魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~   作:サニーブライト

14 / 40
出来上がりましたので後半投下します。

少年よ、これが絶望だ…。




第9話『絶望のさやか!魔女の正体!』 Bパート

 

~~住宅街~~

 

 

「まどかさん、大丈夫ですか?」

 

「うん……大丈夫……ありがとう…」

 

あの後天馬はまどかとキュゥべえを連れて少し移動し路上のベンチにまどかを座らせる。キュゥべえは既にまどかの肩から降りており、今はまどかの隣で座っていた。

 

「………」

 

しかしまどかは今もなお元気を失くしたままだった。

 

「ねえキュゥべえ。前に言ってたよね、わたしが凄い魔法少女になれるって」

 

まどかは顔だけをキュゥべえの方に向けて問う。

 

「ああ、凄いなんて言葉じゃ収まらない。君が魔法少女になればおそらくこの世界で最強の存在になれるよ」

 

「もし、わたしが契約していたらさやかちゃんは魔法少女にならずに済んだかな…?」

 

「彼女は自分自身の願いを叶えたんだ。まどかには関係ないよ。でも、君ならさやかの十倍以上の働きが出来ただろうね」

 

「……どうしてわたしなんかが?」

 

「それは僕にもわからない。はっきりいって君の魔法少女としての素質は、理論的にはありえない規模なんだ。誰かに説明してもらいたいのは僕だって同じさ」

 

「理論的にはありえない…?」

 

天馬はキュウベえのその言い方が気になる。

 

「でも、君が力を解放すれば奇跡を起こせるどころかこの宇宙の法則だって捻じ曲げられる。だが、何故君一人がそれほどの素質を持っているのか……その理由は今でもわからないよ」

 

「まどか、君は望むなら万能の神にだってなれるかもしれないよ」

 

「こんなわたしが……」

 

まどかは顔を正面に戻し、視線を地面に落とす。

 

「天馬くん……」

 

「なんですか?」

 

まどかの正面に立っていた天馬が答える。

 

「前にね……ほむらちゃんとお話しした事があるの。さやかちゃんと仲良くしてほしいって。でもほむらちゃんは誰もさやかちゃんにしてやれることは何もないって言ったの……」

 

「そんな…」

 

ほむらの切り捨てるような台詞に天馬も悲しくなる。

 

「でもそんな時に葵ちゃんが言ってくれたの……わたしや葵ちゃんたちは戦い疲れた皆の帰ってくる場所になれるって……」

 

「帰ってくる場所……」

 

「それを聞いた時は嬉しかったよ。何の取り柄もなかったわたしでも誰かのために役に立てるって。必死に戦ってる皆の為に役に立てるんだって喜んでたの……」

 

まどかは一瞬誇らしいように胸に手を置いて微笑むがすぐにその手をおろし、笑顔を消してしまう。

 

「でも昨日、戦ってるさやかちゃんが…怖くなっちゃった……」

 

まどかは弱々しい声で呟く。

 

「さやかちゃんを支えるって決めたのに……さやかちゃんから目を背けちゃった……さやかちゃんに同じ立場になってよって言われた時、わたし何も言えなかった……」

 

まどか両膝の上で手をぎゅっと握り、震わせていた。

 

「天馬くん、わたしサイテーだよ……」

 

「まどかさん…?」

 

「わたし、さやかちゃんの友達のはずなのに……さやかちゃんのために何にも出来ない……葵ちゃんみたいに誰かの帰る場所にもなることも出来ない……さやかちゃんや天馬くんみたいに戦おうともしない……魔法少女になろうとしても、ソウルジェムの事を考えたらどうしてもためらっちゃうの……自分の魂がソウルジェムにされると思うとどうしても怖くなっちゃうの……」

 

まどかは震える声で泣きながら頭を抱える。誰かのために何も出来ず、出来ることがあっても自分のかわいさ故に勇気を出して行動することが出来ない自分が情けなくてどうしようも無かったのだ。

 

「こんなわたし、サイテーだよね……」

 

まどかは天馬に自分を責めて欲しいと言わんばかりに涙を落とす。

 

 

 

 

 

「サイテーなんかじゃないですよ」

 

「え?」

 

天馬の意外な答えにまどかは顔を上げる。

 

「だってソウルジェムの事を考えたら、俺だってきっと悩んじゃいますよ」

 

「でも、さやかちゃんは自分と同じ立場になってって……」

 

そうじゃなければさやかは納得しないと言うように呟くまどか。

 

「確かに友達の為に出来ることをしないのは良くないですよ。でも自分の事だけを考えようとせず、自分と友達を天秤にかけて悩む事は悪い事じゃありませんよ」

 

「でもさやかちゃんは…」

 

「それに、あの時さやかさんが言ったのは本心じゃないと思いますよ」

 

「え?」

 

天馬の言葉に再び呆けた声を出すまどか。

 

「……実は俺もあの時、まどかさんと同じようにさやかさんが少しだけ怖くなったんです…」

 

天馬は自分も同類だと申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「でも、それは一瞬だけでした」

 

しかしすぐに掻いていた手を降ろして真剣な眼差しでまどかを見据える。

 

「その後のさやかさんはずっと一人で苦しんでるようで、とても可哀そうに見えたんです。だからその後まどかさんに言ったのは『苦しんでいるから助けて!』と思って出てしまった言葉だと思うんです。俺はまだ少ししか一緒に過ごしてませんけど、さやかさんは親友であるまどかさんに同じ苦しみを味わってほしくない。そんな友達思いの人のはずですよ!」

 

「!」

 

天馬はさやかを信じぬくように断言する。思えばさやかは昔から自分が困っているときはいつも手を差し伸べて助けてくれた。目の前で困っている友達を放っておくことは出来ない、まどかの知る本当のさやかもそんな優しい少女のはずだった。

 

「でもわたし……さやかちゃんの為に何にも出来ないし、あってもそれを実行する勇気もないんだよ?」

 

まどかはその恩を返すことが出来ない事が申し訳なさそうになる。

 

「でもまどかさんはそんなさやかさんの為に何かしたくて悩んでるんでしょう?」

 

天馬はまどかにそう訊きかえす。

 

「悩んじゃうなら別の方法を考えればいい!大事なのは力になりたいっていう気持ちですよ!」

 

「力になりたい、気持ち……」

 

その時まどかは思い返していた。今の自分はさやかの為に魔法少女になる事をためらっている。それは魂をソウルジェムに変えられる事と戦いに対する恐怖心から来ていた。しかし、それでもさやかの事を放っておくことができず、どうすればいいのか必死に考えていたのだ。

 

「だけど、ほむらちゃんは同情なんかで行動しちゃいけないって言ってたんだよ?それにさやかちゃんがその気持ちを受け入れてくれるかどうか……」

 

「確かに俺のさやかさんへの思いには同情も入ってます。それは認めざるを得ません。それでも!さやかさんを放っておくことなんて俺には出来ない!俺には魔法少女の素質なんてないからさやかさんみたいに魂をソウルジェムにすることは出来ないけど、俺はさやかさんの為に出来る事をしたいんです!たとえ拒否されても、大切な仲間の力になりたいんです!」

 

「…!」

 

天馬の宣言にまどかの心に稲妻のような衝撃が走る。天馬の言うとおり、彼は魔法少女になる事など出来ない。しかしそれでもさやかの為に出来る限りの事をしたいという思いを真っ直ぐに貫いている。仲間を助けたいという彼の信念にまどかは自分を恥じた。友達と自分を天秤にかけて悩む前に、助けたいという強い意志から始めなければならなかったと…。そこから答えを導き出さねばならなかったと…。

 

「まどかさん、あなたがさやかさんの為に自分を犠牲にしたくないのは仕方ないですよ。だから俺は今すぐ魔法少女になれ、なんて強制はしません。それを最後に決めるのはまどかさん自身ですから……」

 

「天馬くん……」

 

「まどかさんがどんな選択をしようと、それがさやかさんの為だったら俺は責めたりしません!その時は俺が支えてあげますよ。だってさやかさんの力になりたいのは俺も同じですから!」

 

「!」

 

天馬の言葉に体中の血が足元から抜けていく心地がするまどか。まるで体重が無くなったような感覚が彼女の心までも軽くしていった。

 

「天馬くんは本当に優しいよね……一つ一つの言葉に強い意志が込められてて……勇気にあふれていて……聞いてたら悩んでなんかいられないよ…」

 

まどかは目を閉じ、安心しきったような穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

 

「まどかさん……」

 

「ありがとう、天馬くん……おかげで、決心がついたよ」

 

ここでまどかはキュゥべえに向きなおす。

 

「ねえ、キュゥべえ。キュゥべえが出来ない事でも、私になら出来るかな?」

 

「というと?」

 

「私があなたと契約すれば―――さやかちゃんを元に戻せるかな?」

 

「その程度、造作もないだろうね」

 

キュゥべえはそう断言する。

 

「だけどその願いは―――君にとって、魂を差し出すに値するものかい?」

 

「うん。さやかちゃんの為なら……」

 

まどかは天馬から与えられた勇気を胸にキュゥべえに告げる。

 

「わたし、魔法少女に―――」

 

そう言いかけた直後、何かが破裂するような音と同時にキュゥべえの頭が欠けた。

 

「「え……?」」

 

二人は何が起こったのか理解する間もなく、次の瞬間にはキュゥべえの全身が穴だらけになって白い、何かの残骸に成り果てていた。全身を吹き飛ばされたキュゥべえだったものがまどかの隣でぽてんと落ちた。

 

「あなたは―――」

 

キュゥべえに気を取られていた天馬とまどかは突如聞こえてきた声に振り向く。

 

「どうして、あなたは―――」

 

そこには魔法少女服のほむらがこちらに向けて月明かりにその白い肌を照らしながら拳銃をこちらに向けていた。そして怒りを表すように持っていた銃を投げ捨てる。カラカラと地面を転がる拳銃の音でようやく二人はほむらがその銃でキュゥべえを撃ち抜いたと理解する。

 

「ほ、ほむらさん!?」

 

「……ひ、ひどいよ…何も殺さなくても…」

 

天馬がほむらの行動に驚き、まどかがそう言いかけるとまどかはほむらに詰め寄り、叫んだ。

 

「……どうして?なんであなたは、いつだって、そうやって自分を犠牲にして……自分は何の役にも立たないって言って……勝手に自分を粗末にしないで!あなたを大事に思う人の事を考えてよ!」

 

「え?」

 

「いい加減にしてよ!あなたを失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気が付かないの?あなたを守ろうとしてた人はどうなるの!?」

 

真剣な顔でそう叫ぶほむらはまどか達の知る彼女とはかけ離れていた。その時まどかはほむらが自分のクラスに転校し、夕方に天馬と出会った日の朝、彼女が自分に必死に自分に呼びかけていた夢を思い出す。そしてその後、転校してきたほむらが『今とは違う自分になろうとしないで』と自分に言っていたことを思い出す。そして今のほむらの眼はその時と同じ眼をしていた。その事を思い出すと、まどかの口から自然と言葉が出ていた。

 

「ほむらちゃん…?わたしとほむらちゃんは―――前にどこかで会ったことがあるの?」

 

「それは……」

 

その瞬間、ほむらの瞳に哀しみが広がり、彼女はその場で崩れる。

 

「ほ、ほむらさん!?どうしたんです!?」

 

天馬が慌てて駆け寄りながら声を掛けると、ほむらは地面に両膝をつけて肩を震わせる。

 

「うっ…うう…」

 

「ほ、ほむらちゃん?」

 

彼女は顔に両手を当てて涙を流していた。いつも凛としていて、完璧で、全く感情を露わにしない彼女が泣いていたのだ。その姿はとても弱々しく、二人にはその姿がマミやさやかが自分達に見せた年相応のか弱い少女の姿に見えた。するとほむらは肩を震わせながら涙声で呟く。

 

「松風天馬……これ以上、まどかに近づかないで…!」

 

「ほむらさん…!?」

 

「あなたのその言葉が……あなたのその優しすぎる思いが……この子を魔法少女に(いざな)ってしまう……これ以上、まどかを惑わさないで…!」

 

泣きながら天馬に対して言ったほむらの言葉は怒って警告しているのではなく、まるで心から懇願しているように弱気なものだった。一方で魔法少女になる術を失ったまどかは一刻も早くさやかを見つけたいという衝動に駆られていた。

 

「ごめん、ほむらちゃん……わたし……行かなきゃ」

 

「待って、美樹さやかはもう…」

 

「ごめんね」

 

「待ってっ、まどか!」

 

「まどかさん!」

 

まどかは二人の制止も聞かず、さやかを探して走り出してしまった。

 

「まどかさん……ッ!」

 

天馬もすぐに後を追おうと駆け出す。

 

「松風天馬……あなたはどこまで愚かなの…」

 

走り出そうとした直後、ほむらの声が天馬は立ち止まらせる。

 

「あなたの言葉が……まどかを魔法少女に誘導させてしまう……それがわからないの…?」

 

哀しみに暮れながら恨みがましい声で天馬に語るほむら。

 

「………」

 

そんなほむらとは対照的に、天馬は背を向けて立ち止まったまま宣言した。

 

「ほむらさん……俺は、例えどんなことが起こっても、誰一人見捨てませんよ」

 

そのゆるぎない決意をはっきりと告げられ、ほむらは思わず涙を止めて顔を上げる。天馬の目は決意に満ち溢れていて、月光がその瞳を映えさせていた。

 

「まどかさんも、さやかさんも……そしてあなたの事も」

 

そう言って天馬はまどかの後を追った。

 

「………」

 

ほむらは涙を拭いてゆっくりと立ち上がる。そしてまどかを追う天馬の後ろ姿を見据える。

 

「あなたの言葉は優しすぎる……この私ですら揺るがしてしまうほど……ましてや、まどかなんて…」

 

天馬の影響を受け、彼女を魔法少女に後押しかねないと彼の心の強さを危険視するほむら。

 

 

 

 

「―――随分と彼に苦戦しているようだね」

 

 

 

 

そこに話しかける誰かの声。その瞬間、ほむらの心は一気に冷めていき、いつものクールな雰囲気の彼女に戻っていった。

 

「……それは、あなたも同じじゃないの?」

 

いつもの淡々とした声で現れた声に返すほむら。

 

「まあね。彼の言葉はマミの時のように僕達の邪魔になるけど、彼だって万能じゃない」

 

ほむらが振り返ると、その声の主がベンチの上にいた。それは先ほど自分が撃ち抜いたはずのキュゥべえだった。しかし、彼の側には確かにほむらが粉々にしたキュゥべえの残骸があり、もう一匹のキュゥべえはその残骸を処理するように貪っていた。

 

「彼の影響が及ばないところで、僕達の目的の一つが果たされようとしている。それに何より、彼の言葉が同時にまどかを魔法少女に導くものになるからね」

 

新たに現れたキュゥべえはほむらが撃ち抜いた残骸を食い尽くすと、きゅっぷい、と独特の音を出して喉を鳴らす。

 

「させないわ」

 

月明かりに照らされる中、ほむらは長い黒髪を巻き上げて宣言する。

 

「あなたの思い通りになんかさせない……キュゥべえ、いえ―――

 

 

 

 

 

 

 

インキュベーター」

 

 

 

ほむらが見据えたその赤い瞳は月明かりに照らされて怪しく輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~駅・ホーム~~

 

 

 

「やっと見つけた………」

 

誰もいなくなった暗い駅のホームでベンチにただ一人で座っているさやかを杏子が見つける。

 

「あんたさぁ、いつまで強情張ってるわけ?」

 

「……ごめんね。手間取らせちゃって」

 

「なんだよ、らしくないじゃんかよ」

 

杏子はさやかの隣にドカッと座るとポテトチップの封を開け、そこから数枚のチップを取り出して頬張る。

 

「もう何もかも……どうでもよくなっちゃったからね」

 

「……?」

 

なにやら様子が今までと違うさやかに杏子は顔を覗き込もうとする。しかし彼女は座ったまま顔を下に向けており、その表情はうかがえなかった。そのかわり、座っている彼女の足の上に置かれている掌が目に入る。それは片方の手で覆われており、その中にある何かを包み込んでいるようだった。

 

「結局あたしは何のために願いを叶えて……何のために戦ってたのか……もうわけわかんなくなっちゃった…」

 

ここでさやかは中の物を杏子に見せるように覆っていた片方の手を上げる。

 

「何を…?―――ッ!?」

 

杏子は思わず目を疑った。彼女の掌の中にあったのはソウルジェムだった。しかしその色はほぼ完全にドス黒く染まっており、その綺麗な青い輝きは失われていた。

 

「……やっとわかったよ……いつだったかあんた言ってたよね……希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって……」

 

さやかのその声は何かに憑かれたように空っぽで夜の静けさに溶け込んでしまいそうだった。

 

「あんた、まさか…!」

 

「……今ならそれ、よくわかるよ……誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない……あたしたち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね……」

 

「しっかりしろよ、さやか!」

 

杏子はさやかを立ち直らせようと必死に叫び返す。

 

「確かにあたしは何人か救いもしたけどさ……だけどその分、心には妬みや恨みが溜まっていって……その結果、一番大事な友達さえ傷つけて、背中を押そうとした仲間からも逃げて、憧れの先輩みたいにもなれなくて……どうしようもなくなっちゃった……」

 

「さやか……」

 

ここで彼女は顔を上げる。さやかがその悲しみと後悔に満ちた空虚な泣き顔を杏子に見せた直後、

 

 

 

 

 

「あたしって………ほんと、バカ」

 

 

 

 

 

一粒の涙が黒く濁ったソウルジェムに落ちた。

 

 

 

そして次の瞬間、彼女のソウルジェムは砕け散り、その中からグリーフシードが現れ、闇色の稲光を走らせる。

 

「ぐあっ!!」

 

すると辺りに突風を発生させ、杏子をいとも簡単に吹き飛ばす。一方で魂が失われたさやかの身体がタイルで出来た駅のホームの床に落ちるとグリーフシードからは突風を放ち続けながら雷雲のような暗いもやが発生し、辺りを包み込んでいった。杏子は駅に設置された手すりに必死に掴まりつつ、結界に飲み込まれながら悲痛な叫びを上げた。

 

「さやかあああああああッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!―――杏子さん!?」

 

杏子と少し離れた場所でさやかを捜索していた剣城は杏子の叫びを聞いてすぐさまその方向に走り出した。

 

 

 

「!!!」

 

そしてさやかと杏子がいた駅の入り口に到着するとそこには大量の黒いエネルギーを発しながら広がっていく結界があった。

 

「これは!?……くそ!遅かったか…!」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

見滝原ではありふれたどこかの高いビルの屋上で一匹の白い獣が膨張していく結界を眺めていた。

 

「―――この星では、成長途中の女性の事を少女って呼ぶんだろう?だったら―――」

 

そして白い獣は何事でもないようにのんびりした口調で誰に向けたということもなく言い放った。

 

 

 

「やがて魔女になる君たちの事は―――魔法少女と呼ぶべきだよね」

 

 

 

 

 

~~魔女結界~~

 

 

 

「なんだよ、これ……」

 

突如出現し、広がっていく暗い魔女結界の中で杏子は困惑する。

 

「―!さやか!」

 

そんな中で突風に跳ね上げられ空中から落下しているさやかを見つけ、急いで魔法少女に変身すると彼女を抱きかかえる。そして気づく。腕をぶらんと垂らして目を閉じている彼女の身体が冷たくなっている事に。

 

「!」

 

そして目の前に胸元に見滝原中学のリボンを着け、下半身が人魚のような魚の尾で、片手に剣を掲げる甲冑の騎士が現れた。

 

「なんなんだテメー!さやかに一体何をしやがった!」

 

杏子はその魔女に叫ぶが魔女は全く応じようとしない。

 

「下がって」

 

その直後、突如聞こえてきた声と共に一個の手榴弾が魔女の目の前で爆発し、魔女を怯ませる。杏子もその爆発に怯み、爆発で生じた煙が消えると、自分の正面にほむらと剣城が立っていた。

 

「お前ら…!」

 

「杏子さん、無事ですか!?」

 

「ああ、あたしは……でも、さやかが…」

 

剣城が杏子に抱えられているさやかを見る。彼女の肌は青白くなってぐったりとしており、生気が感じられなかった。

 

「くそっ……もっと早く気づいていれば…」

 

「え?」

 

「二人共、ここはいったん引くわよ。掴まって」

 

ほむらが突如二人に両手を伸ばす。

 

「何を…?」

 

「いいから早く!」

 

ほむらが腕を伸ばして剣城と杏子の手を掴むと、彼女の左腕に付けられた盾のようなものが回り出す。すると自分たち以外の全てのものが凍りついたように全てが静止した。目の前の人魚のような魔女も全く動く気配が無くなり、二人は驚く。

 

「これは……」

 

「私から決して離れないで。でないとあなた達の時も止まってしまう」

 

「時が止まる……?まさか、時間停止の魔法か!?」

 

「そうか…!あの時も…」

 

剣城は自分が仲裁したさやかと杏子の決闘の時にほむらが突然現れ、一瞬で杏子の背後に回ったことを思い出す。そう、彼女はあの時もこの魔法で移動したのだった。

 

「行くわよ」

 

剣城と、さやかを抱えた杏子はほむらに掴まったまま魔女から逃げるように逆走する。

 

「おい、一体何が起こったんだ!あの魔女は一体……」

 

「あれは『かつて美樹さやかだったモノ』。あなたも見届けたのでしょう」

 

「…くっ!」

 

杏子は何が起こったのかほむらに聞くまでも無く理解しており、言葉を詰まらす。

 

「逃げるのか?」

 

「嫌なら戦う事ね。その荷物を置いて」

 

「…ッ!」

 

ほむらの言葉がより今起きた現実を認識させ、杏子は再び悔しげな表情を浮かべる。その時の杏子は目をそらしていたので気が付かなかったが、

 

「……間に合わなかった…」

 

「…!くっ!」

 

ほむらも無意識の内に悔しげに呟いていた、それを聞き逃さなかった剣城はほむらのその様子に違和感を抱きつつも苦い顔で唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~線路~~

 

 

 

「マミさん、本当にこっちから魔女の結界が!?」

 

「ええ!もしかしたら美樹さんがいるかも……」

 

普通なら誰も立ち入れない線路を掛ける一つの一団があった。まどかはさやかを探すため走り出し、天馬もその後を追った後、運よくマミたちと合流し今は突如出現した結界の気配を感じ取り、全員で線路上を走っていた。その先にさやかがいると信じて。

 

「誰かいます!」

 

信助の掛け声と共に一同が線路の先を見るとさやかの身体を両腕で抱きかかえた杏子がほむらと剣城を引き連れて此方に歩み寄っていた。

 

「さやかちゃん!」

 

「杏子さん!」

 

「剣城!ほむらさん!」

 

まどか、葵、天馬を初めとした一同が駆け寄る。一同の声にハッと気が付いた杏子はばつの悪そうな表情を浮かべて目をそらす。それは共に現れた剣城も同じだった。

 

「さやかさん……―――っ!?」

 

神童は杏子に抱えられているさやかを見て驚愕する。彼女は目を閉じていたがその肌は生気が感じられないほど白く、唇には青みがかかっており、重力に逆らうこと無くだらりと垂らした腕と髪が彼女の状態を物語っていた。

 

「死んでる、のか……!?」

 

「!?ほむらちゃん、さやかちゃんのソウルジェムは!?」

 

まどかがほむらは詰め寄る。しかしほむらは隠しててもばれることだと思い、その場で何が起こったかを包み隠さず話すことにした。

 

「彼女のソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を生んで―――消滅したわ」

 

「「「!?」」」

 

「……嘘、だよね…」

 

「事実よ」

 

嘘だと信じたかったまどかはほむらに問い直すが、その答えは変わらなかった。

 

「ちょっと待って!美樹さんのソウルジェムがグリーフシードになって魔女が生まれたって……」

 

「それって、さやかさんが魔女になった…!?」

 

マミと天馬は信じられないように驚愕する。

 

「やはり、そうだったのか…!」

 

「剣城…!?」

 

悔しげな表情で下を向いて拳を作る剣城。

 

「あなたはたどり着いていたようね。魔法少女の最後の秘密に」

 

「ああ……俺たちや魔法少女たちが戦ってきた全ての魔女は………」

 

ほむらの問いに剣城は歯を強く食いしばり、拳を強く握る。そして口に出すのも忌々しく思いつつその残酷な真実を打ち明けた。

 

 

 

 

「全て………魔法少女のなれの果て!!!」

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

剣城のその告白は全員の心に衝撃を走らせた。

 

「その通りよ」

 

そんな中でもほむらは表情を一切崩さず話を続ける。

 

「ソウルジェムに穢れが溜まり、その限界を超えた時、ソウルジェムはグリーフシードに変わり、私たちは魔女に生まれ変わる。……それがソウルジェムの最後の秘密。魔法少女となってしまった者の逃れられない運命」

 

「なん、だって…!?」

 

天馬は信じられなかった。自分と信助が最初の魔女退治の手伝いの時に戦った薔薇園の魔女。マミを殺そうとしたお菓子の魔女。まどかたちを閉じ込め、さやかに倒されたハコの魔女。杏子の教会に出現した家政婦の魔女。昨日戦ったばかりの影の魔女。魔女と独立して結界を作り、自分たちが倒してきた使い魔を生み出した魔女たち。

 

「あの怪物たちが全部……元は魔法少女……人間だった!?」

 

「ふざけんじゃねぇ!」

 

「そんな……そんな酷い話があってたまるものか!」

 

水鳥と神童がソウルジェムの真実を受け入れられず怒鳴りつける。

 

「嘘…嘘だよね…」

 

まどかもほむらの話が信じられず、泣き顔で杏子に尋ねるが、彼女は唇を噛みしめたまま何も答えようとしなかった。

 

「そんな……どうして?さやかちゃん、魔女から人を守りたいって、正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ?なのに……」

 

「その祈りに見合うだけの呪いを背負い込んだまでの事。あの子は誰かを救った分だけ、これからは誰かを祟りながら生きていく」

 

「やめろ」

 

杏子は突如さやかの身体をまどかに預け、ほむらの襟首を掴み上げながら詰め寄る。

 

「てめぇは……何様のつもりだ?事情通ですって自慢したいのか?なんでそう得意げに喋ってられるんだ?こいつはさやかの……」

 

「今度こそ、理解できたわね」

 

杏子の話をよそにほむらは冷たい口調でまどかに告げた。

 

「あなたが憧れていたものの正体がどういうものなのか」

 

「…!」

 

「まどかさんっ……!」

 

その瞬間、まどかは膝から崩れ落ち、地面に落ちそうになったさやかの身体を神童が抱える。

 

「あんた、もっと言い方ってもんがあんだろうが!」

 

「やめてください!水鳥さん!」

 

「落ち着いて!」

 

杏子と同じく耐えきれなくなり、ほむらに食って掛かろうした水鳥を葵と茜が抑える。

 

「てめぇ、それでも人間か!?」

 

「もちろん違うわ―――そして、あなたも、ね」

 

ほむらは激昂する杏子の手を軽く払ってそう言った。

 

「そんな……さやかちゃん…さやかちゃん…!」

 

まどかはさやかの魔女化が受け入れられず、両膝を着いたままさやかの亡骸に向けて涙を流す。

 

「さやかさん…!」

 

その時、眠ったように死んでいるさやかの顔に涙が落ちる。それは自分と同じように両膝を着いて彼女を抱きかかえる神童のものだった。神童は歯を食いしばり、彼の眼からは最後に彼女と別れた時に降っていた、あの夜の大雨のような大量の涙があふれ出ていた。

 

「さやかさん……君は上条の……彼の為を想って願ったのに……こんな……こんな目にっ!俺は……俺はっ…!」

 

神童はさやかを救えず、彼女を死なせてしまった事を悔やんで地面を殴りつける。

 

「神童くん……」

 

「神サマ……」

 

茜も涙を浮かべながら神童に同情する。

 

「何で……何でさやかさんが魔女にならなくちゃいけないんだ!」

 

「天馬……」

 

「さやかさんは……大切な人の為に願って……希望を持って頑張ろうとしてたのに!こんなの……絶対おかしいよ!」

 

さやかは意地っ張りで一人で突っ走ってしまうこともあるが、目の前で困っている者を放っておけない優しい少女のはずだった。想い人に心から尽くそうとすることが出来る、希望あふれる一人の恋する少女のはずだった。そんなさやかが絶望して魔女になってしまった事に天馬は納得できなかった。

 

「天馬……」

 

そんな天馬の心情を察した信助も共に悲しげな涙を流す。

 

 

 

「ソウルジェムが………」

 

「……?」

 

突如マミが喋り出し、それに気づいた信助が振り向くと、彼女は下を向いて体を震わせていた。

 

「マミさん?」

 

「ソウルジェムが魔女を生むなら……」

 

「ッ!…まずいッ!」

 

ほむらは危険を察知し、盾を出して時間を止めようとする。

 

 

 

「みんな……」

 

 

 

 

 

 

パアアアァ!

 

「「「!?」」」

 

その時、突如マミの頭上に人ひとりを包み込めるくらいの大きさを持つまばゆい光が出現した。

 

 

 

 

「え?」

 

「な、何!?」

 

一同が泣くのもやめて困惑する中、事件は起こった。

 

 

 

 

 

「のわあああああ!!」

 

「――!?きゃあああああ!!」

 

その光から一人の男がマギカボールと共に降ってきた。一同はとっさに手で顔を覆い、目をつぶった直後、どしーん!と大きな音がその場で響き渡る。そして再びその場を見た雷門一同は目を丸くして驚いていた。

 

「あいたたた……ここはどこじゃ?」

 

落ちてきた男は腰をさすりながら起き上がる。現れたのは天馬達と同じ雷門のジャージを着ていて剣城よりも身長が高く、侍のちょんまげを彷彿させる黒い一本おさげをしている褐色の肌の男。

 

「に……錦先輩!?」

 

その名はチーム雷門の2年MF、錦竜馬だった。

 

 

 




――ED『Magia』――


次回予告

天馬
「さやかさんが魔女になったことにショックを受ける俺達!そこに錦先輩が現れた!?そして俺達はさやかさんを助ける事を決意する!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第10話『それぞれの決意』!」




はい。

というわけでさやかが魔女になってしまいました。

ここから原作では鬱展開まっしぐらですが、イナズマGOで鬱から最も遠い男を登場させました。天馬達の魔法少女の運命との戦いはここからが本番です。その前に次回はさやかを救うためにあちこちに別れた一同が話し合います。

ご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。