時間を少しだけ撒き戻す。
ダイダロス通りの探索でろくな成果が出ず、フィルヴィスを肴に恋バナに盛り上がっていたころ、
その話に乗れないアイズが言った。
「ティオネ、確かめたい事が有る、一人で調べに行きたい。」
「アイズさんが行くなら私も。」とレフィーヤ。
「なになに、そんな事よりアイズも恋バナしようよ。」とティオナ。
ティオネは考えていた、朝から調査しているが成果は得られていないし見込みもなさそうだ。
「ロキからあんまりバラバラにならない様に言われてるでしょ。何処に行きたいのよ。
それとどの位掛かるの、みんなで行くのは無しなの?」
「隣のブロックに行きたい、人に尋ねたいだけだからそれ程かからないと思う。
それに大勢で行っても意味は無いと思う。」
「だったらレフィーヤを連れて行きなさい。レフィーヤ何かあったら魔法で連絡して。」とティオネ。
「レフィーヤが行くのなら私も。」とフィルヴィス。
「だーめ、まだあんたの話は聞いてないわよ。」とアキ。
「そうそう、私は話したわよ。あんたも話しなさい。」とティオネ。
他のメンバーもにこにこしながらフィルヴィスを包囲している。
それを見たフィルヴィスは絶対的不利を悟って叫んだ。「レフィーヤーー」
アイズはレフィーヤを抱え上げて、屋根に跳び上がり走り出す。レフィーヤは脇に抱えられて唖然としていた。
息つく間もなくダイダロス通りを抜け道に降り立つ。そこは歓楽街の近くで遠くに入口の門が見える。
レフィーヤを降ろしアイズは門に近づいていく。
「アイズさん何処へ」とレフィーヤが後を追いながら問いかけてきた。
突然アイズが止まる。レフィーヤが何事かと横に並んで見るとアイズがつぶやくのを聞いた。
「ベル」
門の方を見ると確かに、ベルが頻りと後ろを気にしながら出てくるところだった。
前に回り込んで話を聞こうとする。
「ベル、こんな所でどうしたの?」とアイズが聞いた。
だがベルは後ろを気にしてまともに答えない。
アイズは不思議に思い近づく。するとベルから不思議な香りが漂ってきた。
「この香は?」その言葉にレフィーヤも近づいて匂いを嗅ぐ。
レフィーヤはその匂いに心当たりが有った。以前男の団員が歓楽街で夜遊びし朝帰りした時の匂いだ。
レフィーヤはみるみる顔を真っ赤にして詰め寄る。ベルはその剣幕に思わず後ずさりする。
「あなたはまだ14歳でしょう。こんなところで女遊びをするなんて。」その声にベルは走って逃げ戻った。
「ちょっと、待ちなさーい」レフィーヤは思わずベルの後を追って歓楽街に行ってしまう。
事態の展開に付いていけなかったアイズは、しばらく硬直の後にレフィーヤを追おうとする。
その時特徴ある濁声が聞こえてきた。「ゲゲゲ、剣姫が来たって。」
フリュネ・ジャミルがアイズの前に立ちふさがる。
「女一人で何の用だい。ここは我々のテリトリーだよ。稼ぎたいなら仁義は通してもらうよ。」
「あなたに聞きたい事が有る。先日メレンで私たちを攻撃したのはなぜ?」
「知らないねー、最近はオラリオを出てないよ。」
「そんな筈は無い。証拠は有る。」
「そういえば最近鎧を盗まれちゃってね、チョッと困ってるよ。疑うんだったらギルドの通門記録を調べれば判る筈さ。」
アイズとフリュネはにらみ合う、そこへレフィーヤが歓楽街から駆け戻ってきた。
レフィーヤはベルを追いかけ歓楽街の奥へ入りこんだ、だが見失い思わずつぶやく。
「見失ってしまいました、それにしても随分ここに慣れてるみたいですね。」
周りを見ながらベルを探していると誰かにぶつかった。
「あっ、すいません。」反射射的にレフィーヤは答えた。
ぶつかった相手は神だった。なんだなんだと男神たちが集まってきた。
「なんだ、あっ、サウザンドエルフのレフィーヤちゃん。何でこんな所に?」と神A。
「ここは歓楽街だぜ、野暮は言いこなした。今晩如何だい、お金ははずむよ。」神Bが割って入る。
「ずるいぞ俺も。」「俺も。」「俺もだ。」みんな口々に叫び、にわかに騒然となる。
レフィーヤは話の展開に付いて行けなかったが、こんな声が聞こえると大慌てに。
「なら一人30分だ。」「お前は3分で終わるだろうが。」「ばーかこういうもんは余韻が大事なんだよ。」
一刻の猶予もないと判断しあわてて逃げ出すレフィーヤ。男神たちは追ってくる。
地の利は男神たちに有り、次々と襲ってくる。ここ歓楽街で捕まれば終わりとばかりレフィーヤは逃げる。
劇的な逃走劇の末、レフィーヤはようやくアイズの元に戻り後ろに隠れた。
「なんだい女同士でのご利用かい。それともあたいたちに言いがかりをつける気だったのかい。
だったらそれなりの覚悟をするんだね。以前それをやったファミリアは壊滅したよ。」
「アイズさん、こんなところ早く離れましょうよ。」レフィーヤに引っ張って行かれるアイズ。
「レフィーヤ!」アイズは追及をあきらめてレフィーヤに付いて行く。
「今度来る時は武器を持ってくるんじゃないよ。ここは戦う場所じゃなく遊ぶところだ。
また武器を持って入って来たら、遠慮なく捕まえるからそのつもりでな。」と最後に声をかけた。
「…イシュタル様に報告して、警備を強化しないといけないかも知れないね。」とフリュネは呟いた。
歓楽街傍の喫茶店でアイズとレフィーヤは一息入れた。
レフィーヤは憤慨して言った。
「もう信じられないです。あの年で歓楽街に詳しいなんて、おかげでまんまと逃げられました。
アイズさん気を付けてください、あの純朴そうな顔に騙されないでくださいね。……」
延々とベルの事を言い続けるレフィーヤの言葉を聞き流し、アイズはフリュネの事を考えていた。
あの様子では正面突破は難しいだろう、何か調べる方法は無いかをずっと考えていた。
ちなみに、ベルが初日にフリュネから逃れられたのは、結果としてアイズが抑えてくれたからだった。
あとアイズが入った喫茶店は、いわゆる同伴喫茶であり、隣からのなまめかしい声でレフィーヤはあわてて逃げ出したのだった。