魔眼転生記―NINJA―伝   作:紫苑試験式

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※いきなりの別視点です。


2.とある忍の追憶と展望

 

 

 九尾の来襲は木の葉の里とその人々に大きな爪痕を残した。

 共に戦った同僚が何人も先に逝き、生き残った者も何らかの代償を払わされ。

 これが原因で一線を退いた者は少なくない。

 

 かく言う私も利き腕と片目を負傷したが、事件後の人手不足はかなり深刻なもので、当時のソレよりも大幅に戦力が落ちたこの身でも、主に後方ではあるがそれなりの任務に駆り出されていた。

 

 

 この事件の最大の功労者であるあの(・・)四代目火影様ですら亡くなってしまわれたため、指導者を失って空中分解の危機に陥った木の葉を纏めるのは並大抵のことでは無く、再び三代目火影ヒルゼン様が就任するという異例の事態となった。

 これは、復興に向けて人々の心を繋ぎ止めることが出来たので成功と言えたが、同時に四代目火影様が築いていた新しく自由な気質の体制から、過去(・・)のある種保守的なものに戻ってしまった。

 

 三代目様はとてもいい方なのだが如何せん皆に優し過ぎるため、火の国の上層や里の上役らに付け込まれる隙が出来てしまうのかとこぼす者もいるが、それは仕方ない部分もあるのだろう。

 

 かく言う私にもどうする力があるわけでも無い。

 四代目様の“若い力”に託そうとしていた三代目様のこと、この事を一番実感しておられるであろう本人はさぞ歯痒い思いだろう。

 

 このことが里の未来にとってどの様な結果を生むのかは、これからの若い世代に託すべき我々の世代の働き次第だと言えるだろう。

 

 

 

 

 悪いことばかりが目立つ昨今、対して私事ではあるが喜ばしい事もあった。

 事件以前から交際していた女性との間に子が生まれたのだ。

 彼女とはアカデミー時代からの付き合いで、名門の一族同士からか、惹かれるものがあった。

 とは言え、お互い一族の中では落ちこぼれと言われていたため、初めの頃は傷の舐め合いだとも言われた事もあった。

 だがそんな事は関係ないとばかりに彼女はよく笑い、一族のことなどで荒みかけていた私を癒し、力を与えてくれた。

 そんな彼女に思いを寄せるのは必然な流れで、彼女から先に思いを告げられた時は何にも勝り喜び、同時に自分から言えなかった事を悔やみもした。

 

 同じ班に所属し共に切磋琢磨して成長してゆき、私は上忍として前線に、彼女は医療忍者の指導員として後方に配属されるまでになった。

 配属が変わっても交流は続き、やがては将来を誓い会うまでになったのだ。

 

 だがそこに来て、端者とて名門の肩書きが障害となる。

“日向”と“うちは”、共に木の葉の誇る血継幻界の保有一族。

 一族の外に秘技を持ち出す訳にはいかず、ましてや里内で一,二を競う一族同士などが無闇に共になることなど許されなかったのだ。

 

 お互い一族から反対され引き離されてしまい、さりとて引く気は無かった私たち。

 かくなる上は里抜けでもするしかないか等とまで思い詰めていた時、悪夢の災厄……九尾が里を襲った。

 

 第一次忍界大戦などで猛威を振るった、六道仙人が遺したと言われる“尾獣”と呼ばれる口寄せの魔物である。

 

 里では居るだけ総員で対処にあたり、当然うちはにも出動命令があった。

 それは彼女とのことで謹慎中だった私も例外ではなく、四代目様が戻るまでの時間稼ぎにあたった。

 戦線は正に地獄と言える酷い有様で、一戦級の大忍術であっても生温く見えるほどの圧倒的力の差で、一方的に捻じ伏せられるがままという現実。

 

 その場で緊急召集で揃えられるありったけの中忍・上忍混成の大隊規模で各戸遅滞陽動の役割を担う第一種広域防衛戦術が敷かれたものの、そもそも里の内部に進入を許した状態からの戦闘は尋常でない被害を強いられる戦いとなった。

 

 組んでいた4マンセル小隊は簡易結界忍術を敷くための最前線で時間稼ぎの役割をしていたが、不意の予測不可避の広域大火力を向けられて真っ先に隊長格が隊員を庇って堕ち、甲斐なく同僚も犠牲になり次々脱落していく。

 九尾の威容は死の嵐を撒き散らし、なんとか敷いた結界忍術も敢え無く無残に引き裂かれる。

 大体国の防衛の中枢の戦力なのだから、まるで歯が立たないという訳ではない。

 だが、火力は二歩も三歩も及ばず、速度は劣り、対策を採る時間が無く、奴の放つ戦略規模の炎に対して、圧倒的に数が足りなかった。

 

 そこかしこで小隊を維持できなくなりその穴を埋めるため生き残りを併合しての前線維持もその場凌ぎにしかならず、初動が遅れた避難誘導を担っていた下忍や民間人にまで多大な被害が発生した。

 

 背に守るべきものが多すぎ、想定されていない終わらない絶望的な撤退戦に心体共に擦り切れるまで闘い、心が折れてしまう仲間も出る。

 

 それでも可能な限り里の者を守るため、残りの戦力で崩れかけた家屋を盾に使った遊撃戦で人的被害を抑える指揮に移行したところで、何かを求めて暴れまわる九尾が里の縁外部に向かって突き進んでいった。

 結局その後任務から4代目を始めとした精鋭戦力が帰還したところで、負傷により気絶してしまい、意識が戻った頃には戦闘は終わっていた。

 荒れ果てた里と戦災孤児など、被害の大きさを前に事後処理は皆が途方に暮れるものであった。

 

 4代目は九尾を止めるため戦死なされ、戦闘終了直後は皆誰かしらの近しい者を失った悲しみに俯き、里は暗い雰囲気に包まれていた。

 そんな折、誰からかどこからともなくある噂が流れ出した事が、結果的に不謹慎ながらも自分の転機になった。

 

 曰く、うちはの本家からは被害が無さすぎる。

 又、日向も都合よく任務で里を離れていた宗家周りの帰還が遅かった。

 

 これ等は表だって話題にあがるものでは当然なかったのだが、共に足止めに参加していた者から聞いた話で、布いては一族・里内の問題にまで発展した。

 この為か定かでは無いが、両一族共に何処と無く結束に亀裂が生じていったのだ。

 

 その最中に彼女の妊娠が発覚して、一族は分家の下っ端のことに一々構っている余裕は無くなっていたようで、二人共に一族の名前を捨てて新たな性を名乗ることを条件に、一緒になることを容認されたのだ。

 これはタイミングも良かったようで、新たな家を興すのは人手不足の里としても推奨していて、他にも名家の分家から新たに興す者もちらほらいたようだ。

 

 少しでも里を持ち直すための様々な取り組みに三代目様が腐心なされたことによって、噂による不信感は徐々に収まっていったが、やはり一部のものには蟠りを残しているようにも思える。

 

 

 そういった環境であって間もなく妻となった彼女は無事出産を遂げてくれて、私も徐々にだが任務に復帰するようになった。

 生まれた我が子は、私の唯一の資本を引き継いでかとても健康体で、初めて自らの腕で抱いたときは妻に良くやってくれたと何度も感謝した。

 

 サラサラとした黒髪にはっきりとした目立ち。

 両目を丸くし、小さな手を掲げて妻と私を交互に見つめる様には、天地が崩れ落ちるほどの衝撃を与えられた。

 正直、親馬鹿と言われようと否定できないだろう。

 独り者の部下に自慢して一騒動あったりもした。

 

 そうして成長していくに連れてとても悟い一面を見せ始め、贔屓目抜きでも秀才であろうことが窺える。

 えらく手の懸からない子で、妻としてはもっと世話を焼きたいそうであったが、何事も無く成長してくれることに越したことは無いだろう。

 

 家では穏やかな時を過ごし、任務でも配属先もあってか大事ない生活が続いた。

 

 息子が3歳になったころからはいよいよ成長ぶりに驚かされる程活発に動き、まだ判りはしないだろうに、書に興味を持ち始めた。

 妻もこれには大いにはしゃいで、子供用の文字の本を与えると拙いながらも筆を走らせるようになった。

 直ぐに文字は覚えたようで練習し始め、報誌を欲したので与えると記事を見てうなりながら落書きするのは、それはそれは微笑ましいものであった。

 

 

 

 そのようにして過ごす内に、早いもので九尾事件から5年の月日が経った。

 月日が流れるのは早いもので、木の葉の里も嘗てのものとまではいかないまでも、勢いを取り戻しつつある。

 当時下忍や中忍だった若い世代も育って来たようで、疵持ち(・・・)の私の出る幕も徐々に無くなってくることだろう。

 

 これを機に逸走のことアカデミーの教師にでも転職してみようか。

 引退するには早いと後輩に言われ、どうかと誘われたのだが、そう捨てた考えでもないように思える。

 

 

 今ちょうど来ている九尾を封じられたという少年の監視の任務も少々(・・)思うところがあり、その性質上並行して出来るようならいいかもしれない。

 

 

 九尾事件を転換期としてこの幸福を得たことに思うところはあるが、後悔はない。

 だが、だからと言って嘗ての同僚の事を忘れることは決してない。

 先に逝った奴らに報えるよう里のために尽くすのが、せめてもの供養となるだろうか。

 

 

 願わくばこの平和の礎となっている少年にも強く生きてもらいたい。

 

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