オティヌス
北欧神話における主神オーディンの別名を持つキラープリンセス。キラーズはオーディンが持っていた無銘の『弩』。
マスターの一番最初に契約したキラープリンセス。
快活としていながら破天荒ではない。誰にでも好かれそうな性格をしている。
オレンジ色の髪をポニーテールに結んでいる、見た目からも快活さがわかる裏表のない少女。
マスター/彼
奏官になってから長く、位階は中奏官。
自分の隊のキラープリンセスたちのことは平等に扱うように心がけている。
フライクーゲル
ドイツの民話に登場する悪魔の弾丸の名を冠するキラープリンセス。
とにかく明るく元気。人が言いにくいことをずばっと言ってのける、良くも悪くも空気を読まない性格をしている。
クラウ・ソラス
ケルト神話の光神ルーが振るう剣をキラーズに持つ。
真面目で規律にうるさいが、何処か抜けている面を持っている。
ミストルティン
北欧神話に登場するバルドルを殺したヤドリギ。
自分に自信が持てない少女であったが、この隊に入ってから、特にオティヌスのおかげで、少し前向きな性格になった。
「おはよっ、マスタっ!」
寝覚め早々、いつもの服に古着と動きやすい丈の短いパンツを穿いて、アタシは今日も元気いっぱいマスターに挨拶する。
「あぁ、うん、おはよ」
元気溌溂って感じの私とは対照的にマスターは未だ眠そうだ。寝ぼけ眼をこすりながら、マスターは私を見た。
「まーた、眠そうな声出してる。朝はピシッとしなきゃダメだよ」
「誰もがお前みたいに朝から全力全開だせるわけじゃないんだよ。ふわぁ~あ、眠い」
「低血圧?だったっけ。大変だね。早起きは三文の得なのに」
「なんか使いどころ違わないか?」
あれ、そうだったっけ?
首を傾げたアタシに、マスターは苦笑して「みんなを起こしてきてくれ」と指示を出す。
いつもの朝、いつものやりとり。
アタシの朝は眠そうなマスターの顔を見ることから始まる。
トントントン。
小刻みのリズムが厨房から食堂へと伝わってくる。
朝食準備の時間。完全復活したマスターと同じ隊のキラープリンセス・ミストルティンが厨房で朝ごはんを作っている。料理担当は二人が担当していて、アタシやフライクーゲル、クラウ・ソラスは待機だ。
ホントはアタシも手伝いたいんだけど、過去からの経験でそれは自重する。どうやらアタシは料理の才能が壊滅的らしかった。弓使いだから、手先の器用さには自信があったんだけどね。
「むぅ~、べぇりぃすりぃぴぃ~」
同じ隊のフライクーゲルが眠そうにテーブルに突っ伏している。
元気一杯で、マスターが持て余すくらい行動力がある彼女も朝は弱い。毎朝、毎朝こんな調子でだらしなくしている。
彼女のはっちゃっけっぷりは鬱陶しいくらいだ。特にマスターに対する過剰なスキンシップとか。マスターもまんざらでもなさそうだし。
フライクーゲルの中でも特に優秀とマスターに言われてるのに、残念な所が多い娘である。
「しっかりしろ、フライクーゲル。一年の計は元旦にありだ。単位を小さくすれば、一日の計は朝にあり。朝しっかりしないと一日を
ことわざを好き勝手に改造しているのはクラウ・ソラス。彼女の名誉のために言っておくと、彼女はとても生真面目な性格である。時々ちょっと変わったことをするだけで。マスター曰く、それも彼女の魅力だそうだ。
「みなさ〜ん、料理できました~」
台所からミストルティンが声を上げた。ミストルティンは総じて自信のない娘が多いけど、内の隊のミストルティンは配属されてからは大分改善されている。当時よりも前向きなのは先輩として嬉しい。
人数分のスープを乗せた盤を持ったマスターが私の隣に座る。アタシの隣はマスターの指定席だ。いつごろかは忘れたけど、いつの間にかそうなっていた。
「はい、オティヌス」
「ありがと。今日はコーンスープなんだね」
「トウモロコシだけ売ってる行商人が居てな。安かったから買い込んだ」
「すごいニッチな…」
「珍しいよな。それで商売が成り立っているんだから、すごいと思う」
世の中にはいろんな職業があるみたいだ。
そのコーンスープをスプーンですくって口に含む。ほんのり甘くて優しい味が口一杯に広がり、飲み込むと体の隅々まで温もりが伝わってくる。
「どうだ?」
隣に座るマスターがニヤリと笑いながら、自慢気に聞いて来た。
「おいしい」
アタシもニッコリ笑って返した。
感想を聞いて、マスターも無邪気に笑う。
嬉しそうなマスターの笑顔を見て、ちょっぴり幸せになる。
うん、なんだか今日は頑張れそう。
さて、アタシたちキラープリンセスの仕事は異族討伐だ。今日も今日とて、血生臭い戦場が待っている。
「クラウ!一時方向っ、接敵三体っ!」
「承知したっ!」
白の異形、異族との戦場でマスターの声が飛ぶ。
「オティヌスはクラウが抑えている三体の脳天に矢を打ちこんで、二人は離脱、そしてっ――」
「おっけぇい、蜂の巣にしてあげるぅ~」
マスターの指示は非常に的確だ。
クラウが抑え込んで、アタシが隙を突き、フライクーゲルが異族の死体ごと控えていた異族たちの撃ち抜かせる。
これがアタシたちの連携。必殺のフォーメーション。短時間で、かつ確殺できる。
「マスターっ、私は前に出るぞっ!ミノタウロスが現れたっ」
「わかったっ、オティヌスは下がって、クラウが安全に立ち回れるように弓を操る異族を撃てっ!フライクーゲルは木っ端の奴らを下せっ!」
「わかったっ―――マスターっ、後ろっ!」
一瞬視界の端にマスターの背後から迫る一体の異族を捉えた。
(間に合わないっ!)
矢をつがえるが、寸分ほど間に合わない。
アタシが焦燥感に囚われて、異形が剣をマスターに振り下ろそうとした瞬間、一本の杖が剣を組み臥した。
「させま…せんっ!」
弱々しく、けれど凛とした声が異族に立ちはだかった。
「ナイスっ、ミスト!」
頼もしい後輩に感謝して、異族の頭に矢を打ちこむ。
キエェェ、という奇声を発して、異形は地面に崩れ落ちた。絶命したようだった。
「マスター、怪我はないっ!?」
「大丈夫だ!ありがとう二人とも!」
命の危機に瀕しながらも、マスターは震えのない声で元気な姿を見せてくれた。
良かった、彼が無事で。
長い間マスターと一緒に居るから、マスタ―のことを信頼していないわけじゃないけどやっぱり心配だ。
「お~てぃぬ~す、こっちがお留守になってるんだけどぉっ!」
フライクーゲルが私に怒鳴る。
いつの間にか気を抜きすぎていたアタシは急いで気を引き締め直して、さっきよりも早く異族を撃ち殺す。集中力を研ぎ澄ませて、一本一本で正確に異族を射抜く。フライクーゲルが、やりすぎだ、と手を出せないくらいに。
きっと彼は仕方ないのことだと思ってる。
それでも、アタシはやる。
だって彼の前では、強いアタシで居たいから。
「ところでオティヌス~、いつマスターに告白するのぉ?」
「ぶふっ」
任務が終わった後、アタシたちのホームでの夜の休憩時間。フライクーゲルが爆弾を投下してきた。
驚きのあまり飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
「げほっ、げほっ」
「大丈夫か、オティヌス」
「ごめっ、クラウっ」
背中を摩ってくれるクラウにお礼を言って、手元の布巾で飛ばしてしまったコーヒーを拭きとる。
新しくコーヒーを注いでくれたミストに感謝して、アタシはフライクーゲルに向き合った。
「な、何いってるの!フライクーゲル!」
「えっ、オティヌスってマスターのことラブじゃなかったのぉ」
「違っ、別に私はマスターのことなんかっ」
「なに?違ったのか?」
フライクーゲルに食ってかかると、クラウが意外そうに、驚いた顔で聞いて来た。
「てっきり、オティヌスはマスターに懸想しているのとばかり思ってたのだが」
「なんでクラウまで、そういうのかなっ!?」
「いつも異族との戦闘が終わると見てくるからな。それも、少々の羨望と嫉妬が籠った目で」
クラウは少々暴走しやすい傾向にあるために、戦闘後はマスターがいつも一番最初にケアに入る。確かに、それを目で追うことはあるけど。
「前者については否定できないけどさっ!後者はそんなことはないっ」
「ほんとにぃ~『偶には一番最初に声かけてくれてもいいでしょ!』とか思ってるんじゃないの~」
「お、思ってない!ひとかけらも、思ってない!」
必死に否定するが、フライクーゲルは聞いてない。会話に参加してなかった最後の一人に声を掛ける。
「ミストはなんかないのぉ。オティヌスの話ぃ~」
「特には―――あっ、でもオティヌスさんが料理の練習してるのは知ってます」
「えっ、何で知ってるの!それは秘密にしてたのにっ」
「マスターも私も、竈を使っていないのに使われたような跡がありましたし、オティヌスさんが時々指に切り傷を負っているのは知っていましたから。てっきり料理をしているものか、と」
「反応を見るに、どうやら間違っていなかったようだな」
「ぐっ」
くそっ、墓穴を掘ったか!
「それでぇ?どうして練習していたのぉ?」
フライクーゲルの笑みが悪魔の笑みに見えてきた……
誤解を解くために語る。
「別に深い意味はないって、ただ、マスターの負担を減らせたら良いなって思ってるだけで、マスターに食べて欲しいなんて思ってないって」
「じゃあ、私の件は?」
「それは……なんとなく……なんとなく目で追っちゃう……」
「それを恋と呼ぶのだ」
「うっ、違うし…」
なんか不貞腐れたようになっちゃった……
「っていうか、普段の態度からねぇ~」
「オティヌスさんがマスターを見る目は違いますから、なんとなくわかってしまいます」
ここに味方はいないのか……
三人の生暖かい目に見つめられたアタシはとうとう――
「あ~~~っ、もうっ!わかったよっ、今からマスターの所に行って確かめてくるっ!」
耐え切れなくなって、部屋から飛び出した。
扉を開けて外に出る。開けると同時に吹き込んできた夜風はひんやりとしていて、興奮して火照った体に心地いい。
夜闇に立ち上がる背高の木々の葉が、風に吹かれてカサカサと音を立てていて、屋敷を囲む森の不気味さを一層掻き立てている。まるで怖い絵本から飛び出してきたかのような様相だった。風と葉が擦れ合う音しかしない静けさは、訪れる者んの恐怖を掻き立て、この世で己一人しかいないのではないか、という思い込みすらさせるだろう。そういう闇が此処にあった。
しかし、一方でその闇は無数の小さな輝きを際立たせていた。
天蓋を満たす数えきれない光たち。白、橙、赤、緑、青。瞬きの綺羅星が静かに、けれどしっかりと自己主張をしていた。
その美しさに、思わず目的を忘れてしまうほどに感動した。思考が真っ白に染め上げられる。「ほぅ」とため息が出てしまうのも仕方がない。そう思わせるほどに美しい満天の星空だった。
きっと、彼もそうなのだと思う。椅子代わりの倒木に座り込む彼は、ただただ星を見上げていた。アタシには気づいてはいない。
アタシに気づかない彼に、悪戯心が芽生えた。その原因には消えかけのたき火の中で燻る炎に似た感情と突然冷水を掛けられた時のひやっとした感覚があったことは否定できない。
気配を消して彼の背後に回り、そして目を覆った。
「だ~れだっ!」
伝統的な悪戯であるそれは彼を驚かせるに足りえなかった。
「何か用?オティヌス」
「むぅ」
「なんで不服そうなんだ?」
自分の胸に聞いて欲しい。
彼が倒木をポンポンと叩く。「隣に座らないか?」という問い。
断る理由はない。彼の隣に腰を下ろす。
少し気まずい――多分アタシだけが思っていることだろうけど――間に困り果てたアタシは彼に当り前のことを聞く。
「……何を見てたの?」
「星を見てた」
「ふーん、そっか」
どうしてか会話が続かない。
いつものようにいかない。
「マスターってさ、星が好きなの?」
「好きといば、好きかな」
「……そう」
我ながら素っ気ない返事をしてしまったと思う。
それでも彼は嫌な顔一つしなかった。
らしくない、ぶつ切りの会話を続ける。
「どうして、星が好きなの?」
「どうしてだろうなぁ」
彼が困ったように笑う。
「よくわからないんだ。いつのまにか星を見上げるようになった」
「自分でも好きになった理由がわからないんだ」
「案外理由が不明なあたりはは恋に似ているのかもなぁ」
「………恋」
思わぬ所で、この二文字が出てきた。
こい、コイ、恋。
頭の中を渦巻く二文字。
そもそも恋というのは一体なんなのだろう?
他人を好きになること?異性を独り占めしたいという独占欲?それとも恋い焦がれる相手から好意を向けられたいという思い?
色々考えが浮かんでくるけれど、どれもパッとしない。アタシの中にそんな感情があるかと聞かれると、首を縦に振るのに小粒ほどの躊躇いがある。
「…………」
「どうした、難しい顔をして」
「………ッ!」
彼が覗き込んでくる。黒い瞳がアタシの瞳を真っ直ぐに見据えている。
考え事をしていたアタシはあまりにも唐突すぎるその出来事に驚いて、焦る。
頰が熱い。
「顔が赤いけど……もしかして風邪かっ!くそっ、最古参のお前の体調すら慮れないなんて、奏官失敗だっ。悪化させてはいけない、早く屋敷に戻るぞっ!」
勘違いをした彼が途端に慌てて、アタシを屋敷に連れ戻そうとする。
「ちがっ、風邪じゃないからっ!」
「本当か?無理してないか?」
「してないってば」
「なら……よかった…」
ほっと安堵の息を吐く彼。
アタシのことを心配してくれた。
ただ、それだけのことなのに胸がざわついて仕方がない。
「風邪じゃないなら、どうしたんだ?随分深刻そうな顔をしていたけど」
「自分の気持ちを顧みてたの。でも、思いのほか複雑で、よくわからなくて、頭の中がぐるぐるしてる感じがして…」
「良かったら、聞くぞ?」
彼はそう言ってくれるが、内容が内容だけに相談しにくい。
『アタシがマスターに恋してるのかわからない』なんてことを相談されても、彼は困ってしまうだろう。
この問いの答えはアタシだけで出さないといけない。
だから、いつもの調子で、アタシらしく答えるのだ。
「うーん、大丈夫。これはアタシだけで解決できるよ」
それでも彼は食い下がる。「大丈夫か?」と聞いてくる。
本当に心配性な人だ。けど、やっぱりそれが嬉しくて。
まぁ、きっと、こんな感情こそが……
この感情が恋なのか、私にはわからない。
まだ恋と言えるものかは、アタシには判断できない。
「もう少しだけ、待ってて」
けれど。
この感情の
だから答えを得るまでは今のままでいよう。
「きっと近いうちに打ち明けられるから」
隣合って座る主従以上恋人未満。
遠くもなく近くもないこの距離感で、アタシは『
あとがき
――近すぎるが故に、気づけない思いってありますよね。
キラープリンセスと奏官の間の恋、ということで書いてみましたオティヌス編。
ガチャ産の星六オティヌスのキャラクタークエストを見て、オティヌスが恋愛をすると恋愛感情について悩むタイプじゃないかなと思い、こんな感じになりました。そして、気づいたら即決告白するタイプじゃないでしょうか(レーヴァテインの話と同様自己解釈なので悪しからず)。
キラープリンセスと奏官は一蓮托生。特に今作のオティヌスはかなりの間マスターと一緒にいるので、友愛と恋愛感情の判別がつかなかった。一緒にいることが当り前、一度契約したら離れることはない関係であるが故に、恋に落ちたと思える決定的な一打を得るこができず、変化のないぬるま湯に浸り、現状に甘えていた。つまり焦燥感を感じなかったんですね。だって、意中の相手がずっと傍にいてくれるんですから。恋愛に必要な一定の距離感がない以上、オティヌスの思いは家族愛にも恋愛感情とも言えない曖昧な物となっていました。
だからフライクーゲルの一言が区切りをつけるきっかけとなった。オティヌスは自分自身の思いに向き合い、そして――
と今作はこんな感じの物語にしたつもりです。
ぶっちゃけマスターが死んでしまえば、別離となってしまうので『離れることがない関係』というのは間違いで、オティヌスはそこを完全に失念しています。ずっと一緒にいたからって、これからも一緒にられるわけではありません。特にキラープリンセスと奏官は別れは『死』ですから、別離するかしないかの場合が両極端。フライクーゲルの爆弾発言はそういったことも考慮した発言だったりします。「失う前に後悔しないでねぇ」というのがフライクーゲルがオティヌスが出ていったあとの屋敷での台詞です。
ではでは、ここらで失礼します。次はおそらくヴァナルガンドの話かな。
P.S.オティヌスが恋愛感情が気づけなかったのはマスターの態度のせいでもあったり…