私/レーヴァテイン
長い銀髪に紅の瞳を持つ少女。
北欧神話におけるレーヴァテインの名前を持ち、世界を焼き尽したという剣の記憶を保持する。
人と関わることを避ける傾向にあり、キラープリンセスの監督役である奏官にも対しても同じ。
本作に登場するレーヴァテインはデレ度MAX。クーデレ系キャラではなくなっているのであしからず。
彼/奏官/マスター
十年前にレーヴァテインと契約を結び、それ以来彼女と契約を結ぶマスター。
レーヴァテインのことを理解し、受け入れている。
マナガチャ産レーヴァテインのキャラクターストーリーを読んでいたほうが良いかもしれません。
これは夢。それは私自身がよくわかっている。
血を彷彿とさせる赤黒い空。荒廃した高層ビル。ひび割れたアスファルト。嗅ぎなれた火薬の匂い。獣の叫び。
けれど目の前に広がる光景は夢とは思えないほどのリアリティを以て私に押し寄せる。
もう何度この夢を見ただろう。
はっきりとした思考で私は思う。
自分の意識がはっきりしている夢を明晰夢というのだと私は
けれども釈然としない。
私には思えないのだ。これが夢であると。
私には思えてならないのだ。
あまりにも長く夢も見続けるので、既に予感は確信へと変化した。
たまらなく怖い。この夢の続きが現実となるのが怖い。
勝手に顔が動かされる。ここら辺は夢なんだ、と淡々と思う。
視線の先にあるのは、巨大な翼が生えた蛇の前に立つ誰か。
それが誰かはわからない。二人の背中が重なっているように見える。かつては一人だったような気がする。けれど今は紛れもなく二人。
だけど、この時、この瞬間だけはあの背中の影が明確になる。
蛇が口を開け、灼熱が私と誰かを呑み込む刹那。
確かに一人になる。
どうして、どうしてだろう。
その背中はどこか懐かしくて、とても悲しく思えてしまうのは。
答えなどない。答える者など誰もいない。
ずっと追い求めている解答は、この世界の何処にも存在していない。
あるとするならば、私の記憶の最奥だろう。
「――――、―――――ッ!」
叫ぶ。
いつもいつも思い知らされる。
記憶がなくても、思いがなくても。
その誰かが私にとって大切な誰かであるということを。
だって、そうじゃないと説明がつかないじゃない。
この嫌になるくらい温かい涙はどうして流れているというの?
目を覚ます。
「……あ…」
仄かな蝋燭の明りに照らされた一室。
その人差し指で目元の涙を拭う者がいる。
弱くて、それでも力強い指。それはそのまま私の頬を撫でた。
愛おしい彼の手に自らの手を重ねる。うん、温かい。
「大丈夫か?」
「同じ夢を見ていたの。私を守って大切な誰かが死ぬ夢」
「そうか」
「あの
「うん」
「だから、だから――」
「もう言わなくていい。わかっているから」
彼が震える私の手を強く握る。
「大丈夫だ。俺は君の側にいる」
何の変哲もない、いつも通りの言葉。
誰にも響かないだろうけど、私にだけ彼の言葉は響く。
そっと息を吸い、吐く。
「……うん」
笑う。笑ったつもりだけれど、ちゃんと笑えているだろうか。
「無理に笑うな。そんな顔するなら、心に正直になったほうがマシだ」
どうやら笑えてなかったみたいだ。顔の力を抜く。
「飲むか?」と彼に差し出された水筒を受け取る。一口水を飲んで、私は口を開く。
「私が初めて夢のことを話した時のこと覚えてる?」
「ああ、あれは確か出会ってから三年くらい立った時か」
彼は止めずに聞いてくれる。彼はこういう心情の変化を察してくれる。
「あの時は驚いた。ずっと喋ってくれなかったお前が急に自分語りを始めたんだから」
「それは……まぁ…いいかなと思ったの。三年も二人きりで一緒にいれば私だって多少は心開くわよ」
「それも、そうか」
「あの時私を庇ってくれる人のことを私は何て言ってた?」
「……ただ女とだけ言っていなかったか?」
「そう、よね」
そうだ、そうだ、そうだ。
最初は女だった。女だった、はずだ。
だけど、今は――
「大丈夫だ」
「――ッ」
再び重ねられる彼の手。
私の体は気付かない内に震えていた。
震えは止まらない。体を掻き抱く。
震える。震える。震える。
勝手に。
意志とは関係なく。
根源的な何かに依って。
きっと知ってしまったら。
もう。
進めない。
――トン
時が止まった、ように感じられた。
「大丈夫。大丈夫」
「―――あ」
「俺はいつでも側にいる」
「あ…うっ…うあ」
「いつまでも隣いるから。お前を置いて死んだりしないから」
「で、でもっ、怖いっ、怖いのっ」
ああ、認めてしまった。
ずっと取り繕ってきたのに。
意地を張ってきたのに。
一度口にしてしまったら、今まで耐えてきた毎日が泡となって消えてしまうというのに。
堰が決壊してしまえば、もう思いは止まらない。
「いつからか、私を守ってくれる誰かが二人になったのっ。ううん、一人なんだけど二人なの。二人の背中が見えるようになったのっ。一人は前の女、もう一人は、もう一人はっ、貴方なのっ!最後の瞬間になって背中が一つになって、その姿がだんだん貴方にっ―――んぐっ!」
より強く抱きしめられ、口を開けることすら封じられる。
苦しい。でも優しい。
いつもそっと寄りそってくれて、時々強引な彼の熱は、私の記憶にある世界を滅ぼす炎なんかよりもずっとずっと穏やかで温かくて―――好き。
「落ち着いた?」
コクリ。
「今のが、ずっと君が抱えてきた恐怖?」
………コクリ。
「ありがとう。話してくれて」
思わぬ言葉に顔を上げた。
「ありが、とうって?」
「だって君が隠し続けた心の弱い所を、俺を信頼して見せてくれたんだろ。だから、ありがと。俺を信頼してくれて。そして、ごめん。気づいてやれなくて」
「あ、謝らないでよっ。私が勝手に隠してただけなんだからっ」
「それでも俺はお前のパートナーだ。気づいてやれなかったのは俺の不手際だ」
「違う、違うのっ、私が臆病だったからっ」
そう私は臆病者だ。少なくとも十年近く寝食を共にしてきた人に自分の弱さを隠し続けるくらいに。
人と関わることを疎んでいた。
いつも面倒くさいと嘯いて、嫌いだと嘘を吐き、他人をずっと拒んできた。
ただ怖かった。
夢の中の誰かに、
だから人を求めて
もう大切な誰かを失う恐怖を味わいたくなかったから。
私はもう一人でいい。一人でいることが運命だと思って、ずっとずっと生きてきた。
このスタンスは彼と私が奏官とキラープリンセスの主従以上の関係となってから多少は改善されたけど、恐怖は終わらなかった。
むしろ大切な誰かができてしまったことで増大した。
だから―――
―――だから隠した。
言葉にすれば恐怖が現実になってしまいそうで言えなかった。
こんなつまらないことで怖がっているなんて知られたら彼に失望されると思って打ち明けられなかった。
「ごめんなさい」
「何を謝ってるんだ?」
「わからない。でも、きっと、私は貴方に酷いことをしてきたと思う」
「そう……だな。確かにお前は酷い女だ。ずっと君のことを想ってきた俺に隠し事をしてやがって。こっちの心情も考えろ。馬鹿」
そうよね。隠し事なんてされたら嫌よね。
もう嫌われちゃったかな……
どうしよう。また一人になっちゃうの?あの孤独の毎日に戻るの?
嫌だ。嫌だ。そんなの嫌だ。もう一人は嫌だ!
不安が溢れる。
「ねぇ」
「ん、なんだ?」
「私のこと愛してくれる?」
震える声で問う。
「当り前だ。俺が愛するのは今生で君しかいない」
その言葉を聞いて。
私は初めて。
心の底から泣けたのだと思う。
泣いて、泣いて、泣いて、泣きじゃくって。
抱きしめられながら子供のように泣いて。
私の涙でぐしゃぐしゃになった彼の胸にしがみついたまま、私はポツリと呟いた。
「私、いつの間にこんなに弱くなっちゃったんだろう」
「どうした突然」
「だって、思い知らされちゃったもの。もう私は貴方なしでは生きられない。貴方がいない毎日を想像できない。私はもう昔みたいに
「だから弱くなったと?」
「……うん」
彼を失うのが怖い。彼がいない世界が怖い。きっと彼が死ねば私は絶望の海に沈んでしまう。
昔みたいに強くは生きられない。そう実感してしまった。
ああ、なんて哀れな生き物なのだろう。自分の生きる意味を他者に求め、寄りかかることでしか生きていけない醜悪な存在。それが私というキラープリンセスだ。
けれどそんな考えを彼は笑い飛ばした。
そして語る。
「君は弱くなってなどいない。むしろ強くなっている。人間の強さっていうのは自分自身の弱さを肯定し、恐怖を認めることであり、涙を流すことを許すことでもあり、自分の弱さを他人に開示することだ。かつての君のように孤独であることが最も弱く、そして愚かな行為であり、それこそ真の人間的弱さ。安心して良い。俺に君の弱さを開示した君は間違いなく強者だ」
「――なんか偉そう」
「語る者は大体偉そうな奴だよ。だからこそ年長者は尊敬されるように努力するのだ」
「ふぅん」
「ところでレーヴァテイン」
「何?」
「そろそろ離してくれないか?」
「嫌だ」
「涙でドロドロして気持ち悪いんだけど」
「知らない」
「そうか」
何処か諦めと呆れを含んだ声色。けれど優しい。
その優しさに甘える。
体を押し付けるように、今ここにある体温を体全体で確かめるために彼を抱きしめる。
強く。
「私を抱きしめて、離さないで」
強く。
「もう私が私に押しつぶされないように」
強く。
「貴方が私を愛すように、私も貴方を愛するから」
強く。もう離さないように。
互いに互いを確かめるように、求めるように私たちは抱き合う。
言葉を重ねる必要はない。
私たちは唇を重ねる。
あとがき
これが私の素直になったレーヴァテインの解釈です。後悔はしていない。
レーヴァテインの根っこの部分って結構甘えん坊だと思っているので、そこらへんが上手く書けていると良いのですが。
今回の話はレーヴァテインのトラウマを克服から彼を完全に愛しきるというのが本筋になります。実際彼女が体験したことではないのでトラウマとは違うかもしれませんが、彼女の人生における不安材料となっていたそれを乗り越えることで、二人は真の意味で愛し合うことができたのだと思います。
ではでは、ここらで失礼して。また次の話で会いましょう。
P.S.当初はバッドエンドの予定でした。その片鱗は残ってますし、レーヴァテインの裏の願望なんかも隠していたりします。