これからはさらに不定期になるかもしれません。
※同じ話を投稿してしまいました。次話はまだ時間がかかると思います。申し訳ありません。
いつもと同じ様に輝夜の屋敷に忍び込み、縁側にいる彼女のすぐ隣に腰かける。
初めて会った時はただの綺麗な娘という印象だったのに、今では誰もが見惚れる絶世の美少女だ。
少女特有の幼さと大人特有の色気の二つを重ねもつ彼女はこれまで見たどんな妖怪や神よりも美しく、じっと見つめていると恋に落ちてしまいそうな、そんな危うい、しかし魅力的な雰囲気を身に纏っている。
そんな人の隣にいると嫉妬の感情の一つくらいは抱きそうなものだが、私にそういった感情が浮かぶことはなかった。
容姿に関しては前世で求めていた全てを手に入れているため、羨みはすれども嫉妬はしない。輝夜はレベルが違うだけで、私は私で十分過ぎるほどに整った顔とスタイルを手に入れているのだ。
月を見上げながら、今日は何を話そうかと考える。いつもなら私が体験談を話し、輝夜が感想を言って、そこから会話が発展してい「ねえ」くのだが……うん?
横を見ると、輝夜と目が合った。この至近距離で見つめ合うのは流石に恥ずかしい。すぐ隣に座っているのだから、顔の位置も必然的に近くなるのだ。
脳内で一人恥ずかしがっていると、私の話を聞いてほしいと言われた。輝夜も頬を染めていることから、距離に気づいて彼女も恥ずかしくなってきたのだろう。
しかし、輝夜の方から話とは珍しい。決意したかのような顔からすると、もしかしたら月のことかもしれない。
そう考えながら話を聞くと、やっぱり月のことだった。
もうすぐやってくる満月の日に月から使者が来て、連れ帰らされてしまうとのこと。
逃げたいけど、成功するかはわからないと。
「それじゃあ、私も手伝おうか?」
「だから、その日は危ないから……え?」
「これでも私、結構強いよ?」
「まあ、神様だものね……。じゃなくって! い、いいの!?」
「もちろんいいよ。それに、味方もいるんでしょ?」
「う、うん、一人だけ。永琳っていう心強い従者がね。それでも、万が一があるかもしれないから」
私がこの世界で初めて友達になった人、八意永琳。月に行った後、やっぱり輝夜に仕えていたのか。永琳は滅茶苦茶強い。それは私が実際に見て知っているから、月の使者くらいなら一人で片づけてしまうかもしれない。
「永琳がいるなら確かに心強いね。一応私も手伝うけど」
「朝日、永琳を知っているの!?」
「うん。永琳が地上にいたころに友達になったんだよ。一緒にいたのは一年くらいだったけどね」
「地上にいたときって……。私が生まれるよりもずっと昔の話じゃないの! そんな時代から生きていたなんて……」
「えへへ、生きた年月はこの世界でも頂点に近いんじゃないかな!」
「そうね。あなたみたいなのがたくさんいたら恐ろしいわ」
クスクスと面白そうに笑う輝夜。出会った当初はずっと無表情だったのに、今では喜怒哀楽をさらけ出している。他の人にはあまり見せない純粋な笑顔。これを見れるだけでも、仲良くなって本当に良かったと思える。
「それにしても、逃げるのはいいけど、逃亡先に当てはあるの?」
「そ、それは……、……無い……けど……」
輝夜は私から目を逸らしてしまった。逃げるとこまではいいけど、その後の具体的な作戦とかはないようだ。
「だったら、私が用意してあげるよ!」
「え? ……まさか、逃げる所を?」
「うん! 当てはあるから、私に任せて!」
「……頼ってばかりで申し訳ないけど、頼めるかしら?」
「もちろんだよ!」
それからも会話は続く。互いに知っている永琳のことだったり、月での生活を聞いたり、時間の許す限り私たちは話し続けた。
「……それじゃあ、別にお爺さんたちを嫌いになったんじゃあないんだ?」
「ええ。屋敷の奥に隠すのは私を大事にしているから。いつ攫われてもおかしくないから、会う人も最小限にしているの。あまり会えないのも、私のためにたくさんの人の相手をしてくれているから。心のどこかではわかっていたはずなのに、私は歪んだ捉え方で一方的に嫌っていたわ」
「今は、もう違う?」
「朝日と会えたことで心に余裕ができたわ。しっかりと周りを見ることができるようになった。私はこれでもお爺さんたちよりも長く生きているのに、少し情けないわ」
「仕方ないよ。話す相手もいなかったんでしょ?長い退屈は心をすり減らしちゃうもん。私は癒しの能力で心を保てるけど、輝夜はそうじゃないんだから」
「ふふっ、そう言ってもらえると救われるわ」
紫といい輝夜といい、私はなにかと悩みを聞くことが多い。癒しを与えるのには苦悩を取り除くことも手段の一つだけど、私が普段出してる癒しのオーラにあてられると吐き出したくなるのかもしれない。
話した後は大抵スッキリした顔してるから、別にいいんだけどね。笑顔でいるのが一番だし。
「それじゃあ、今日はね」
「また次の日に。輝夜が隠れられる場所を探しておくから」
「お世話になってばかりで悪いわね。……ありがとう。」
「別にいいよ。親友なんだから」
縁側から飛び立って屋敷から離れる。
実のところ、隠れる場所の見当は既についている。都に来る道すがら、広大な竹林を見つけていたのだ。
東方での輝夜たちは竹林に住んでいたから、私が見つけた所に移り住めばいい。都からは結構離れてるし、隠れるのにも丁度いいだろう。
持ち主のいない捨てられた屋敷を、土台ごとエネルギーで包んで持ち上げる。エネルギーの遠隔操作は重いものでも手を使わず持ち運べるから便利だ。
持ち上げた屋敷をそのまま竹林の奥に移す。捨てられていただけあってボロボロなので、水回りを整えたり、古びて傷んでいる所を癒しと再生の力で修繕する。
一週間もあればまともに住める環境にできる。場所さえどうにかすれば、後は永琳が結界か何かで見つからないように細工するだろう。
――――――
――――
――
「そういうわけだから、逃亡先の確保はできたよ!」
「……当てはあると言っていたけど、まさか一週間で見つけるとはね……」
「私もここまで迅速に事が運んで驚いてるよ。……まあ、結果が全てだから!」
輝夜と顔を合わせて笑いあう。もうすぐ迎えがやってくるのに不安はないのかと言ってみれば、「朝日がいるもの」と返事が来た。思わず赤面して笑われたのは言うまでもない。
週に一度だけ夜中に忍び込んで、輝夜と話して帰る。そんなことを何回か続けた頃、とうとう迎えの日がやってきた。
屋敷の周りには人がたくさんいる。輝夜がお婆さんを通して「月から迎えが来る」と話したため、帝をはじめとした諸勢力がこぞって兵を率いてきたのだ。ほとんどは輝夜に活躍を聞かせて結婚したいがためなのだろうけど。
この時ばかりは輝夜も緊張しているのか、顔が強張っている。緊張をほぐすために手を握ってあげると、少し強い力でギュッと握り返してきた。
ちなみに、お爺さんとお婆さんも同じ部屋にいる。私がいることに驚かれたが、輝夜が親友だと言うとすぐに相好を崩して輝夜をよろしくと言ってきた。輝夜の今までの暮らしの賜物なのか、一言だけで信用するとはすごい信頼度である。
しばらく手を握り合っていると、屋敷に巡らせている円の上部に反応があった。
次の瞬間、屋敷の天井が爆発によって全て吹き飛ばされる。屋根だけでなく、周りにいた兵士たちもかなり巻き込まれている。部屋の中は咄嗟に守ったので無傷だが、放っておいたらお爺さんたちもただでは済まなかっただろう。まさかこんなに荒っぽくやってくるとは思わなかった。
ぽっかりと空いた上を見上げると、満月を背景に大きい馬車のようなものが浮いている。
残った兵士たちが矢を放ったりして攻撃しているが、馬車から波のようなものが発せられると、その近くにいた人たちがバタバタと倒れていく。何人かは抵抗しているようだが、月の不思議パワーには勝てず、一人、また一人と倒れていく。
馬車の中から何人も人が出てきて、輝夜の前に舞い降りる。その中に一人、赤と青の特徴的な服を着た見覚えのある人物がいた。私と目が合うと一瞬目を見開いたが、私と輝夜が繋いでいる手を見ると納得したような表情を浮かべた。
……どうして私がここにいるのかをそれだけで把握できる頭の良さに脱帽である。
「輝夜、お迎えに参りました。月へ帰りますよ」
降り立った男の一人が口を開く。隣にいる私やお爺さん、お婆さんは眼中にないようだ。
「(輝夜の協力者は永琳だけなんだよね?)」
「(ええ、そうよ)」
「(じゃあ、他は黙らせようか)」
小声で話し合う私たちをよそに、男は輝夜の手を取ろうとする。だが、手を伸ばした体勢のまま男は動かなくなってしまった。私がエネルギーを男の体に纏わせて固めたのだ。
「なっ……! う、動けん!」
「逃げるよ!輝夜!」
男が驚いているのを尻目に、言うと同時に輝夜を横抱きにして一気に屋敷を飛び出す。
後ろにはしっかり永琳もいる。突然の行動にもついてこれるあたりが流石だ。
逃げるからには当然追っても来るのだが、近づく隙を与えずに永琳が弓で射貫いていく。永琳は屋敷を出るときにも何人か討ったらしく、追ってはすぐに撒くことができた。
竹林はまだまだ離れているので、途中の山にある小屋の中で一度休むことにした。
そういうわけで三人で小屋にいるのだが、なんとなく空気が重い。誰も口を開かず、じっとしている。
私は永琳と話したかったのだけれど、いざ話そうとしたら久々にあった緊張で内容が飛んでしまった。永琳はなぜか俯いていて顔が見えないし、輝夜もどことなく居心地が悪そうだ。
ここはどうにかせねばと思った時、俯いていた永琳が口を開いた。
「……私、朝日が生きているとは思わなかったわ」
「……へ?」
唐突に不穏なことを言われ、つい間抜けな声を出してしまった。横を見ると、輝夜も首を傾げている。
「生きてるとはって……、私死んでると思われてたの!?」
「……私たちが月へ行った時の爆発で、死んでしまったと思っていたの。……あの時は、ごめんなさい……。私、地上を一掃する計画なんて知らなくて……」
「いや、永琳が悪いわけじゃないし、私も生きてるから!ね!」
「いえ、それでも、私が計画の細部までを把握していれば……」
なぜか永琳は爆発についての責任を感じているようだ。私が知っている永琳はいつも毅然とした態度でいたので、なんとなくやりにくい。
「永琳が謝る必要なんてないよ! 私はちゃんと生きてるから、ね?」
「……ありがとう……。そう言ってもらえると、気が楽になるわ」
俯いていた永琳が顔を上げる。そこには、私が大昔に見たまんまの綺麗な笑顔があった。
「それよりも、ずっと昔に一年だけ一緒にいた私のことを覚えてるのが驚きだよ!」
「馬鹿ね。街を守ってくれて、あまつさえ見殺しにしてしまったと思ってた人の顔を忘れるわけがないでしょ?」
「あれから随分経つから、忘れててもおかしくないと思うけどね」
「それを言うなら、朝日だって私のことすぐに気づいていたじゃない」
「そんな服着てるの永琳くらいだからだよ!」
「……む~。なんだか二人だけ分かり合ってる感じでずるい!」
輝夜が頬を膨らませて言うが、まったく怖くない。子どもが拗ねてるみたいで、つい頭を撫でてしまった。
「そんなことないよ? 永琳は輝夜を想っているからこそ、月を敵に回してまで輝夜を逃がしたんだから。もちろん、私だって輝夜の味方だしね!」
「え? そ、そう?」
「そうよ。輝夜に罪を背負わせた自責の念もあるけれど、それがなくたって、私にとっては輝夜は大切な人だから……」
永琳の言葉で笑顔になる輝夜。それを見て永琳も安心したようだ。そんな二人を見て、私は思い出したことがあった。
「ねえ、輝夜。輝夜から、お爺さんたちに渡しておきたい物とかある? 輝夜たちを送った後に私が渡してきてあげるけど」
「え? ……そうだ永琳、アレ持ってきてくれた?」
「蓬莱の薬ね。持ってきてるわよ」
蓬莱の薬とは、輝夜が飲んだ不老不死になれる薬のことで、これを飲んだ罪で輝夜は地上に来ることになったのだ。
ちなみに、作った本人である永琳が罰せられていないのは、作ること自体は罪となっていないからである。この薬を飲んだ者のことを「蓬莱人」という。
「お爺さんとお婆さん、それと帝にも、これを届けてほしいの。……私を守ろうとしてくれたことと、今までお世話になったことへのお礼、勝手に出てきたことへの謝罪をね」
「うん、わかった」
「それじゃあ……あら? 永琳、これは三人には少し多いわよ」
「ああ、それは私用よ」
え?と輝夜が恍けているうちに、永琳はさっと薬を手に取り口に流し込んだ。私は知識から永琳が蓬莱人になるのは知っていたので驚かなかったが、輝夜にとってはかなり衝撃的な出来事だったようだ。
「え、永琳!? 何をしているの!?」
「輝夜は大切だって言ったでしょう? これで、輝夜を一人にすることはないわ」
「……馬鹿よ、永琳……」
永琳の胸に輝夜が飛び込んで抱きしめる。永琳はそんな輝夜を受け止め、微笑みながら抱きしめ返した。
私はそんな二人を見て温かい気持ちになりながら、お爺さんたちへこの薬のことをどう説明しようかと考えていた。
――――――
――――
――
小屋を出て数時間。普通の人だったらかなりかかる距離でも、私のエネルギー超特急で時間を短縮して移動すればすぐだ。
「さあ、ここが永琳たちの隠れ家だよ!」
「……これ、朝日が一人で……?」
「うん! 時間かけてピカピカにしたから傷んでるところとかもないし、安心していいよ!」
「ピカピカってこれ……、まるで新築じゃないの……」
胸を張る私に目もくれずに二人は屋敷を凝視していた。
ちょっと頑張りすぎたかと後ろを見ると、そこにはボロボロの廃屋から劇的ビフォーアフターを果たした新築同然の屋敷があった。
「私の能力の有効活用だね」
「……朝日の能力は癒しだけじゃ?」
「永琳が月に行った後に、再生の力も得たんだよ!」
「癒しやら再生やら…… 朝日の力は利便性が高いわねえ……」
「あらゆる薬を作れる永琳がそれ言う?」
「ここが…… 私たちの新しい家なのね……」
「そのために用意したからね。今日からはここが輝夜たちの帰る場所だよ!」
「何から何まで…… ありがとう、朝日。貴女には感謝してもし足りないわね」
「いいんだよ。輝夜たちの為にやったことなんだから」
戸を開けて二人を呼ぶ。この屋敷には家財道具も一通り揃えてあるので、問題なく暮らしていけるだろうと思う。
「それじゃあまずは、寝室から案内するよ!」
――――――
――――
――
永琳たちに屋敷の案内を終えた後、お爺さんたちの所へとんぼ返りする。月の使者はすでにどこかへ消え失せ、兵士もいなくなっている。後に残されたのは屋根の無くなった(元)屋敷だけだ。
お爺さんたちには正直に輝夜は遠くへ逃げて元気に暮らしていると伝えたが、他の人には月へ帰ったということにしてもらった。二人は首を傾げていたが、もし地上にいることが知られると帝たちが死に物狂いで探し出そうとするかもしれないと言うと納得したようだった。
輝夜を抱えて飛び出したあの時、お爺さんとお婆さん以外に意識のある人間はいなかった。二人に口止めをしておけば輝夜が逃げたことは誰にも知られることはない。輝夜のことを大切に思っている二人だからこそ、そのことを漏らすことはないだろう。
二人に渡した蓬莱の薬は結局使われることはなった。屋敷も元々は輝夜の警護のために建てたものらしく、屋敷を売り払った二人はその後小さい村へ移り住んだ。
帝への蓬莱の薬は二人から「輝夜からの贈り物」として帝に渡してもらったが、帝もその薬を服用することはなかった。月に帰った(と思っている)輝夜に少しでも返せるようにと、月に最も近く高い山で蓬莱の薬を焼き捨てるよう命令したらしい。
私の知識では、山へ持っていかれた蓬莱の薬を奪って蓬莱人となる少女がいるのだが……。
知る通りになるのかはわからないが、一応筋書き通りに進んでいる今のままなら大丈夫だろうと思う。
永琳たちと別れて薬も届けた今、やることがなくなった。
輝夜と永琳には一緒に住まないかと誘われたが、外の世界を見たいということと、時間はたくさんあるから、またいつか会えると言うと納得してくれた。輝夜は渋々だったけど。
あの屋敷にも月の目から逃れるための結界を永琳が張っているだろうし、いずれは幻想郷に移ることになるんだろう。
そこまで考えて、花畑はどうなっただろうと思った。
花畑を囲むエネルギーはちょっとやそっとじゃ壊れないし、傷ついても地面から湧き出るエネルギーで勝手に修復されるだろう。
だが、花はどうだろうか。私が出ていった時は一年中咲き誇るという逞しい花になっていたが、あれからかなりの年月が経つ。
……よし、一度見に行こう!
花が枯れてなくなってしまっていたらまた時間をかけて一から植えなおそうと考え、善は急げと花畑へ向かい歩き始めた。