魔球闘士イナズ☆マギカ~魔法少女と革命(カゼ)の少年達~ 作:サニーブライト
祝!通算UAが2000突破!
閲覧してくれた皆様ありがとうございます。
もっと読んでもらえるよう頑張らなければ……
皆様にはもう予想できてると思いますが今回はあの二人の登場です
それでは続きをどうぞ
――OP『ルミナス』――
~~午後・見滝原病院~~
見滝原病院の一室に上条恭介がいた。彼は左手の平を見ながら高く掲げる。昨夜、突然動かなくなったはずの左手が動くようになり、主治医も奇跡だと驚いていた。恭介自身も困惑していたが以前の様にバイオリンが弾けるようになったことに喜んでいた。
「恭介!」
恭介が病室の扉の方に振り向くとさやかが入ってきていた。
「さやか…」
「元気そうだな」
「神童くんも!」
さやかに続いて神童も病室に入る。
「今日は二人一緒に来てくれたのかい?」
「ああ、偶然入り口で会ってな」
そう言いながら神童は扉を閉める。
「それはそうと恭介、体は大丈夫?」
「ああ、足は明日から松葉杖で歩いていけば早く治るって先生が言ってたよ。手に関しては……僕も先生も驚いたよ。昨日の夜、突然動くようになったときは。本当に奇跡かと思うくらい……昨日のさやかの言うとおり、奇跡ってあったんだね」
「恭介…」
「………」
さやかが薄ら笑いする中、恭介の腕が突然完治した理由を知っていた神童は複雑な思いで二人を見つめていた。実はさやかに「自分が勝手にやったことだから恭介には言わないでほしい」と口止めされていたため恭介に理由を話すこともできなかった。
「さやか………昨日はごめんね。君に八つ当たりしてしまって」
「ううん、気にしないで。あたしは恭介が笑顔になればそれでいいから………」
さやかが遠慮がちに答える。すると恭介は微笑みながらさやかをジーと見つめる。その視線と笑顔の所為か、さやかは恥ずかしくなり顔を少しずつ赤く染めていく。
「さやか」
「な、何?///」
「いつも支えてくれて……ありがとう」
「なっ!ど、どうしたのいきなり!?///」
満面の笑顔で突如感謝されたさやかは顔を真っ赤にして動揺する。恭介は笑みを崩さないまま話し出す。
「実は昨日あの時、神童くんに話を聞かれてて説教されちゃったんだ。でもなんだかすっきりしてね。思い出したらこう言いたくなっちゃったんだ」
「え!?神童、あんた聞いてたの!?」
「あ…ああ、偶然聞いてしまってね……」
「ふ~ん……聞いてしまって、ねぇ……」
神童が少し気まずそうに答えると真っ赤だったはずのさやかの顔色がスーッと冷めた色に変わっていき、不機嫌そうな表情で腕を組む。
「盗み聞きなんてあんたもいい度胸してるじゃない」
「なっ…!?そ、そんなつもりは……」
「何言ってんのよ。それじゃ天馬たちと変わんないでしょ!」
「う……」
「あはは。さやか、その辺で許してあげなよ」
縮こまっていた神童に恭介が笑いながら助け船を出す。
「まあいいわ。おかげでいろいろ良くなったみたいだしね。それより恭介、ちょっと外行かない?」
「え?でも今日はまだ外出許可は……」
「大丈夫だ。俺たちと一緒に来てくれないか?」
「え?」
~~屋上~~
「屋上に何が……!?」
神童とさやかに車イスで屋上に連れられた恭介。そこには多くの人たちが待っていた。
自分を看てくれた看護婦、病院で知り合った人々、そしてなにより驚いたのは自分が処分するよう頼んどいたはずのバイオリンを持っている恭介の父の姿があったことだった。
「これは…!」
「恭介…」
「父さん!これは一体……それにそのバイオリンは……」
「ああ………お前に捨ててくれと頼まれたがどうしても捨てられなくてね………こういう時がくるんじゃないかと思って残していたんだ」
「父さん………」
恭介は目を見開き、恭介の父は嬉しそうに微笑む。
「実はこの事は今朝、さやかちゃんと神童くんが考えてくれたんだ」
「え……」
「あたしは恭介のバイオリンをもう一度聞きたかったから………」
「俺も君がどんな旋律を奏でるのか聞いてみたかったんだ」
さやかは照れくさそうに、神童は腕が治った事を祝福するかのような笑顔で答えた。
「二人共……!」
恭介が目を潤わせていると恭介の父がバイオリンを差し出す。
「さあ、もう一度聞かせておくれ、お前のバイオリンを。今日はお前の特別コンサートだ」
「………うん!」
恭介は笑顔でバイオリンを受け取った。
屋上の人々が待ちわびるように沈黙すると恭介の復活記念のコンサートが始まった。恭介は笑顔で失われた旋律を再び人々に聞かせた。彼は終始目を閉じながら引き続け、まるで自分の舞台に帰って来たんだということを喜んでいるようだった。神童たちは微笑ましいその姿に笑顔を浮かべながら静かに演奏を聴いていた。
(恭介……!)
その最中、神童はさやかを垣間見る。彼女は自らの手で復活させた演奏者を涙しながら見ていた。
(……あたしはまた見たかったんだ。恭介のこんな姿を……。マミさん、あたしの願い、叶ったよ……!後悔なんてあるはずない……あたし今……最高に幸せだよ…!)
涙しながらそう思うさやかと演奏する恭介を交互に見る神童は思わず笑みをこぼす。
(……さやかさんと上条……本当に幸せそうだな……)
神童は昨日の事から恭介と彼を支えてきたさやかが二人そろって幸せそうにしている光景を望んでいた。神童にはこの世界に来る前に自分を愛した少女がいた。だが、サッカーを守る為にその少女の側にいて喜びを共にすることが出来なかった。自分が果たせなかった事を恭介とさやかに果たせることが出来て神童は満足していた。
(本当に良かった………これが見たかったんだ……)
神童の心は満足感で満ちていた。
しかし――――――
(見たかったものが見れた……見れたはずなのに……)
「……何だ?……この胸騒ぎは……」
何故か神童の心に得体のしれない予感が走り、神童は神妙な顔で胸に手を当てた。
~~~同時刻・展望台~~~
「ふ~ん。なるほどね。あの子はあの坊やの為に願ったってわけか」
「ああ。美樹さやかは彼の腕を治すことを引き換えに魔法少女になったんだ」
病院から少し離れた展望台から招かれざる観客たちが恭介の復活コンサートを見ていた。それは昨日魔法少女になって魔女を倒したさやかを見ていた赤いポニーテールの少女とキュゥべえだった。少女は軽く舌打ちするとくわえていたチョコ菓子をパキッと折る。
「気に入らないね……他人の為に願いを叶える奴なんて……」
「どうするんだい?
「決まってるだろ?おしおきしてやるのさ。くだらない事に奇跡を使った馬鹿な甘ちゃんをさ」
杏子と呼ばれた少女はくわえていたチョコ菓子を全部口に入れて咀嚼するとニッと悪意が込められた笑みを浮かばせる。
「でも昨日も言ったけどこの街にはイレギュラーが多い。今演奏を聞いてるあのウェーブの髪の少年がその一人だ」
杏子は昨夜も使った双眼鏡で神童を見る。
「ふ~ん。あんなヒョロヒョロした奴がね……でもあたしにかかればどうってことは無いね」
「その割には昨日は危なかったけどね」
「う、うるせぇな!ちょっと油断してただけだ!あの時のあたしはその気になれば自力で倒してたよ!」
「でも、油断して魔女にやられそうなったというとマミと一緒になってしまうけど?」
「だ~っ!もう、うっせうっせ!マミと一緒に済んじゃねーよ!あいつと一緒にされるとムカつくんだよ!」
杏子は顔を真っ赤にしながらムキになってキュゥべえに怒鳴り散らす。
「とにかくっ!あたしはマミもあの甘ちゃんもぶっ潰す!!いいか、この事はあいつには絶対言うなよ!あいつの事だ、絶対邪魔しにくるだろうからな」
「わかったよ。しかし君も変わっているね。彼らと同じイレギュラーと行動するなんて」
「ふん。あいつが勝手に付いてくるんだよ。まあ、そのおかげであたしも楽に……」
「ここにいたんですか、杏子さん」
「!?」
急に声を掛けられ思わず顔を上げる杏子。
「……なんだお前かよ」
杏子は溜息をつきながら声の主を見る。そこには長身で目つきが鋭く、尖がった黒髪の少年がいた。
「さっき、何か叫んでいたようですが何かあったんですか?」
「………なんでもねぇよ。あたしちょっと出てくるからな」
杏子はそう言うと少年の横を通り過ぎながら展望台の出口に向かう。
「杏子さん、どこへ?」
「どこだっていいだろ!」
杏子は振り向く事無くぶっきらぼうに言うとそのまま展望台から立ち去った。
「彼女は元々孤高の魔法少女だ。君には昨日の事もあって少しだけ気を許しているけど、心を開いてはいないようだね」
キュゥべえは杏子が立ち去った出口を見ながら呟いた。
「そうか……なら俺も少し外へ出てくるとしよう」
少年はそう言うと出口へ足を運ぶ。
「それにしてもわからないな」
キュゥべえの言葉に少年は足を止める。
「初めて会ったばかりの彼女にどうしてそこまでついて行こうとするんだい?」
しかし少年はただ淡と、
「……お前には関係ないことだ」
とだけ答えた。
「それに……俺はお前の事を信用してないからな」
少年はキュゥべえを横目で鋭く睨むとその場を後にした。
「……やれやれ」
誰もいなくなった展望台でキュゥべえは一人溜息をついた。
~~さらに同時刻・街中~~
「にしても今度は別世界に来るなんてな」
「でも、この世界は私たちの時代とあまり変わらないみたいで良かったですよ」
葵、水鳥、茜の雷門のマネージャーたちが話し合う。現在彼女たちは天馬たちと二手に別れ、はぐれた仲間たちを探すついでにドリンクボトルなどマネージャー業に必要なものを買い揃えていた。現在は休憩に立ち寄った喫茶店でジュースを飲んでいた。
「アレ、あそこにいるの…」
葵と水鳥が茜の目線をたどると、まどかとほむらがいた。
「まどかさん、ほむらさん!」
「葵ちゃんたち!どうしてここに?」
「マネージャー業に必要な物を買った帰りに通りかかったんです」
「お前らこそ二人きりでどうしたんだ?」
水鳥が聞くとまどかは少し遠慮がちに答えた。
「わたし、ほむらちゃんとお話ししたくて……」
「話って魔法少女の事か?」
「それもあるけど、本題はさやかちゃんのことなの」
「さやかさんの?」
葵たちは何故さやかの話なのか興味を持つ。
「あなたたちには関係ない事よ」
「んなっ!あんたいきなり……」
「水鳥さん、落ち着いて!」
ほむらの突然の台詞に怒る水鳥を葵と茜が慌ててなだめる。なんとか怒りを抑えた水鳥はふてくされながらまどかの隣の席にドスンと座る。
「あ、あのね、さやかちゃんは思い込みが激しくて意地っ張りで、けっこうすぐに人とケンカしたりしちゃうけど、でもホントはすっごくいい子なの……やさしくて勇気があって、誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃって………だからもっとさやかちゃんと仲良くしてほしいの。そうすればきっと魔女との戦いでもマミさんみたいに危ない目に合わないと思うから…」
まどかはほむらと水鳥の険悪なムードの中で必死に自分の中のさやかの姿を伝えようとし、さやかを心配するように頼み込む。ほむらとさやかの仲が悪いのはマネージャー達も初めて会った時から感じていた。そしてやさしい性格のまどかが二人の距離を縮めようとしているのがわかった。
「彼女は魔法少女としては致命的ね」
しかし、ほむらは冷たく言い放つ。
「度を超した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる……そしてどんな献身も見返りなんて返ってこない……それをわきまえてなければ魔法少女は務まらないわ」
「上条の為に願いを叶えたさやかが魔法少女失格だって言いたいのか!?」
さやかの想いを全否定したほむらに水鳥は声を荒げる。
「…正直、彼女には魔法少女になってほしくなかったわ。彼女のような人ほど魔法少女になった後、願った事を後悔するわ」
ほむらは悔しげに顔を歪めていた。
「どういうことですか?」
「魔法少女になるということは一つの希望と引き換えに全てを諦めることだから」
「一つの希望と引き換えに全てを諦めること…?」
葵が首を傾げながら呟く。
「…だから、ほむらちゃんは他の事も、マミさんやさやかちゃんの事も、自分の事も諦めているの?」
まどかはほむらの言葉を理解しきれないまま彼女に訊きかえす。
「ええ、何を犠牲にしても果たさなければならないことが有るから」
「………」
その瞬間、葵は天馬から『ほむらは何かを諦めたくないのに諦めている』と聞いた事を思い出す。無表情で語るほむらの瞳の奥から強い思いを感じつつも天馬が言っていたその哀しみの印象が感じ取れるのがわかった。
「とにかく、美樹さやかの事に関しては諦める事ね。今のあなたたちが彼女や巴マミに出来ることはないから」
「そんな……ほむらちゃん…」
「あんた、いい加減に…」
冷たく言い放つほむらにまどかはショボンと落ち込み、水鳥は歯を食いしばって今にも殴りかかろうとする。
「それは違うと思います」
突如そう言ったのは葵だった。殴りかかろうとした水鳥もその拳を押さえて葵の方に顔を向ける。
「葵?」
「…どういうことかしら」
ほむらは目を細めると葵はその場で立ち上がる。
「私たちはいつも天馬たち雷門の戦いを見てきました。そしてこの世界でも天馬たちは自分たちのサッカーで戦っているとも聞きました。確かに私たちは雷門の皆と一緒に試合をしたり、マミさんたちと一緒に魔女を倒すこともできません。でも、だからこそ出来ることがあります。魔法少女じゃなくとも……いえ、魔法少女じゃないからこそ出来ることがあるんです」
「魔法少女じゃないからこそ出来ること…?」
「それは…戦いに疲れた天馬たちやマミさんたちの帰る場所になる事です!」
「!」
「一緒に戦えない代わりにその分まで一生懸命支えること、身も心も傷だらけになって疲れた皆を温かく迎えてケアすること!それは魔法少女でない私たちやまどかさんしかできない役目なんです!」
葵はまっすぐな瞳でほむらを見据えながら言った。
「葵ちゃん…」
葵の言葉に感激するまどかと笑顔で感心する水鳥と茜。
「………」
ほむらは数秒だけ葵の話に呆けていたが、次第にいつものクールな表情に戻っていった。
「……そう……そういう答えなら安心したわ。……下手に魔女との戦いに首を突っ込まれるよりはマシだから………美樹さやかと巴マミは幸せ者ね……」
そう言うとほむらは自分とまどかの分の伝票を持って立ち上がる。
「ほむらちゃん!」
まどかはレジへ向かおうとして背を向けたほむらを呼び止める。足を止めたほむらにまどかは拒否されないだろうかと不安に思いながら言った。
「ほむらちゃんにとっても、わたしが帰る場所になっちゃダメかな……?」
「…!」
背を向けたままのほむらは一瞬だけ誰にもわからないくらい小さく反応した。
「………」
しかしまどかに振り向くことも返事を返すこともせず、さっさと喫茶店の出口に向かってしまった。
「ほむらちゃん……」
まどかは寂しそうにほむらが店を出ていくまで彼女の背中を見つめていた。
~~~夕方・路上~~~
「皆集まったわね」
夕日が差し掛かる路上でマミが集まった仲間たちの点呼を取る。何故天馬たち全員が集まっていたかというと昨日の様に大勢の人々が魔女に囚われないようにパトロールするためであった。しかしやはりその中にほむらの姿は無かった。
「それにしてもさ、まどかや葵たちまで来ることなかったんじゃないの?」
さやかが後頭部で両腕を組みながらまどか達を見る。
「そうなんですけど、一緒にパトロールすることは出来ると思って……」
「わたしも少しでもさやかちゃんの力になりたくて……」
「そっか…。実はちょっとだけマミさんみたいにできるかどうか不安だったんだ………でもまどかたちがいてくれれば心強いよ。ありがと」
さやかは頬を指先で掻きながら礼を言う。
「でも、無茶はしないでね。特に鹿目さん。あなたには空野さんたちの様に自分の身を守ってくれる指輪もないんだから」
マミは人差し指を立てながらまどかに注意し、まどかも「はい!」とハッキリ答えた。
「ねえ、マミさん。どうせなら二手に分かれてパトロールしません?」
「え?どうして?」
マミはさやかの提案に怪訝な顔をする。
「だってみんなで固まって動いたら目立っちゃうし、そうした方が効率がいいじゃないですか」
「確かに二手に分かれた方が効率的だけど私がいなくてホントに大丈夫?」
「大丈夫ですよ!それにあたしもこうして魔法少女になったんだし、一刻も早くマミさんみたいな強くてカッコイイ魔法少女になりたいんです!」
「でも……」
「マミさん!さやかさんがここまで言ってるんです、やらせてあげましょうよ!それにいざとなったら僕たちがいますし」
信助もマミに後押しする。
「……わかったわ。でも、決して無茶はしないようにね」
「は~い!」
さやかと信助に折れるマミ。そして一同は町の西側をマミ、神童、葵、水鳥、茜、東側を天馬、信助、まどか、さやか、キュゥべえの二手に分かれて日没までパトロールすることになった。
~~~路地裏~~~
「おっ、ココに結界の反応があるね」
さやかは手の平に置いたソウルジェムの反応を見る。東側を捜索していた一同は工場地帯の路地裏に来ていた。そこで微かな結界の反応があったのでその正確な場所を探していた。
「マギカボールもまるでココだと教えてるみたいです」
天馬も淡い光を放つ自分のマギカボールを手に持ちながら路地の階段を下りる。あのお菓子の魔女戦以来、天馬達は自分達で出来る限りマギカボールを検証し、その結果ソウルジェムと同じく結界を探しだし、入り口を開けられることが分かったのである。
「みんな、結界が開くよ!」
キュゥべえが言うと同時に景色がグニャリとゆがみ、一同は結界に取り込まれた。
気が付くとそこはおもちゃ箱の中にいるような空間にいてその頭上からクレヨンが舞い落ち、いつもと同じ不気味な笑い声が響いていた。
「どうやらこれは魔女じゃなくて使い魔の結界みたいだね」
キュゥべえは相変わらず明るい声で言う。
「あ、さやかさん!あそこに使い魔が!」
信助が指差すと、そこにはこの結界の使い魔らしきものが複数いた。
「それじゃ、さっさと片付けるよ!二人共!」
「「はい!」」
さやかに天馬と信助が答える。三人はそれぞれソウルジェムとマギカボールを掌にかざすと、さやかは青を強調したスカートの騎士、天馬と信助はジャージ姿からそれぞれ赤いキャプテンマーク付きの背番号8番のユニフォーム、背番号20番のキーパーユニフォームの姿に変わる。
「みんな、頑張って!」
「任せといて!」
必死に応援するまどかの心配をはねのけるように拳をぐっと握ってガッツポーズをみせるさやか。
「さやかさん、使い魔が!」
さやかが正面に向きなおすと、使い魔が結界の奥の方へ逃げ出そうとしていた。
「おっと、逃がさないよ!」
するとさやかはマミが大量のマスケット銃を生み出すマネをするかのように空中に大量のサーベルを生み出す。
「飛んでけ!」
さやかの合図と同時に無数の剣は使い魔の方に切っ先を向けて飛んでいく。使い魔はそれを避けようと逃げ出すが剣は使い魔の逃げ道を追うように地面に突き刺さっていき、徐々に使い魔と刺さった剣の感覚が短くなっていく。
「信助、俺たちも!」
「うん!」
「「はああああぁっ!」」
天馬と信助も逃げ出そうとする使い魔に向けてシュートを放つ。そしてさやかの剣のうちの一本と天馬たちのボールが一体の使い魔に向けて水平に飛んでいった。
「いっけー!」
三人同時に「捕らえた!」と思ったその時だった。
ガキィン!
「「「!?」」」
突然使い魔と遮断させるように上空から赤い槍が地面に突き刺さり、剣とボールを弾いたのだった。この不測の事態にキュゥべえ以外の全員が驚く。
「おいおい、何やってんのさ」
「誰!?」
突如声が聞こえてきたか思っていると、マギカボールが天馬達の元に戻り、弾かれたさやかの剣と弾いた赤い槍が消える。剣と槍が消えた場所に赤い服とポニーテールが特徴の少女が降り立った。
「あんたさぁ、わかってんの?アレ使い魔だからグリーフシード持ってないよ?」
その少女、
「ま、魔法少女!?」
新たな魔法少女の出現に天馬は驚きの声を上げた。
「あんたどいてよ!使い魔が逃げちゃうでしょ!」
さやかは杏子に抗議するが、
「ハッ、何言ってんだか。グリーフシード持ってない使い魔なんて倒しても無駄でしょ?」
杏子はちゃんちゃらおかしいと言うような笑みを浮かべる。そうしていく内に結界は晴れていき、景色は元の路地裏に戻る。どうやら使い魔には逃げられたようだ。使い魔に逃げられたことに怒るさやかは悔しそうな顔をしながら叫ぶ。
「あんたこそ何言ってんのよ!使い魔でも逃がしたら町の人々が襲われちゃうでしょ!」
「そうさ、それでいい」
「「「「なっ……!?」」」」
「使い魔なんて狙っても魔力の無駄。そのへんの人間四、五人ぐらい食わせれば魔女に成長してグリーフシードができあがる。そいつを倒せば魔力も損せずお得ってわけさ、使い魔を倒すなんて、卵を産む前の鶏の首を絞めるような馬鹿げた事と一緒さ」
四人は信じられなかった。マミは正義や町の人々の為に戦い、ほむらは協調性は無いが確かな節度はあった。しかしここまで自分の為だけに魔法を使い、自分が得すれば誰がどうなろうとどうでもいいような魔法少女がいるなど信じられなかったのだ。
「そこの青いの、あんた人助けの為とか正義の為とか、そんなおちゃらけた冗談かますためにソイツと契約したってんじゃないよね?」
杏子は槍でキュゥべえを指しながら言う。
「だったら………」
さやかは新しい剣を構え、一気に走り出す。
「だったら何だって言うのよ!」
「さやかちゃん!」
まどかの呼び声も気にせずさやかは杏子に接近して剣を振りかぶる。
「はああああっ!」
さやかは両腕に渾身の力をこめて剣を振り下ろすが、
キィン!
「!?」
「ハッ、なんだこの程度かよ」
金属音が響いたかと思ったら杏子は片腕で持った槍でさやかの攻撃を軽くあしらうように防いでいた。
「ぐううぅぅ……!」
さやかは更に力を入れて押し込もうとするが、杏子は一歩も後ろに下がらず、さやかの額から一筋の汗が流れる。
「遊び半分でやられるとさぁ………ホントムカつくんだよね」
杏子はそういうと槍の向きを少し傾けると一気にさやかの剣を振り払う。
「うあっ!」
「さやかちゃん!」
「やめろ!」
さやかが剣を振り払われ尻もちをついた直後、後方から天馬が杏子に向けてシュートを放つ。
「しゃらくさいんだよ!」
しかし杏子は槍を大きく振りかざし、槍はいくつにも分断する。するとそれらを連結するように中に入っていた鎖がムチのようにしなり壁となって天馬のシュートを弾く。
「ああっ!」
シュートが弾かれたことはもちろん、彼女の槍がただの槍ではなく、多節根になっていることに驚く天馬。それをよそに杏子は槍を元の形に戻しながら再び邪悪な笑みを浮かべる。
「そういや、アンタとそこのちっこいのが異世界から来たサッカープレイヤーだっけ?」
「!?どうしてそれを…」
「ソイツから聞いたのさ」
信助が驚いていると杏子は再びキュゥべえを槍で指す。
「困るんだよねぇ、人間を使い魔が喰らい、その使い魔をあたしたち魔法少女が喰う。その食物連鎖に勝手に割り込むのはさ。おとなしく球蹴りで遊んでろっての」
「なっ…!」
サッカーを球蹴り遊びと馬鹿にしながら鼻で笑う杏子に天馬は憤慨する。
「君はそれを言うために現れたのかい?佐倉杏子」
キュゥべえは変わらない表情で杏子に聞く。
「まあね、そいつらもシメてやりたいとこだけどまずはそこの甘ちゃんからお仕置きしてやろうと思ってね」
そういうと杏子は腕を振りかざし、赤いひし形を鎖のように連結させたものを何本も出現させるとマミもリボンで作るような壁になってさやかと天馬たちを分断し、消える。
「さやかちゃん!…うあっ!」
「まどかさん!」
まどかが天馬と共に助けに入ろうとするが先ほど消えた赤いひし形の壁が二人を遮る。さやかはよろけながら立ち上がり、新しい剣を出して構える。
「上等だよ……あたしはあんたみたいな自分勝手な魔法少女なんて、絶対認めない!!」
さやかは再び地面を駆け出す。
「はっ、くれてやるよ。先輩のご教示ってヤツをな!」
杏子も槍を構えてさやかを迎え撃つ。
「はああぁっ!」
さやかは横なぎに剣を振るう。
「甘いね!」
「うあっ!」
杏子は槍を斜めに槍を構え、軽くいなしながらさやかの体制を崩して腹に蹴りをいれてまどか達の前まで吹き飛ばす。
「さやかちゃん!」
まどかは必死にかけ寄ろうとするが杏子が張った結界のせいで近づくこともできなかった。
「ゲホッ、ゲホッ………だったらこれでどうだ!」
さやかは使い魔に向けたように多くの剣を空中に出現させ、それを一斉に杏子に向けて放つ。
「効かないよ!!」
杏子は再び多節根の槍を展開し、ムチの様に鎖を広げて投擲された剣を弾き飛ばす。
「おらぁっ!」
そのまま槍を振り払うと鎖はしなりながらさやかを打ち据える。
「あぐっ………!」
さやかは見えない壁に叩きつかれ、地面に倒れ伏す。
「さやかちゃん!大丈夫!?」
「ゲホッ…ゲホッ…くそう…」
「はっ……トーシローが。ちったあアタマ冷やせっての」
さやかは槍を肩にかつぎながら鼻を鳴らす杏子を睨みながら剣を支え棒にして立ち上がる。
「ありゃ、おかしいねぇ……今のは全治3ヶ月ぐらいのダメージを与えたはずなんだけど?」
杏子は不思議そうにする。そんな杏子にキュゥべえが答える。
「彼女は癒しの祈りで魔法少女になったからね。普通の魔法少女より回復が早いのさ」
「ふ~ん、だったら………回復が間に合わないくらいに痛めつけないとね!」
杏子は槍を水平に構えながら一気に駆け出し、槍を突きだす。さやかはとっさにもう一本剣を出して両手で×を描くように構えて杏子の突きを受け止める。しかし力の差は歴然でさやかは押し寄せてくる力に耐えながら後ろに後ずさる。
「ぐぅぅ……!」
「おらおら!どうした!」
そんなさやかに杏子は槍を巧みに操り、容赦なく突きと斬りの連撃を繰り返す。さやかは直撃はしていないものの、その表情は苦しそうだった。
「くっ……ううっ……!」
「さやかちゃん!」
(どうすればいいんだ!?このままじゃさやかさんが…)
天馬と信助は必殺シュートを放って杏子の結界をぶち破ろうとも考えた。しかし二人の必殺シュートはどちらも距離を必要とする。杏子の結界と自分たちが降りてきた階段とは数メートルにしか離れてない。その為自分たちのシュートの威力を十分に発揮することが出来ないのであった。
「キュゥべえ!なんとか二人を止めて!」
まどかはキュゥべえにせがむように叫ぶ。
「僕では彼女たちを止めることは出来ないよ。そもそも同じ地区に魔法少女が二人以上いればこうなるのは必然なんだよ」
「そんな………!」
当たり前のように話すキュゥべえと戦っている二人を見てまどかたちは愕然とする。今までの自分たちの見てきた魔法少女の姿は魔女と戦っている姿だけだった。しかし、今は希望を与えるはずだった魔法少女同士が殺し合いをしている姿を見て、失望さえしてしまいそうになる。
「魔法少女同士の戦いを止められるのは、同じ魔法少女だけだ」
キュゥべえの言葉に三人はハッとした表情でキュゥべえを見る。
「そう、まどか。君ならこの状況を打破できる」
その言葉にまどかはもはや決まり文句となっている台詞が出ることは予測できた。
「この状況をなんとかしたいなら、僕と契約して、魔法少女になってよ!」
「で、でも………」
まどかは予想していたとはいえ、今の自分が魔法少女になってよいのか迷いが生じる。
バシィン!
「うあっ!」
「!」
まどかが迷っている間に杏子の猛攻に耐えていたついにさやかの剣が弾かれ、地面に転がされる。それと同時にさやかは尻もちを着き、杏子は飛び上がりさやかの斜め前上空からさやかを串刺しにせんとばかりに槍を両手に持ちながら切っ先をさやかに向けていた。
「終わりだよ!」
「「さやかさんっ!」」
「……ッ!」
天馬と信介が切羽詰りながら叫び、まどかもさやかを助ける為に魔法少女になる決意をする。
「キュゥべえ!わたしの願いは………」
その時だった。
「―――『デスドロップ』!!!」
突如黒いオーラを纏った球体が杏子の結界を突き破り、杏子の隣を通り抜けてさやかと杏子を割るように地面に叩きこまれ、衝撃波が発生する。
「うわあっ!」
「のわっ!」
轟音と共に生じた衝撃波によって二人をそれぞれ後方に吹き飛ばす。さやかは尻もちをつきながら倒れこみ、杏子は一回転しながら空中で体制を立て直し地面に両足を着く。
「い、今の技は…!」
「さやかちゃん!」
天馬と信助は見覚えのある技に驚き、まどかは慌ててさやかの元に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「うん、何とか……でも一体何が…」
さやかは体を起こしながら自分たちがいた場所を見る。そこにはあるものが地面にめりこんでいた。
「あ、あれって!」
「マギカボール!?」
それは天馬たちの物と同じマギカボールだった。そしてそれは地面にめりこんだまま回転すると穴から飛び出し再び杏子の隣を通り過ぎる。杏子を除く全員がボールを目で追うとボールはいつの間にか杏子より数メートル後ろにいた一人の少年の足元に飛んでいき、少年はボールを足で踏みつけながらトラップする。
「杏子さん、やめてください。俺のチームメイトもいるので」
「…チッ……つけていやがったのか……」
杏子はばつが悪そうに舌打ちしながら横目でその少年を見る。
「お、お前は!?」
天馬は自分たちと同じジャージのチャックを開け、そこから赤いTシャツをのぞかせている黒いトンガリ頭の少年の名を呼ぶ。
「―――剣城!?」
それは雷門のエースストライカー、剣城京介だった。
次回は杏子とマミの再会と剣城と杏子の出会いをお送りします。
ご感想お待ちしております。