魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~ 作:サニーブライト
剣城と杏子の部分を掘り下げたくって書いてたらやたら長くなって他の部分は短めになりました。
こんな拙い物語でも楽しめたら幸いです。
それではどうぞ
~~某ホテルの一室~~
「そうやって魔力を消費してまで死体の鮮度を保ってどうするんだい?」
見滝原のビジネスホテルの一室のベッドでさやかの遺体が寝かされていた。人払いの魔法を使ってここまで運んだ杏子は魂の無いさやかの身体が腐敗しないように自身のソウルジェムの光を当て、一種のエンバーミングを施していた。
「こいつのソウルジェムを取り戻す方法は?」
「僕の知る限り前例はないね」
いつもの調子で答えるキュゥべえ。
「でも君たち魔法少女は条理をも覆す存在だ。何が起きても不思議じゃない」
「…そいつはお前にもわからない事があるってことか?」
「あのイレギュラーたちの事とかね。でも今回の事はさすがの僕でも助言はできないよ」
「―――少なくとも、貴様からそんな話が聞けるとは思えないがな」
二人が声の方に顔を向けると剣城が腕を組んで壁に寄りかかりながらこちらを見ていた。
「君は何故杏子についてきたんだい?君がさやかの死体に出来る事なんてないと思うけど?」
「……お前に言われる筋合いは無い」
無表情で答える剣城に対し、ふー、と溜息をつくキュゥべえ。
「全く、意味の無い事だとわかっているのにやろうとするなんて、人間の感情は理解に苦しむよ」
「――失せろ」
薄暗い部屋の中でドスの利いた冷淡な声が響く。
「今の俺は、非常に機嫌が悪い…!」
剣城は激しい怒りを込めた禍々しい眼つきでキュゥべえを睨みつけ、ただならぬ殺気を放つ。そのあまりの迫力に怖気を感じた杏子もゴクリと息を呑んだ。
「やれやれ。今の僕は邪魔者のようだね」
キュゥべえは仕方ないように踵を返すと部屋の一部の暗闇に紛れてどこかへ消えていった。
「……すまねえな」
「いえ…」
キュゥべえの気配が消えたのを確認すると剣城は側にあったイスを持ち出し、杏子の隣に置いて座る。そしてそのまま杏子によってエンバーミングを続けられているさやかの身体を黙って見つめていた。
「………」
二人はしばらく一言も喋らず、さやかの身体を見続けていた。
「………お前にだけは、話しておくよ」
「?」
突如口を開いた杏子に怪訝な表情で振り向く剣城。杏子は休憩がてら一旦エンバーミングを止めてソウルジェムの光を消して自分のポケットにしまって語り出した。
「あたしはな、誰かの為に願いを叶えたこいつがほっとけなかったんだ。誰かのために頑張ろうとしていたこいつがほっとけなかった……自分の想いを貫いてもらいたかった……魔女なんかに負けて欲しくなかったんだよ……」
杏子は憂いるようにさやかを見つめる。
「こいつは、あたしにとっちゃ最後の希望だったんだ……」
「……それは、彼女の魔法少女としての始まりが、自分と同じだったからですか?」
剣城の指摘に思わず振り向く杏子。自分の過去は剣城にはまだ話してないはずなのに何故知っているのかと驚いていた。
「実は、教会でのあなたたちの会話を聞いてたんです」
「……そうだったのかよ」
杏子は納得したようにさやかに視線を戻す。
「あなたが大切な家族の為にやったことが、結果的にその家族も自分も傷つけることになってしまった」
「ケッ、わかった風なこと言ってんじゃねーよ」
杏子はそっぽを向いて悪態を吐く。しかし、次に彼の口から出たのは意外な言葉だった。
「わかります。俺も―――あなたと同じですから」
「……え?」
~~回想~~
―――俺には、兄さんがいるんです。俺たち兄弟はサッカーが大好きで、幼いころからいつも一緒にボールを蹴り合っていました。
ところが……6年前。
『いくよ、兄さん!それっ!』
あるところに仲睦まじい兄弟がいた。剣城
ポスッ
『あ!ボールが木に引っかかっちゃった!取って来るよ、兄さん!』
『おい、京介!危ないぞ!』
『へーきへーき!』
弟はその小さな体にも関わらず、木をどんどん上っていき、ボールの間近までたどり着いた。
『う~ん……あと少し……』
ベキッ
『!』
弟がボールを取ろうと手を伸ばした直後、もう片方の手でつかんでいた枝が折れてしまい、支えを失った弟はボールと共に落下した。
『うわあぁぁ!』
『京介!』
兄があわてて駆け寄り、地面に激突する前に身を挺して受け止めた。
ドサッ ビキィ!
『!!!』
『う……う~ん…』
『ぐうぅ…!』
『…!?兄さん、どうしたの!?兄さん!!』
『残念ながら……優一君の足は……』
『そんな……先生、なんとかならないんですか!?先生ぇーーー!!!』
―――俺のせいで……兄さんの足は動かなくなりました。俺が…兄さんのサッカーを奪ったんです。
~~~~~~
「そんなことが……でもそれとあたしの事と何の関係があるんだよ?」
「……話はここからです」
~~~~~~
―――海外の最新医療を用いた手術を受ければ、兄さんの足を再び動かせることがわかりました…。でも、その手術費は莫大で、とても一般家庭が一生かけても用意できる額じゃありませんでした。そんなある日……。
『剣城京介くんだね』
『あなたは…?』
『フィフスセクターと言えばわかるだろう。我々は君の才能を高く評価している…』
~~~~~~
「『フィフスセクター』?」
「サッカー管理組織『フィフスセクター』。彼らはサッカー界の秩序を守る為、勝利を平等に分けあうと言って少年たちに八百長試合を強いらせ、逆らった学校は潰していく巨大組織でした。そして彼らは各地の学校がフィフスセクターに逆らっていないかをチェックする監視者の役割を持つ選手を各学校に送りこんでいました。その監視者は『シード』と呼ばれ、俺もその一人でした……」
「…なんでそんな奴らの元に就いたんだよ?」
「……フィフスセクターの理想とするサッカー界を創る手伝いをすれば、兄さんの手術費をもらう。そういう『契約』をしていたんです」
「!!」
剣城の『契約』という言葉に強く反応する杏子。彼も自分やさやかと同じ、形は違えど大切な誰かのために『契約』した者だった。サッカーを汚す組織に就いてまで兄の足を治そうとした彼の思いは自分の父や恭介の為に戦う運命を受け入れた自分たちと同じぐらい強いものだったと感じていた。
~~~~~~
―――俺は兄さんの手術費の為、フィフスセクターのどんな理不尽な訓練も耐え、雷門にシードとして入学しました。最初こそは天馬や円堂監督が本当のサッカーを掲げても、フィフスセクターの命令を遂行しようとしました。ところが、ホーリーロードの試合の最中……。
『くらえっ!』
『!』
『っ!?』
相手チームのシードがフィフスセクターに刃向う天馬の足を潰そうとしたのをとっさに剣城が阻んだ。
『おい……俺たちシードの仕事は雷門を負けさせることだ。やりすぎじゃないのか?』
『へっ、気に入らねえんだよ。あんな奴、一生サッカー出来なくなっちまえばいいんだよ』
『!!!』
そのシードの一言がサッカーが出来ない兄の事を重ねた剣城を激昂させた。
『貴様……本気で言ってるのか!?』
~~~~~~
「俺は相手の選手生命を奪うことすら厭わないシードのやり方に激昂し、自ら点を入れて勝敗指示に逆らい、雷門を勝たせました。その後、当然のようにフィフスセクターから咎められ、次は負けさせるよう指示されました。しかし、その時は既に俺の中に迷いが生まれていました。このまま兄さんの足のためとはいえ、フィフスセクターに従うことが本当に正しいのかと。その迷いの所為で、俺は次の試合に足を運ぶこともできませんでした。天馬達が十人で試合に臨んでいる中、病院にフィフスセクターの男が現れ、こう言われたんです。『もし雷門が勝つような事があれば兄さんの手術費は無かったことにしてもらう』と…」
「それって、脅迫じゃねぇか…」
「ええ……それが俺をより焦らせ、迷いをさらに募らせました」
「………」
「でも、その時の会話を……兄さんに聞かれてしまっていたんです」
「!!!」
「兄さんは動かなくなった自分の足を見せながら俺に言いました……『この足を元に戻してくれと一度でも頼んだのか』と……」
そこまで話したところで杏子は自分の教会に現れた魔女を退治していたところを父に見られた時の事を思い出す。杏子もまた父の為に願って魔法少女になったものの、その事を父には黙っていた。それ故に何も知らなかった父も真実を聞いて優一の様にショックを受けていた。
「兄さんは俺がフィフスセクターの一員になっていた事に嘆き悲しみました。そしてそのまま、俺は兄さんに泣かれながら病室を追い出されました……」
剣城のその語りに杏子はさらに思い出す。彼女は『父の願いを人々に聞いてほしい』という願いで契約した。しかし、それは人々が魔法の力で聞いていただけで誰も心から聞きたかったわけではなかった。そして杏子の父もただ自分の話を人々に理解してもらいたかっただけで、人々を操ってまで語りたかったわけでは無かった。それ故に杏子を悪魔と契約した魔女だと罵った。優一もまた剣城を悪い組織に入れてまで足を治したかったわけでは無かったのだ。杏子は剣城がここまで自分と同じだった事に驚きつつも、決していいものとは思えない親近感がわいていた。
「……それから、どうなったんだ?」
「……兄さんにフィフスセクターとの契約を拒否された俺はフィフスセクターと決別するために後半からの試合に臨みました。でも最初はまだ心のどこかで迷いがあり試合に集中できませんでした。でも、天馬の言葉で目が覚めたんです」
『どうしたんだ剣城!それがお前の全力なのか!?そんなんじゃ、サッカーが泣いてるよ!』
「その時俺はわかったんです。俺が兄さんに出来る最大の償いは昔に失われた俺と兄さんのサッカーをすることだと。そしてそれを貫いた結果、試合は逆転勝利を収め、その事に安堵した兄さんとも仲直りすることが出来ました」
「……そうか」
杏子は話の中で優一がショックで自殺したのではないかと内心ハラハラしていたが、最後まで自分と同じではなかったことに胸をなでおろす。
「あなたに比べたら、俺の方がずっとマシだということはわかっています。でも、俺が勝手にやった事が……兄さんを泣かせた事に変わりはありません」
『お前は俺たち兄弟のサッカーを裏切ったんだ!!!』
「あの時の兄さんの涙は、今でも忘れられない…」
剣城は哀しげな眼で兄に言われたことを思い出す。
「じゃあ…あんたがあたしについてきたのは…」
「その頃の俺に似ていたんです……教会で初めて会った時のあなたの雰囲気が……もっともそれはさやかさんとの会話を聞いて確信に変わりましたが」
剣城は顔を上げて再びさやかを見つめる。
「さやかさんは、想い人の腕を治すことを望んで魔法少女になった。思えば俺はさやかさんも昔の自分に重ねていたのかもしれません……」
さやかは腕が動かなくなってバイオリンが弾けなくなった恭介の腕を治すことを望んで『契約』したが今の自分を受け入れられず絶望した。
杏子は父の話を人々に聞いてもらう事を望んで『契約』したがそれを知られたことが原因で父を悲しませ、家族を死なせてしまった。
そして剣城は自分のせいでサッカーが出来なくなってしまった兄の足を治す事を望んで『契約』したが、その代償として自分たちのサッカーを裏切った事を知られて兄を悲しませてしまった。
理由も経緯も違う三人だが『契約』が元で傷ついてしまったという共通点を持っていた。
「あんたはあたしとさやかを足して2で割ったってとこか……ところであんたの兄貴って、今どうしてんだ?」
「ホーリーロードの決勝直前に匿名の支援金が届き、無事に手術を受ける事が出来た後、今は必死にリハビリしています」
「そうか…」
杏子は優一の現状が良いと知ると、憑き物が落ちたように大きくため息をついて視線をさやかに戻す。
「だが、あたしたちは他人の為に願った結果、ただ自分を傷つけただけだった。父さんも必死に人々を救うと言って訴えかけたけど誰も理解されなかったように、自分以外の誰かの幸せの為に動いたのは結局間違いだったって事だよな……」
杏子は諦めたような憂いる瞳で自分以外の為に行動した自分達を自虐する。
「それは違います」
「!」
剣城の思わぬ否定に杏子は驚いて彼に目を向ける。
「確かに……あなたの願いによって、あなたのお父さんを死なせてしまった」
「……そうだよ。だから、なんだってんだ…?」
杏子は言われたくないと拒むようなしかめっ面で剣城から顔を背ける。
「でも……あなたのお父さんはこの世界の人々を救いたかった。そしてあなたはそんなお父さんの力になりたかった。そうでしょう?」
「……!」
杏子は思い出す。自分の父は新聞の事件の記事を見ただけで涙を流すような優しすぎる人だった。そしてこの世界の悲劇を何とかするために新しい説法を唱えた。しかし、それは当然のごとく人々に理解されなかったが、自分にはそれが耐えられなかった。
「あなたたちはただ人々やお父さんを救いたかった。その方法は良い結果を出しませんでしたが、あなたたちのその時の想いは絶対に間違ってなんかいないんです!」
「……あたしと、父さんの想いが…間違ってない…?」
「そうです!俺は兄さんの為にシードになりましたが、兄さんの気持ちを考えなかった……でも、兄さんは言ったんです…」
~~~~~~
『兄さん……その、まだ怒っているか……?俺がやった事を……』
『………』
剣城の問いに優一は数秒間黙る。
『ああ。確かにお前のやった事は許さない』
優一は真剣な顔つきでそう答えた。
『に、兄さん……』
『でも、わかっているんだ。お前が俺の為にやった事だったんだと。それだけは受け入れられる。俺がそうさせてしまったからな』
優一はにこやかな笑顔でそう言った。
『兄さん…!』
『京介。お前が俺の為に何かをしたいというなら、俺たちのサッカーを貫いてくれ。そうすれば……俺はお前と同じ夢を見られる……』
~~~~~~
「あなたのお父さんは人々を救おうとして説法を唱えたが、理解されなかった。そしてあなたはお父さんを助けたくてキュゥべえに願ったが、お父さんから魔女と罵られた。でも、あなたたちの誰かに対するその想いは間違いなく本物です!」
「あたしたちの想いが、本物……」
「人は強い想いから行動する。それがどんな結果であれ、すべてはそこから始まるんです!兄さんの為に動き、その方法を間違えてしまった俺だからこそわかる!あなたのお父さんの想いも、あなたのお父さんに対する想いも、決して間違ってなんかいない!俺たちはただ、やり方を間違えてしまっただけなんです!」
「!」
杏子と父も確かに誰かを助けたかったという心があった。それだけは彼女にも否定できなかった。自分たちはとにかく父や人々を救うことに必死だったが、新しい説法を唱えなくとも、キュゥべえに願わなくとも、探せば他に方法があったかもしれない。だが鬼気迫る状況の中ではそれを考える余裕すら彼女達には無かった。
「けど、あたしたちの事はもう終わってんだぞ……今更何を…」
今となっては悔やんでももう変えられないという後悔が杏子の心を襲う。
「……まだ終わってなんかいません。これからそれを変えに行くんじゃないですか」
「え?」
「魔女になったさやかさんを救うんです。彼女はまだ上条さんにも告白していない。彼女の願いの結果はまだ出てない。まだ間に合うんです!彼女の願いを、俺たちのような結果にしたくないんでしょう?」
「!」
「間違っていたなら正せばいい!正すことが出来ないならば、二度と同じ間違いを繰り返さないようにすればいい!それは俺たちにしかできない事なんです!誰かの為に願ったが、そのやり方を間違えた俺たちにしか……」
「やり方を間違えた、あたしたちにしか…」
「間違いを犯した過去を変えることは出来ない。でも、これからの未来は変えられる!さやかさんだけでなく、俺も、そしてあなたも!これからの未来を変えて、過去の過ちが無駄ではなかったことを証明するんです!」
「!!!」
杏子は過去に囚われ、当ても無く好き勝手に生きようとして迷走していた。だが、剣城は彼女よりマシとはいえ、自身の過ちから目を背けず、全てを受け入れて真っ直ぐ前に進もうとしていた。自分のような間違いをしていながら、それすら力に変えて胸を張ろうとしていた。それは教会で話した時のさやかとはまた違う確固たる強さがあった。そして彼は自分に手を伸ばし、自身が歩もうとしている道に一緒に連れて行こうとする思いやりもあった。
「たくっ……お前って本当にモノ好きだよな……こんなあたしの為にここまで必死になって……」
そんな剣城に杏子は眼を閉じてフッ、と小さく笑う。
「杏子さん……」
そしてそのまま剣城に顔を向け、「でも…」と言葉を続けながら微笑んでこう言った。
「ありがとな……剣城」
「…!杏子さん…」
この時彼女は初めて剣城の名を呼んだ。杏子の態度の変化に驚きつつもようやく自分に心を開いた杏子に剣城も笑みをこぼした。
「杏子さん……必ず取り戻しましょう、さやかさんを」
「ああ……よろしく頼むぜ」
薄暗い深夜の一室で次元を超えた絆がより強くなった瞬間だった。
~~ほむら宅~~
「ここまでは今までと同じパターンね…」
ほむらは魔法でいくつもの額縁が浮かぶ白い空間に加工した自宅の部屋で一人今の状況を整理していた。
「巴マミが生存しており、佐倉杏子とは一応の協力を得た。しかし……美樹さやかが魔女化した……ただ今までと大きく違う点は……」
ほむらの頭である一団が思い浮かぶ。
「チーム雷門。彼らは何故現れたのかしら……」
天馬と二人きりでの会話を思い出す。彼はある人物からマギカボールを与えられ、この世界にやって来たと言っていた。しかし、それがどこの誰かも知らずに助けると約束していた。彼をはじめとした雷門の面々は皆そのように誰かの為に迷うことなく助けようとしていた。
「馬鹿ね……彼らは魔女と戦えるほどとはいえ、一人一人の力は弱いわ……でも彼らは決して一人で戦わず、常に誰かと共に戦ってる。それではいざ一人になった時に命取りになるし、何より仲間を失った時は立ち直れないわ」
雷門のやり方は危なっかしく、一度崩れたら二度と戦えなくなると危惧するほむら。
「……なのに、彼らのやり方を心から否定できない……」
そう思いつつ唇を噛むほむら。頭では愚かだと考えていても、その小さな胸の奥では何か引っ掛かりのようなものがあり、どんなに振り払おうとしてもその掛かりが外れることは無かった。
「どうして…?こんな気持ちになったことは今まで無かったはず…」
現に彼らはその思いにより巴マミの命を救い、その後、天馬の言葉によってその心も救った。彼らの強い心の光はほむらにも眩しすぎるほどであった。
「でも、今回はさすがに彼らでも美樹さやかは救えないわ。魔女化した魔法少女を戻す術は無いのだから」
雷門はこれまで自分達の心に強い影響を与えてきた。しかし、彼らはサッカープレイヤーであって魔法少女では無い。魔法どころかマギカボールが無ければただの人間と同じになってしまう。そんな彼らに魔女を魔法少女に戻す術があるとはほむらにも到底考えられなかった。
「いざとなれば、私が彼女を倒す」
ほむらにはいざという時まで明かさないある目的があった。その目的の為に、天馬たち異世界人を利用することも考え、自分の魔法少女としての願いの為に非情になることも厭わないと心に決めていた。その為には他人を利用しても、心から頼ったりはしないという悲しい覚悟があった。それ故、最悪の場合はさやかを他の魔女と同様倒すことによって見殺しにすることも画策していた。その覚悟をいつもの冷たい眼差しに込めていた。
「なのに……そう決めたはずなのに……今は胸が苦しい……」
覚悟を何度自分の心に確認しようとも、その心の奥底まで響かず、決意の眼差しを震わせていた。もう誰にも頼らない。その悲しい覚悟が彼女の中で揺るぎかけていた。
『ほむらさん……俺は、例えどんなことが起こっても、誰も見捨てたりなんかしませんよ。まどかさんも、さやかさんも……そして今泣いている、あなたも』
「松風天馬…」
天馬の言葉が甦る度にほむらの心を締め付けるのであった。
~~翌朝・路地裏~~
「遅いな……あいつら…」
暗い路地裏で杏子がぼやく。彼女はさやかを助けるために魔法少女特有のテレパシーを使い、登校中のまどかとほむらに雑居ビルが立ち並ぶこの暗い路地裏に召集を掛けたのだった。
「何か、あったのかもしれないね」
まどかも心配そうに相槌を打つ。杏子に召集を掛けられたのは仁美との登校中の時で、さやかの事を心配していた仁美に不審に思われながら自分も休むと言ってこの場にやって来たのであった。到着してみると、召集を掛けた杏子と剣城、そして魔法少女の衣装を着たほむらが待っていた。今はマミの家にいる天馬たちを待っていたところであった。
「剣城京介を迎えに行かせたけど、もう二十分以上経つわね」
「テレパシーにはあの天馬って奴が答えたからマミたちにも伝わってる筈だ。ここはマミん家からそんなに離れてないってのに……」
そう言いながら持っていた袋から串団子を取り出して頬張る杏子。
「ねえ、杏子ちゃん。ホントにわたしがさやかちゃんを取り戻せる鍵になるの?」
まどかは少しためらいがちに待っている間に杏子が自分に話した作戦を聞きなおす。
「ああ、さやかはまだ魔女化して間もない。もしかしたらまだ人間だったころの心が残ってるかもしれねえ。だから一番の親友だったあんたと、あんたと同じぐらいさやかの事を気にかけていた神童の言葉なら届くかもしれねえ。そこに賭ける」
杏子は食べきった串団子を投げ捨てるとにやりと笑う。
「もしかしたらさやかの魔女を真っ二つにしたら、グリーフシードの代わりにさやかのソウルジェムがぽろっと落ちてきたりとかさ……そういうもんじゃん?愛と勇気が勝つストーリーってのは」
まどかも思わず、うんと、笑ってしまうと杏子はどこか遠くを見つめていた。
「あたしも……考えてみたら、そういうのに憧れて魔法少女になったんだよね。すっかり忘れていたけど、さやかと剣城はそれを思い出させてくれたんだ」
杏子はどこか気恥ずかしそうに言った。
「さやかと剣城は全くというわけではないけどあたしと同じだったんだ。さやかは魔法少女になったばかりのあたしで、剣城はあたしの願いが間違ってないって言った。初心を思い出したって奴かな……なんだか心が晴れてきたんだ……」
杏子は周りにビルが立ち並ぶ空を見上げる。まどかはマミから聞いた彼女の過去を思い出していた。彼女も父と共に人々を表と裏から救うんだと張り切っていたが例の悲劇があり、その時にあった想いを失っていた。
しかし、剣城の言葉でその想いを取り戻しつつあると感じ、雷門の不思議な力に思わず笑みをこぼした。
(マミさん。杏子ちゃんにも、雷門のみんなの強さが伝わりましたよ…)
今はここにいないマミに向けてまどかは心の中で静かに語った。
「まどかさん!」
三人が声に気づくと天馬が剣城や神童と共に慌てた様子で走ってきていた。彼らがまどかたちの前に到着するとよっぽど慌てて走って来たのか三人は顔を下に向けてその息を乱していた。
「天馬くん!」
「あれ?お前らだけか?マミや他の連中はどうしたんだよ?」
人数が足りない事を不審に思う杏子。天馬は息を整えつつ切羽詰ったような表情で答えた。
「それが、大変なんです!マミさんが……マミさんがいなくなってしまったんです!」
「!?」
「ま、マミさんが!?」
「どういうことだよ!?」
天馬たちは驚く三人の少女達に語った。今朝の杏子からのテレパシーの後、マミがテレパシーに応じなかった事を不審に思った天馬がマミの様子を見に部屋に向かった。ところがマミはベッドから消えており、皆と一緒に家の中を探してもどこにもいなかった。彼女が行方不明になったとわかると、信助が真っ先に家を飛び出してマミを探しに行ってしまった。それから天馬たちは各地に別れて探しに出かけた。その中で剣城が合流できたのは天馬や神童だけだった。あまり時間もかけられなかったので仕方なく二人だけを連れて戻って来たのだと言う。
「チッ!マミの奴……」
「彼らも結界を探す術は持っているわ。とりあえず、このメンバーだけで行きましょう」
一同は全員が揃わない事を不服に思いながらも彼らが合流することを祈ってさやかの結界に向かうことにした。
~~工事現場~~
「間違いねえ……ここだ」
杏子のソウルジェムが悲しげな淡い光を放つ。そこは最後にさやかと共闘した場所とは別の封鎖された工事現場だった。一晩経っていた所為か、さやかの結界はここに移動したようだった。杏子は強引に工事現場の入り口をこじ開け、奥の一画にある壁で結界の入り口を見つけた。
「昨日と同じ魔力を感じる。間違いなくさやかはこの結界の中にいる」
杏子はソウルジェムをポケットにしまいながら一同にそう告げる。その中で神童はあの夜の工事現場でさやかを止められなかった事を思い出し、悲しげな顔をする。
「さやかさん…」
「ところであんた、本当にいいんだね。ここで待っていてもいいんだよ」
杏子がまどかに結界の中に入るか最終確認をする。おずおずとしながらも頷いた。
「うん……わたし、ただ皆の後ろについてくることしかできないかもしれない……でもわたしは、さやかちゃんを助けたい…!だからお願い……連れてって」
そういうと杏子はクスリと笑って、
「へっ……結局どいつもこいつも変わった奴らってことか…」
呆れ気味の声で自らの姿を真紅の魔法少女の衣装に変え、天馬たちと共に結界の中に踏み込んだ。
~~魔女結界~~
「ここは……」
六人が結界に入るとそこは古びた赤茶色のレンガで覆われた世界で、そのレンガには同じポスターがびっしりと張られていた。
「これが、さやかちゃんの結界なの?」
「俺たちが最初に見た空間と違うようですが……」
剣城は昨夜に閉じ込められた結界とは違うことに違和感を覚える。
「いや、どうやら間違いないようだ。見ろ」
神童がレンガに張られた無数のポスターに注目する。天馬もその内の一枚を見ると見知った人物がスポットライトを浴びながらバイオリンを弾いていた。
「これってまさか、上条さん?」
「ああ……これはおそらく、さやかさんの上条への想い……いや、彼女の願いが絶望に変わってしまった事を表しているんだろう」
神童の分析で一同はさやかが絶望して魔女になった事を改めて実感する。またそう分析した神童自身も物悲しい眼でポスターを見つめていた。
「さやかちゃん……」
「……どうやら話してる余裕は無いみたいね」
「え?」
まどかがポスターに気を取られているとほむらが何かの気配を察知し、警戒を強める。
「来るわ」
ほむらがそう言った直後、周りの景色がものすごいスピードで走り出す。
「これは……!」
「気づかれたか!走れ!」
杏子の叫びと共に走り出すと、動く景色と共に迫ってくる木製の扉が自分達にぶつかる前に次々と開いていき、最後の扉が開くと視界が光に包まれた。
~~魔女結界・最奥~~
一同の視界が戻るとそこは天まで届くほどの真っ赤な客席に覆われたコンサートホールだった。しかし、客席には誰も座っておらず、中心の広いスペースにはいくつもの楽器を用いた使い魔の楽団が悲しげなオーケストラを奏でていた。
「あいつが本体だ」
杏子が眼で指す先を見ると、例の甲冑を着けた巨大な人魚の魔女がいた。彼女は巨大な剣を指揮棒のように振りかざしており、その姿は楽団の指揮者の様にも見えた。しかしその動きはどこか壊れており、それが上条に対するさやかの想いなのだとまどかは感じていた。
「まどか」
杏子の呼びかけで我に返ったまどかは一度杏子を見てから頷く。そして体を震わせながら精一杯の勇気を振り絞って呼びかける。
「さ、さやかちゃん……わかる?わたしだよ……まどかだよ!」
「さやかさん!俺達の声が聞こえるか!?」
まどかと神童の声に魔女はこちらに振り返った。しかし、二人の必死な呼びかけにも応じずに無感情に剣を振りかざす。
「!車輪が飛んでくるわ!気を付けて!」
ほむらがそう叫んだ直後、さやかの魔女は背後から大きな木製の車輪を出し、天馬たちに向かって放った。
「き、きゃあああ!」
「まどかさん!」
即座に天馬がマギカボールを出してユニフォーム姿になり、シュートを放って車輪を弾き飛ばす。
「大丈夫ですか!?」
「う、うん。ありがとう…」
「天馬!」
神童の掛け声で二人が視線を戻すと魔女の周りにたくさんの車輪が出現していた。
「こいつは厄介になりそうだぜ……テメーら!力の出し惜しみはすんなよ!」
そう言うと杏子は赤い槍を出し、神童と剣城もユニフォーム姿に変身する。
「行くぞ、二人共!化身だ!」
「「はい!」」
天馬と剣城に神童の呼びかけると体に力を溜め、一気に解き放つ。
「『奏者マエストロ』!!!」
「『剣聖ランスロット』!!!」
「『魔神ペガサスアーク』!!!」
仲間を取り戻すために、魔法少女とはまた異種ともいえる心の力を解放する天馬たち。
「……すごい」
雷門の中心的メンバー三人の化身が並ぶその光景はまどかたちにとっても壮観この上ないものだった。
「さやかさん…!あなたは必ず……助けて見せる!」
天馬の決意の言葉と共に魔法少女の絶望との戦いの火ぶたが切って落とされた。
――ED『Magia』――
次回予告
天馬
「メンバーが全員揃わないまま、さやかさんの魔女との戦いが始まった!絶望の狂想曲に俺達は踊らされる!」
次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と
第11話『死闘!人魚の魔女オクタヴィア』!」
というわけで第10話でした。
ところでまどマギファンの皆様は知っての通り、マミ、さやか、杏子の三人は本編では壮絶で悲しい死を迎えてしまいます。それ故、一部で彼女達は退場組などと呼ばれています(ちなみに作者は『死の三色信号(デッド・シグナル)』と呼んでいる)。しかし、皆様の中にはお気づきの方もいると思いますが、この物語ではそんな彼女達をそれぞれ雷門のメンバーに支えてもらっています。一人ぼっちで寂しがり屋のマミにはいつもそばにいてくれる弟(キュゥべえに変わる新たなマスコット)として信助を、恋する乙女のさやかにはその想い人の親友、そして自分に対する想いによって支えられた事がある応援役として神童を、過去の過ちの所為で自分を傷つけた杏子には同じ痛みを持つ者として剣城をぶつけてみました。こんな妄想炸裂な文章でも付き合ってもらえるとありがたいです。
感想お待ちしております。