大冠彩る七の一   作:つぎはぎ

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Q.酢豚にパイナップルは入れる派? 入れない派?

A.
アルトリア「酢豚を食した事ないので両方使ってくださいアーチャー」
アストルフォ「ボク満漢全席食べたーい!」
アルトリア「なに?! くっ、アーチャー…!! 私もそれをオーダーします!」
エミヤ「……ヒッポメネス、第三特異点に行って魚を大量に頼む」
ヒッポメネス「作るんだ」




リヨンの守護者

 

「ヒッポメネスが気絶している間、アストルフォに情報収集をしてもらっていたんだけど、そこでリヨンの話が出てきたんだ」

 

 先頭をエミヤ、後方にアルトリア、その間にサーヴァントが立香を護る形でカルデア一行は移動していた。

 

『リヨンは少し前に滅ぼされたらしい。アストルフォが聞き出した情報はその街からの生存者のもの。その人物曰く、リヨンが滅ぼされる前、ワイバーンや怪物達から街を守ってくれた守護者がいたんだ。…だが、ワイバーンの大群を引き連れた人物達がやってきた』

 

「間違いなくサーヴァントだと思われます。…サーヴァント達に襲われた守護者は行方不明となり、守護者がサーヴァント達を抑えてくれている間、街の方々リヨンを捨てて生き延びた、ということです」

 

「なるほどね」

 

 そのサーヴァント達があのヴラド三世達だとすると、あの軍団から一騎で立ち向かい、人々が逃げ出すまで時間を稼げる程の実力をその守護者は持っていることとなる。

 状況から察して、その守護者が生きている可能性は低いかもしれないが、探す価値はあるだろう。

 

「あ、あともう一つ聞いたんだけど、その生存者達を纏め上げているのってジル・ド・レェ元帥らしいよ?」

 

「ジルが?」

 

 挙げられた人物の名を聞きジャンヌが、そして、アルトリアが僅かに反応した。

 

「シャルル七世が討たれちゃって、混乱していた兵士達を纏めてフランスのあちこちで他の難民を助けてるんだって」

 

「…そうですか。ジルがそのように」

 

「マシュ、そのジルさんって?」

 

「ジル・ド・レェ元帥。ジャンヌさんと共に戦場を駆け抜けた貴族であり軍人です。ジャンヌさんとオルレアンを奪還し、信仰心に厚い方だったと後世では伝えられています。そして…あ、その」

 

『彼はジャンヌ・ダルクの死後、とんでもないことをしでかしているからねぇ』

 

「……」

 

「ドクター!」

 

「ロマン、貴方は……」

 

『あ! ごめんなさい!』

 

 マシュがジャンヌの前だからと濁そうとしたのにロマンが見事にやってくれました。

 流石のアルトリアも呆れていた。

 

「…いえ、私の死後、彼が行ったことはどのように申しても許されない事実ですから」

 

「えっと、聞いちゃいけないことだよね?」

 

「そうだね。一応、後で詳細を教えるよ」

 

 淡々と立香にそう告げたヒッポメネスだったが、声音に僅かな嫌悪感を滲ませていたのを誰も気づかなかった。

 

「話しているところすまないが、そろそろ君達の目でも視認できるところまで来たぞ」

 

 

 

 

「これが、リヨンの跡地」

 

「…聞いていましたが、他と同じようですね」

 

 リヨンは既に廃墟の都市と化していた。腐臭と焦げた土の匂い。人気は無く、リビングデッドと化したかつての住人が徘徊しているのが見える。

 

「ドクター、生体反応は」

 

『ーーーーー』

 

「ドクター? …すいません、通信状況が良くないようで」

 

「仕方ないか。…とりあえず、みんなでその守護者さんを探そうか?」

 

「賛成ね! 早く見つかるように競争しましょう!」

 

「競争って君ね。ま、そっちの方が効率的だから良さげだが」

 

 

 

 そこで東からのルートと西からのルートの二組に別れる事となった。

 東は立香、ジャンヌ、マシュ、アストルフォ、アルトリア。

 西はマリー、アマデウス、エミヤ、ヒッポメネス。

 

 立香達と別れ、ヒッポメネス達は西から都市を巡る事なった。だが、歩けど会うのは骸骨兵やリビングデッド。生きる者はおらず、生者を憎む人外だけだった。

 

「…使える者は使う。だが、あまり好ましい手ではあるまいに」

 

 投影した夫婦剣で残らずリビングデッドの命を絶ったエミヤ。このリビングデッドは外法にて、死後無理に動かせているのだろう。キャスターのサーヴァント、或いはそういった類の宝具を持つサーヴァントの仕業だ。

 

「えぇ。死者は土に、亡者は眠りに。魂がタナトス神からハデス神に送られたことを祈りましょう」

 

 槍と小剣を振るい、付いた血を払いおとす。索敵するがこの辺一帯の敵は全員始末したようで、動くものは無くなってしまった。

 

「これが彼女の、いや、あのオルタの仕業か」

 

 廃墟の街はこれだけではない。ここに至るまで、似たような街がいくつもあった。どれも屍が徘徊しているか、もしくは賊に堕ちた兵士か。着々と、元の歴史と乖離しつつあった。

 これも、あの復讐を謳う聖女だった魔女の仕業だった。

 ギリ、と強く槍と剣を握る手に力が入る。

 トントン、と肩を突かれた。反応し、振り返ると……頬に指が突き刺さった。

 ヒッポメネスの後ろにいたのは、というか指を頬につくのはマリーだった。

 

「………へっと?」

 

「ごめんなさい。貴方、今とっても怖い顔をしていたから」

 

 にこやかにぷにぷにと細い指先でヒッポメネスの頬を突く王妃にどのような反応をしたらいいのか分からない。

 

「ああ、悪いね。いや、本当悪気とか微塵もないんだけどね。ほら、そろそろ指を離すんだ、彼も困っているし」

 

「ふふ、こんな風な悪戯初めて。アストルフォに教えてもらったの」

 

「は、はぁ…」

 

 とにかくアストルフォが戦犯だということは分かった。よく分からないが王妃に余計なことを吹き込んだらしい。

 

「元気が出たかしら?」

 

「え? いや、特には?」

 

「んー、やっぱりそうなのね? どうしたらいいのかしら、アマデウス?」

 

「僕的には君がそんな突発的な行動しているのかが分からないんだけどな」

 

「もしや、マスター達と別れる前にアストルフォに言われたことが関わっているのではないかね?」

 

「エミヤさん、アストルフォが何か言ったのか?」

 

「あの子がね、『怖い顔になったら突っついてやってくれないかな? あいつ、基本嫁さん絡むとそれしか考えなくなるし!』って言われたの」

 

「……」

 

 急に自身が情けなくなって、空を見上げる。

 悪い癖だと自覚している。アタランテが絡むとそれしか頭に無く、結果他人に迷惑をかけまくる。

 英霊となってからの友人であるアストルフォにそれを見抜かれている時点で、その悪癖が如何にヒッポメネスの致命的な弱点だと物語っていた。

 

「存外彼も気遣えるものだな」

 

「…すいません、頭冷やしたってばかりなのに引きずってばっかで。ありがとうございます王妃」

 

「どういたしまして。…ところで」

 

 柔らかな微笑みから急に乙女のような輝いた笑みへと転じる。

 

「貴方の奥様って、どんな素敵な女の子なのかしら!」

 

「え?」

 

「とっても気になったの! そんなに怒って、憤って、悩ましくなるほどに操られて酷いことをさせられた奥様のことを想う貴方を。きっと、何度も恋したくなるほどに素敵な思い出があるのでは無くて?」

 

「……あの、王妃?」

 

「ああ、ダメだエミヤ。僕達はサーヴァントを探す事に専念しよう」

 

 アマデウスがこりゃダメだと呆れて、エミヤの肩をポンと叩く。

 

 

「え、えーっと、素敵な思い出ですか…。正直、いい思い出は少ないです。生前は僕が勘違いして突っ走って、迷惑かけまくって。彼女には辛い思いばっかさせました。…けど、彼女はそんな僕でも最後まで夫だと認めてくれて」

 

「じゃあ初対面はどんなだったの? 例の徒競走の時かしら」

 

「はい。あの時のアタランテは本当に恐ろしくて、逃げ出そうとしたんですけど…初めて見た時の彼女のあの美しさは、今になっても……」

 

「つまり一目惚れなのね!! 一目惚れってどんな感じなのかしら! 胸がときめいた! 熱くなったの!?」

 

「両方ですね! 鼻の奥が血に満ちていたのに、そんなものが吹っ飛ぶほどに彼女はーーー!」

 

 

「……そのようだな」

 

 こんな場所で歓談は宜しくないが、ヒッポメネスの様子が普段に戻りつつある。

 彼の宝具は強力だ。彼単体は正直弱い、だが他の戦闘向きのサーヴァントと組ませた時の厄介さはあまりに絶大。

 故に、一人での行動させる危険性を減らす為、ああやって王妃との歓談で精神面のケアを行った方が良い。

 

「できるなら、これで立ち直ってほしいものだがね」

 

「そりゃあ無理だろうさ。人間そんな風に割り切れるほど頑丈に出来ていない。ぶっちゃけあの魔女の顔面をブン殴るぐらいしなきゃストレス解消はできないだろう」

 

「それもそうだがな」

 

 それでも、少しは効果はありそうだ。

 マリーの無自覚か、天然か、それによって引き出されたアタランテの会話は思いの外効果がありそうだ。

 包帯の下に隠された表情が僅かにだが緩んできている。

 

「そんな風にちょっと自身の美容にズボラな事があるんですけど、時々髪を後ろに纏めた時の可愛さと言ったらーーーエミヤさん!!」

 

「ーーーむ!」

 

「あちら側で戦闘が始まったようだね。…どうやら音楽を齧った狂った野郎がいるようだ」

 

 東からサーヴァントの気配。アサシンであるヒッポメネスと超越した耳を持つアマデウスが離れた敵を捉えた。

 

「私は援護を、君達は直接マスター達の元へ向かいたまえ!」

 

「了解! マリーさん、アタランテの事は後で!」

 

「ええ、約束ね! アマデウスも行きましょう!」

 

「やれやれ、キャスターが全力疾走ってのもどうだかね?」

 

 

 

 

 マスター達の元に姿を現したアサシンのサーヴァント。名をファントム・オブ・ジ・オペラ。19世紀を舞台とした小説『オペラ座の怪人』のモデルになったであろう人物。広大な地下迷宮に歌姫を連れ込み、成就されぬ恋に連続殺人を行ったとされる英霊だ。

 竜の魔女の命によりリヨンの街を支配し、侵入してきた立香達を襲ったのだが。

 

「ハァ!!」

 

「おお、私の歌もこれまで……」

 

 アルトリアに一太刀でやられた。

 

「ごめん、おまたせ……って、はや!?」

 

「ヒッポメネスとマリー達ですか。問題ありませんでしたよ?」

 

 血を払うように聖剣を余裕で振り切る辺り、流石騎士王というところか。

 所詮は殺人鬼、歴戦の騎士が単体で負けるはずが無い。

 

「流石騎士王様ね!」

 

「これなら早足ぐらいでよかったね…」

 

 しんどそうに深呼吸するアマデウス、やっぱりキャスターが全力疾走するのって違うと思うと抗議したさそうだ。

 弓を投影していたエミヤもファントムを一撃で葬ったアルトリアに納得気に頷きながら現れた。

 

「投影も意味がなかったな。マスター達も問題ないな?」

 

「うん、問題なし」

 

「流石アルトリアさんです、敵に攻撃の隙もなかったです!」

 

「セイバーのクラスは伊達ではない、という事でお願いします」

 

「ローランなら似た事やれそうだけどなんか余計な事言ってたね、間違いなく!」

 

 少し誇らしげに胸を張るアルトリア。どうやら賞賛は素直に嬉しいらしい。

 僅かだが空気が柔らかくなった、その瞬間ロマンからの回線が繋がった。

 

『ごめんみんな! ようやく繋がった!!』

 

「ドクター? どうされました?」

 

『君達に向かってサーヴァント四騎とサーヴァントを越す()()()()()()()がある!』

 

「巨大な生体反応?!」

 

「それって、まさか…」

 

「……来ましたか」

 

 気を引き締め直し、アルトリアが聖剣を構え直す。

 

「マスター、件のサーヴァントを探すならば早急に。我々の予想が正しければ、相当の苦戦が強いられるでしょう」

 

 即ち、竜。

 幻想種の頂点が、ここへとやってくるのだ。

 

「そりゃヤバイ! 早く探そう! ジャンヌほら、ルーラーの特権使って!」

 

「私は今ルーラーとしての力が無いんです!」

 

「ロマンさん、そちらのレーダーでサーヴァントの気配は拾えますか?」

 

『ああ、ちょっと待って…。あった! 近くの城の中に微弱だがあるよ!』

 

「そう、ならリツカ。貴方達は行って」

 

「マリーさん!?」

 

 ここに残って迎撃すると、彼女は告げていた。

 

「私よりこの街のサーヴァントさんの方が重要よ? なら、騎士王様達より全然弱いけど、私はここに残った方が良さそうだわ」

 

「なら僕も、まあ、あちらさんの足を引っ張るぐらいならやってやるさ」

 

 アマデウスもマリーに着いて行くようだ。エミヤは既に弓を構えている。ヒッポメネスも槍と小剣を構え、濃くなってくる気配を捉えていた。

 

「それじゃ僕も、マスターとマシュはサーヴァントを引っ張って来てくれよ」

 

「私も、あちらの『私』に問わねばなりません」

 

 マシュを除くサーヴァント達は既に迎撃準備に入っている。決して、油断してはならぬ敵を待ち構えていた。

 

「ーーー分かった。行こう、マシュ!」

 

「はい! 皆さん、ご武運を!」

 

 マシュを引き連れ、半壊した城へと突入していった立香。その姿が完全になくなったのを確認し、残った一同は空を見上げた。

 

 群となって空を覆う無数のワイバーン。一個体で数十人での対応が必要な絶望が億劫な数で顔を見せてくるソレにサーヴァント達は思うことはない。

 彼らが見据えるのはーーーワイバーンを生み出す、巨大な()だった。

 

「ーーーボク、竜なんてそんなに見たことないんだけど。あの竜、見覚えがあるのは気のせいだと思う? ヒッポメネス」

 

「ーーー僕も竜なんて精々ワイバーンぐらいだけど、あの竜は見たことある気がするんだアストルフォ」

 

 その竜を見て、アストルフォの可憐な顔が歪んだ。

 鋼鉄の黒を想起させる鱗、空を貫くような双角、鞭のようにしなりながらも巨木のような雄大を持った尻尾、そしてなによりもーーー胸に稲妻のように光らせる胸紋。そんな特徴を持つ竜などこの世に一匹しかいなかった。

 

「「魔竜ファブニール!!」」

 

 かの“竜殺し”が打ち仕留めた魔竜であった。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「……みんな、無事かな」

 

 サーヴァント達が魔竜と対峙していた時、立香たちは城の中を瓦礫を避けながら進んでいた。

 サーヴァント達を任せたものの立香は不安を感じていた。自分のサーヴァント達が強いと分かっていても、本当はどれぐらい強いか分からない。比較対象が少ないのだ。今まで会った最強とはアルトリアだった。冬木で出会った彼女が本来の姿でやって来たのは本当に幸運だが、それより強い相手とは、どれぐらい強いかなど一般人であった彼には想像がつかないのだ。

 

「…すいません先輩、それは私にも」

 

 そしてそれはマシュも同様だった。

 彼女はデミサーヴァントととなり、力を手に入れたがその力は正式なサーヴァント達と比べ弱かった。

 それ故、立香の不安を消し去るような言葉を絞り出せなかった。

 

「いや、ごめん。俺達はとにかくサーヴァントを探そう」

 

 不安はあるが、自分達はやるべき事をやる。そう決めたではないか。

 もしかしたらの最悪な想像を振り払い、立香は一際大きな扉を開いた。

 

「えっとここは…」

 

「どうやら、ここがこの城の玉座のようです」

 

 玉座らしき広間となっているが、見事に崩壊して体裁すら保てないでいる。

 そんな玉座を見渡すと、瓦礫の柱付近に無機物らしくない影があった。

 

「いた!」

 

 立香はその影へと駆け出した。

 

「すいませーーー」

 

「先輩!!」

 

 咄嗟に盾を構えながら立香の前へと躍り出るマシュ。

 

「くっ!!」

 

 盾に当たる鋭い斬撃。それだけでマシュの腕が痺れた。

 

「マシュ!?」

 

「……誰だ?」

 

 剣を振るった、影の人物が呻くように声を上げた。

 マシュと立香は警戒しながら影の人物を注視する。

 

 銀の髪に仏頂面に近い鋭い顔立ち、体に頑強な鎧を纏いながらも胸元と背中を露出した服装をしている男性が柱に体を預けていている。

 

 そしてーーーその手にはその長身に匹敵する剣があった。

 

 

 




アポコラボでアタランテのグッズがない(怒)

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