霊「……絶対忘れてたあの作者」
翔「あの人番外編作るとか言ってたのに未だに情報来ませんね」
零「ストーリーの進行が遅すぎて作るに作れないらしいぞ」
神「何故二周年なのにグダグダなんだ!お前らもう少し喜べよ⁉」
「全くもう、何で急に集まるの年寄り達は!」
ただでさえ無い体力を使い、駅までたどり着いた私はコインロッカーにGod-tellを入れ、鍵を締めた。流石に息があがっている。
「えっと、場所は...」
「お久しぶりです、卯一様」
「うわっ⁉美空⁉」
そこにいたのはSPのようにスーツに身を包みセミロングの黒髪を後ろに纏めた私の
「何でここが?」
「寅次様から駅でバテてるだろうから迎えにと」
「あの馬鹿兄、家まで調べたの?」
実は美神コーポレーションの現社長、美神寅次は私の兄だったりするのだ。勿論公にはしていない、その為に名字まで偽装しているのだから。
「まさか、あの愛くるしい卯一様が男の家に同棲など...相手次第では我が会社は勢力を挙げてそいつを...」
「何?あの馬鹿兄貴そんなこと言ってるの」
急に声のトーンを変えた私に彼女は少し眉を動かしたが、すぐにいつもの調子に戻り、
「いえいえ、私の意見ですが...」
「言うようになったじゃない。だけど覚えておきなさい、私の日常に危害を加えたらどうなるか」
もしこの日常を誰かに奪われてしまったら私はどうなってしまうのだろう?悲しむ?怒る?狂う?なんにせよもう元には戻れなくなるだろう。
「申し訳ございませんでした。...そろそろ行きましょうか」
私は彼女に促されるまま、目的地へと急いだ。
※ ※ ※ ※ ※
「んっ...病院じゃないな、どこだ?」
目覚めると、どこか屋内にいるのがわかった。木造で爽やかな木の匂いが漂っている部屋に敷かれた布団に俺は寝かされていた。
俺は立ち上がり、近くのドアを開いた。すると、
「おいおい...どうなってんだよ」
木々が生い茂り、頭上から優しい光が降り注ぐ森の中に俺はいた。
市街地にいたはずなのに、急に森の中とはどうなっているのか?確か少女を助けて、鉄パイプの下敷きになったはず。夢遊病の類いか?
「起きた?」
頭上から声を掛けられ、見上げようとすると何かが降ってきて、着地した。
「うおっ⁉何?」
その子はウィッチさんよりもショートな金髪をなびかせて立ち上がった。深緑の少しボロっとした半纏を着込み森の中なのに短パン、それに下駄を履いていた。
その少女は紛れもなく、俺が事故から庇った子だった。ということはこの子が俺をここまで運んだのか?
「別に助けてくれなくても良かったのに。代わりにあなたは気絶しちゃうし面倒が増えただけ」
開口早々に可愛いげの無い言葉を連発してきた。なんだこのガキ、自分なら平気だったとでもいうのか?
「悪かったな」
「全くだよ」
このクソガキ...と思ったが流石に年下相手にキレる程子供じゃあ無い。一応傷の手当てもしてくれたわけだし。
「手当ありがとな」
そう言うと少し意外という風な顔をして目を背けた。照れているのか年頃らしい可愛いげのある態度だった。ツンデレとかいうやつなのか?
「ただの気まぐれ、特に深い意味はない。大丈夫そうだから早く出てって」
「っていうかどうやってここまで運んだんだ?」
そう聞くと彼女はピクッと反応したがすぐそっぽを向き聞こえない程小さな声で言った。
「この山には名前の通り天狗がいる」
薄々感じてはいたがやはりここは天狗山だった。しかし噂はよく聞くがまさか本物がいるなんて思いも寄らなかった。霊獣関連か?
それより彼女を助けた時近くにいたのは俺だけ、しかも真っ昼間の中で人に見られずに助けなんて呼べるのか?そう考えると彼女はこの山にいると言う天狗と何かしらの関係があると考えられるだろう。
いや、むしろ彼女自身が天狗...考え過ぎか。
「いつまでいるつもり?」
そう聞こえた瞬間、目を覆うような風が吹いたと思ったら、俺は山の外に出ていた。場所を悟られない為に強制転移させられた?これが天狗の力なのか。
トボトボと歩きながら思う。今日は本当によくわからない一日だ。
※ ※ ※ ※ ※
「どこだ⁉どこの路地裏なんだ⁉」
既に能力を使用してからは五分が過ぎている。このままだと今頃あの光景が現実になっていることだろう。大事になる前に止めなければ。
その時、ふと低い呻き声が角の奥から聞こえた気がした。まさかと思い、角に隠れながら日陰の中を見ると、三人ほど男が倒れていてその一人の胸ぐらを漁っている別の人物がいた。
「...霊香さん?」
その問い掛けはその人物に届き、ゆっくりと振り返った。少しかすり傷があるが紛れもない破神霊香本人だった。
「...何してるんですか?」
「……こいつら私が空腹で倒れてた時に知り合いを装ってその場から連れ去って不純な事をしようと企んでたから、抵抗した、それだけ」
抵抗と言っても、それは表向きで実際はほぼ一方的な蹂躙劇だったのだろう。元テロ集団の一員にそんな事をしたのだから生きていられるだけ奇跡みたいなものだ。
彼女の傍らにはナイフが二本とスタンガンらしき物が落ちていて、彼らがそれを使って彼女を拉致しようとして返り討ちにあっているビジョンが思い出された。
もし、僕が早めに見つけていなければ...彼らは五体満足とは言えなかったかもしれないと思うと身の毛がよだった。
「……こいつら、そんなに金持ってない」
「霊香さん?本当に何やってるんですか!それ泥棒ですよ」
「……今さら良いじゃん、襲って来たんだし」
彼女は仕方ない、と言うように開き直った。確かに殺しも厭わなかったであろう彼女からすれば泥棒なんて軽いものかもしれない。しかも正当防衛の後だ。
もしかしたら世間は面白がって、横たわっている彼らに暴言を吐き、彼女に哀れみの目を向ける。仕方ない、襲われたのだから、と。
「ダメです、どんな理由があったとしても他人の物を勝手に盗るなんてあり得ない。そう教わらなかったんですか?」
だけど僕は見逃す訳にはいけない。彼女にこれ以上罪を重ねさせない為に。
「……教わらなかった、私の周りの大人は奪えとしか。……とんだ綺麗事だね、そんな立場にもなったことが無いような人間が偉そうな口を聞かないで!」
彼女はらしくもなく感情的に答える。見たことがない反応に僕は正直戸惑ってしまった。良かれと思って言ったことが傷つけてしまっていたなんて。
その時、彼女の足下の男が少し動いたと思ったら傍らに落ちたスタンガンに向けて手を伸ばしていた。
「危ない‼」
咄嗟に駆け出した僕は彼女を押した。そして足に痛みが走ったかと思うと、思考とは裏腹に地面へと身体が崩れ落ちた。
※ ※ ※ ※ ※
「Hay“神”ここどこ?」
「私はAIごときじゃないんだが⁉」
俺は道に迷っていた。と言うのも天狗山から帰されたのは良いが、どうやら北街の方に出されたらしい。住んでる方向と正反対に位置するし、何しろここは廃墟などが建ち並ぶ言わばスラム街みたいなところである。
区長などがよく問題にしてテレビで取り上げてるが正直治安的にも行ったことは一度もない。つまり土地勘が無いのである。
「どうやら検索したらもう少し行った先に駅があるそうだ。だがかなり道が入り組んでって聞いてるか?零矢」
「ちょい待ち、人に聞いた方が早い」
俺が見つけたのはこの場においては明らかに浮いているスーツを着こんだ女性だった。耳に手を当てて何か話しているから取引か何かだろうか。
「あの、すいません」
声を掛けると彼女は話しながらの片目だけでこちらを見ると、すぐに通話を辞め両方の目で睨むように見てきた。
取引の内容を聞いたとか思われてる状況だと本当にマズイ。どう考えても服の下から拳銃とか出てきそうだし。
「...良い天気ですね」
逃げよう、そう思ったのは良いが声を掛けたのをリセットするために編み出した言葉が理解不能だった。だってもう16時過ぎである。この時間帯に見知らぬ人にこう話しかけたら俺の方が不審者だ。
俺は相手が口を開く前に横をすり抜けて早歩きでその場から抜け出す。何か後ろで言っているが耳に全く入ってこない。ヤバい、本当にヤバい。殺されるかもと思うと足を緩める事など不可能である。
すると目の前に豪邸であったのか巨大な屋敷が建っていた。道が入り組んでいたとしても直線上に突っ走れば駅である。それにここは廃墟街、さっきの女性みたいな人などほぼいない。それなら不法侵入にもならない。
そう考えた俺は、錆びた屋敷の門をよじ登った。すると背後から、
「行かせない!」
という怒号が響いたかと思うと、背中に何か鉄のような物を叩きつけられた感覚がして、俺は地面に落下した。
受け身をとったので大事には至らなかったが振り向くと先程の女性が仁王立ちしていた。何かを投擲されたのか?
「違います、急に逃げてごめんなさい‼駅に行きたいだけなんです‼」
「そんな見え透いた嘘バレバレです‼」
必死に弁明したが彼女は蹴りかかって来た。それを躱し後方へ下がるが、間髪入れず彼女は攻撃を繰り出してくる。
「甘い‼」
そう叫んだ彼女の蹴りが俺の頭を捉える。ギリギリで腕でガードしたが、ゴキリと音がして、脳が揺れる感覚がした俺は崩れた。ふと、自分の腕を見ると明らかに曲がらないところが曲がってしまっている。
「いッ‼...てぇ!」
別に骨が弱いわけではないのに一蹴りで腕を折られるとは。どれ程強力な蹴りなのだろうか。もしこれを頭に喰らってたら...死んでたかもしれない。
「大分落ち着いているようね、だったらもう一...」
そこまで言って彼女は後ろを振り返った。廃墟の角をずっと見つめていた彼女は、耳に手を当てて、来た、と一言。
直後、彼女の視線の先の廃墟が崩壊する。飛び散るコンクリートを華麗に躱しながら彼女は俺に問い掛けた。
「あれがあなたの差し金?」
不思議に思った俺は煙に向かって端末の光を当てる。そこに浮かび上がったのは巨大な狼のような霊獣で口は裂け、足枷が付き、所々ロープで巻かれている。
「フェンリル?」
フェンリルは咆哮を上げ、俺達のいる方向へと突っ込んで来た。彼女はそのまま避けたが、俺は突進をまともに喰らってしまい、屋敷の壁を突き破るほどに吹っ飛ばされた。
「なっ...⁉グッ!ガハッ」
吹き飛ばされた俺は瓦礫の下敷きになった。一撃で腕意外もどこか折れたらしく、痛みで身体が動かせない。気を失わなかっただけ奇跡みたいなものだ。しかもここも廃墟だから今の一撃が原因で家が崩れることもあり得なくない。
だとしたら今すぐここから逃げなければならない。それはわかっている。だが痛みのあまり身体が言うことを聞かない。
「ゲホッ、ゴホッ、ドプッ」
吐血した。それもそうか、あれほど強く身体を打ったならば。そろそろ冷静でいるのも限界が近づいている。
「おい...“神”...ゴポッ」
ヤバい、また血が口から溢れる。痛みだけではなく、倦怠感までともに襲いかかって来た。
「...ウィッチの場所が駅に固定されて出ない、だけど翔は応答しないけどこの屋敷の内部にいるみたいだ」
何でこんな廃墟に翔が来てるんだ?と言うことは破神霊香もいるのか?しかし、今はそんな事どうでもいい。早く、皆ここから逃げないと...
屋敷が軋む音が響く。崩壊までのタイムリミットはもう残されていない。
……ふざけんな‼こんなところで死んでたまるかよ、こんなところで...
「うわぁ、凄い壊れようだね」
「ッ⁉」
その時、確かに俺の耳にその声は響いた。聞き慣れた声、聞き慣れた口調。幻聴ではない限り、この場にいるはずもない人が崩れた瓦礫の前にいる。
「ウィ...ッチさ...ん」
しかし、瓦礫の隙間から見えたのは俺が知っている彼女とは似ても似つかない金髪ロングに白いベネチアンマスクにさらに口にもマスクのバニーガール。
仮装パーティーの会場でもなかったらただの変質者だろ、というツッコミをこらえ再び声を出そうとしたところで彼女は隙間から姿が見えなくなった。
何とかしても彼女に気づいてもらわなければ、そう思う一心で足下の瓦礫を蹴飛ばし物音を立てる。すると、しばらくして誰かの足音が近づいて来るのに気づいた。
そしてそのその足音は俺の胴体に乗った瓦礫を持ち上げてどけてくれた。
「こいつかな?例の奴」
「演技かもしれないから気を付けろよ」
それは例えるのなら馬と羊だ。別に比喩なんかじゃない。パーティーグッズ売り場にでもありそうな馬の首まで被るマスクに茶色いスーツ、もう一人は音楽家のカツラのような白い髪型に白いスーツ、目先が鋭いサングラスをかけていた。
……演技ってなんの事だ?こんな重症なのが演技な訳無いだろうがッ‼
が、今はそう怒鳴るところではない、せっかく助けてもらったのだからそんな事を言っては失礼極まりない。
「...あ、りが...とうござい...ゴホッ、ます。早く...ここか...ら」
俺はなんとか身体を起こしたが羊のような男の方に寄りかかってしまった。すると、その人はため息をついたかと思うと、
「汚してんじゃねぇよ‼」
腹に拳を入れられた。堪えきれず再び口から血を吐いてしまう。それでさらにスーツが汚れた羊男は今度は俺を振りほどき、倒れた俺に追撃と言わんばかりに蹴りを入れてきた。
「グッ‼ガハッ、ゴホッ」
もはや声という声も出ない。身体が熱い、内臓が痛い。早く楽になりたいとさえ思う。
「まだ、死んでねぇだろ?誰の回し者だ?あん?」
馬頭の男に髪を掴まれ、首だけ持ち上げられる。呼吸が上手く出来ない。それに視界が赤く見えてきた。
嫌でも死というものが近づいているのがわかる。避けられない絶対的なもの、逃げることなど不可能な全生物において平等なもの。俺は今この瞬間だったというわけだ。
最後に一度だけ、ウィッチさんに会いたかったという気持ちが湧いてきた。ここで死んだら彼女に迷惑がかかるだろうな。悲しんでくれるかな。
「黙ってねぇで何とか...」
「その手を放しなさいッッ‼‼‼」
響き渡る怒号に、その場にいた全員の視線が一点に集まった。そこにいたのは先程見たバニーガール。その手には拳銃が握られていた。
馬男は俺の髪を放し、両手を揚げて立ち上がる。ここからは見えないが羊男も同じようにしているのだろう。
「何?ラビットちゃん、横取り?」
ラビットちゃんと呼ばれたバニーガールは不快と言わんばかりに威圧的な声で銃を突きつける。
「そんなのに興味はない、それよりその人は霊獣が原因でこの屋敷に入ってしまった人の可能性が高い事から侵入者ではないと考えられるからよ」
「なんか庇ってねぇか?」
羊男が負けず劣らずと威圧的な声色で兎女に話しかけた。彼女は少し固まった後で
「あくまで可能性を言っただけよ」
と言った。そして銃を持ったまま馬男に近づき下がれ、と言うように銃で合図を送った。馬男はやれやれと言うように思いの外素直に下がり羊男の方へ行く。
「大丈夫?」
兎女は俺に優しく話しかけた。しかし、その隙を利用して素早い動きで馬男は彼女の手を、羊男は俺の首を上げて人質に取った。
「なんのつもり⁉病院送りにするわよ!」
「やっぱ庇ってるとしか思えないんだよね」
彼女は銃口を馬男に向けようとするが、
「おっと、お前がホースを撃とうとしたらこいつがどうなるのかは目に見えてるだろ?」
首を握る手に力が入り、ただでさえし辛い呼吸がさらに困難になってくる。
「...わかったから、止めなさい‼」
彼女はそう言って銃を床に捨てて蹴り飛ばした。銃は俺の見えないところまで滑って行き、取りに行く余裕もない事などは容易にわかる。
彼女は馬男の手を振り払い、どこが目だかわからない馬のマスクを睨みつけた。
「こんな事をしてただで済むと思ってんの?」
「ラビットちゃん、それは身の程をわきまえてから言った方が良いんじゃない?そこまでして庇うってことはこいつと何かしらの関係があるって事でしょ?」
彼女は返す言葉に詰まったのか口を接ぐんでいた。しかし、俺はこんなバニーガールもとい金髪ロングの知り合いなどいない。銀髪だったら端末の中にいるが。
「事前報告無しのボディーガードは違反、そう言う規定だよな、ラビット?」
「ボディーガードなんて要求した覚えはないし、この子は知り合いでもなんでもないわ」
「じゃあここで殺したって何も問題ないはずだよなぁ⁉」
こいつら、日常的にでも人を殺してるのか?何でそんな簡単に人の命を奪おうって思えるんだよ?GDなのか?
「大ありよ、例え関係ない命だろうが腹いせなんかで殺される命なんてない‼‼身の程をわきまえるのはあなた達の方じゃなくて⁉」
彼女は馬男と羊男にそう怒鳴った。それは俺が思っていた疑問に対する適切な答えだった。当たり前の事、誰もが学んでいるはずの事、それを誰もが踏みにじる可能性を秘めていること。
もし、この動物人間達がそういう関係であれ彼女は信念を持って動いているのだろうと確信できる。この状況下でさえ俺は彼女がとてもカッコいいように見えてしまった。
だが、俺は知っている。真っ直ぐな正義感が気にくわない奴もいることに。しかもそれが正義感をもつ奴よりも多いことに。そしてそいつらは正義感の持ち主を利用し、人形のように踊るのを裏から嘲笑う。
恐らく、馬男と羊男はそういう奴だ。それはこの状況から良く伝わってくる。だから次にこいつらがとる行動はこの正義感を壊すこと、実力さで真実を曲げようとする。
「ダルいな、ラビットちゃんは。この状況でまだそれ言う?本当に高飛車だね」
「何とでも言えば?」
「じゃあ、言おうか......今すぐ裸になってそこに土下座しろや。じゃねぇと、てめぇの男ぶっ殺すぞ」
本性を現した馬男は胸元から拳銃を取りだし、彼女に突きつけた。同じく、羊男も拳銃を取りだして俺に突きつける。
「ほら、どうした小娘兎?時間が無いぞ?フハハハハッ!」
※ ※ ※ ※ ※
「……時神翔、あなたと私は違う。……もう二度と会うことはない、それで良い。……それで良いの」
「霊香さんッ‼...夢?」
どうやら寝ていたらしい。どこかの公園のベンチだった。幸運にも人はあまりいなかったのでヤバい奴だと思われなかったのは良かったけど。
僕の記憶が確かならば、確かスタンガンを喰らって気絶したはず、彼女がここまで運んでくれたのか?じゃあ、さっきのは夢じゃなくて現実?もう意味がわからない。
「仕方ない、もう一度...」
僕は能力を使うのを躊躇った。別にもういいんじゃないか。そこまで関わる理由なんてない。まして元敵の一人である。
今までならばそう考えた。でも今は違う。あの人の犯す罪を一つでも減らせるなら、あの無表情の顔が笑ってくれるなら。
「未来透視!」
※ ※ ※ ※ ※
北街スラム街。まさかここの廃墟に入るビジョンが見えるとは思わなかった。時刻は十六時前。僕一人で説得するしかない。
裏口から入ろうとしたその時、廃墟の回りにスーツ姿の人達が徘徊しているのに気づいた。
未来透視を駆使しながら何とか裏口から入ると、廃墟だと思っていたそこは古い屋敷のようなものに変わっていた。
直後地震のような揺れが屋敷を襲う。崩壊かと思ったがどうやら違うらしい。それはGod-tellを見てわかった。
「え...先輩ここにいるの?」
──集いし聖──