機動戦士ガンダム UC.0094 -巨人の末裔-   作:一一人

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注意!オリジナル要素を含みます。苦手な方はご注意ください。


第三話「策謀」

「頃合か……」

 〈レオントキール〉との通信を終えた二ーゼスは椅子に身を投げた。擬似重力ではあるが、約1Gのかかるコロニーでの生活は老体には決して楽なものではなかった。特に宇宙での艦長職に慣れ親しんだ者としては重力ほど億劫なものはないと言っても過言ではないほどであった。

「ええ、こちらも準備は整えております。ご指示があればすぐに狩りにかかります」

 二ーゼスのつぶやきを受けるように返事を返すのは、若い男、青みのかかった髪を流すようにしたキザな佇まいの青年だった。着込むのは〈ロンドベル〉の制服だが、その色は黒く、他には見ないデザインだった。

「そう焦るな。やるならばジオンの連中ごとやってもらわねば疑いがつく」

「分かっております。全ては貴方の意志のもとに」

「頼りにしている。あの烏は信用がならんからな」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「ターツァ大尉、少しいいでしょうか」

 喧騒冷めやらぬ格納庫で、〈ギャプランもどき〉から吐き出されたグローレン・T・ベルバーグが医務室へ運ばれるのを見送った後、ターツァはヴァッフに捕まっていた。

「どうされました、少佐殿?」

「先ほどアリューゼ指揮官からの通信がありました。本艦はサイド6への針路をとっています」

「やっぱりか……」

 ヴァッフの報告にあからさまに怪訝な表情を浮かべるターツァ。無理もない。ヴァッフがニーゼスに進言したとおり、この位置からならば普通であればサイド1の拠点に向かう、あるいは経由するはずである。

「いい加減説明してもらえませんか、大尉!一体全体どうなってるって言うんです!?何もかも普通じゃない!」

「ううむ……」

 声を荒らげるヴァッフに、ターツァは珍しく声を詰まらせていた。その様子に、ヴァッフは益々の不信感を募らせる。

「ターツァさん、いくら実戦経験が豊富で歳上とは言え、階級では私の方が上です。いざとなれば……」

「柄にもない事、言うもんじゃないぜ?」

 脅しとも取れるヴァッフの言葉を遮りながらターツァは軽口を挟む。しかし、その表情は相変わらず険しいままだった。流石に様子がおかしい事を悟ったクルーたちが遠巻きにその様子を見守る中、ターツァは口を開く。

「艦長殿。これはまだ憶測の段階を出ないが……」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 グローレンを医務室へ運んだクルー達の流れについて行ったファムとイオリは食堂の椅子に腰をかけていた。

「どういう事だよ……あいつがアンタの親だなんて……」

 先のファムの言葉への疑問。ネオジオンの兵士、しかも小隊指揮官クラスの人間が、連邦の軍法会議で死刑を言い渡されたような男との関係があったなんて、しかもそんな男を親と呼ぶなんて。ただならぬ裏があることはイオリにも感じられていたが、自分がその裏の一部に巻き込まれつつある事を実感している以上、事の真相を確かめずにはいられなかった。

「落ち着いてくれ。順に話そう……。とは言え、彼があれに乗っていたことは私としても思考の片隅にはあったが……」

 先ほどから鋭い話し方をするファムが珍しく言葉を濁らせている、その事からもこの話の闇の深さを感じられていたが、それで怖気付くほどイオリは小心者では無かった。それに、自らもその闇の一端に触れてしまっている以上いずれ知ることになるならば、自らの意思でそれを知りたかったのである。

「まず、端的に言おう。私は、ティターンズの強化人間だ」

「……」

 ようやく合点がいった。最初にあった時に自分の手を掴んだあの動き。あれは肉体強化の賜物だろう。それと、自分の思考を読むかのような言動、あれは人工的なニュータイプ能力の発現と言ったところか。そして恐らくは……

「その施術者が、彼だ」

 グローレン・T・ベルバーグ、ティターンズのニタ研で強化人間の製造を行っていた狂気の科学者の一人。なるほど、それは死刑にもなるはずだ。

 だが何故、彼は死んだはずなのに生きているのか。

「それはわからない」

「だあ……さぁ、人の思考を読むのはやめてくれないか?」

「……すまない。人工的な能力のせいか、私の意志ではコントロールできないんだ。言葉として処理されてしまう。それが思考なのか、声なのか、口を見ていてもわからないぐらい、自然に“聞こえる”んだ」

「そいつぁ……厄介だな……」

 聴きたくもない相手の本音が聞こえてしまうってことだろう……?建前と本音のギャップがわかってしまう、それは信頼している相手ほど大きいはずだ。いつ授けられた能力かはわからないが、生きてくるのに色々と苦労があったに違いない。

「だけど、彼の放つ感覚はなんとなく感じていたんだ。いや、あの時一緒にいた人たちの感覚だな」

「あの時?」

「研究所のみんなだ」

「ニュータイプの能力も個人差や、感知できる感覚にも種類があるらしい。特に私は思考のリードは得意だが、それはごく至近距離に限られる。仲間達はみんな先読み、位置間隔に優れていて、それが求められていた。いくら操縦技術があっても、それがなければ失敗作だったんだ」

「……ひでえ話だな」

「全くだ。そして、私は棄てられた」

 おおよそ予想していた話だが、イオリはその言葉を聞いて黙り込んでしまった。それしか反応ができなかった。

「表向き、という言葉も正しくないが、私と同じように失敗作の烙印を押された者達は、エゥーゴの襲撃に、試験機の〈マラサイ〉に乗せられて迎撃に出されたんだ……」

「まさか、ネビロス事件……?」

 事の顛末にはイオリの耳にも聞いたことがあった。中立コロニー郡だったサイド6の一角に、目を盗むようにひっそりと存在したニュータイプ研究所。そして、そこが世に暴かれた一連の事件。報道されたことを額面通りに信じれば、エゥーゴが施設を鎮圧したが、研究員の自爆によってエゥーゴ側のパイロット数名が死亡、施設の詳細もわからずじまい。

「そうだ。サイド6〈ネビロス〉に秘密裏に建造されたニュータイプ研究所で私は実験を受け続けた。……まあ、元々は地上の研究所で改造を受けたんだがな……」

「そして、ジオンへ?」

「ああ、幸いにして撃墜を免れた私は漂流し、さらに運のいい事にアクシズの艦艇に拾われた」

 当時のジオン、アクシズは他の二勢力に比べれば兵力の不足が著しかったはずだ。その中に戦力になりうる強化人間が流れつけば、活用する他ないだろう。それもアースノイド達への憎悪を持つような境遇の強化人間ならば尚更扱いやすいはずだ。

「だが……なんで今更……。スイートウォーターの一件で再びジオンはばらけただろう?なぜまだ戦うんだ?」

 二人の間を沈黙が支配する。いつの間にか空になったコーヒーチューブを弄ぶイオリだったが、その手を止めた。同時にファムが口を開く。

「私が強化人間だから、というのが一つ。戦うこと以外を知らないからな……だけど」

「……だけど?」

「人を探しているんだ……。……研究所で私を姉のように慕ってくれた子だ」

 マユ……。確かにあの時の声はマユだったはずなんだ。あの戦場にいたはずなのに……私の幻聴だったのか……?

「……なあ。勘違いかもしれないし、人違いかもしれないが、あの時、〈ギャプランもどき〉と戦っていた時、女の子の声を聞いたんだ」

「!?」

「無線じゃない、頭に直接響く声だった。幻聴かとも思ったが、俺はあの声を知らない。知らない声だった」

 やっぱりだ。あの時マユはあの場所にいた……。ならば……やはり……。

「どうした?」

「馬鹿らしいと思うが……聞いてほしい」

 

 

「うさぎ?」

 ファムは自分より年上の、それでも自分より成績が低かった男の子に聞き返していた。

「ああ、そうだよ!その〈うさぎ〉に認められれば、僕らだって大人に認められるんだって!」

 〈うさぎ〉

 その時施設の子供たちが信じてやまなかったおとぎ話。その〈うさぎ〉と友達になると、辛い訓練や試験を受けなくてよくなる、そんな噂は瞬く間に施設の子供たちの間での話題になった。もとより話す話題がない施設では自由時間でもみんなが無口で独りでいたが、その話が出回ってからはみんなが〈うさぎ〉探しに興じていた。

 そして、それはマユもそうだった。

 自分より小さいマユが信じるのは当然だとは思っていたが、当時から精神的に大人びていたファムは、それが嘘であることに気がついていた。そして、同じ時期にグローレンによって改造を受け、妹のように可愛がってきたマユを諭すことが自分の仕事と信じて疑わなかった。その〈うさぎ〉にマユが認められるまでは。

 その後、マユの姿を見た者はいない。話によると、宇宙にある施設に移ったと聞くが、どこまで本当なのか。体質のせいか、精神薬が効きにくかったファムはその話の白々しさに嫌悪し、そしてマユを助けられなかった自分に無力感を抱き続けた。

 その後、初めて自分に〈うさぎ〉の話をした男の子も〈うさぎ〉に認められた。模擬戦で墜落して死んだ。

 その男の子の話を熱心に信じた女の子も〈うさぎ〉に認められた。身体改造中に臓器を刻まれて死んだ。

 それ以来、誰も〈うさぎ〉の話をしなくなった。おおよそ精神薬でその事を忘れさせられたのだろう。ファムは朧気ながらずっとその〈うさぎ〉の亡霊に苛まれ続けた。

 しばらくして、ネビロスの研究所に移動してから、久しぶりにマユの名前を聞くことになった。グローレンがその研究所の責任者だったからだ。

 そして、そこでファムは“マユが〈うさぎ〉になった”事を聞いた。それが指す意味こそわからなかったが、自分が〈うさぎ〉に認められればマユに会える、ということだけを信じて、辛い訓練、試験を耐え続けた。

 ネビロスが壊滅してからアクシズに移ってからも、ファムは〈うさぎ〉を探し続けた。それから数年、ティターンズ再興を掲げた活動家が秘密裏にジオン残党への接触を試みた際に洩らした言葉の中に、〈うさぎ〉を匂わすものがあった。そして、ファムはそんな不確定な要素に縋り、その試験が行われる所を襲撃した―

 

 

「……なるほどな」

 自分の経験してきた事ではおおよそ図れないスケールの大きすぎる話に辟易していたのは事実だが、イオリとしては十分に理解できる話だった。

「で?その〈うさぎ〉があの〈ギャプランもどき〉なのか?俺には〈うさぎ〉と言うより〈おおかみ〉って感じがするがな」

「詳しくはわからない。だが、“あれ”と同じ〈ギャプラン〉ベースの改造機は施設の資料で何度か見たことがある」

「ならば正解なんだろうな」

 はあ、と大きくため息をつく。随分と面倒な厄介事に巻き込まれたらしい、という実感と目の前のファムの執念深さに感嘆の意を隠せない。自分の妹分のために必死の思いで生き残り、そして糸口を掴みかけている。自分には到底できない話だろう。

「ならさ、その辺の話、ターツァさんや整備長たちに話してみようぜ?解析の助けになるかも……」

 そう言い終わる直前、食堂の扉が開き、勢いよくクリスティーナが入ってくる。その表情に急ぎの旨を読み取ったイオリはファムとの話を中断した。

「どうした?」

「ターツァさんからの通達よ。緊急ブリーフィングを行うって」

「ブリーフィング?出撃か!?」

「よくわからないけど、早く来て!あと、貴女も」

 視線を向けられたファムは一瞬驚きの表情を浮かべるも、すぐに引き締め、「了解」と力強く頷いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「おいおい……どうなってやがる……」

 ムサカ級〈アルストロメリア〉のブリッジで、偵察に出撃したアイザック小隊が形成する、広域レーダーチャートとにらめっこをしていたのはルイーズ・レイコフだった。左腕を三角巾に吊るし、頬にはガーゼをあてがっているが、その表情は傷による苦悶ではなく、その状況への疑問に歪んでいた。

「ルイーズ君、ファム中尉からの暗号通信によればあの艦は安全なのだろう?ならば彼らの後ろに隠れている二隻はなんだ?罠じゃないのか?」

 艦長席に座るサンダーク・ラトロワ中佐が疑念丸出しの声音で尋ねる。ルイーズはそんな艦長が苦手だったが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「ええ……この状況ならばそうとしか考えられません……ですが……」

 ファム中尉の機体でのみ使える秘匿回線は、ファム中尉のバイタルデータなどの厳しいセキュリティがなければ使えないはずだ。それを使ったならば自分の意思でしかない。詳しい話は知らないが、かつて連邦で強化人間にされたらしいファム中尉が連邦に寝返るなど……。薬を打たれてやむなく、とも考えられるが中尉がそう簡単に……?

「かと言って簡単に手を出すわけにも行きません。もう暫く、様子を伺うしかないかと」

 旧式とはいえアイザック小隊を積んでいてよかった、とルイーズが思ったのは初めてだった。

「重量増加分の仕事はしてくれよ……」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 ブリーフィングルームに集まったのは、ターツァ小隊と予備で配属されているノマド中尉以下一個小隊、それからアラートパートを残したヴァッフ艦長を含む艦橋詰めのクルーだった。

「では、ターツァさん、説明して頂けますか?先ほどの話を」

 ヴァッフに促され、ターツァは一歩前に出る。その表情にはあの時、〈ギャプランもどき〉と対峙した時と同じような迷いが見られた。だが、イオリが驚くのはその表情ではなく、発言の中身だった。

「本艦、いや本隊はこれより第13独立艦隊〈ロンドベル〉の作戦特権に基づき、サイド1〈ロンデニオン〉の強制捜査を行う」

 集まった人々、ヴァッフとターツァを除く全員に衝撃が走る。

「ちょっと待ってくださいよ、ターツァ大尉」

 その中で最も早く口を開いたのはノマド中尉だった。

「今の発言、意味がわからないんですが?〈ロンドベル〉の作戦特権?確かに〈ロンドベル〉の傘下ですが、俺たち、第14独立艦隊ですよね?」

「それには私が答える」

 ノマドとターツァの間に入るように、ヴァッフが口を開いた。

「確かに我々は第14独立艦隊としての任が与えられているが、連邦軍内部では仮設の艦隊として扱われている。そして、現在スィートウォーターの一件以来、第13独立艦隊本隊は戦力の再編中だ。実働任務は我々に放任、とも取れる現状なら事後申請でもなんでもやりようはある。そして、責任はターツァ大尉がすべて取るという。それなら納得か?」

「いや、駄目ですね」

 ノマドはなおも食い下がる。ターツァ小隊全員とファムを睨めつけると、大仰な仕草で前へ出た。

「確かに本艦の中において、彼ら程実戦経験が豊富な者はいない。特にターツァ大尉は尚更だ。だが、この訳の分からない発言内容に、納得がいかない、あるいは信用がならないという者、手を挙げてみてください?」

 一気にまくし立てるノマドに促され、沈黙する一同。ややあって一人二人と挙げ出すと、ターツァ隊とファム、ヴァッフ艦長を除く全員がその手を挙げた。

「ご覧の通りですが?それでもその指示を撤回なさいませんか?」

「アンタ……!」

 尚も詰るように挑発を続けるノマドに、クリスティーナが詰め寄ろうとするが、辛うじてその手をイオリが掴み、制止していた。

「やめとけ。向こうの方が“階級”は上だ」

 沈黙と気まずさだけが漂うブリーフィングルーム。ややあってターツァはため息をついた。

「一応、艦長殿には報告したんだが……聞いてもらわんとやはり納得がいかないか」

「当然です。……なにをそんなに勿体ぶる?」

 渋々、といった様子のターツァにノマドが再び食いつく。一瞬の迷いを再び見せたターツァが口を開こうとした刹那。

『第一種戦闘配備!後方より接近する熱源を確認!繰り返す!後方より接近する熱源!ミサイルと推定!衝撃に備えよ!』

 艦内に響き渡るアラート音とアナウンスがターツァの話を遮った。

「やはり勘づいていやがったか……!」

「まさかそんな……本当に……!?」

 ターツァとヴァッフの驚きように、やはり大事に巻き込まれていた事を再確認したイオリは、無意識に声を出していた。

「お前ら!ぼさっとすんなよ!出撃準備だ!」

 いいんだろ?と振り返り、ターツァに視線で問う。

 返事に力強い頷きが帰ってきたのを確認すると、イオリは真っ先にブリーフィングルームを飛び出した。

「艦長殿、これで確実でしょう?貴方の口から説明をお願いしたい。その方が多くの者が耳を傾ける」

 ターツァはヴァッフに言い残し、イオリの背中を追った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 ムサカ級〈アルストロメリア〉でも、その様子をモニターしていた。初め、ミサイルの発射を確認した際には、嵌められた事を一瞬覚悟したが、その矛先が〈レオントキール〉に向いている事を確認すると、サンダークはすぐにルイーズの発進と小型艇の準備を急がせた。

「畜生、連中め内ゲバおっぱじめやがった」

 サンダーク以下のブリッジクルーが手際よく戦闘態勢を整え始めた。ルイーズは偵察に出ているアイザック小隊への指示を出しながら、自身も出撃の準備を始めた。

「ファム中尉になにかあれば……連邦の豚共め……死んででも殺してやる」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 アラートパートに就いていたジェガン小隊の出撃が終わり、続いてノマド小隊、ターツァ小隊の機体に灯が入れられ始め、主機の奏でる重低音がモビルスーツハンガー一帯を支配する。パイロット達が各々の機体に辿り着いた頃、無線からヴァッフ艦長の声が流れていた。

『突然の事で驚いているものも多くいると思うが、落ち着いて聞いてほしい。我々は悲しい事にとある策略に巻き込まれてしまった。かつての、悪名高きティターンズを再興しようとせん者共によって、我々は今窮地に陥っている。恐らくは、回収した機体もそれらの一環なのであろう。だが、ここで我々は戦うことを躊躇う訳にはいかない。かの暴虐な組織による悪政を人々が望むはずがないのである。事が公になれば、間違いなく正義が我々にあることが示されるだろう。ターツァ大尉の先見がなければ、既に我々はもう亡きものであったかもしれぬ。今は彼らと、ノマド小隊にこの艦の命運をかける。奮戦を祈るとともに、艦に残る我々は、我々にしか出来ないことを全うする事を期待する』

『へえ、若いのにいいこと言うじゃないの』

 メインモニターに映るターツァが軽口を叩く。

「あのねえ、ターツァさん?アナタにももっと説明義務があると思うんですが?」

『そうっすよ、俺らにもダンマリだなんて、水臭い』

『まあ、考えがあっての事でしょうけど?』

 イオリ、ラキア、クリスティーナの順にターツァのセリフの揚げ足取り。いつもの事だ。大丈夫、俺らはいつも通りだ。イオリはそう言い聞かせたが。

『……おう、そうだな』

 やはり、ターツァの返しは煮えきらないものだった。

 自分の不手際を恥じての事なのか、それともなにかまだ含むものがあるのか……。

『あー、ターツァ大尉……。先程は申し訳ありませんでした』

 ターツァ隊の会話が終わるのを待っていたのだろうか?気まずそうにノマド中尉が詫びの言葉をターツァに述べた。

『ぶふーっ!』

『なっ、何が面白いっ!?』

 その様子に思わず吹き出すラキアにノマド中尉の矛先が向く。

 こっちもこっちでいつも通りだな。

 イオリは深呼吸する。コクピットの匂い、主機の騒音、独特の雰囲気、全てを吸い込んで自分と一体にする。

 相手がティターンズのエリートの生き残り?だからなんだ。

 合法の交戦規定に囚われない無法者?むしろかかってこい。

『こちらブリッジです。発艦準備が完了次第、規定の順番で発艦してください』

「了解!」

 イオリをはじめ、アリーシャの指示を受けた各機は発艦シークエンスを始めた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「なに?〈レオントキール〉と〈ダフニー〉、〈ナーシセス〉が戦闘を?」

 デヴォンはその知らせを聞いたのは海の上だった。アルベルトとドルトとの会談、その他の諸々の雑務を処理したデヴォンは、休暇も含めて予定されていた滞在を早く切り上げてユーラシア大陸、プンツォリン基地へ向かう最中だった。

「困ったな。まだ早いんだけど……仕方ないか。例の機体の回収は徹底させてくれよ?〈繭〉を今失うわけには行かない」

 報告の者を下げさせると、デヴォンは窓の外へ視線を投げた。果てしなく続く青い世界に吸い込まれそうになる錯覚を覚えながら、計画を振り返る。

 ここまでは完璧だった。ジオン共和国に潜らせてた間者を通じて袖付きの一派に〈シルフレイ〉の噂を握らせ、襲撃の算段を建てさせる。運用試験をでっち上げ、その運用要員を通じて〈繭〉を暴走させた。その際に運用部隊を始末してくれたのは幸運だった。艦を自爆させる予定だったが、これで後々に怪しまれることが無くなった。

 救援に向かわせたのは第十四艦隊所属のターツァ隊。これはニーゼスの采配だが、見事にジオンの女パイロットまで回収してくれた。これでジオンは〈レオントキール〉の動向に気を配る必要が出る。懸念事項として、ターツァ隊のターツァ大尉が挙げられたが、この大局の中で隊を任されていると言うだけで優秀な足枷がついているも同然。後はターツァ隊をサイド6に向かわせ、〈シルフレイ〉を輸送した所を見せつけ、大義名分をもって〈ダフニー〉、〈ナーシセス〉に始末させる筈だった。二ーゼスに不利な指令内容はデヴォンの権限で改竄すれば、その後の調査も問題ない。

「二ーゼス司令……。余計な事をしてくれたものだ」

 向こうも勘づいたのだろう。今の計画が「欺瞞」であるのだろうと。

 そう、最終的には指令内容を公開し、二ーゼスを処分する事がデヴォンの目的だった。それによって第十四艦隊を手の内に置く事。それこそが最終的なデヴォンの計画だった。その後に果たすべき大義のために……。

「やはり予定を切り上げて正解だった」

 運はこちらに味方をしている。今は為すべきことを為すしかあるまい。デヴォンは通信端末を立ちあげると、素早く指を走らせる。

「頼みたい事があるんだけど、いいかな?」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「こいつら……手慣れてやがる!」

 先行したジェガン部隊は〈レオントキール〉を襲ったミサイル群を凌いだ後にMS戦闘へ入っていた。〈ダフニー〉、〈ナーシセス〉から吐き出されたMSは合計して16機。先攻小隊と中隊と別れた戦力のうち、先攻小隊を構成するMSは〈バーザム〉をベースにした、明らかに異質なものだった。

「回収した〈ギャプランもどき〉といい、こいつら〈バーザム改〉といい……!俺らは誰と戦ってるんだろうなぁ!?」

 性能はほぼ互角に見えたが、明らかに相手の方が練度が高い。それもそのはずだ。先行していたジェガン部隊はアラートパートにつくのが始めての、新兵で構成されていた部隊だったからだ。

 手心を加えられ、弄ばれているかのごとく少しずつ摩耗する機体と精神力、それを意識するにつれ、余計に焦りが生まれて行く。

 その間にも主力と思われる中隊は拡散しながら〈レオントキール〉の防衛圏に浸透し始めていた。クラップ級を改造した〈レオントキール〉はモビルスーツ運用能力を向上させるために本体火力を犠牲にしている。この展開のされ方では轟沈も時間の問題のように思われた。

『隊長ォッ!助けてッ……!』

 視界の隅で膨れ上がる爆炎が仲間の死を伝えた。

 クソったれが!操縦桿を握る手が震える。

 焦りと怒りと恐怖と。妙にクリアな思考と、それに追従しない体の動きにもどかしさを感じる。

「ッ!!」

 ピンクの光条と衝撃が被弾を意識させる。目の前の〈バーザム改〉が笑った様に見える。わざとコクピットへの直撃を避けているのは明らかだった。だが、その銃口は真っ直ぐ自分を向く。次こそは殺す。そんな声が聞こえたかのようだった。

 更に増して鮮明になる意識のなかで、銃口から光が漏れ出すのを認知した直後。

『しっかりしろよな、隊長さんよ!』

 〈バーザム改〉を切り裂く〈リゼル〉の姿があった。

「イオリさん……!」

『ルドルフ中尉、あんたの隊の生き残りと艦の直援に付いてくれ!〈バーザム〉共と、分散した中隊は俺らがどうにかする!』

 そう告げるなり、イオリの駆る〈リゼル〉は残る3機の〈バーザム改〉へと距離を詰めて行く。残されたスラスターの光の尾が消える程に、ルドルフは艦へと急いだ。

「こちら、R001!ルドルフだ!ルドルフ小隊は〈レオントキール〉の直援任務に移行する!」

 

 ルドルフのジェガンが飛び去るのを確認すると同時に、イオリの〈リゼル〉が放った光条が最後の〈バーザム改〉を穿った。

「ふう……」

 一息つくイオリはヘルメットのバイザーをあげ、額の汗を拭った。規定では禁止されている行為だが、今はそれを咎める者はいない。

 モニターに目を向けると、ターツァが率いる戦力が〈レオントキール〉の手前で敵の中隊を押しとどめているのが確認できた。しかし、戦力差は歴然としている。先の先行していた小隊もそうだったが、どうも全力で挑んでいる様子が見えない。なにか裏があるように感じられる挙動だった。しかも、ルドルフ小隊を直援任務に下がらせる采配。ターツァ大尉も裏にあるなにかを警戒しているように感じられた。

『B004、被弾した……!予備弾倉消失、補給に戻る!』

 耳に入ったのはラキアの声。当たりどころが悪かったのだろう。ビームライフルのEパックを消失してしまえばビームサーベルだけで戦うしかなくなる。分けてもらおうにも、データのリンクを見る限りではラキアの現在座標からは補給に戻った方が早く、確実であった。

「こちらB002、任務クリアー。ラキアの補充にあたる」

『B001了解、任せたぞ』

 ターツァの声を待たず、イオリは〈リゼル〉をウェイブライダー形態へ変形させ、フットペダルを力いっぱい踏み込んでいた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「ファムさん」

 ノーマルスーツを着込み、医務室を出ようとしたファムは、自分を呼ぶ声に足を止めた。リフトグリップに運ばれてくるのはオペレーターの一人、アリーシャだった。

「……なんだ」

 先の一件で空いてるモビルスーツを探している事はバレている。もちろん今動こうとしているのはそれ以外の理由があるのだが、ニュータイプでもないオペレーターにそのことを察するのは不可能な筈。面倒な奴に見つかった、という事を盛大に言葉と表情に込めたファムの返答も意に介さず、アリーシャはファムの前で器用に静止した。

「身体の調子は?」

 唐突な質問に怪訝な顔に拍車がかかったファムは、突然押し付けられたメモ用紙に、更に混乱に陥る。

 それを読めと言わんばかりのアリーシャに促され、メモ用紙に目を落とす。

「……!」

「“騎士”が1人と“馬”が1頭。馬には“新しい鎧”が載せられているそうですよ」

「すまない、助かる」

 “メモの指示”に従い、格納庫へ向かおうとしたファムだったが、その肩はアリーシャに掴まれていた。

「何故、ターツァさんがあなたを助けたかはわかりません。でも、それに報いてくれるからだと私は信じてます」

 それもそうだ。ジオンの人間を理由も無しに助ける事なんて、普通はおかしいと思うに違いない。……自分は仕方なくジオンに与していただけだが、そんな事は自業自得、私のせいだ。

「ありがとう」

 ファムはそう言い残すと、リフトグリップを握り、格納庫へと急いだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

『緊急着艦準備ッ!!』

 無線に響く整備長の声。それはもちろん自分の〈リゼル〉の緊急着艦に伴う号令だ。

 堪えようにも、思わず笑いが口に浮かぶのを止めることは出来ない。

 訓練通りの手順で緊急ネットに機体を投げた後、救護班がコクピットハッチに向かってくるのをモニターに確認し、ラキアは頭上のラックからカービンを取り出す。ノーマルスーツの上にコンバットジャケットを着込み、ポケットへ予備弾倉を詰め込んだ。

『お疲れ様です、お怪我は……』

 エイドキットを手に、コクピットハッチを開けた救護要員は、決まり文句を最後まで言うことは出来なかった。

 ラキアが構えたカービンから放たれた5.56ミリ弾がバイザーを貫き、ヘルメットの中を血で染める。

 エアロックが間に合わず、未だ真空に近い格納庫内では銃声は響くことなく、救護要員の静かな死は誰にも気付かれることは無かった。

 救護要員の男をコクピットの中に引き込むと、入れ違いにラキアは格納庫へと飛び出す。機材担当のローマン・ナスティを残して、手当り次第格納庫内の作業員をカービンで屠り尽くした。

 残されたローマンはラキアのハンドサインに従い、近くの端末を操作する。艦内のメインシステムをハッキングしたローマンの手によって程なくして艦内の照明が落ち、予備電源が立ち上がった旨を知らせる自動音声が鳴り響いた。

 予備電源が立ち上がった事により、艦内のセキュリティはアラートモードに移行する。尉官クラスのセキュリティコードであれば殆どの作業が行えるようになるのだ。

 医務室の設備を移した独房も、これでラキアのセキュリティコードで開ける事ができ、〈シルフレイ〉のハンガーの解放も可能になったのである。

「ご苦労さん」

 共犯として仕事をこなしたローマンへの労いの言葉を掛けたラキアは、同時にカービンの弾をローマンの額へと撃ち込んだ。格納庫の入り口の側にローマンの亡骸を放ると、ラキアは手動になった扉を潜った。

 

 予備電力下ではリフトグリップの機能はすべて停止している。幸いにして〈レオントキール〉の原典艦であるクラップ級は非常時の艦内での行動を考慮した構造になっていて、リフトグリップが無くても身動きが取りやすいようになっていた。

 壁に設けられた突起を足場に、飛石の要領で通路を進むラキアは目的地、グローレンが収容された独房を目指す。

「……お迎えにあがりました」

 酸素マスクを口に括り付けられ、簡易ベッドに拘束されたグローレンを前に、恭しく膝をつくラキア。勿論グローレンは意識が戻っておらず、反応を示すことは無かったが、ラキアはその事を意に介すことなく簡易ベッドの固定を外し始めた。

 その最中、徐々に艦を襲う揺れは強く、間隔が短くがなって来ていた。

「潮時か……」

 呟くなり、ラキアは作業の手を早めた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「……酷いな、これは」

 ラキアと入れ違いに近い形で格納庫にたどり着いたファムは、そこに広がる光景に不覚にも立ち竦んでいた。

 緊急着艦ネットに掛けられたまま、コクピットハッチが開け放たれた〈リゼル〉を見る限り、恐らくはこの惨状の犯人はあの〈リゼル〉のパイロットなのだろう。先ほどの停電も同じ犯人によるに違いない。

「問題は……」

 この現状では格納庫の扉を開く事は難しいだろう。ブリッジから開く事は出来るのだろうが、戦闘中、しかも相手は中隊規模以上と聞く。先程から続く揺れが大きくなっているところを見るに、戦況は思わしくないのだろう。その最中に格納庫の扉を操作するのは負担であろう。そう考えると……

『姉さん、手すりに捕まっててくださいよ!』

 ヘルメットの中に響く懐かしい声がその想像が正しかった事を告げた。

 続く轟音と衝撃で格納庫の扉に大きな穴が穿たれた。そこから突っ込んでくるのは〈ムサカ級〉の標準艦載挺だった。その後ろにはシュトゥルム・ファウストを構える〈ギラ・ドーガ〉の姿があった。

 ルイーズの指示に従って、ファムは手すりに捕まりながら扉に開けられた穴から漏れ出す空気の流れに耐え続けた。

『例の機体が後ろに載せてあります。パーッと暴れちゃってください!』

 ファムは再びのルイーズの声に従い、小型艇のコンテナに向かう。その最中、格納庫の隅のスペースに固定された〈シルフレイ〉に目を向けた。メモに書かれていたターツァからの指。

「ルイーズ、頼みたいことがある」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「キリがねぇッ……!!」

 ラキアが離脱してから十数分、ノマド小隊との連携によって辛うじて中隊規模の〈ジェガン〉達を押しとどめていたが、ノマド小隊に撃墜機が出たのをきっかけに、徐々に状況は劣勢に傾きつつあった。

 ノマド小隊が全滅するまでに12機いた〈ジェガン〉はその半分まで数を減らしていた。残るのはイオリ達3人。1人あたり2機の計算だが、敵は一撃毎に距離をとるために、感覚としては無限に敵が湧いているかのような錯覚に囚われていた。

『ラキアはまだ戻らないの!?』

『……』

 クリスティーナの悲痛な叫びにターツァは唇を噛んでいた。クリスティーナ機、ターツァ機共に四肢の一部が切断され、機体の各所にビームが掠ったことによる溶解の跡が目立ち始め、更に徐々に押され始めた戦線に体力、精神ともに大きくすり減っているように見えた。かく言うイオリ機も右脚の膝から下が失われ、右側頭部にも溶解痕が刻まれていた。

 しかし、その中でもターツァはイオリとクリスティーナ以上に表情が暗かった。例のごとく、なにかを隠している、いや背負い込んでいるようにイオリの目に映っていたのだ。

「ターツァさん……っ!?」

 しかし、ターツァの様子に気を取られすぎていれば所属のわからない、紺色の〈ジェガン〉中隊に足をすくわれかねなかった。

「マズった……!」

 自分を狙ったピンク色の光条。AMBAC機動で躱せる弾道だったが、咄嗟にとった操作はシールドでの防御だった。対ビームコーティングのシールドの表面でピンクの光が弾け、本体へのダメージは回避できたものの、その挙動が命取りになった事をイオリは瞬時に理解していた。気付かない間にワンステップの距離にまで詰めていた別の〈ジェガン〉がビームサーベルを抜き放ち、最上段に構え、一直線に突っ込んでくる様子が見えた。

 次の動作までコンマ数秒。しかしその猶予は戦場には存在しなかった。

 シールドを構え直す動きの最中、振り下ろされるビームサーベルが〈リゼル〉を袈裟斬りにしようとし、その持ち主である目の前の〈ジェガン〉が爆ぜ飛んだ。

『不注意が過ぎるな』

 目の前のモニターにファムの顔が移されるや否や、容赦ない指摘がイオリを射抜いた。

『全く!ファムが来てなかったらあんた死んでたわよ!』

 続くクリスティーナのツッコミに傷を抉られたイオリは「……助かった」と、一言だけ礼を返し、あらためて現れたそのMSへ目を向けた。

 敵の〈ジェガン〉中隊も突如現れたジオンのMSに戸惑っているのか、攻勢の手を緩めていた。

『ファム・オーツェン、〈ジャ・ズール〉。連邦に与するのは不本意だが、力になろう』

「〈ジャ・ズール〉……?」

 グレーを基調にしたカラーリングだったが、その容姿にはどことなくアクシズ時代の〈R・ジャジャ〉の面影があった。その一方で四肢には袖付きを示すエングレービングが施され、その形状自体もイオリの記憶にあるものとは異なっていた。

『なんでもいいさ。それより、協力に感謝する』

『あなた達には色々と借りがある。これくらい容易い事だ』

 ターツァを中心に、再び迎撃のフォーメーションを組み直す。ファムはこの編成は初見であったが、手薄のポジションを瞬時に見つけ、まるで高練度の教導部隊のような綺麗なフォーメーションを組み上げた。

 それに呼応するように、残る敵の〈ジェガン〉部隊も同じようにフォーメーションを組み始めていた。尤も、その形はイオリ達のような防御に特化したものではなく、突撃に優れた〈アローヘッド〉型と呼ばれる楔状のフォーメーションであったが。

「失態を晒すのはあれで最後だ。きっちり汚名返上してやるからな……。かかって来いよ……!」

 一触即発。互いに睨み合う妙な時間が流れる中、イオリは1人武者震いを堪えていた。今は目の前の事態にだけ対処するしかない。ターツァさんのことは生きて帰ってから問いただす。死んでしまえば真相すら知ること無いのだから。

 ウィンドウに映るターツァとのアイコンタクト。均衡を破る一射は自分に任せる、という事らしい。頷きを返事にしてスイッチに指をかけた瞬間。

 辺り一帯に閃光が走った。

「なっ……!?」

 その光源は背後。背中を見せる訳には行かないが、咄嗟にメインカメラを振り向かせたイオリの目に映ったのは、おおよそ理解の追いつく光景ではなかった。

 “ラキアの駆る〈リゼル〉が銃口を向ける先で〈レオントキール〉が船体の至る場所から炎を吹き上げていたのだ。”

「……は?」

『どういうこと……?』

『……』

『やはり、な』

 イオリ、クリスティーナ、ターツァ、ファムの呟きとため息が重なり、ノマド小隊の残る2人は一言も発する事はなく、呆然と自らの母艦が崩れていく様を見つめていた。

「って、それどころじゃねえ!?」

 レーダーの警告音に現実に引き戻されたイオリは慌てて後ろを振り返る。しかしイオリが見たのは5機の〈ジェガン〉が撤退する背中だけだった。

「撤退していく……?」

『そうだ。目的の半分は達成したからな』

 イオリのつぶやきに答えるように、オープンチャンネルからイオリのよく知った声が響いた。

『全く、ターツァさん。貴方の周到さには本当に感心だ』

 半ば呆れたような、乾いた笑いと共に吐き出したラキアに、ターツァは『そうか、褒めてもらえて嬉しいよ』と全く嬉しさを感じさせない、険しい声と表情を返した。

『ラキア……アンタ!』

 今にも噛みつきそうなクリスティーナを手で制するとラキアは〈リゼル〉のスラスターを煌めかせ、距離をとった。

『今日のところはこれで引き上げさせてもらうよ。せいぜい〈うさぎ〉と共に逃げればいい』

 そう言い残したラキアは、かつて小隊訓練で見たことが無い程のスピードで、〈リゼル〉をウェイブライダー形態へ変形させ、母艦へと飛び去っていった。

 取り残された4人の口をつく言葉はなく、帰る場所を失った彼らは、ただそこに留まることしかなかった。

 

つづく

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