魔眼転生記―NINJA―伝   作:紫苑試験式

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※少し戻ります。



3.覚醒する自覚

 

 

 四歳になって暫らくした頃、遂に念願の血継限界を取得した。

 永かった。

 チャクラの類のことに関しては独学では今一進展が無く、行き詰っていた感があったため、自身にその種の才能が無いという心配が付きまとい、あまり気は進まないがそろそろ両親辺りにそういったことを習えるように頼んでみるか悩んでいた時の不意を突かれたため、予想外ではあったが嬉しい誤算であった。

 

 

――違う、そうじゃない。

 

 

 それは、一人で行動出来る時間が増えてきた事もあり、自分の部屋などで隠れてこっそり修行をしていた時のこと。

 この世界の空気か何かががそうさせるのか、やればやるだけ身になる感覚は一種の快感であり、バック中だとか側中だとか壁蹴り宙返りだとか前世では出来なかったことが不可無く実現していく事を、正直言って楽しんでいた。

 何せスペックが高いのに対して身体は軽いためポンポン習得していくので少し調子に乗り、くるくる回転する系の曲芸を網羅した勢いで、原作仕込みの壁登りみたいなことを、ものは試しにと物理的に繰り返しやってみた結果。

 

 ある日、部屋の中。

 熊のぬいぐるみが、落っこちたのだ。

 ……スローモーションで。

 

 チャクラを足に込めて、だとか意識しようにも実感が今一湧かないため壁の側面走りをしてみたもののコレジャナイ感があったのだが、それでも数メートル程走れる様になってきたころ、勢い余って棚に激突し頭から落下しそうになった瞬間の、逆さまな視界での出来事であった。

 

 棚から転げ落ちた、前に母が買い与えてくれたやけにリアルなソイツは、つぶらと言えなくもない黒眼で夕陽を反射しながらこちらを視ていた。

 その角度での陰影は筆舌し難いほどに雰囲気のある絶妙なもので、怪談にでも出てきそうなソレが一緒になって逆さまに頭から落下していくのを瞬間刻みに視てしまった時は、死なずにして走馬灯という新手の死亡フラグにでも目覚めたのかと思ったが。

 

 その場は何とか受身を取って大事に至ることは無かったが、臨死体験というには少々大袈裟なものの不可思議な体験に首を傾げるだけであった。

 が、暫くしてまたその違和感が表れた時に、何気なく窓ガラスに映った自分をると、あの目尻のところに血管(?)のようなものが浮き出ていたのだ。

 正直、ぞっとした。

 

 

 まぁ、他でもない、白眼の開眼だったのである。

 

 

 リアルで見ると余り見栄えのいいものでは無いというのが、正直な感想だ。

 

 

――それだけじゃないだろう。

 

 

 白眼を開眼(?)したということに両親がどう反応するか判断しかねたので、取り敢えず母の隙を見て家にあった医療忍術の本などを調べたところ、目の横に浮き出るのは三又神経という器官で、本来は奥にあり目からの映像を知覚するのだが、これをを体質で更に表面にも発生させることで通常では有り得ない知覚の支配領域を増設できる……というのが、日向一族の白眼なんだとか。

 

 なので俗に言う魔眼の括りとは違ってこれら作用の鍵が遺伝による眼であり、これを触媒のような感じで基点にして能力を使いこなす為に鍛錬によってこの疑似知覚器官を発達させる必要があるらしい。

 この発展具合の差が、才能の有る無しというわけである。

 

 分類としては身体エネルギーというよりかは精神エネルギー寄りの運用のようで、目指していた本来の壁登りとは違う方向の試みが結果的に功を奏したようだ。

 結果オーライである。

 

 まあネジとかが使ってた大回転だとか、柔拳だとかが主な日向の体術に根ざすものなので、そうしてみれば確かに物理寄りっぽいな、なんてちょっと納得である。

 マイト・ガイ上忍の班にネジが配属されていたのは、主に体術面を伸ばすためだったというのもあるのかもしれない。

 

 ともあれ、文字通り(・・・・)の棚ぼたではあったものの、取り敢えず発動できるだけでも性能的には申し分のないもので、これを有効活用しない手は無い。

 母が白眼の負荷によって視力が落ちてきているという話なので、そこは警戒しなければならないが、今のところその兆候はないので、取り敢えず才能が無い云々はないと思いたいが。

 頼りきりにするつもりはないが、基本状態で視界が広がるのと反射神経が跳ね上がるという、1人で鍛えていくのにはお誂えの能力なのは間違いないだろう。

 

 まぁ写輪眼だとか写輪眼だとか、成長チートなアレと比べるのはアレだが。

 これまでのチャクラ方面での成果を鑑みるに、やっと希望が見えたので、前向きに捕らえていこうと思う。

 

 

――そうやって誤魔化すのも限界だ。

 

 

 ところで、ここで少し悩んだのが、この先大っぴらに使っていくか否か、という点である。

 

 というのも、周囲の雰囲気から察するにやはり余り目立つのは止めておいた方が良さそうな気がするのだ。

 これから先ずっと隠し通せるとも思えないが、かといってコレをフル活用出来るか否かは効率面でかなりの差が出てくるだろう。

 

 だが、恐らくだが両一族の出身だというのを殊更に隠している訳でもないが余りそのことを表に出すことはせず、またそのどちらでもない「氷河」の家名を名乗っていることにはやはりそれなりの理由があるように思う。

 

 両親がそれぞれの一族のらしき人物がその辺りのことを話していたのを偶然聞いていた事があるのだが、分家云々の掟や縛りに関しては、思っていた以上にデリケートなところなのだろう。

 

 少々鼻につく態度で話していたそれら人物達は、思えば俺の早熟なことに関して興味を持っていたのではないかと思うのだ。

 特に今回、白眼を持って使いこなすことが出来るようになったとすれば、それこそ宗家に逆らえない呪印をとかいう話になりかねない。

 

 白眼や一族のことを母の視力低下のことを絡めてそれとなく尋ねてみたが、困ったように母が聞かせてくれたものの家柄のこととは違ってそこまで詳しいことが聞けなかった。

 

 俺はまだ別にこの世界基準では大したことができる訳でもないが、4歳でこれなら、みたいに変に悪目立ちをすることもないな、ともう少し様子を見ることにした。

 

 

――それも違うだろう。誤魔化しだ。

 

 

 まぁそれは今後の状況次第として、上記を踏まえたとしても両親からでさえ隠れてなのは、母の過保護ぶりからというのもあった。

 曲芸もどきの体術面の鍛錬の内容はともかくとしても、これから先にやっていくつもりのあれこれに関しては、少なくとも今の年齢ではどう考えても許可されそうにない。

 

 母は俺が忍になることを反対はしないだろうが、拭い切れなかった子供らしからぬ自我の発達からはどちらかと言えば座学方面に力を入れて欲しそうで、この先それとなく水面下での攻防が繰り広げられることになりそうである。

 

 休憩の手持ち無沙汰の時に歴史書や考古学(みたいなもの)の本を何となく読破したのを目撃されてから、いつの間にか俺の部屋にその類の本が増えるようになったのだ。

 最初は特に気にせずそこらにあった本を適当に読んでいたのだが、明らかに持ってきた覚えのない医学書関連の本が増えていて、母に「これ俺のところにあったんだけど」と尋ねてみると

 

 

「あぁ間違えて貴方の所に持って行っちゃったのね。折角だから、それも読んでみなさい」

 

 

等と口実を作られてしまう。

 

 母は別に自慢するでも無いが、ご近所付き合い(一般人が多い)で俺の成長ぶりをもてはやされるのには満更でもないらしく、反則をしている身としてはこちらに純粋な期待の眼差しを向けてこられると正直少々後ろめたいものがある。

 別に医療忍術やその方面の習得はやぶさかではないが、それでもこの先起こるであろうあれやこれに際しては、優先してという訳にもいかないだろう。

 

 卓上で色々学ぶことは嫌いではないが、以前から考えすぎて優柔不断になるきらいがあるので、そういったことに掛かりきりになるよりかは、せっかくスペックの高い身体を活かして行動した方がいいと思うのもある。

 

 

――これも違う。本当の望みはそうじゃない。

 

 

 ともあれ、そうと決めたからには何とか母の誘導をそれとなくかわしつつ、虎の子である白眼も習得したので、早速活用してみることに。

 

 白眼の千里眼もどきの範囲を徐々に伸ばしていき、慎重を期してタイミングを伺い此方を悟られない距離から演習場等で修行している大人を対象に観察してみることから始める。

 

 普段は立ち入ることが出来ないため初めて大人の忍の動きを目の当たりにしたが、それまで自分でやっていた鍛錬が児戯に等しいくらいの中々の人外ぶりであった。

 やっぱ忍んでるとかそういうアレじゃないな、と思う。

 スーパーソルジャーか何かかな?

 

 さりとて自分でもやれると信じ、お手本を見ながら必死に見様見真似した。

 

 足捌き、跳躍の際の筋の伸張、重心の推移。

 この世界では皆簡単に木の上を移動したり馬鹿みたいな跳躍が当たり前だが、やはりこれも忍補正なのか。

 

 小さな植木を飛び超えを何度も飛び越えるのに始め、毎日反復することによってその木の成長に合わせて長い年月を重ねて精進し、いずれは木をも飛び越すほどに……というくらい気長にやるのが認識だったのだが、白眼で動体視力を上げてそれら忍の人達の動きを見て実際に真似してみると、跳躍力は見違えるほどになった。

 

 尚、原理は不明だ。

 

 同様に重心の取り方にしても、体勢を真似すれば何らかの力が加わったように整えることかできた。

 イメージとしては、重りを付けたパラシュートは必ず重りが下になって落ちていくのと似ている。

 この体勢を整えることができれば、よっぽどの事がない限り頭から落下するようなことはないだろう。

 何というか、便利なものである。

 

 まぁこんな感じで色々と習得していく。

 このよく判らない原理は変則的な重力の作用だったりするのか、この世界の人々の体質による一種の特技なのか……いつもの如く神のみぞ知ることである。

 

 そして、それらを真似できる自分も、いよいよもってNINJAの仲間入りを果たしてきたと言える。

 

 

――そうして行き着く先も、本当は分かってる。

 

 

 そうして更に年月は過ぎ、6歳の誕生日を迎えた。

 死ぬ気での修行の結果からか、身体能力(・・・・)面で同年代には負けないであろう、というくらいの自信はついた。

 今では例の壁走りも、摩擦の皆無なつるつるの物でない限り、僅かな壁面の凹凸であっても利用して楽々こなせるようになった。

 ……物理的(・・・)に、ではあるが。

 

 ここまできて……いや、もうとっくに自覚してはいたが、チャクラの使用無しではどうしようもないという事に明確に向き合わなければならないだろう。

 

 厳密に言えば、白眼でチャクラの流れが見えるので身体の内でのある程度の運用は出来るようになっている。

 原作では下忍になってから教わるのであった気がするが、難易度はいかほどの物なのだろうか。

 

 壁走りは出来ても、天井に張り付いたりすることは出来ないし、水面を走ることは出来ても着地は出来ない。

 

 そう、つまりは忍術方面はおろか、チャクラの運用系の技は一切進歩がないわけだ。

 

 もしかしたら柔拳ならこのままでもやれるのかもしれないが、それにしたって根本的なところで忍の基本であろう事が出来ないのでは、劣化にしかならない。

 

 

――そこで留まれば、諦めれば。

 

 

 理由は、分かっているのだ。

 もう、現実から目を逸らすのを止める。

 

 それは、初めてチャクラを初めて使った日。

 新聞のコラムの説明に従って手順通りに生成しようと、チャクラというものを意識した時の事が、原因(・・)であるのだろう。

 

 

 

 

……

………

 

 

 

 

『赤い……?ん……体が、ダルい……』

 

 

 確か俺はチャクラの確認をしようとして、そしたら地面が迫ってきて……。

 

 あぁ、何のことはない。気絶したのだろう。

 だとすれば母なり父なりが気付いてくれるのを待つしかなかったわけだが、見たところ此処は病室でもなければ自分の部屋でもない。

 

 赤い床。

 それは元からの色ではなく、床一面に広がる液体が染める朱。

 少し霞がかって不明瞭視界となっているが、そこはごくごく普通に家具が並ぶ一室。 

 ここは一体なんなのか……は心当たりというか、嫌と言うほど見覚えがあるが、ここにいる理由が判らない……と思った瞬間、唐突に等身大の鏡台が現れる。

 いきなり出現したそれに驚く暇もなく、鏡に映った己の姿を見て納得する。

 

 正確には自身の両眼。

 赤く光る瞳に浮かぶ勾玉の型取る二重の変形五棒星の瞳孔。

 見ただけで、それは分かった。

 理解した。

 それは写輪眼……ではない(・・・・)、ということが。

 

 

 うちは一族の保有する血継幻界、写輪眼。

 謂わば魔眼の一種で、その眼で観たあらゆる忍術・幻術・体術を解析してしまうもの。

 忍者としては延髄ものの能力だが、この能力には更に上の段階があり、それが“万華鏡写輪眼”と呼ばれる。

 

 一族の中でも秘中の秘であるこの能力の覚醒条件は『親しき者の死』。

 

 

 ……とされているが実際にはかなりアバウトで、原作でカカシが開眼したあたりから雲行きはかなり怪しくなっている。

 親しき者の死など、経験してた者は過去にも何人もいるのではと思うが、にも関わらずその存在さえ知っているのは極僅かだったのは……まぁ実力も兼ね揃えてということだと仮定しておこう。

 

 で、問題は自分がそれを覚醒させているということだが。

 根拠はこの空間。

 この場所は前世で過ごした家であり、思った瞬間現れた鏡。要は自分が望むものを顕現させたということだ。

 そんな幻想世界(・・・・)、思い当たるのは……万華鏡写輪眼を覚醒して得られる恩恵の一つである、イタチの使っていた『月読』(つくよみ)による精神世界。

 

 各個人で昇華した時の能力はバラバラで、一つとして同じものは無いというものだったと思うが、似たような空間系だというだけだろう。

 

 生まれて初めて発動してしまった写輪眼。

 しかも万華鏡、という上級のもの。

 発動したことはともかく、少なからず発動の条件を満たしているということは……。

 

 

 

………

……

 

 

 

 

「俺はあの人を殺した、ってわけだ。……まぁそのつもりだったんだから、それが確定しただけなんだけどな……」

 

 

 あの後、精神世界からは直ぐに抜け出した。

 チャクラ切れを起こして維持できなくなったようで、次に起きたときは死ぬほど筋肉痛が酷く、このせいで母の過保護が加速したのは間違いない。

 

 やはり体力は忍の資本なのか、身体エネルギーの仕組みを実感した瞬間だったと思う。

 

 そしていく日か後に、再び件の“眼” を発動した所で最悪の欠陥が判明した。

 体質故のものなのかそれとも他の要因によるものなのかは定かで無いが、チャクラを練ると自然に写輪眼が発動してしまうのだ。

 それ自体は、目立つが仕方の無いものとして諦めることも出来なくは無いし、どうせ白眼も同じことだし対策は立てようもあるので、それだけで時間が限られる中チャクラを使おうとしない様な愚かな選択を取ることは、勿論ない。

 

 問題は、俺は制御も禄に覚えず“万華鏡写輪眼”――身の危険を誘い、更には盲目へと常時突き進む、爆弾を手にしてしまったのだ。

 しかも慣れないうちは膨大なチャクラを消費する写輪眼を単体で使う事が出来ず、制御するため訓練をしようにも時限爆弾(失明)は到底待ってくれるとは思えず。

 

 肝心のチャクラを練ることが出来ないのでは無茶を繰り返すして文字道理に命を燃やすしか無い。

 そう言った意味では白眼を手に入れるまでの日々の絶望は、他人には到底理解し得るものでは無い。

 そうした苦労の末に、精神エネルギーでの運用で、誤魔化していたのだ。

 

 

「……いや、違ぇだろ。誤魔化しだ、それは」

 

 

 ……と言うのも、全ては問題の先送りにする言い訳だったのは、自分自身でよく分かっていた。

 

 

 言わずもがな、精神世界のソレ(・・)が、全ての元凶である。

 

 

 死への恐怖、罪の呵責、それらが常に付いて回るがこの世界なのだ。 

――それを認識したくなくて、逃げていた。

 

 転生?NARUTOの世界?好き放題に無双?

――そんなものは求めていなかった。

 

 力を付ける、その先にあるのは人を殺すという行為。

――この先、いつかは絶対に直面する問題から逃げていた。

 

 この世界の両親は、俺を愛してくれている。この人たちを守るためにも。

――だが、それら(・・・)も人殺し。

 

 生きるため、覚悟を決めなければ、待つのは死。

――そんな形だけの大義名分があったとしても吐き気がする。

 

 

 

 俺は、違う。

 自分は、違う。

 あの人とは、違う。

 もっと、マシな何かであると思いたくて。

 

 だから、俺はそれ(・・)を否定した。

 その象徴――否定する、鏡写しである証拠の兄殺しを、否定した。

 

 

「だけどそれは、乗り越えなければ繰り返す。言い訳は打ち止めだ。誤魔化さない。もう、自問自答は終わりだ。俺は、ソレ(・・)を、忘れない」

 

 

 だがそれも、認識すれば、思い出せば、自覚すれば、向き合えば。

 蓋をしたソレを、もう忘れることはない。

 

 

 俺は死ぬ間際、兄を殺した。

 ただ、それだけ。

 そのことに関して他にどうしようも無かったし、次に同じ状況になっても同じことをするしかないのだろう。

 そう思い、考え、言い訳を連ねても、1と0の差はどうしようもないもの。

 その経験は、人としての……現代を生きた者としての一線を越えるもの。

 

 

 この世界にいる限り殺しは付き物である。

 

 

 現代人の感性でははっきり言って吐気がする感性だ。

 その筈である。

 現に、何回も吐いた。

 吐いて、そうして徐々に克服していくものなのだと思いたかったが、俺が吐瀉物と共に吐き出したのは倫理感であったらしい。

 これを、無力の言い訳にしない楔にするための、通過儀礼の儀式と定めた。

 理論的に考えればこれはメリットなのだろう。

 それは、価値観が変わった後に理由付けても失ったものを正常に測ることは出来ないのであろうが。

 

 

「それで、いい。不要なものは、置いていく。心はここに、置いていく」

 

 

 まず、認識の変化を実感した。

 これから生きていくために“人の命”というものの価値に折り合いを見つけ、向き合っていくつもりであった。

 それは、確かである。

 だがそれは一足飛びに無用なものになってしまっていたのだ。

 

 

「それならそれで、構わない」

 

 

 始めは、クーデターに対する策を考えるとき、最初に考えることは誰を片づけるの一番いいかということであった。

 極自然に浮かんだそれは“片づける”とはどういう事なのか、意識さえしていない自然な思考だったのだ。

 そのことに、今後の計画を立てて記した自分の手記を書き起こしたたとき、恐ろしいと思う筈の考えになのに、何も感じていない自分がいる。

 自室だったが、構わず吐くことにした。

 

 

「それで、いい。俺はもう、躊躇わない」

 

 

 この考えに慣れるべく、ひたすら身体面を鍛えることにひた向き、無心になってやった。

 訓練の為密かに森に通い、訓練をしていてふと気付くと、自分の周りには野性動物の死骸で溢れていた。

 全てが急所を一撃で刈り取っていて、中には首輪の付いた猫でさえも含まれていた。

 必要な犠牲、などと嘯くつもりはない。

 ただ、糧にする。

 己の力の、餌とする。

 気分など殆んど動いていなかったが、指を喉に突っ込んで無理矢理にでも吐いた。

 

 

 狂気が、迫って来る音がした。

 

 

 結局それからこれまで(・・・・)を取り戻すべく、死ぬ気で命を刈ることの容易い力の制御を必死で覚えて、里を歩いていた時見付けた光景に……自分の中の倫理感(ストッパー)を、枷を、完全に砕き、開放した(・・・・)

 

 

 

「もう、繰り返さない。こういう(・・・・)ことを、見逃さない!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と言うわけで、クズな教えに習うゴミの肥溜めの貴方達にはいなくなって(・・・・・・)貰うことにします」

 

 

 街の路地裏。

 昼間そこで、筋違いな悪感情や単なる劣情からの鬱憤を晴らしていた者達が、今度は己の身にその代償を受けていた。

 

 

 額充てをした者が幾人も。

 何れも里に所属する者であり、服装から、名門うちは一族の者までいることが判る。

 中には、中忍以上の実力を持った実力者もいるのだが、拘束されているわけで無いにも関わらず、一人の“少年”の前に跪いていた。

 

 

 その眼は紅く、見下げる瞳に浮かぶのはほの暗い諦感と確かな決意を同梱する、全てを飲み干す星模様。

 

 

 その、何者も窺うことの適わない、どこまでも冴え渡ったような視線の前に、幾年も年の離れている筈の大人達は只々呆けるしかなかった。

 少年は、その年頃には到底持ち得ない“無”の表情で、されど嘲いながら一言、告げる。

 

 

「……永劫、星食(ほしはみ)

 

 

 翌日、木の葉の里では忍の集団失踪事件が取り沙汰された。

 里抜け・暗殺・誘拐などが疑われたが、里を挙げた調査に関わらず、遂には手懸かりの一つもなく真相は謎のままとなる。




少し冗長な感じかもですが、こっからテンポを加速します。

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