたさやかの笑い声と魔女を切り続ける音だけが響いていた。

 

「あはは!あははははっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ

 

 

 

 

 

「……?」

 

何かを掴む音と同時に周りが静かになる。まどかがおそるおそる目を開けると、

 

 

 

 

 

「…もう、やめるんだ……さやかさん…!」

 

神童が悲痛な顔をしながら魔女をさらに切りつけようと剣を振り上げたさやかの腕を掴んでいた。

 

 

 

 

「しん、どう…」

 

「もう魔女は死んでる……これ以上切りつける必要は無いんだ…!」

 

神童は悲しむように声を震わせていた。そうしているうちに魔女の結界は崩れ元の工事現場に戻り、魔女はグリーフシードに変わっていた。神童はさやかが魔女の血がついた剣を消すのと同時に掴んでいた手を放す。そして完全に結界が消えると一歩後ろに下がった。

 

 

 

~~工事現場~~

 

 

 

「やり方さえわかっちゃえば簡単なもんだね……これなら負ける気がしないわ」

 

空に今にも降ってきそうな雨雲が佇む夜の工事現場でさやかはソウルジェムに魔力を込めると体のあちこちにできた傷が次々と塞がっていき、流れていた血も止まっていく。

 

「あげるよ。それが目当てなんでしょ」

 

さやかは足元のグリーフシードを拾い上げると杏子に向けて放り投げる。

 

「おい……」

 

「アンタに借りは作らないから。これでチャラ。いいわね。帰るよ、まどか」

 

そう言って杏子とマミの間を通り抜けてまどかと共に帰ろうとするさやか。

 

「待ちなさい、美樹さん」

 

突然の呼び止めに反射的に足を止めるさやか。その声の主はマミだった。

 

「美樹さん……さっきのムチャな戦い方は何?……あれじゃ、自分の身体を壊してしまうわよ……」

 

マミは厳しい顔つきで心配するように注意する。

 

「あたしはマミさんみたいにうまく戦えませんから……」

 

さやかはそう言いながら変身を解いて制服姿に戻る。

 

「う…」

 

その直後に倒れこみまどかに寄りかかる。

 

「さやかちゃん…!」

 

「ゴメン……ちょっと疲れちゃった」

 

まどかに支えられながら疲れ切った声で呟くさやか。

 

「明らかに魔力の使い過ぎだわ。あんな戦い方、とても認められないわ」

 

疲れ果てたさやかの様子に冷静に分析しつつ咎めるマミ。

 

「あたし、才能無いから……ああでもしないと戦えませんよ。痛覚を消せば痛くないし…」

 

「そういう問題じゃありませんよ!さっきまであんなにいっぱい血が出てたんですよ!」

 

信助がマミが言いたいことはそうじゃないと言うように叫ぶ。

 

「平気だよ。さっきも見ていたでしょ。傷ついたって魔力を使えばこの通り直せるんだから」

 

「ダメです!見てられませんよ!あんなに傷ついて…」

 

「―――自分たちが傷つくのも怖いのにそう言う?」

 

「え…」

 

さやかの突然冷えた声色でそう言い返してきた。

 

「あんたたちは魔女の攻撃をまともに受けただけで大抵死んじゃうじゃない。そうならないためにあたしがあんな戦い方をしてるんじゃない…」

 

さやかはまどかにもたれかかっていた身体を起こして言い放つ。

 

「な、何を言ってるんですか、さやかさん………」

 

「じゃあ、自分たちがあんな大ケガしても平気って少しでも言えるの?」

 

「っ!」

 

「今のあたしはね、こんな小さな石ころなの。魔女を殺す―――ただそれだけの為に死体を動かして生きてるふりをしてる石ころなのよ?」

 

さやかは振り返って自分のソウルジェムを出す掌に出現させる。

 

「それだけしか価値の無いあたしがどんな戦い方しようと勝手でしょ……その気になれば痛みも消せるし、大ケガしたって自分で直せるんだから、それすらできないあんたたちが口出ししないでよ!」

 

さやかがそう叫んだ直後、暗雲が轟音と共に光りだす。その直後にポツポツと雨が降り出し、瞬く間に土砂降りの雨となって一同の身体を濡らしていった。

 

「さ、さやかさん……」

 

一同には信じられなかった。いつも一緒にいる、あの明るくて元気なさやかが仲間に向かって罵声を浴びせてる事が。そこにいたのはまるでさやかのようでさやかではない別人のように思えた。

 

「さ、さやかちゃん……信助くんはさやかちゃんを心配して言ってくれてるんだよ……」

 

そんな中でまどかはさやかに必死で弁明する。

 

「それに、さやかちゃんが痛くないなんてウソだよ………見てるだけで痛いよ。感じないからって、そんなのダメだよ……あんなさやかちゃん、見てられないよ……いつか本当に壊れちゃうよ…」

 

まどかはさやかの態度がヒドイと思いつつも涙声で自分の気持ちを打ち明けた。

 

「まどか、あんたまで同じこと言うわけ?」

 

さやかは首だけをまどかに向けながらその場に降り注ぐ冷たい雨のように冷淡に言った。

 

「わたしはただ、さやかちゃんのことを想って……」

 

「だったらあんたが戦ってよ!」

 

さやかが突然まどかの方に体を戻して叫んだ。

 

「キュゥべえが言ってたじゃん。あんた、誰より才能あるんでしょ?あたしみたいに苦労しないで簡単に魔女をやっつけられるんでしょ!?」

 

「!」

 

『――君が魔法少女になれば君はマミよりずっと強くなれるよ』

 

まどかの頭の中で、いつかキュゥべえが自分に言った言葉が甦る。しかし、いつも何をするにも遅くてなんの取り柄もない自分がそうなれるとはまどかには信じられなかった。

 

「あたしの事を想うって言うなら、まずあたしと同じ立場になって見なさいよ!無理でしょ?当然だよね!ただの同情で人間やめられるわけないもんね!」

 

言葉を失うまどかにさやかは容赦なく叫び続ける。

 

「なんでもできるくせに何もしないあんたの代わりにあたしがこんな目に遭ってるの。あたしがあんたたちの代わりにこんな思いをしてるの。それを棚に上げて、知ったようなこと言わないでよ!」

 

さやかの叫びに合わせるように再び稲光が音を上げて空にほとばしる。

 

「さ、さやかちゃん……」

 

「さやか!お前、ダチに向かってなんてこと言いやがんだ!」

 

まどかを責めるさやかを水鳥が咎める。

 

「うるさいわね!同じ立場になれない上に自分たちの身を守る事しかできないくせに、戦ってるあたしに説教しないでよ!」

 

「美樹さん!いくらなんでも言い過ぎよ!」

 

「ッ!」

 

先輩であるマミにも咎められ、今度はさやかが言葉を失う。

 

「~~ッ!あたしに構わないでください!」

 

耐えきれなくなってその場から逃げ出すさやか。

 

「あっ、美樹さん!待って!」

 

マミは呼び止めようと叫ぶがさやかは止まらない。

 

「さやかさん!!」

 

すると今度は神童が叫び、さやかはその場で足を止める。そして神童はそのウェーブの髪を雨で濡らしながらもまっすぐな瞳で言った。

 

 

 

「君は―――上条に告白するべきだ」

 

「……何、言ってんのよ……」

 

突如自分が抱え込んでいる苦しみの原点を指摘されたさやかは神童に背を向けたまま体と声を震わせる。その声は今にも泣きそうな声だった。

 

「君が苦しんでいる理由は分かっている。そして仁美さんの事も……」

 

「!」

 

実は喫茶店のあの出来事の後、葵達は神童と合流し、仁美が恭介に告白することを話したのだった。

 

「君のその気持ちの整理がつかない限り、これからの魔女退治においても影響が出るし、なにより君自身にとっても良くない」

 

「何が、言いたいのよ…」

 

「自分の気持ちに素直になるんだ!」

 

「素直に…」

 

「そうだ!自分の気持ちに素直になって行動すれば、きっとうまくいくはずだ!」

 

「何、バカなこと言ってんのよ…!それで人間に戻れるって言うの?今のあたしの現状を変えられるって言うの!?」

 

「君は人間だ!」

 

「!」

 

「君は間違いなく人間だ!それに上条だって、君の事をゾンビだなんて言わない!俺の知っている上条はそういう男だ!」

 

「……神童先輩…」

 

「……素直に告白なんて出来るわけ無いでしょ……こんな石ころになっちゃったあたしが……」

 

さやかは弱々しくもあくまで今の自分の現状を盾にして神童の言葉から逃げる。

 

「……俺たちの世界のサッカーはかつて、ある組織に支配されていた…」

 

「…?」

 

「…試合の勝敗すら管理され、自分たちの自由で素直なサッカーが出来なかった。逆らった学校は潰される……俺もその事に怯え、納得できない現状に嘆くばかりでどうすることも出来なかったんだ。でも、天馬と出会ってわかったんだ。俺はやっぱり自由なサッカーが好きなんだと……そしてその想いに素直に従って皆と共に戦った結果、俺たちの望む本当のサッカーを取り戻したんだ」

 

「それとこれと何の関係があるっていうの?」

 

「その時の想いから俺はわかったことがある……何かわかるかい…?」

 

「わかったこと…?」

 

「―――自分がどんな状況の中にいても、その中で何を考え、どう行動するかは自分次第、と言う事だ」

 

「!」

 

「君の魂がソウルジェムに変えられても、君の上条に対する強い想いは変わらない。だからそんな風に苦しんでるんじゃないのか?」

 

「それは…!」

 

さやかは神童に対して先ほどまでのような強い口調の反論が出来なかった。神童の指摘は間違いなく今の自分の心を突いていたのだから。

 

「自分の現状がどうであれ、君が上条に想いを告げてはいけない理由なんて一つも無いんだ!自分の気持ちから逃げる事無く素直に受け入れて現状に立ち向かうんだ!」

 

「…ッ!」

 

さやか自身も神童の言うことは頭では理解できた。しかし、意地っ張りで素直になれない彼女はどうしても神童の言葉を真っ向から受け止められず、歯を食いしばりながら体を震わせる。

 

「君の上条に対する想いはそんなものなのか?ずっと尽くしてきた男に対する想いは今の自分と相手の違いに負けてしまうほどのものだったのか!?たとえ告白に失敗したとしても、それで諦められるものなのか!?誰かを愛する想いはそんなに弱くないし、ウソもつけないはずだ!好きだという自分の気持ちに素直になればきっと……」

 

「うるさい!うるさい!もうあたしの事はほっといてよっ!!!」

 

神童の言葉に耐えきれなくなったさやかは振り払うように首を何度も左右に振ると魔力で脚力を強化してその場から逃げだすように一気に走りだした。

 

「さやかちゃん!」

 

「さやかさん!」

 

神童は引き止めようと反射的に腕を伸ばすが、その手は彼女に届かず空気に触れるだけであった。

 

 

 

 

「馬鹿……!あたし何やってんのよ…!まどかを傷つけて……仲間を振り払って………あたし、もうどうしようもないよ…!救いようがないよ…!」

 

さやかは肺が破裂しそうなくらいに走り続けながら、涙を流して素直になれない自分を責め続けていた。そして自身のソウルジェムをジワリと濁らしていった。

 

 

 

 

「さやかさん……」

 

さやかの姿が遠のくと神童はその手をぶら下げ、くっ、と顔を俯かせて歯を食いしばる。その背中には哀愁が漂っていた。

 

「すまない、まどかさん……俺が余計なことを言ったばかりに…さやかさんを止められなかった」

 

「ううん。神童くんは悪くないよ。神童くんの気持ちはわたしもわかるから……」

 

まどかは自分たちに背を向けながらさやかの背中を押そうとした神童の気持ちを理解できた。しかし、そのさやかが神童に答えることが出来ず、神童とまどかの彼女への心配は募るばかりだった。

 

「あれじゃさやかの奴……上条に好きだって事も、自分が腕を治したってことも言えそうにねえぞ」

 

先ほどのさやかの態度から水鳥はまだ少しイラつきが残りつつも推測した。そんな水鳥の言葉に茜は思わず悲しげな瞳でこう呟いた。

 

「さやかちゃん……まるで人魚姫…」

 

「人魚姫?」

 

天馬が茜の呟きに反応する。

 

「…人魚姫って、確か海で溺れた王子様を助けて、その王子様に会うために自分の声と引き換えに人間の足を手に入れたけど、そのせいで自分が助けたと伝えることも出来ずに王子様は隣の国のお姫様と結婚して人魚姫は泡になって消えてしまうお話ですよね…」

 

葵が人魚姫の物語を簡潔に語る。この状況においてはさやかが人魚姫、恭介が王子、そして仁美が隣の国の姫君を表しているようだった。

 

「さやかちゃんが人魚姫……そんなの、悲しすぎるよ……さやかちゃんが可哀そうすぎるよ…」

 

物語の登場人物に重ねたまどかは、そのあまりにも的確すぎる配役に涙を流す。

 

 

 

「………そんなこと、俺は許さない」

 

 

 

「神童先輩………」

 

天馬が神童を見ると拳を強く握りしめ、俯いたまま険しい表情をしていた。尋常じゃない神童の様子が気になったマミが口を開く。

 

「ねえ、神童くん。美樹さんを気に掛ける気持ちはわかるけど、あなたどうしてそこまで彼女の事を…?」

 

「………」

 

その問いにはこの場にいる全員が思っていた。ソウルジェムの秘密が判明、いや、さやかが魔法少女になってから、神童は彼女の事を特に恭介に関する事には影から見守るように心配していた。ソウルジェムが魔法少女の魂だと判明してからはずっと彼女の事を気にかけていた。仲間とはいえまだ会って間もないさやかの事を何故そこまで気にかけるのか。神童は一度深呼吸をして肩の力を抜くと顔を俯かせ呟いた。

 

 

 

「俺は……さやかさんには幸せになってもらいたいんです………幼いころから上条に尽くし、彼の為に文字通り魂まで捧げた、さやかさんには…」

 

その瞬間、葵はハッと神童の真意に気づく。

 

「もしかして神童先輩………さやかさんをお(かつ)さんに重ねて…!?」

 

「………」

 

神童のその無言が答えだった。

 

 

 

お勝。

それはまだ天馬たちが元の世界で時空最強イレブン探しをしていたころ、戦国時代で神童が出会った豆腐屋の娘であった。彼女は神童に一目惚れし、彼の為に手作りの弁当を作ったり、特訓する姿を見守ってくれた。

そして神童が別の時代から来た人間である事と彼のサッカーに対する思いを知り、引き留めることも出来ないと分かると、せめてこの時代にいるまではと毎晩夕食の鍋を振るった。化身アームドやミキシマックスを習得できずに苦悩する神童を一生懸命に支えたのだった。そして苦労の末、神童がその二つを習得し、別れる際に彼を呼び出した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「もう、会えないんですね………」

 

「俺は、この時代の人間じゃないから…」

 

「はい。…想いが、決して届かぬことも…わかっていました」

 

「!………ごめん…」

 

神童は一瞬不意を突かれたようにお勝を見てから目をそらして謝る。

 

「受け取ってください」

 

お勝は風呂敷に入った弁当箱を手渡し、神童はその弁当箱を両手でしっかりと受け取った。

 

「…じゃあ、行きます」

 

そして神童は彼女に背を向けて立ち去ろうとした。

 

「私も…!」

 

「!!」

 

それは彼女にとって永遠の別れになるとわかっていたから出た言葉かもしれない。しかし、その先の言葉を言って叶ったとしても迷惑でしかないとわかっていた彼女は続く言葉をグッと堪え、

 

「………何でもありません」

 

静かにそう言った。その気持ちを察した神童は振り返ってこう言った。

 

「…お勝さん。俺、取り返してみせるよ。失ってはならない…大切な物を…」

 

「…はい!」

 

お勝は涙をこらえて答えた。そして別れた後、神童はTMキャラバンの中で弁当を開ける。その中には弁当箱いっぱいに収まるほどの大きな豆腐だけが入っていた。それはまるで彼女の神童に対する大きくて優しい愛を表しているようだった。生きる時代が違う。ただそれだけで決して結ばれることが無い事がわかっていながら、彼女は一生懸命に彼を愛したのだ。その豆腐にあふれんばかりの想いを込めて……。

 

 

『真っ白なお豆腐を食べると、心も真っ白になって元気が出るんです』

 

 

「……!…う……くっ…!…」

 

お勝の最後まで尽くすその献身的な想いに神童は涙を流す。

 

 

 

「…お勝さん…!」

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

「……俺が強くなれたのは彼女の支えがあったからなんだ。だからあの時も……」

 

 

 

 

『奇跡も魔法も、あるんだよ』

 

それはさやかが恭介の為に魔法少女になる決心をした時の事。病室の側で身を潜めていた神童がキュゥべえと契約するために病室を飛び出した彼女の横顔を見た瞬間。

 

 

フッ

 

 

「!……お勝さん…!?」

 

 

 

 

 

 

 

それからだった。神童が恭介とさやかをかつての自分とお勝に重ね、さやかの恋を応援しようと決めたのは。別の時代の人間の自分に尽くしたお勝とは違い、同じ世界の同じ時代に生きる男の為に尽くす彼女を支えることで自分がお勝に叶えてやることが出来なかった願いをさやかに叶えさせてやりたかったのだ。想い人と結ばれ、一緒になるという願いを………。

 

 

「さやかさん………」

 

 

暗くて冷たい雨の夜の中、神童のその悲しげな呟きは土砂降りの雨の音にかき消されたのであった…。

 

 

 

 




――ED『かなり純情』(歌:空野葵)――

次回予告

天馬
「一人暴走し続けるさやかさん……その運命の果てに待つものは…!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第9話『絶望のさやか!魔女の正体』!」





というわけでさやかはバーサヤカー状態のままにしました。現代っ子は何かあるとすぐ折れると言われますが、さやかはそれを見事に体現してますね。(笑えることではない)
そして神童が何故さやかにこだわるのか明らかにしました。もてる男にはやっかいものが付きものですよね。

次回からはいよいよこの物語の見せどころの展開が始まります……

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