魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~   作:サニーブライト

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Cパートは早く出来上がりました。

今回はキャラの色んな感情が今まで以上に書けて楽しく思えました。

愛と勇気が勝った死闘のティロ・フィナーレ、どうぞ。


第12話『人魚姫の涙!』 Cパート

~~ホテル・夕方~~

 

 

あらかじめ人が立ち入らないように魔法をかけておいたホテルの一室に魂の無いさやかの身体があった。さやかの身体は杏子の手によって防腐処理が施されており、腐敗は無かった。天馬たちは杏子の人払いの魔法で誰にも気づかれず侵入し、さやかの身体が安置されているベッドに集まっていた。

 

「これを持たせればいいんだよね」

 

まどかがさやかのソウルジェムを手に持ちながらほむらに尋ねる。

 

「肉体の方は大丈夫みたいだけど、私も前例がないから何とも言えないわ」

 

「大丈夫ですよ!こうしてさやかさんのソウルジェムを取り戻したんです!きっとうまくいきます!」

 

「天馬くん……うん!そうだよね!」

 

まどかは天馬の言葉を信じるように答える。

 

「上条くん」

 

まどかはソウルジェムを恭介に差し出す。それはまどかが恭介の手で持たせてほしいという意志表示だった。それをくみ取った恭介は少し驚いたが、黙って頷くとさやかのソウルジェムを受け取る。

 

「さやか…」

 

そして恭介は彼女のソウルジェムをぐっとさやかの両手に握らせ、自分も彼女の手を祈るように握る。

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 

 

 

 

さやかの身体がピクッと反応したかと思った直後、彼女はゆっくりとその瞼を開いたのだった。

 

「「さやか(ちゃん)(さん)!」」

 

「みんな……あたし…」

 

まだ意識がはっきりしないまま起き上がるさやか。

 

「さやかっ!!」

 

恭介はたまらず起き上がったばかりのさやかを抱きしめる。

 

「え?うええええっ!!ちょっ、恭介!?///」

 

いきなり抱きしめられたさやかは一気に目が覚めて顔が真っ赤になる。

 

「さやか、さやか!本当に……本当に良かった…!」

 

恭介は目に涙を浮かべながらさやかをぎゅっと抱きしめていた。

 

「きょ、恭介!わ、わかったから!わかったからちょっと離して……///」

 

「さやかちゃん、さやかちゃあん…!生き返って……グスッ」

 

「さやかさん……本当によかったですわ…!うう…!」

 

まどかと仁美も涙で顔がくしゃくしゃになっていた。

 

「まどか…仁美…」

 

「たくっ、面倒掛けさせやがって」

 

杏子もぶっきらぼうながらも安心したように憎まれ口を叩く。

 

「杏子…」

 

「さやかさん」

 

今度は神童が呼びかける。それに合わすように恭介もさやかから離れて二人の様子を見守る。

 

「どこか身体に異常は無いかい?」

 

「あ、ううん。何とも…」

 

「そうか…」

 

神童はまどかの隣で安心しきったように微笑みかける。二人の並んだ顔を見た瞬間、さやかは最後に会った土砂降りの雨の中で自分に手を差し伸べた二人に暴言を吐いてしまった事を思い出し、申し訳なさそうに顔を俯かせてしまう。

 

「まどか、神童……あたし…」

 

「わかっているさ」

 

その事を予期していたかのように神童が穏やかな声色で続く言葉を制止させる。さやかがハッと顔を上げると神童は気にしなくていい、と言うように頷き、まどかも優しく微笑みかけていた。

 

「二人共……」

 

「さやかさん!」

 

「仁美……」

 

「さやかさん、本当にごめんなさい!あなたは告白が出来る状態じゃなかったのに、私が上条くんに告白すると言ってあなたを追いつめてしまった……あなたを魔女にしてしまって本当にごめんなさい!」

 

仁美は謝りながらさやかに頭を下げる。

 

「そ、そんな!仁美のせいじゃないよ!こうして元に戻ったし、魔女になっちゃったのはあたしが意気地なしだったから…」

 

さやかは両手の平を左右に振って弁明する。

 

「さやかさん、でも…」

 

「もう……みんな何でそこまであたしに構うのかなぁ…」

 

「何だテメェ、せっかく助けてやったのに嬉しくねえって言うのかよ」

 

さやかの物言いに杏子はムッとなって詰め寄る。

 

「そうじゃないけど……皆、ここまで迷惑を掛けたあたしを命懸けで助けようとして……あたしにはそんな価値も資格も無いっていうのに…」

 

さやかは一人で悩みを抱え込み、仲間の手を振り払った自分には助けてもらう価値など無いと自分を卑下する。

 

「水臭い事言わないでください!」

 

しかし、そんな彼女の卑下を否定するのはやはり天馬だった。

 

「天馬…」

 

「俺たち、仲間じゃないですか!仲間を助けるのは当然の事ですよ!」

 

「でも、あたしはみんなにここまで迷惑を掛けちゃったし…」

 

「それだって当然の事なんですよ」

 

「え?」

 

「いいですか、さやかさん。俺だってキャプテンとして皆を支えなきゃいけないって思うから、誰かに迷惑を掛けたくないって気持ちは俺にもわかるんです。でも誰かに迷惑を掛けない人なんて絶対いないんです!それにたとえ迷惑を掛け合っても、それを補い合い、助け合うのが仲間じゃないですか!」

 

「仲間…!」

 

「俺がキャプテンとして悩んでいた時、みんなが支えてくれたから今の俺があるんです!俺たち雷門の“今”は、そうやって支え合ってきたからこそあるんです!」

 

「支え合ってきたからこそ、“今”がある……」

 

「だからこそ、仲間を助けることに価値とか資格なんて必要ありませんよ!」

 

「…!」

 

その瞬間、さやかは心がスッと軽くなるのを感じていた。その時彼女はわずかだが助けられた今もなお、自分は素直になっていなかったと心の内で反省する。しかしその事を理解し、ようやく自分の心に着けていた枷を外したのであった。

 

「天馬くんの言うとおりだよ、さやか」

 

そう言ったのは恭介だった。

 

「人は、誰かの支えなしじゃ生きていけないんだよ。僕が事故に遭ってから君が欠かさず見舞いに来てくれたことが僕にとって大きな支えになったように」

 

「恭介…!」

 

「さやかちゃん、わたしはもうさやかちゃんみたいに魔法少女になる事は出来ないけど、それでも出来る限りの事をしたい!さやかちゃんの友達として!」

 

「私もですわ!私も魔法少女の事を知ったからにはこれからはさやかさんを支えていきたいんです!さやかさんの友人でいたいから!」

 

「まどか、仁美…!」

 

「迷惑を掛けんのがイヤってんならこれ以上そんなこと言うんじゃねェよ。その代わり、受けた借りは必ず返す。それが筋ってもんだ」

 

「杏子…!」

 

「さやかさん、もうわかっただろう?君を支えようとしてくれる人たちがこんなにいることが」

 

「神童…!」

 

さやかが周りを見渡すと錦やマネージャー達も微笑んだり頷いたりしていた。魔女になった自分に呼びかけた時に見たビジョンの彼らのように。

 

「みんな…!」

 

「さやか」

 

恭介は再びさやかを抱きしめる。それは先ほどとは違い、この場の面々が自分に対する想いを体現したかのように優しく包み込むような抱擁だった。そんな抱擁の様に恭介は穏やかな表情で告げた。

 

「これからは僕も君を支えていくよ。ただし……幼馴染としてではなく、君を愛する男として…」

 

「きょう、すけ…」

 

「さやか、改めて言うよ」

 

恭介はさやかの両肩を持って少し離れてから彼女と向き合う。そして微笑みながら言葉を続ける。

 

「さやか、僕は君が好きだ。返事を…返してくれるかい…?」

 

「恭介…」

 

ベッドに涙が落ちる。それは恋が叶わず泡になって消える悲劇の人魚姫の涙ではなく、真実を知った王子が仲間と共に救い出した人魚姫の涙だった。

 

「あたしも………恭介が好き!ずっと前から恭介の事が好きだったの!」

 

人魚姫は意地を張る事も無く、泣きながら自分の素直な気持ちを打ち明けた。

 

「さやか……」

 

「あたし……本当にバカだった……!あたしの事を想ってくれる人たちが、こんなにたくさんいたのに…!」

 

さやかは大粒の涙を流し、体を震わせていた。自分を支えてくれる仲間たちや想い人の存在が嬉しくも蔑ろにしてしまった事がたまらなかったのだった。

 

「みんな……ゴ、ゴメ……あ…」

 

言葉が詰まりそうになりながらもとりあえず謝ろうとしたさやかを恭介が再び優しく抱きしめる。

 

「さやか。謝るのは気持ちが落ち着いてからでいいよ。それまでは泣いてていいから…」

 

「きょう…すけぇ…!」

 

「僕が、君の涙を受け止めてあげるから…」

 

「う、うあああっ……うあああああぁんっ!」

 

さやかはただひたすら恭介の胸の中で赤子の様に泣きついていた。

 

 

 

 

 

「良かったですね……さやかさん…」

 

「めでたしめでたしってヤツだな」

 

「人魚姫は泡になって消える前に、真実を知った王子様の愛で呪いが解けて結ばれた」

 

「おっ、なかなかいい事言うじゃねーか」

 

「えへへ…」

 

マネージャーたちが人魚姫のハッピーエンドに嬉しそうに語り合い、天馬たちはそんな彼女たちと抱きしめ合っているさやかと恭介を見て笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~夕方・公園~~~

 

 

 

さやかの心が落ち着いた頃、一同は一旦公園に移動した。そしてさやかは全員と真剣な表情で向き合っていた。

 

「みんな……迷惑かけて本当にゴメン!」

 

さやかは地面に着くかと思うくらい大きく頭を下げた。

 

「もういいよ、さやかちゃん」

 

「そうだよ。君が生き返ってくれて、それだけで十分さ」

 

「でも恭介……ホントにあたしなんかでいいの?あたし…ゾンビなんだよ?」

 

さやかは俯いたまま不安げに恭介に問う。さやか自身も受け入れたとはいえど、自分の身体はもう普通の人間とは違っている事に変わりはない。そんな自分が恋人でいいのかと未だに気にしていたのだった。

 

「さやか」

 

そんなさやかに恭介は優しく名を呼ぶ。不意に名前を呼ばれたさやかが顔を上げた直後。

 

 

 

 

 

 

チュッ

 

「!!!」

 

恭介はさやかの両頬に手を添え、彼女と唇を重ねた。

 

「「んなっ!?///」」

 

「「「うえええっ!?///」」」

 

水鳥、杏子、天馬、まどか、葵は顔を真っ赤にして驚き、神童、剣城、ほむらは口をぽかんと開けて呆然とし、仁美は「まあ…」と口元を押さえ、茜は「良い物を見た!」と言うような良い笑顔になり、錦に至っては「ほほう…」と顎に手を添えてにやけていた。恭介の口づけは数秒間続き、唇が離れると硬直していたさやかは首から頭にかけて顔が真っ赤になり、頭の上からボンと煙が出る。

 

「きょ、きょきょ恭介!い、いきなりみんにゃの前で、にゃ、にゃにを!?///」

 

突然キスされたさやかは顔を真っ赤にしたまま呂律が回らなくなるが、恭介はニコニコとした笑顔で言った。

 

「これでもう……君は自分をゾンビだなんて言えなくなったね」

 

「!」

 

それは、さやかは人間だと言い切る恭介の誓いであり魔法だった。誰かの心を絶望から救い出せる、魔法少女でなくとも、人間ならば誰でも使う事が出来る“愛”という名の魔法だった。やがてさやかは赤面したまま俯いて顔を背ける。

 

「恭介の、ばか……///」

 

「うん」

 

魔法をかけられたさやかは恥ずかしそうにボソボソと小さく呟き、恭介は笑顔のまま返した。

 

「おまん、なかなかの色男ぜよ!」

 

「えへへ……」

 

錦がにやけ面で駆け寄り、照れる恭介を肘でつついた。焦燥しきった顔から熱が抜けてきた頃、さやかは笑顔で全員と向き合う。

 

「天馬、剣城……あんたたちがあたしを元に戻してくれたんだよね。本当にありがとう…」

 

「いいんですよ。俺たちだけの力じゃありませんし」

 

天馬は遠慮がちに両手を振って返事を返す。

 

「いや、君たち雷門には本当に感謝しなければならない」

 

「え?」

 

そう言ったのは恭介だった。

 

「神童くん、君の言葉が無ければ僕はさやかへの想いに気づくことは無かった」

 

「上条…」

 

「そして空野さん、君が魔法少女の事を教えてくれなければ僕は永遠にさやかを失っていた。本当にありがとう…」

 

「神サマと葵ちゃんは、恋のキューピッド!」

 

「キューピッドだなんて……///」

 

茜にキューピッドと呼ばれて葵は思わず後頭部に手を触れて照れる。

 

「そうだよ!天馬くんたちがいたから、さやかちゃんを助けられたんだよ!それに、天馬くんたちはわたしに教えてくれた!魔法少女じゃなくても出来ることはあるって!天馬くんたちは、希望を取り戻しただけじゃなく、わたしたちに希望を教えてくれたんだよ!」

 

まどかも興奮気味な声で語る。魔法少女でない自分にも出来る事があるということがわかり、それを証明させてくれた雷門に心から感謝していたのだった。

 

「まどかさん……」

 

「私もですわ」

 

「仁美さん」

 

「あなたたちがいなければ、私は一生後悔していました。さやかさんを助けられたのは皆さんのおかげです」

 

仁美は心からの感謝を込めて頭を下げる。

 

「いや、俺たちだけの力じゃない。君たちも力を合わせてくれたから、さやかさんを正気に戻すことが出来たんじゃないか」

 

「神童くん……でも」

 

「それに俺たちだって錦がいなかったら立ち上がれなかった」

 

「何を言っとるんじゃ!立ち上がれたのはおまんら自身の力じゃ。それにワシらがくるまでおまんらが持ちこたえてくれたから上条たちを連れてくる時間が作れたんじゃなか!まどかや杏子たちだってそれまで頑張っとったわけじゃしのう」

 

「そうですよ!この中の誰か一人でも欠けていたら、さやかさんを助けられなかったんです!これは俺たち全員が掴んだ“勝利”ですよ!」

 

天馬が両手で拳を作りながら断言する。この場にそろっている者たちは全員が戦う力を持っているわけでは無い。しかし、天馬たち雷門や杏子たち魔法少女が戦うと同時にまどかが呼びかけることで時間を稼ぎ、マネージャー達が恭介や仁美を呼び寄せ、さやかを助けるために集った全員の想いがマギカボールから新たな力を引出し、さやかのソウルジェムを取り戻した。さやかを想う一人一人がそれぞれの役割を果たし、魔法少女の絶望への”勝利”を実感していたのだった。

 

「天馬…」

 

「杏子」

 

天馬に感心していた杏子がさやかに振り向く。

 

「あんたもあたしの為に頑張ってくれたんだよね、ありがとう…」

 

「な……べ、別にあたしは成り行きで……///」

 

杏子は目をそらして照れ隠しをする。

 

「ほぉ~成り行き?あんた成り行きであたしと心中しようとしてくれたんだ~?」

 

「な!お、お前、覚えてたのかよ!?///」

 

実はさやかは魔女になっている間の出来事も記憶していたらしく、目覚めた途端その時の事が脳裏に甦っていたのだった。

 

「『いいよ、さやか。一緒にいてやるよ。一人ぼっちは寂しいもんな…』」

 

「だ~~っ!よりによって一番恥ずかしい台詞を言うんじゃねぇ!///」

 

ドヤ顔で杏子の台詞を繰り返すさやかに杏子は顔を真っ赤にして両手をブンブン振りながら喚き散らす。

 

「杏子さん」

 

突如剣城に呼ばれ、杏子は体をビクンと動きを止めてから振り向くと剣城はあるものを差し出す。

 

「!お前…」

 

それは杏子が髪を束ねるときに使っていた黒いリボンだった。

 

「結界が消える前に見つけたんです」

 

「あ、ありがとな…」

 

杏子は剣城からリボンを受け取ると再び長い真紅の髪をポニーテールに束ねる。

 

「もう二度と……あんなムチャはしないでください。俺たちは誰にも死んでほしくないんです」

 

「お、おう……///」

 

心配そうに懇願する剣城に戸惑いながら返事を返す杏子。すると剣城は一度落ち着かせるように溜息を着くと安らかな笑みを浮かべて言った。

 

「杏子さんが無事で、良かった…」

 

「ッ!///」

 

 

 

(―――俺が必ず守ってみせる!!!)

 

 

 

剣城の自分に向ける笑顔を見た瞬間、杏子は自分を守るように抱えていた彼の姿が脳裏に甦る。そしてその胸が再びドキドキと高鳴っていた。

 

「あ、や……その……ッ///」

 

「…?どうしたんですか、杏子さん。顔が赤いですよ?」

 

「……な、なんでもねえよ!さっき怒鳴った時の熱が抜けてねえだけだ!///」

 

杏子はぶっきらぼうに腕を組みながら後ろを向くことで誤魔化した。

 

「おやおや?」

 

「あら…」

 

二人のその様子にさやかは面白そうににやけ、仁美は口元を押さえていた。二人の恋する少女としての勘が何かを告げていたが二人はそれを自分達の中にしまうことにした。

 

「さやか」

 

そんな中で恭介が再びさやかに呼びかける。

 

「君はこれからも僕たちやこの街を守ってくれるんだろう?」

 

「恭介……うん!あっ…」

 

さやかが笑顔で返事を返すと、恭介はさやかを再び抱きしめる。

 

「だったら僕は……君を絶望から守ってみせる。もう二度と君を魔女になんかさせない。僕が君の心を守るよ……これからもずっと……」

 

「きょ、恭介…!///」

 

「お~っ!プロポーズぜよ!!」

 

顔の横で囁かれたさやかは顔が真っ赤になり、錦がそれを盛り上げる。すると恭介は顔を離してさやかと再び向き合う。

 

「さやか、実は僕は今、曲を考えているんだ」

 

「曲…?」

 

「うん。僕をずっと支えてくれた、君の曲をね」

 

「―――!あたしの、曲…!」

 

「うん、最高の曲にしようと思っているんだ。完成には時間が掛かるけど、出来たら必ず君に聞かせたいんだ。………それまで、待っててくれるかい?」

 

恭介の最高の愛情表現にさやかは胸の奥からあふれてくるものが押さえきれず、それを表すように大粒の涙を流す。彼の愛を拒む理由はもはや彼女には無かった。

 

「うん…!あたし、待ってるから…!」

 

涙するさやかに恭介は笑みを浮かべると今度は神童に視線を向ける。

 

「神童くん。その曲にぜひ君のピアノを取り入れたいんだ。僕とさやかを結び付けてくれた君への感謝と、友情の証として…」

 

「ああ。もちろん協力させてもらうよ」

 

神童も二人の祝福を惜しまなかった。神童はこの先、もう二度とさやかが絶望することは無いだろうと確信していた。彼もようやく心からの望みが叶ったのだ。大切な男の為に尽くした少女が報われる姿を見るという望みが…。

 

「みんな……あたしね、今すっごく幸せ。恭介と結ばれて…まどかや仁美とも友達のままでいられて…杏子ともわかり合って…あたしを助けてくれる仲間たちがいて………あたしには、あたしを大切だと思ってくれている人たちがこんなにもたくさんいるんだよ」

 

さやかは自分の喜びを表すように両腕を大きく広げる。そして片手を胸に当てながら一同に自分の想いを告げた。

 

「今度こそ、本当の意味で言える…!あたし今、最高に幸せだよ!」

 

さやかは嬉し涙を流しながら満面の笑顔を浮かべた。仲間達も嬉しそうに笑顔で返した。そんな中で神童はふと夕焼け空を見上げて呟いた。

 

 

 

「これで良かったんですよね………お勝さん」

 

 

 

神童はそよ風に髪をなびかせながらかつて自分を愛した少女の事を想いつつ優しく微笑んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(今でも夢を見ているようだわ……まさか魔女化した美樹さやかを元に戻してしまうなんて…)

 

ほむらは改めて目の前の現実を直視して目をぱちくりさせていた。彼女の知る限り、魔女化した魔法少女を元に戻す術などなかった。しかし、異世界からやって来た少年たちによってその固定観念が覆されたのだった。

 

(彼らが…彼らこそが……私の長い旅を終わらせる道しるべだというの…?)

 

ほむらはどんな苦難が襲いかかっても最後は必ず希望を掴みとる雷門の不思議な力に驚きを隠せなかった。

 

「ほむらさん」

 

呆然としているほむらを我に返す声。それはいつの間にかほむらの前に立っていた神童のものだった。彼は先ほどまでの安心しきった顔とは違い真剣な表情でほむらに話しかけていた。

 

「神童拓人…!」

 

「ほむらさん……君は、ただの魔法少女じゃないね」

 

「「「!?」」」

 

神童の宣言にほむらは驚き、天馬達の注目を集める。

 

「な、何を…!?」

 

「マミさんを殺そうとした魔女と戦った時、君はあの魔女とマミさんの相性が悪い事を知っていた。その時は俺も、以前ほむらさんが戦ったことがあるからだと思っていた」

 

「!」

 

神童の推理に天馬は思い出す。以前河川敷でほむらと話した時、自分もそうではないかと聞いたが彼女ははっきりそうだとは返さなかった。

 

「だが、君は誰も見たことが無いはずのさやかさんの魔女の攻撃パターンを知っていた」

 

「っ!!」

 

神童の指摘にほむらはビクンと体を震わす。

 

「そういえば、あの時……」

 

 

 

(―――車輪が飛んでくるわ!気を付けて!)

 

 

 

剣城も思い出していた。最初にさやかの魔女と遭遇したのは自分と杏子とほむらの三人だけだった。しかしその時はほむらの時間停止のおかげでさやかの魔女特有の攻撃を見ることは無かった。そしてその後ほむらが魔女と再び遭遇出来たのは天馬、神童、まどかを加えて戦い始めた時だけだった。だが、その時彼女は魔女の攻撃が繰り出される前に車輪が放たれると警告していた。生まれたばかりの魔女の攻撃など誰も知らないはずなのに彼女は何故知っていたのか。

 

「君は、一体何者なんだ?」

 

「…っ!」

 

神童に問い詰められたほむらはヘビに睨まれたカエルの様に固まってしまう。

 

(ここで誤魔化したり逃げ出したりしても、きっと結果は変わらない……でも、魔女化という絶望を乗り切った彼らになら、話しておくべきかもしれない……)

 

ほむらは状況と先の事を整理しつつ考えを張り巡らせる。

 

「ほむらちゃん……」

 

まどかの不安げな様子を横目で見ながらさらに思案する。

 

(まどかがいるのはよろしくない……私の話は彼女には聞かせるわけにはいかない……でも、もう時間停止で逃げられるほどの魔力は残っていない……逃げ出せないならいっそのこと……)

 

ほむらは覚悟を決めて自分に関する真実を話す決意を固めていた。

 

「私は………」

 

 

「―――見つけたわ」

 

 

その時、誰かの声が公園に響く。ほむらは思わず語りをやめ、一同が声の方に振り向くとそこには見滝原の制服を着たマミがいた。

 

「マ、マミさん?」

 

「そう…美樹さん…元に戻れたのね…」

 

しかし彼女は顔を下に向けており、表情はうかがえない。

 

「あの方は……巴さん?」

 

「彼女も魔法少女なのかい?」

 

「う、うん…」

 

さやかはマミの発する異様な雰囲気に戸惑いつつも仁美と恭介に答える。

 

「そう……志筑さんに上条くん、だったわね……あなたたちも知ってしまったのね、魔法少女の事を……」

 

マミは俯いたまま冷ややかな声でそう呟いた。普段の穏やかな雰囲気とは明らかに違う彼女の姿に一同は違和感を覚える。ほむらはその様子に嫌な予感を感じていた。

 

「なら……あなたたちも同類よ…!」

 

「え…?」

 

「!!!」

 

マミがそう告げた直後、ほむらは嫌な予感がよぎったとソウルジェムを出すが変身する直前にマミのリボンが全員の足元から伸びていき、天馬達はがんじがらめに拘束されてしまった。

 

「マミさん!?これは一体!?」

 

マミの行動が理解できず天馬が問い叫ぶ。一同は体に巻きついて両手を塞いでいるリボンを外そうとジタバタするが外れることは無かった。

 

「もうあなたたちも知っているでしょう…?魔法少女が魔女になる事を…」

 

「でも、それならこうしてさやかさんを元に戻せたじゃないですか!」

 

「ええ……でも、魔法少女じゃなくなったわけじゃないんでしょう?」

 

「!」

 

マミの指摘に天馬は黙りこむ。確かにさやかを魔女から戻せた。だが、あくまで魂はソウルジェムのままで魔法少女としての運命から逃れられたわけでは無いのである。

 

「さっきキュゥべえに会ってこう言われたわ……たとえ魔女から元に戻れたとしても、再び魔女になる運命からは逃れられないと…」

 

「チッ、あの野郎!」

 

杏子が舌打ちする。

 

「あなたたちは魔女を魔法少女に戻す力もあるみたいだけど、あなたたちは異世界の人間……いずれはこの世界からいなくなり、魔女から元に戻る手段も失われる……どのみち魔法少女はみんな魔女になると言うなら…!」

 

ここでマミは魔法少女に変身する。そしてマスケット銃を生成するとその銃口を天馬達に向ける。

 

「みんな…死ぬしかないじゃないっ!私も…あなたたちもっ!」

 

「「「!?」」」

 

顔を上げたマミは虚ろな目で何もかも信じられなくなったような絶望的な顔で叫びだす。一方で天馬達は自分たちを殺そうとしている彼女の姿こそ信じられず、驚愕する。

 

「くっ!恐れていたことが…!」

 

ほむらはマミが暴走することを予感していたのに止められなかったことに苦虫を噛んだように歯を食いしばる。

 

「何バカな事言ってんだ!早くコイツを外しやがれ!」

 

「そうですよマミさん!だいたい、なんであたしを元に戻してくれた天馬たちや恭介たちまで!?」

 

杏子とさやかは縛られながらも必死に抗議する。しかしマミは全く聞き入れようとせずこう答えた。

 

「ソウルジェムの秘密を知る者を生かしておくわけにはいかないわ……あなたたちが生きていれば、その事がいずれ他の魔法少女にも知れ渡り、数多くの魔法少女が絶望して魔女になってしまう……それに彼らは魔女を魔法少女に戻せても普通の少女には戻せない。一時しのぎの希望に過ぎず、結局魔法少女を魔女にしてしまうわ…」

 

マミはまるで魔女に操られた人々のようにゆらりと体を揺らす。

 

「だからみんなで死にましょう……まやかしの希望を与えられるより、いっそみんなで死んだ方がいいの…」

 

彼女は虚ろな目から涙を流しながら銃を向けていた。

 

「やめてください、マミさん!」

 

「安心して鹿目さん。ただの一般人であるあなたは一番最後に殺してあげるわ……」

 

必死に止めようとするまどかにマミは乾いた笑みで言葉を返す。

 

「まずは……魔法少女である、あなたたちからよ…」

 

「巴マミ…!」

 

銃口を向けられ、顔を歪ませるほむら。

 

「知ってた?私のリボンって、触れたものの情報がある程度分かるようになってるの。ソウルジェムがどこにあるのか、とかね…」

 

「「「!!!」」」

 

狂った笑みを浮かべながら語るマミに全員、特にほむら、さやか、杏子の三人が戦慄を覚える。そしてマミはゆっくりとマスケット銃を構えて三人に標準を合わせる。

 

「大丈夫……みんな殺した後、私も後を追うから……」

 

乾いた声でそう言った直後、マミはマスケット銃から三発の魔力弾が放たれた。その標準はサイコメトリーの能力を持つリボンによって彼女たちのソウルジェムを確実にとらえていた。

 

(逃げられない!ここまで来て…!!)

 

自分たちを葬ろうと迫ってくる魔力弾にほむらは思わず目をつむる。

 

 

 

 

 

 

バシュンバシュンバシュン!

 

 

 

「!」

 

魔力弾が撃ち抜くと思った直後、何かを受け止めた音が響き、ほむらは目を開ける。そして彼女は仲間たちと共に驚く。そこには青い鎧を着けた剛腕の巨人が掌を突きだしてマミの放った魔力弾を受け止めていたのだった。

 

「はあっ、はあっ……」

 

マミはその光景に動揺することも無く冷ややかな声で問いかける。

 

「……どうして、邪魔をするのかしら…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……信助くん」

 

 

 

彼女のその問いは『護星神タイタニアス』と同じように掌底を繰り出していたユニフォーム姿の信助に向けられていた。

 

「間に合った…!」

 

「信助!」

 

彼は慌てて魔力弾と天馬たちに割って入ったらしく息を乱しており、彼の側には袋からこぼれ出ていたマギカボールがあった。信助は出してるだけで体力を消耗する化身を一度オーラに戻して自分の身体に戻す。

 

「マミさん!こんな事したって何になるんです!?こんなの、誰も救われないじゃないですか!」

 

「これから先、魔女になる時を怯えながら生きていくより、いっそ楽にしてあげようとしただけよ」

 

マミは邪魔されたことが忌々しいようにどこまでも冷淡な声で語る。

 

「だからって、今みんなで死んでどうなるっていうんです!?何も解決しないじゃないですか!!」

 

「あなたたちも、自分たちで彼女たちにまやかしの希望を与えるよりマシなはずよ」

 

「まやかしなんかじゃない!僕たちはマミさんたちを絶対魔女になんかさせない!」

 

「そんなことを言っても、いずれ魔女になる現実は変わらないわ」

 

お互い一歩も引こうとしない信助とマミ。お互いの気持ちはどちらも強く、言葉や理屈では決して動かない事を二人は確信していた。

 

「みんなは絶対殺させない!そんなこと僕が絶対させない!マミさん、たとえ相手があなたでも!」

 

「信助くん…」

 

信助の確固たる決意にマミは目を細める。

 

「どうしてもみんなを殺すと言うなら………それは僕を倒してからだっ!」

 

「信助!?」

 

「あなた何を馬鹿な事を!?」

 

信助のとんでもない宣言に天馬とほむらは驚きの声を上げる。

 

「そう……どうしても邪魔をするというなら………望み通り、あなたから死なせてあげるわ!」

 

マミは敵意の眼差しでマスケット銃を信助に向ける。一方で信助は腰を下ろしてマミと真っ向から向き合う。

 

「僕は死なない!みんなも死なせない!マミさんも死なせない!!みんなは僕が守ってみせる…!

 

 

 

 

―――勝負だ!マミさんっ!!!」

 

 

 

サッカーにおいて、ゴールを守る最後の砦と呼ばれるキーパーを務める西園信助の、仲間たちの命というゴールを守るための戦いが始まった。

 

 

 




――ED『and I'm home』(歌:佐倉杏子&美樹さやか)――


次回予告

天馬
「みんなの力を合わせてさやかさんを助け出した!と思ったら、今度はマミさんが!俺達はマミさんの魔法で動けない!頼んだよ信助!マミさんを止められるのは信助しかいないんだ!!」

次回!
『魔球闘士イナズ☆マギカ ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~』

第13話『凶気を受け止めろ!マミVS信助!』」




というわけでどうでしたでしょうか。


絶望の一日はまだまだ終わりません。はたしてオトモはハンターに勝てるのか。ピカチュウがんばるでちゅう(おい)。

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