提督と異様な艦娘達   作:ポン酢放置禁止区域

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第三話 着任挨拶はほどほどに短く

 執務室の窓を開け、景色を見ながら龍驤が火のついた煙草を吸い、白い煙を吹く。

 この鎮守府の艦娘達に熱い歓迎を受けた青悟は、無事に着任し、そしてその後、自分に砲口を向けた艦娘達をあっさりと解放し、鎮守府内にある寮へと帰らせた。

 そうして、今この執務室にいるのは青悟と、青悟と共に来た艦娘しかいない。

 

『ただいまー、って執務室にドアがないとか斬新な鎮守府クマ』

 

 斬新な語尾をつけた艦娘が執務室に入ってくる、頭から一本飛び出たアホ毛が特徴的な球磨、青悟が連れてきた艦娘であり、先程放送をいれた本人であった。

 

「それは派手なドンパチがあってさっき壊されたんや」

『へえー、どんな理由があるにせよ自分達の働く場所であり、住む場所でもある鎮守府のドアを壊すなんて正気を疑うクマ』

 

やれやれと肩をすくめた球磨は、どこからか週刊漫画雑誌を取り出して応接用のソファに座り、机に脚を乗せてページをめくり始めた。

 向かいのソファではあおむけになって目を瞑る川内、川内という艦娘はその大体が夜戦好きで知られ、夜行性といっても過言ではない生活を送っているので、午前十時の今から寝ていても何も不思議な事は無い。

 

「それにしてもよかったんか提督、あいつら返してもうて、絶対にまたなんかやってくるで」

 

 龍驤は青悟に視線を向けて、短くなった煙草を携帯灰皿ににじり、火を消す。

 先程はあっさりと作戦を破壊して艦娘達を降伏させたわけだが、もちろん艦娘達の人間に対して抱く憎しみが消えたワケはない。むしろ今度こそは、と作戦を練ってくるであろう事は明白だ。

 だというのに青悟は腹を撃たれた長門の傷や、龍田の脱臼を治療して帰した。

 付き合いがあるから、青悟がただ帰したワケではない事はわかる龍驤だが気になって聞いていた。

 

「特に問題はない、というよりも何かやってくるぐらいの精神があってくれなければ困る」

「? まあ、派手にドンパチできるのは嬉しいんやけどな」

 

 何かの書類に目を通し、ペンを走らせながら青悟が答える、その返答では真意が読めなかったが、龍驤はそれ以上追及する事は無く、もう一本煙草を取りだした。

 

「火だ」

「ありがとう」

 

 そこに隣で同じく煙草を吸っていた若葉がライターを差し出し、火をつけた。

 執務室の時間は静かに過ぎていく。

 

 

 

 

「攻撃開始はあの男が挨拶をする時よ、そこで空母の人達が爆撃、それを見届けた後に私達で砲撃、さらに確実にやるために一斉に接近して仕留める、これしかないと思うの」

 

 艦娘達が寝泊まりする寮、その近くの少し開けた場所に艦娘達は集まっていた。

 何故か、もちろん人間をこの鎮守府から排除するための作戦を練るためである。

 青悟は艦娘達を返す際に伝言を頼んでいた。

 曰く、着任式を午後ヒトヨンサンマルに行うから艦娘を全員食堂に集めろ、との事。

 これを陸奥はチャンスと取った。

 先程の作戦では空母に分類される艦娘達の艦載機が、執務室の広さの問題で使えなかった。

 しかし今度は食堂、多くの艦娘を抱えるこの鎮守府の食堂は広く、艦載機を飛ばせる余裕がある。

 それを含めての最大火力で挑めば確実に仕留めることが出来るだろう。

 

「加賀、任せたわよ」

「ええ、鎮守府(ここ)は譲れません!」

 

 空母艦娘、加賀、この鎮守府の艦娘を仕切る彼女の普段は表情の乏しい顔には言いしれない迫力があった。

 そして振り返り、後ろに集まった空母、軽空母の皆の方を見渡す。

 

「前回の作戦に参加できなかった分、存分にぶつけてあげましょう!」

 

 その言葉を受け止め、空母の艦娘達は静かにうなずいた。

 

 

 

 そして、時間は過ぎ、着任式の時間が迫って来た。

 ヒトヨンフタマル、広い食堂に集まった艦娘達は青悟が来るのを今か今かと待ち受けている。

 艦娘の艤装、つまり砲やら魚雷やら艦載機は艦娘の意思によって出し入れができるようになっている。装備しているかいないかは外から見ても分からない。

 と、静かな食堂に向けて、足音が聞こえてくる。

 青悟と付き従う艦娘が来た。

 ドアを開き、入って来た青悟に艦娘達の視線が注がれる、憎しみ、恐怖、その視線に含まれる感情に明るいモノはあまりない。

 それを意に介さず、青悟は並ぶ艦娘達の横を歩き、艦娘達の前に出た。

 青悟についてきた艦娘は、龍驤、まるゆ、若葉、川内、球磨、その順番で並ぶ。

 それを確認すると司会役に任命された大淀がマイクを握り、口を開く。

 

「そ、それでは、新しい提督、尾上 青悟中佐の着任式を行います、お、尾上中佐、艦娘達への挨拶をお願いします」

 

 緊張からか、少し震えながらも大淀は青悟にマイクを渡す、受け取った青悟は前に出て、口を開いた。

 

「今朝は歓迎ありがとう、少々派手だったが――」

「艦載機、発艦します!」

 

 作戦通り、加賀の合図に合わせて空母の艦娘達が艤装を展開する。

 弓と矢が光と共に現れて、それを素早く天井に向かって撃つ、放たれた弓は艦載機へと姿を変えて、、エンジン音を鳴らしながら青悟に迫った。

 青悟の後ろに並ぶ艦娘達が動く様子はない、気づいていないわけではない、しかし動かない。

 続く作戦の為に艤装を構えた艦娘達の中でそれに気づく者もいたが、問題はないかと割り切り、砲口を青悟と並ぶ艦娘達に定める。

 攻勢、勢いは止まらない、空母が放った艦載機群が青悟に襲い掛かるか、と、まさにその時、

 

「我輩を前に頭が高いのではないか?」

 

 何が起きたのか、今まさに攻撃をしようとしていた艦娘達は膝をつき、平伏していた。

 艦載機も攻撃せずに食堂を飛び、空母の元に戻っていく。

 艦娘達は顔を上げようとしたが、上がらない、動けない。

 力を込めて、かろうじて頭を上げた陸奥が見たのは青悟の横に立つ先程まではいなかった二人の艦娘。

 揃いの緑の制服に身を包んだ姉妹艦、マイクを手に尊大な態度で平伏す艦娘を見下ろす艦娘、リボンで結ったツインテールの利根、その三歩後ろ辺りで穏やかに微笑みを浮かべる艦娘、筑摩。

 艦娘達を平伏させた一言を発したのは利根だろう。

 現れるだけで体が勝手に降伏を示す利根なんて陸奥は聞いた事がない。

 

「青悟、これでいいか?」

「ああ、利根、ありがとう」

「この位で礼を言うな、青悟の頼みなら我輩は何でもやるぞ!」

「そうか、それは助かる」

「では、我輩はこれからえすての時間じゃから行くぞ」

「姉さん、車の準備は出来ています」

 

 青悟にマイクを渡して軽く手を振り、利根と筑摩は食堂から出ていく。

 ちなみに青悟と付き従う艦娘達は普通に立っている。

 

「さて、貴様等、頭を上げていいぞ」

 

 青悟のマイクを通した一言で、やっと艦娘達は動く事が出来たが、完全に出鼻をくじかれたので攻撃を再開はしなかった。

 それを見まわし、青悟は一つ息を吐いた。

 

「貴様等も今のでわかったように、貴様等はとても弱い、そして愚かだ」

 

 その一言で殺気立つ艦娘達の視線は青悟に集中した、が、その言葉は全く持ってその通りだったのでぐうの音も出ず、黙り込んだままだ。

 

「だから前任のクズに好き勝手されたのだ」

 

 その言葉で艦娘達は過去を思い出す、ぼろ雑巾になるまで出動させられ、奴隷のように嬲られ虐げられた過去を、その怒りが心の中にあふれ、青悟に砲口を向ける。

 だがその様子を見て青悟は笑顔を見せた。

 艦娘達の心が揺れる、何故この男はこの状況で笑えるのだ、と。

 

「そうだ、怒れ! どんな感情であれそれはエネルギーとなる、それを使い、力を磨け! 技術を学べ! 自分の力で望みをつかんで見せろ」

 

 殺意を前にして笑う青悟の言葉が食堂中に響き渡った。

 艦娘達は怒りを、憎しみを否定しない、逆に煽り募らせるような言葉が艦娘達の心に響く。

 

「今その手に持った武器が届かなくとも、力を蓄えた未来なら届く! 貴様等が力を求めるのならば手を貸そう……とは言っても貴様等は冷静に判断できないだろう、なので二日待つ、その期間で判断をつけろ、二日経ったらまたこの食堂に集める、質問があるなら執務室に来い、以上だ」

 

 話を終えた青悟は大淀にマイクを差し出そうとして、まだへたりこんでいるのに気づき、床にマイクを置いてその場を去った。




次回 決めるのは自分

青悟の言葉に決断を迫られる鎮守府の艦娘達、それぞれが思い悩む中、執務室の扉を叩く艦娘が一人いた。その艦娘とは誰か、そして艦娘達はどう判断を下すのか。

次回も期待しないでお待ちください。ありがとうございました。
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