「きいれいうろかぁ~?」
「聞いてる聞いてる。だからちょっと水飲め」
「うぅしゃい!もっろしゃけら!」
「ダメだこりゃ。完全に呑まれてら」
「いつものことよ。普段は呑まれたりしないんだけど、お見合いの愚痴になると呑まれちゃうの。ちょっと寝かせてくるわ」
「あんなに嫌がってるなら縁談持ってこないように取り計らってやればいいだろうに」
「まあそういってやるな、ギルガメッシュよ。慧音に縁談が来るというのは妹紅にとっては喜ばしいことなんだ」
「どういうことだ?」
「百年以上昔のこと、とある満月の夜に人里の子供が妖怪になってしまったわ」
「子供が?」
「そうよ。そして満月が沈むと人間に戻った」
「変な話だな」
「そうかしら?古今東西、満月の影響でどうこうという妖怪は多いと思うのだけれど」
「そういうもんか」
「ええ」
「それで?」
「里の者たちは人間に戻って安心した……わけではなかったわ」
「次の満月も妖怪になるってか?」
「ええ。そしてその予想は当たっていたの」
「なるほど、それで迫害されるようになったのか」
「そうだ。当時は妖怪といえば人食いや人攫いが当たり前で、実害がないものはほとんどいなかったからな」
「当時の常識からいえば殺さなかっただけでもかなりの温情よ」
「よくもまあそんな環境で狂わなかったな」
「それは彼女の妖怪化によって発現した能力のおかげみたいよ」
「慧音は人間時には歴史を食い、食った歴史をなかったことにできるんだ」
「迫害された事実をなかったことにしたのか」
「そうよ。そして妖怪化している間は逆に歴史を作ることができるの」
「過去を自由に作り替えることができるのか。とんでもない能力だな」
「そうね。でもそんなに自由度の高い能力ではないわ」
「そうなのか?」
「一定以上の力の差があるとなかったことにしたはずの歴史が認識できたり、作ったはずの歴史が認識されなかったりするんだ」
「いくらとんでもない能力でも使い手が人間の子供じゃ高が知れてるってことか」
「そういうことね。成長した今でも力のある妖怪は誤魔化せないし、当時はそれこそ自分の殻に閉じこもるためにしか使えなかったんじゃないかしら」
「歴史を変えても記憶かなくなるわけじゃないから、下手に周りに使うわけにもいかなかったろうしな」
「ほんとよくあんな普通っぽく育ったな」
「あたしが出会ったばっかりのころはかなり危うい感じだったけどね」
「あらおかえりなさい。もう一本いただけるかしら」
「ありゃ、自分でとってくれてよかったのに。ほい」
「ありがと。でも、お客が勝手なことをするものではないわ」
「意外と信頼されてるんだな」
「意外は余計よ」
「あはは、紫は雰囲気が胡散臭いもんね」
「ちょっと妹紅?塩の配給止めるわよ?」
「それは勘弁!むしろ臨時配給が欲しいくらいなのに!」
「塩は配給制なのか?」
「海も岩塩の鉱山もないから、塩は外から得るしかないのよ」
「それで外と行き来できる紫だけが自由に塩を得られるのよね」
「人間は塩なしでは生きられない。となれば塩の入手が妖怪に依存していれば人間は調子付くことができないということだ」
「反乱防止策ってことか」
「他にも意味はあるけれど、そういう認識でも構わないわ」
「いろいろ考えてるんだな」
「まあね。それで?どうして臨時配給が必要なのかしら?」
「いやあ、予定外に酒盗なんか作ったもんだから……」
「予定外に塩漬けが必要なものなんて作らないでちょうだい」
「まあまあいいじゃないですか。妹紅の酒盗は絶品ですよ」
「そ、そうそう、折角熱燗飲んでるんだし紫も食べてよ」
「まあ作っちゃったものは仕方ないわね」
「見てたら俺もまたほしくなってきたな。妹紅、俺にもくれよ」
「量がないから一日一回までよ」
「ちぇっ、じゃあなんかおすすめ一品」
「あら、一緒にこれをつつけばいいじゃない」
「いいのか?」
「いいわよ。かわりに、今出てる分でお開きにしましょう」
「おっと、それじゃゆっくり味わうとしよう」
「お勘定は塩の臨時配給でよろしく」
「ああ、明日にでも持って来よう」
ゆかりんの食べかけとか羨ましいぞこの野郎!
あ、霊夢たちは慧音の愚痴が止まらなくなったあたりで帰りました