とうとう『先生』の正体が判明します。気付いている人もいると思いますが...
「あ、先生‼あの、ここわからないんですけど」
「ん?ここか?これはこの式を使って出た答えを、こっちの公式に代入して、そのあと...」
「あ、あぁ、わかりました‼」
「本当か?」
「本当ですよ‼ありがとうございます!」
※ ※ ※ ※ ※
「「木戸先生...」」
俺とウィッチさんは驚いた。まさか木戸先生がGDとは思わなかった。
「まさか、零矢お前だったとはな」
今、気付いたというその表情はいつもとはまるで違い真面目そうな丸眼鏡を外し、優しそうな面影は微塵も感じなかった。言わば、顔は同じだが感じが違うというようだ。
「なんで、先生が...?」
その時、マイクの奥からウィッチさんが言った。
「God-tellをスピーカーにして...」
言われた通り、スピーカーにして先生の前に出した。
「木戸先生、あなただったんですね...あの時、私の発明品を盗んでGDに流したのは」
何故、ウィッチさんが木戸先生を知っているのだろうとふと思ったがウィッチさんは俺の二歳上だし、木戸先生は五年ぐらい学校にいるらしいから知っていてもおかしくなかった。
「疑ってはいたけど、信じたくなかった...違うって思ってた。あの先生が犯人だなんて...」
その冷たく沈んだ声はか細く独り言のように呟いていく。その声は回りの薪さえ耳障りな程弱々しかった。
「もう、何も信じたくない...信じれない...私は何を...何を信じてこれから生きて行けば良いんですか⁉信じても裏切りが待っているこの世界で意味嫌われるこの力を持ってどうやって生きて行けと...⁉」
途中で泣き声になり、弱々しかった声は更に弱々しくなった。そんな声のウィッチさんを聞きながら俺は目を伏せることしかできない。彼女の絶望はそれほど大きかった。そんな彼女に何をすれば元に戻るかなんて、俺にはわからない。
「違うだろ、言っている事が...」
そんな静寂を絶ち切ったのは先生だった。
「だったら何故その男を連れて来た?お前はそこに立っている男を信じたから連れて来たんだろ?」
ウィッチさんは語るのを止めた。ただ荒い息づかいだけがマイクから響く。
「なぁ、零矢?お前はなんで俺ではなく卯一の方を信じた?」
俺はこの問いを問題だと思った。いつもと変わらない先生からの問題。なら答えは偽りなく丁寧に答えなければならない。そう教わったから。
「俺はあんたの言葉を信じたからウィッチさんの事を信じたんだ。あんたが俺は利用されてるって言った時、俺はそうかもしれないって思った。だってここもわざわざ俺を呼ばず自分で来れば良いから。でもさ、自分の尻拭いを人にさせようってなら『現在と未来を繋ぐ糸』なんて名前付けたアイテム渡すか、普通。魂胆バレバレじゃんか。だから俺はウィッチさんを信じた。自分の過去じゃなく未来へ歩もうとしてるウィッチさんにな」
簡潔な答えだっただろうか。あまり話には自信がないのだが。
「そういう事だ。卯一、わかっただろ。別にそんなに絶望する事じゃない。お前は昔からネガティブ思考なんだよ。俺が盗んだのは...悪いと思ってるがお前の発明品なら世界を救えるからと思ったからだ」
そう言った後で先生は俺に目線を送り顎で合図をした。岩戸の方にネックレスはあるということだろう。俺はウィッチさんにその事を話し、ステージの方向へと向かった。
……世界を救うって何の事だよ⁉先生...
※ ※ ※ ※ ※
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ‼‼良いぞ、もっとやれ‼‼」」」」
「うわっ、うるさ‼」
ステージは熱気に包まれ、回りは神達に囲まれむさ苦しかった。身動きが取れない。ステージすら見えない。何とかネックレスを探す為に誰かに話し掛けたいが、頼みの綱の天宇受売命はステージだろうし、この人達に話そうとしてもうるさいから聞こえないだろうし、万事休すの状態である。しかし、このままいるわけにはいかず、俺は何とか人混みを掻き分けステージ袖まで行った。
※ ※ ※ ※ ※
……何だか外が騒がしい
最初はただ太陽が無くなって騒いでいるのかと思ったが、それにしては長く続いている。悲観的な叫び声ではなく笑い声が聞こえるので太陽が無くなって騒いでいるのではないのか。
岩戸に入って早数時間。外の反応以外は何も変わらず、薄暗い岩の中に自分がいることで中は少し明るくなっている。時折、曲げたままの両足を伸ばしたりして私はこの窮屈な時間を繰り返し過ごしていた。そしてその退屈しのぎとして自分の事を思い出していた。
※ ※ ※ ※ ※
「天照大御神、お前は高天原を治めなさい」
「わかりました、父上」
私は天照大御神。伊邪那岐命から生まれた三貴神の一人。弟は二人いる。私は父上の期待に応える為、信頼してくれる皆を裏切らない為に働いた。例え辛くとも笑って頑張った。
だけど徐々に疲れて来た。皆の期待も信頼も全てはあの伊邪那岐命の娘だから当然だろうという過度な物だったと気付いた。だから私はいつも思金神に愚痴っていた。
「もう嫌だよ、思金神~!」
「そうおっしゃらずに、頑張って下さい‼」
彼は信頼出来るがこういう所が厳しい。そんな事を毎日毎日やっていたある日、弟が攻めて来た。
「何しに来たの⁉」
「えっ、アマ姉⁉何その格好、男?」
失礼な弟だ。正装だよ、せ、い、そ、う。
「私はれっきとした女なんですけど?ってか人前でアマ姉とか呼ぶなよ?何しに来たの?」
私は日々の鬱憤を晴らすように弟へ問いかける。構えた弓に力を入れ、変な事を言えばすぐに威嚇しようとした。すると、
「俺はただ、別れを言いに来ただけだ。別に高天原を攻めに来たわけじゃない」
信憑性は定かではないが占うことだけはしてみるかと思い、弟へ言い放つ。
「じゃあ誓約しなさい‼」
※ ※ ※ ※ ※
結果、弟の潔白は証明された。少し後味が悪かったがホッとした。せめてもの詫びだと思い高天原へ置くことにした。
思えばこれが間違いだったのだろうか。
私は弟が高天原でやんちゃしたのは全て意味があることだと思っていた。だから何かあればまだ子供だなと思いながら神力を使って直していた。
が、いずれ来るべき時が来たのかとうとう死人が出た。悪戯どころじゃ済まされない。責任を問われるなら弟をここへ入れた私だ。私は誰も来ない内にこの岩戸の中まで逃げて来たということだ。
退屈しのぎと思ったが余計気分が悪くなった。暗いじめじめした所に私のような存在は居づらいのだろうか。まだ外は騒がしい。元はと言えば皆が私に期待を押し付けた癖に、私が籠った瞬間お祭り騒ぎとは皮肉っているのだろうか。取りあえず私はここを出ない。
もし、この暗い世界から連れ出してくれる者が居るなら考えても良いかも...
※ ※ ※ ※ ※
「あっはっは!良いですね!たまにはこういうのも」
「天手力雄命神...あなた様の仕事はこれからなんですから」
「わかってるって!いや天宇受売命、いい身体してるじゃん」
「確かに...って何言わすんですか⁉」
何か居酒屋の中みたいな会話がしてると思って来てみたら、二人の青年みたいな神がいた。お酒飲んでるし絡まれたら面倒くさいけど仕方ない。
「あの、つかぬことをお聞きしますが」
俺は胸のネックレスを指し、
「このような物、もしくはこれに似たような物を見かけませんでしたか?」
すると、キリッとした頭の良さそうな方の神が思い当たるような顔をしたあとで、
「さあ、知らんな」
と、そっけなく返された。いや、絶対知ってるだろこいつ...
「じゃあ、祭りで飾ってある宝石類を勝手に調べさせてもらう」
俺は反抗心を露にし、きびすを返して立ち去ろうとする。すると肩を物凄い力で掴まれた。
「おいおい、見ず知らずの奴にそんな勝手なことさせるわけないだろ」
その声が聞こえた瞬間、俺の身体は宙に浮き、気が付くと近くの机の上に叩き付けられていた。ダメージが蓄積している今の俺の身体にこれは辛い。目を向けると筋肉がめちゃくちゃある神が見えた。さっきの頭良さげな神と話していた神だ。
「全くだ、物を盗むならもっと上手い言い訳を言うことだ」
どうやら俺を物取りと勘違いしているらしい。いや、待ってよ。俺この世界間接的に救ったようなものなのに褒美どころか仇で返されてるんですよ。
「兄ちゃんこっち来な、何か欲しいなら俺を倒してからにしな」
……言ったなこの野郎...
「じゃあ、倒したら教えてくれるのか?頭良さげな方?」
「誰が頭良さげな方だ、思金神だ。まぁ、考えてやっても良いぞ」
交渉成立。って思金神だったのか。作戦指揮してる奴がそんな事許して良いのかと思ったがまぁスルーしよう。早速俺と...筋肉ある神?は酒樽が積まれている所へ来た。と言っても普通に他の神がいる所だけど。
「ヘイヘイ、かかって来な、兄ちゃん」
筋肉のある神が挑発してくる。明らかに酔ってるだろ、これ。ふらふらしてるじゃん。俺はすぐに間合いを詰め、手刀で首筋を狙う。しかしガシッと掴まれた。掴まれた左腕がギシギシと音を立てる。
……何だこの神⁉力がスサ以上じゃねぇか...
「ほれ」
俺は腕を掴まれたまま投げられ鏡が沢山付いていた木にの上部へ激突し、下の酒樽へと落ちた。鏡が木の上から次々と落ちてきて酒樽に当たり割れていく。その拍子に積まれた酒樽が落ちて来た。
「あれ?やり過ぎた?兄ちゃん生きてるかー?」
「後輩クン!大丈夫⁉」
イヤホンマイクからウィッチさんの声が聞こえる。勿論俺は生きていた。酒樽同士の隙間に落ちたので何とか押し潰されはしなかったが、酒樽が重すぎて動けない。こうなればもう覚悟を決めるしかない。
「ウィッチさん、これ何Lあると思いますか?」
「推定20kg前後ってとこかなぁ?」
先程の泣き声とは違いいつもの声に戻っていたのを聞いて少しホッとした。
……20kgか...重いって言えば重いが、やるか!
「何で?」
「これもしあいつに投げれば、倒れますかね?」
「あぁ、なるほど。かなり飲んでそうだしいけるかも」
さすがウィッチさん。俺が考えていることをすぐに見抜いてくれた。じゃあ持ち上げるか。
「何だよ、口ほどでもない」
「おい、待てよ」
ガラガラと音を立てて酒樽が崩れる。俺は辛いながらも酒樽を持ち上げて煽るように言い放つ。
「ここからがショータイムだろうがッ‼」
俺は渾身の力で持ち上げた酒樽を筋肉のある神へ向け、投げ飛ばした。しかし、力が入り過ぎたのか筋肉のある神の足元へ落下してしまう。ならばもう一個!
「とりゃぁぁッッ!」
しかし全く当たらない。やってから気付いたが自分は投げるのはあまり得意ではない方だった。見ればあと一個のみ。
「良いのか?余力の無駄遣いだぞ?」
「多少の筋肉痛は覚悟の上だ‼」
最後の一個を持ち上げ、少し前方へ歩く。意図に気付いたのか筋肉のある神も近づいて来た。余裕のあるような歩きだ。距離2mぐらいまで近づき俺は酒樽を投擲した。近かった為、相手の顔面目掛けて放物線を描いて行く。しかし、当たったと思った瞬間に酒樽は砕かれた。拳一つで粉砕されたのだ。木片が飛び散り、酒が洪水のように筋肉のある神に降り注ぐ。
「ははッ、ざんね...」
言い終わる前に拳を叩き込む。不意打ちなので簡単に飛び、倒れている酒樽にぶつかってまたもや噴水のように吹き出す酒の雨。いや、雨と言うよりは霧に近いのだろうか。いずれにせよアルコールの匂いがするのには変わりない。
「痛いねぇ...やっと本気に...ってあれ?おかしいな、上手く立ってられ...」
筋肉のある神がその場で膝をついたのを見て作戦が成功している事を確信した。
「あれ、酔ってるのか?...くそッ、そんな倒れる程飲んで...」
「教えてあげようか?」
ウィッチさんがスピーカー状態で筋肉のある神に話し掛けた。っていうかそっち側からでもスピーカーにする事出来たんですか...
ささやかな驚きを気付かないように彼女は続ける。
「アルコールっていうのは飲む以外にも皮膚や呼吸からも体内に取り込む。あなたは後輩クンの作戦に気付かず身体にお酒を浴びた。酔っ払っていたあなたがそのままアルコールが充満する場所に居続けたら...立つのが困難になるほど酔っ払うでしょ?」
ウィッチさんの説明を聞いた筋肉のある神は悔しがる顔をして言った。
「さすがだ...ぜ兄ちゃん...完敗だ」
そして崩れ落ちるように倒れた。無論ただ酔っ払って眠りについただけだが。取りあえずこれで勝負には勝った訳だしやっと思金神に...ってあれ?なんか変な気がする。
「後輩クン?」
ウィッチさんに見抜かれたのか聞かれたので答えようとするも何故か頭がよく回らない。というか視界がぐらつく。
「ヒックッ...ふぇ?」
口から出たのはそんな言葉だった。ろれつが上手くまわらない。
「「え......⁉」」
──作戦の代償──
次回
いよいよ二章最終回。零矢は高天原に太陽を取り戻せるのか?
零矢ぁぁっ‼‼大丈夫かー!って言いたいです。自分で書いててちょっと可哀想だなと思ってしまいますが頑張ってもらいましょう‼
さてさて、誰か木戸先生覚えていた人います?出たの2、3話辺りですもんね。モブじゃなかったんですよ‼
次回はやっと終わりです。次々回ぐらいは日常的な話を予定しております。まず現代にほとんど居ないからね‼
年明ける前に出したいです。例の二人