大冠彩る七の一   作:つぎはぎ

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沖田さんほしいなー
沖田さんほしいなぁぁぁぁぁ!!!



誉れ高き、騎士の王

「…ふう」

 

「先輩、どうぞおかわりです」

 

「ありがとうマシュ」

 

 薄暗く静けさが広がる洞窟の中、カルデア一行は一休みしていた。マシュから貰ったコップにゆっくりと一口つけて安堵の息を漏らす立香。

 

アーチャーを三騎で同時に攻め、難なく突破できた立香達は目的地の洞窟に足を踏み込んだ。キャスターが言う聖杯の守護者、セイバーとの決戦前の最後の休憩だ。

 

「それでキャスター。セイバーというのは間違いなく…」

 

「ああ、王を選定する剣のふた振り目。お前さん達の時代で最も有名な聖剣。約束された勝利の剣(エクスカリバー)。これを持つサーヴァントなんざ一人しかいねぇだろ」

 

「…ああ、なんということよ」

 

 騎士王アーサー・ペンドラゴン。

 エクスカリバーという名を聞けば自然と行き当たる英雄の名に所長は思わず半天然の天井を見上げた。

 

「こちらに三騎揃っているとはいえ、騎士王が相手とは力強く勝てるっていえないなぁ〜」

 

「だが勝機はあるぞ。あんたは見てねえが、あの嬢ちゃんの宝具とセイバーの宝具はすこぶる相性がいい。上手くやればイケるってもんだ」

 

「……そうね」

 

 所長はキャスターを肯定する。マシュの宝具の頑丈な盾、ヒッポメネスの宝具の魅了。あの宝具ならば敵の攻撃を避けることができる。直接的な攻撃手段は…キャスターの宝具ならばいける。

 

「…いける、かもね」

 

『ははは、珍しくポジティブですね所長! まだ戦力が足りないっていうかと思いました』

 

「黙りなさいロマン」

 

 いつも一言多い部下にイラってくるが、怒る為にエネルギーを使うのも馬鹿らしいと思い受け流す。

 レフがいてくれたならもっと上手くやれた。レフの指示なら優雅に問題解決ができた。

 

「…レフ」

 

「所長ー! ドライフルーツもうちょっと食べていいですか!」

 

 レフは今いない。あの爆撃の中、生存不明になった。今、私を褒めてくれる人はいない。だが助けてくれるのはロマンにスタッフ数十名にマシュに、あの一般枠のマスター藤丸立香だけだ。

 

「…ちょっとだけよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 常備されていたドライフルーツが無くなるが、今は問題はない。とにかくこの異変を解決しなくては。

 

「はぁ…」

 

「あ、はい。オルガマリーさん」

 

顔の横からひょっこりと飲み物が入ったコップを差し出してくる立香の二人目のサーヴァント、ヒッポメネス。英雄とは思えぬ腰の低さと寛容さを持つギリシャの英霊。ニコニコとしながらこちらを気遣ってくれている。

 

「ありがとう…」

 

 コップを受け取り、中身を煽る。

 

 この休憩が終われば命懸けでアーサー王へ戦うことになる。そう考えれば緊張で心臓が止まりそうになるのだが。

 ちょっとだけ、余裕を持てた気がする。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 地下深くに存在する大空洞。天然にできたものとは思えぬほどに広げられた空間には自然に、人工的にその空洞が産み出されたことを証明している。

 その大空洞の中心に、サーヴァントでさえも目を張るほどの大魔力が渦巻いている。

 あの禍々しくも、壮大に蠢く、魔力の渦こそが『大聖杯』。聖杯戦争を管理する魔法陣だった。

 現代でも、いや、神代の時代でもこれほどの魔術炉はあっただろうか。知識にはあったものの実際目にして分かる規模の大きさに、事前に知っていたキャスター、落ち着いた様子だが顔を顰めているヒッポメネス以外言葉を失っている。

 

「何よこれ…、超抜級の魔術炉じゃない」

 

「これが大聖杯…」

 

『製作したのはアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さないホムンクルスだけで構成された一族のようですが』

 

「───話はそこまでだ。奴さん、気付きやがった」

 

 その人影は、いつの間にか大聖杯の前にいた。いや元々いたのをこちらが気づかなかっただけなのかもしれない。

 注目すればするほど理解してしまうその存在感に気づいてしまう。

 その者は少女であった。されど少女の可憐さや愛らしさは重厚な鎧と手に持った黒く染まった剣により微塵になってしまった。

 病的な程に白い肌、温もりを感じられない氷のような金色の瞳。こちらを見定めるように立つ姿は───まるで暴君のようだった。

 

「…あれが、騎士王?」

 

「異変が起こる前はもうちょっと小綺麗だったんだがな。間違いなく、アレは騎士王だ」

 

「っ!」

 

 誉れ高きブリテンの王の圧力に負けずと盾を構えたマシュ。そのマシュに釣られ、立香も身を構えた。いつでもいけると覚悟を決めた瞬間。

 

「───ほう。珍しいサーヴァントがいるな」

 

「なぬっ!?」

 

 こちらへと語りかけてきたセイバーに、キャスターが驚愕した。

 

「てめえ喋れたのか!?」

 

「ああ、何を語っても筒抜けの状態ゆえにな。こうして案山子に徹していたのだが…」

 

 金の瞳が一人の姿を収める。

 

「なにぶん、興味が湧いたのでな」

 

「……?」

 

 セイバーの視線の先、大楯を持ち、マスター達を守るサーヴァント。マシュ・キリエライトを注視していた。

 

「構えろ、名も知れぬ娘。その守りが真実であるかどうか、この剣で確かめてやろう」

 

 

 

 黒く染まった剣が両手で握られ、上段に構えられた。その瞬間、魔力が噴出する。黒く、されど煌めく魔力のジェット噴射に空間が振動している。肌に伝わる魔力波に全員の本能を刺激する。

 

 

 

 宝具解放目前、回避及び防御体勢推奨。

 

 

 

「マシュ!!」

 

「はい!!」

 

 自然の流れで立香が指示し、マシュが最前列に立つ。マシュの大楯はあの剣の波動に共鳴するように淡く光り出していた。

 

「行くぞ。───卑王鉄槌 極光は反転する 光を呑め」

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガアァァァン)!!!」

 

 

 

 

 

 叩きつけられる極光の斬撃。()ではなく()の迫力は濃厚な死を脳裏に運ぶ。それを前にして恐怖で狼狽えることさえも許されない。

 唯一許されるものがあるとしたら、それは───

 

 

 

「宝具、展開します!!」

 

 

 

 勇気、それしかあるまい。

 

 

 

「仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!!」

 

 

 

 展開される彼女の宝具。

 キャスターの訓練の元、宝具こそ展開できたこそ真名を得るまではいかなかった。だが、この宝具は彼女の心の在りよう。

 守る、それこそが彼女が得たサーヴァントとしての宿命。その一点にこそ彼女の本質、マシュ・キリエライトというサーヴァントの真なる姿であった。

 

 彼女の盾が聖剣の極光を受け止める。多大なる黒の奔流を正面から受けてもなお───彼女の盾は傷つかない。命を断絶させ得る熱量を前にしても、溶けることも、崩れることもない。

 その盾は、後ろに続くもの全てを守り抜く。それがマシュの決意そのものだった。

 

「───やるではないか」

 

「行くぞ!!」

 

「はい!!」

 

 盾は全てを受け止め切った。盾の後ろにいる者全てを守りきり、聖剣の極光は消え去った。それと同時に盾の左右から二騎のサーヴァントが飛び出した。

 

「アンサズ!!」

 

淵源=波及(セット)!!」

 

「ふんっ!」

 

 炎と槍が空気を突き抜ける。二方向から迫る刃と熱にセイバーは一瞥し、聖剣を振るって切りさばいた。

 

「喰らえ!!」

 

「黙れ」

 

 ヒッポメネスの小剣の振り下ろしにセイバーは眉の一つ動かすことなく、受け止める。そのまま片脚を持ち上げ、ヒッポメネスの腹を蹴り飛ばした。

 

「オラァ!!!」

 

「ふっ!!」

 

 ルーンを刻み連続で放たれる四つの火柱が上がる。統率が取れた動きでセイバーを囲み、飲み込もうとするが魔力放出により生まれた突風で搔き消した。

 

「その程度か?」

 

「なんの!!」

 

 投擲された槍を回収し、ヒッポメネスが再び特攻を試みる。セイバーがそれを鼻で嗤い、突きの構えで待ち受けた。だが、ヒッポメネスは槍と小剣をセイバーへと向けるのではなく、方向を変えて地面へと突き刺した。

 

「なに?」

 

「僕の得意技さ!!」

 

 槍と小剣に魔力が流し込まれた。地面が隆起し、セイバーへと迫る。迫る地面からの振動にセイバーは飛び退いた。

 地面の下から突き上げられる、水流。螺旋を描くように生える水の槍はセイバーの胴へと狙いを定めていた。

 

「小細工を!」

 

 一太刀で水流は両断される。魔力を含んだ水滴が散り、地面に染み込んでいく。

 次の行動へとセイバーが一歩動こうとした。しかし、散っていく無数の水滴。その無数の水滴が僅かに光に反射して移された光景をセイバーの視力が捉えた。

 こちらへと向かって、駆けてくる()()の姿を。

 

「やあああああ!!」

 

「なに!?」

 

 遠心力を利用し、水平に振られる巨大な盾。盾の重量、遠心力、サーヴァントの筋力が加わった強烈な一撃はセイバーの脇腹に確実にめり込んだ。

 

「ぐぅ!?」

 

 空気の破裂音と共に弾け飛ぶ。吹き飛んでいく最中、セイバーはすぐに空中で体勢を直し、地面に触れた瞬間受け身をとって立ち上がる。

 セイバーが顔を上げるとヒッポメネスと並ぶように立つシールダー、マシュがいる。あの水流は陽動で、あの一撃のための演技に過ぎないことが分かった。

 

「ちっ!」

 

 セイバーが傷む腹部を無視し、剣を構え直す。同時に攻め込んできたヒッポメネスとマシュを卓越した剣技で相手する。

 手数で攻めてくる槍と小剣、大振りではあるが流れを止めずに扱われる盾。どちらも厄介ではあるが、さして問題はない。

 

 問題なのは、後方で()()を放とうとするドルイドだ。

 

「我が魔術は炎の檻。荊の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社」

 

 二人の後方にて杖を構え、魔力を高めるキャスター(ドルイド僧)。自身が保有する『直感』スキルが無くとも分かる宝具開帳の昂りが起こっている。

 

「はぁっ!!」

 

「っ!!」

 

「きゃっ!!」

 

 魔力を纏った聖剣を地面へと突き立て、地割れを起こす。セイバーを中心とした大地が破れ、盛り上がる。大地の隆起により二人は強制的にセイバーの前から消え去る。

 作った活路をセイバーは一歩の踏み出しで最高速度を持って駆け抜ける。

 キャスターは宝具の用意のために守りはない。聖剣の一撃で斃される。魔力放出のギアをもう一段階上げて、キャスターの懐へと飛び込もうとした。

 

 

 

「令呪を持って命ずる!!」

 

 

 

 若い少年の声が大空洞に響く。魔力放出の余波にて生まれた暴風が奏でる爆音の中においても、そこにいる全ての者の耳に届いた。

 

 

 

「ヒッポメネス! 宝具を解放してくれ!!」

 

 

 

 その願いはすぐに届かれた。セイバーにより生み出された瓦礫の中から黄金の林檎が一つ飛び出した。

 黄金に輝く林檎はそこに顕現した瞬間に魅力を縦横無尽へと解き放つ。

 アレはダメだ、見てはいけない。そう直感していても、セイバーは立ち止まり、振り返るなと叫ぶ理性が叫ぶのに振り返ってしまう。

 

 

 

「もう一つ! 令呪を持って命ずる!!」

 

 

 

 

 

「ぶっ飛ばせ!! キャスター!!!」

 

 

 

 

 

「応よ! その命しかと引き受けたぁ!!」

 

 

 

 熱が込み上げた。セイバーを中心に、取り囲むように赤い炎が彼女を捕縛する。

 炎は檻の形を成し、セイバーを閉じ込めた。やがてその檻には手足が生まれ、人の形と変形していく。

 

 

 

「オラ、遠慮はいらずに全部喰らっていきな!!

 

 焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!!」

 

 

 

 それは巨人である。燃える巨人であった。腹部には檻が収まっており、豪炎のなか立ち尽くす巨人だ。

 

「ぐ、あああああぁぁぁ!!?」

 

 セイバーを包む炎は彼女の肉体を血肉を焦がし、骨に熱を与える。巨人は自らを抱擁するように両腕を腹に回し、そのまま前のめりに倒れた。地面に伏した瞬間、巨人は自らを破裂させる。今までと比にならない熱と炎は大空洞を光で満たさせた。

 

 

 

 巨人が消えた後は焦げた大地しか残っていなかった。人が息をするには困難な環境。ごく僅かながらも焦熱地獄は其処に生み出されていた。

 

「終わった、のですか?」

 

「・・・・・」

 

 マシュとヒッポメネスは合流し、キャスターの宝具解放後の光景を目に移す。

 大空洞内の温度が上がっているほどの熱量、あれを直に喰らって生きているサーヴァントなど……結構いたりするため簡単に倒されたとは思いにくい。

 

 

 そのヒッポメネスの懸念は当たり、焦げた大地の下から、セイバーが這い上がった。

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 キャスターの宝具をモロに受けても生き残っているセイバーを見て、所長が叫ぶ。立香は身を強張らせ、マシュは立香達の元へとすぐに飛んでいった。

 

「キャスター! もう一度宝具を!!」

 

「いや、必要ねえよ」

 

 キャスターは立ち上がったセイバーを見ながら、構えを解いた。

 

「俺たちの勝ちだ」

 

 セイバーの肉体が、綻んでいく。魔力によって現界しているサーヴァントは全て魔力によって形成されている。崩れていく身体は直ぐに魔力となって宙へと消えていく。

 

「───フ、結局こうなるのか」

 

 常に冷酷と表情を固めていた彼女の顔は、寂しげな笑顔をしていた。

 

「私一人ではこの結末。運命を一人で抗おうとは、この末路も納得か」

 

「…それはどういう意味だ、セイバー?」

 

「貴方もいずれ知ることになる、アイルランドの光の御子よ」

 

 

 

「グランドオーダー。聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだと」

 

 

 

 セイバー、騎士王である彼女の目は立花達へと移った。

 

 

 

「人類最後のマスターよ。願わくば我が剣、これから起こりうる戦いの為に振るいたいものだ」

 

 

 

 それだけ言うと、彼女は完全に消えていった。

 あまりにも不吉な言葉。グランドオーダー、聖杯、()()()()のマスター。

 ありとあらゆる謎を彼らに残し、聖杯の守護者は聖杯戦争を敗退した。

 

 




感想ありがとうございます。誤字修正、本当にありがとうございます!!
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