提督と異様な艦娘達 作:ポン酢放置禁止区域
読んでくださってありがとうございます。
3/30サブタイトルをつけ忘れましたのでつけました。
誠にすいません。
執務室内の艦娘達は激しく動揺した。確実に死んだはずだ、それなのにこの人間は両足を地面につけてこの執務室に立っている、異常だ。
その異常がこの執務室にはあり得た、青悟は生きていて、一歩一歩と艦娘達に迫っていく。
「っ! 砲撃! 砲撃用意よ!!」
陸奥が焦りながら叫ぶ。
この人間を着任させてはいけない、みんなを守るのだ、と。
先程かなりの弾薬を消費したがそれでもまだここにいる艦娘達はあと一回くらいは砲撃できる。
この新しい提督が、あの砲撃の中無傷だったのは何故なのかはわからないが、この至近距離で一斉射撃すればひとたまりもないだろう。
前任の提督が無駄に拡張して広い執務室は広く、十数人の艦娘がいても不自由なく砲撃が行える。
長門を除き全員が動揺しながらも砲の照準を青悟に合わせた。
「止まりなさい! それ以上近づくと撃つわよ!」
「ならさっさと撃てばいいだろう? 遠慮するな、貴様等が憎んでやまない人間だ」
制止の言葉を無視し、青悟は歩を進める。
まるで死を恐れない行動に陸奥の背筋が冷えた。
何か策があるのか、迷いなく、止まることなく向かってくる。
そういえば一緒にいた艦娘はどうなったのか、この男が無傷ならばあの艦娘もおそらくどこかにいる、しかし、この執務室に入って来た気配は全くなかった。
それにこの男の手には拳銃が握られていない、どうやって長門を撃ったのだ。
思考し、心を落ち着かせて執務室を見渡そう、まだ距離はある、と陸奥が思った時――
――青悟が突然こちらに向かって走り出した――
焦るなんてものではない、陸奥の心臓が跳ね、思わず砲撃してしまいそうになり、寸前のところで抑えた。
必ず何かがあるはずだ、それを見極めなければ、と。
しかし、艦娘が全員陸奥のように冷静な艦娘というワケではなかった。
「うわあああああああああ!!!」
「っ! 待ちなさい!」
陸奥が気づいて止まるが遅い。何人かの駆逐艦に分類される幼い艦娘達が抑えきれず、砲撃、轟音が執務室に響き渡る。
近い距離で撃たれたこの砲弾を青悟が防ぐ事は出来ない、さらに、それが引き金となり、堰を切ったように他の艦娘も一斉に砲撃を始めてしまった。
人間であれば着弾すれば一発だろうと体が細切れになってちぎれ飛ぶであろう砲弾が群れとなって襲う。
そしてまた爆発した。
当たった、陸奥にはそう見えた、だが先程もそう思ったら生きていたのだ、油断はできない。
どう防いだのか、陸奥は執務室の窓を開き、風を入れて煙を払っていく。
その中に、やはり人の影がある、形を残している。
だが、煙が晴れていくと陸奥は、いや艦娘達はその異変に気付いた。
青悟は白い軍服を着ていたはずなのに異様に黒いのだ。いくら煙の中の影と言っても黒すぎる、まるで何か黒いモノに覆われているかのように。
「隊長~痛いです~」
そして声、その声の主は今ここにいる艦娘でも、青悟でもない。
ずるり、べちゃ、と何か湿った物が落ちる音がして、青悟の顔が見える。つまり今まで黒い何かが張り付いていたという事、そして煙が晴れると青悟の足元に黒い何かが飛び散った跡があった。
勿論青悟は無傷だ。
「なっ何なのよ! その黒い物は!?」
砲撃をした艦娘の誰かが叫ぶ、と黒い何かがひとりでに動き出し集まり、形を変え始めた。
「初対面で黒い物とは失礼ですよ!」
またさっきの声、しかもその声は黒い何かが発している。その形は人間を形作り、やがて一人の少女となった。
白いスクール水着に大きく丸とその中にゆ、ゴーグルを頭にかけ、その容姿は黒い肌を除きとある艦娘と酷似している。
「黒い物じゃないです! まるゆです!」
その幼い容姿で頬を膨らませてまるゆとそう名乗った。
ここだけを見れば可愛くて緊張感をぶち壊しにするが、そこまでの一連の変化があるので艦娘達は恐怖しか覚えなかった。そもそもまるゆと言えば艦娘の中でも最弱と言われる程に弱い艦娘だ、こんな気味の悪いモノなはずがない。
「こいつは私の元の鎮守府の艦娘だ、仲良くな」
「よろしくお願いします~」
不自然に震えながらまるゆの形をした何かが笑顔で礼儀正しく一礼する。
それに対してあいさつを返せる艦娘はこの中にはいなかった。
「それで終わりか? それともまだ手はあるのか? あるなら早くしろ」
そしてまた青悟が歩き出す、まるゆもそれに続く。
距離はさらに詰まる、艦娘達は一斉砲撃したので弾薬は残されていない。
だが手段が残されていないわけではない。
「黙ってれば舐めやがって! 砲撃が無くたって!」
一人、日本の角のような装備と眼帯をつけた艦娘、天龍が飛び出す、その手には刀が握られている。それに続いて姉妹艦である天使の輪みたいな物が頭の上にある龍田も手に薙刀を持って続く。
常人と艦娘、その身体能力には大きく差があるから近接戦闘に持ち込むのだ。
青悟を守っているまるゆは一人で、しかも今は守るべき青悟の横をフラフラとついているだけ、二人で速攻を仕掛ければ防ぐ事は出来ない。
二手から挟み込むように走り、攻撃を仕掛ける。
そして、切りかかろうと天龍が刀を振り上げた時、
「まあまあそうカリカリしないでよ」
「なっっ! あ!?」
刀が手から抜けた、慌てて後ろを向くと刀を持ってあくびをする艦娘がまた一人。
青悟が連れてきた一人、髪をツーサイドアップにして、マフラーで口元を覆った艦娘、川内だ。
天龍は、そして青悟に砲口を向けた艦娘達は川内がいつそこに現れたのか全く気付かなかった、
「あああああああああああああ!!!!」
呆然としている天龍は龍田の悲鳴で我に帰り、振り返る。
龍田は地面にうつぶせにさせられて、その上にまたがっている艦娘が足を絡め合わせてプロレスでいう所のサソリ固めを決めている。
その激痛にばたつくも、完璧に決まっているそれから逃げる事は出来ない。
どんどん体の反りの角度がきついものになり、息すら吸えなくなっていく。
その上で無表情な顔で関節を決める艦娘、ブレザーに赤ネクタイを締めたショートヘアー、若葉、幼い見た目で体格は龍田に大きく劣っているが、力で負ける事は無く、容赦もない。
「龍田! っ!」
「おっと、動かないでよね」
駆け寄ろうとした天龍の首筋に川内が取った刀を添える。もちろん峰ではなく刃の方を。
「ああああぁ!! ああぁ! あ゛………」
徐々に弱まっていき、体から鈍い音が鳴った後、龍田はやがて意識を失った。
それを確認し、若葉は立ち上がるを、ブレザーの内ポケットから煙草を取り出す。
「折ったのか?」
「折ってない、外した」
青悟に短く答えて、若葉はライターを取り出す。
「さっき龍驤にも言ったが我慢しろ」
「……わかった」
そして、龍驤と同じように青悟の顔を見て、どちらもしまった。
一方で川内も天龍に刀を振るい、龍田と同じように天龍も床にうつぶせに倒れた、血は出ていない、峰打ちだ。
「あー、折れちゃった」
川内はそう言って刀を天龍の近くに放る、その刀は少し曲がっていた。
「さて、もう終わりか?」
青悟はそう言ってまた歩き出す、今の天龍と龍田を見て、飛び出そうとする艦娘はいなかった。
ゆっくりと青悟達とこの鎮守府の艦娘達の距離が近づいていく。
他の艦娘が怯える中で陸奥は最後の抵抗の機会をうかがっていた。
冷静になって砲撃をしなかったのでわずかであるが一、二発なら撃てる弾薬が残っているのだ。
もう、どうにかできる気は全くしないが、それでも一矢報いてやろうという気持ちがある。何より、長門が撃たれたことが許せなかった。艦娘があの程度の銃弾で死ぬ事は無いが、攻撃された、という事に陸奥はまだ怒りがおさまっていない。
狙って、狙って、青悟を見ていたら、青悟も足を止め、静かに陸奥の目を見る。
互に見合い、陸奥は青悟の感情が映っていない目に自分の中を見られているような感覚を覚えた、長い沈黙の後、目を合わせたまま、青悟は陸奥に問う。
「撃つのか?」
この時、陸奥の心は負けを悟った、自分に残りの弾薬がある事を気付かれている、そして気付いていないにしてもこの男に不測の事態が起こったら周りの艦娘達が何とかするだろう、こちらの作戦に乗っかって未だにきれいなままの白い軍服は、自分達では手も足も出なかった事を現している気がして、陸奥はため息を吐いて手を上げた。
「ないわ、降参よ」
「そうか、ならそこからどいて全員こちら側に来い」
青悟の命令に抗う艦娘はもういない、この鎮守府の艦娘はおとなしく青悟の方に来た。
艦娘達が立っていたのは執務机の周り、そこからどくという事は青悟に執務を渡す、提督に任命する事に他ならない。前任がやたら豪奢に格調高くした大きい執務机まで行き、青悟は椅子に腰かけた。
それと同時に鎮守府内のスピーカーから放送が入る。
『あー、マイク入ってるクマ? 大丈夫そうか、えー鎮守府のモブ艦娘の皆さん、どうも球磨クマ、この度、提督が鎮守府に着任したクマ、これより艦隊の指揮を執るからしっかりという事を聞くクマよ』
青悟が連れてきた艦娘の声、放送システムを操っての知らせはこれで鎮守府内の艦娘達に知れ渡った。
こうして、この鎮守府に尾上 青悟は提督として着任した。
次回予告 着任挨拶はほどほどに短く
人間の着任に反対する艦娘達を退けて着任した青悟。
これからどういう方針でこの鎮守府を運営していくのか、人間に対して信頼を寄せていない艦娘達とどう接するのか。すべては新提督の着任式で青悟の口から語られる。
その話を聞いた時、はたして艦娘達は何を思うのか。
期待しないでお待ちください。