俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 約一ヶ月半振りです。台風は大丈夫だったでしょうか。今回はとても長いのでよろしくお願いします。


僕と私の約束(後編)

 人は皆嘘をつく。何かを隠すために。それでも今は隠す事はできない、圧倒的な恐怖と絶望を。

 

 それでもなお、妖美卯一の目の色だけは変わっていなかった。何があってもこの場にいる全員を逃がす、その信念が彼女の心に鼓動を打ち続けている。

 

……隙さえ作れば後輩クンか霊香ちゃんを回復する事はできる、そうすれば生存確率は今よりも跳ね上がるはず

 

 しかし卯一の頭の中に浮かぶ疑問はただ一つ。どうやって隙を作るかだ。零矢や霊香の戦闘レベルでさえこの死神部隊の面々には敵わない。それよりも戦闘ができない自分と翔だけ残されたところで果たして隙を作れるか。

 

……私が何とかしなきゃ

 

「まだ諦めてないのか?この状況で」

 

 『兎』が卯一に対し問いかける。その問いに返すように、

 

「天才を、なめないでよね」

 

「あっそ...本ッ当ムカつく!」

 

 再び足を振り上げるが卯一に同じ攻撃は通用しない。すぐに攻撃範囲から抜け出すようにしゃがみ、頭部への一撃を躱す。しかし、『兎』もそれは予想済みで、振り上げた足を卯一の頭をかち割るように踵落としをする。流石に間に合わないと察した卯一はGK銃でその一撃を受け止めた。

 

 予想よりも重い一撃に卯一の腕に痛みが走るがそんなことを気にしている場合ではない。その足をどかして回りながら後退し、卯一は『兎』へと発砲する。『天使』の時のようにのけ反るかと思いきやかすり傷一つ増えることはなかった。

 

 それを能力の部類と考えた卯一は発砲を続けながら後方へワイヤーを伸ばす。能力の詳細がわからない以上、下手に戦えば不利になるのは目に見えている。ならば『兎』の相手ではなく体力のある内に残りの三人の相手を相手取るのが先決だ。

 

 冷静に分析した卯一は地面に向けて数弾発砲、煙に紛れてワイヤーを作動し、同時にブーツのブースターも作動させ、猛スピードで零矢達の元へと飛翔するが、その場にいた『天使』達三人は上空へ飛び上がる。

 

 卯一が異変に気づき、『兎』の方を見ると無数の瓦礫の弾丸が迫っていた。身体を守るために白衣の裾を全面に広げるが、瓦礫はその白衣を突き破りその下に着た神事屋と印刷されたTシャツさえも突き破って肉をえぐった。そのまま体勢を崩し、卯一は地面に倒れ込む。

 

……通常製品よりも耐久性がけた違いにある誓石(オリハルコン)製の衣類をたかが瓦礫で二枚も貫通はあり得ないでしょ。これが能力だとしたら誓石(オリハルコン)の耐久力を著しく下げるまたは破壊に特化していると予想していい...のかも

 

 卯一自らが盾となったおかげで零矢、霊香、翔の三人は瓦礫を喰らわずにすんだがこれで身体が万全なのは翔一人となってしまった。

 

 再び地上に降りた『死神』が霊香に近寄る。卯一はそれを阻止しようとするが、激しい動きや痛みで体力が切れ立ち上がる事ができない。

 

 その時、『死神』の前に翔が立ちはだかった。この場にいる誰もがこの行動に意味がないことを知っていた。圧倒的実力差、足止めにすらならない。それを一番自覚していたのは翔自身だった。

 

「どけ、お前に用は無い」

 

「お前に無くても僕にはある。霊香さんは渡さない」

 

 それでも敵わなくとも翔は『死神』の前から退かなかった。後ろに横たわる大切な人との約束を守るために。

 

 『死神』が手に持った鎌を振り上げる。避ければすなわちそれは霊香に斬撃が当たる事を意味した。翔は半ば諦めのような気持ちで能力を発動させる。

 

 そして、卯一のいる方向へと手を伸ばした。全員の視線が翔に注目していた為に、その予想外の行動に疑問を持った者全員が卯一の方向を向く。

 

 その方向から飛んで来たのは、琥珀色の槍。動けないままでも卯一は翔に武器を渡すことを試みていたのだ。しかし、その槍は意図も簡単に『死神』によって弾かれてしまう。

 

 翔はその槍が飛ばされた方に手を伸ばした。その隙に『死神』が目を落とすと霊香の姿が消えている。背後から気配を感じて振り替えると、霊香は既に拳に霊子を収束し構えていた。

 

……『翠女神』が動くまでの囮だったということか

 

 だがその拳は片手で簡単に掴まれ直撃はおろかダメージすら与えられない。だが、そこで槍に手が届いた翔が『死神』の胴目掛け、槍を突き出す。

 

 その程度の攻撃で『死神』がダメージを受けるはずはないと、回りの者達は思っていたが予想とは違い『死神』はダメージを受けたようによろけ、霊香の手を離した。その一瞬を逃さず霊香は回し蹴りを叩き込んだ。

 

霊魂ノ脚(レッグ)ッ‼

 

 その攻撃は通ったようで体勢を崩した『死神』は数メートルほど土煙をあげながら移動させられた。しかし、霊香も体力の限界が来てふらつき、その場に倒れる。

 

「この威力...魔王装備か。まさか認知していなかった三つ目の魔王装備すらこんな極小組織が所有しているとはな」

 

 その言葉を聞いた卯一の目に勝機が宿る。

 

……魔王装備すらって、あれが後輩クンや霊香ちゃんと同じ装備...あれに翔君が飲み込まれなければ勝機はある!

 

 『死神』のダメージに『兎』が気をとられている内に卯一はGod-tellを取り出す。

 

変身(チェンジ)、ラファエル‼

 

 『兎』が気づいた際には時既に遅し。卯一は回復をとげ、手に持った剣で一度牽制しながらGK銃を取り出す。

 

……あと、一回だけでいいから持って!

 

癒しの一撃(ヒールショット)ッ‼

 

 零矢と霊香に弾丸を撃った後で、GK銃は役目を終えたかのように破損した。やはり、『兎』の一撃を喰らってからの使用は無理があったのだろう。

 

 一方、その弾丸を受けた零矢と霊香は完全復活を遂げすぐさま起き上がり、霊香は『死神』に零矢は『音速』にそれぞれ対峙した。二人同時にGod-tellからそれぞれ『紅蓮の剣』と『翡翠の弓矢』を召喚する。

 

「「(デー)(モン)(アン)(ロック)」」

 

「え、あ魔王解放(デーモンアンロック)

 

 二人から少し遅れて翔が呟くと、手に持った琥珀の槍に亀裂が入り、装甲が弾けとんだ。夕空に浮かぶ三色の破片。それは光を反射しながら三人の回りを取り囲んだ。

 

「「」」

 

「あ、変身ッ‼

 

 破片がそれぞれ同じ色の武器を持つ者に収束していく。零矢は血の如き紅蓮の鎧、霊香は草木の如き翡翠の鎧、翔は黄金の如き琥珀の鎧を纏った。

 

「面倒なことになったな...」

 

 『死神』はそう呟くと対峙する翡翠の鎧へと向かっていく。手に持った鎌を使用せずマントを翻しながら蹴りを入れるが霊香はそれを腕でガードする。

 

……やはり生身での攻撃では効きにくいか

 

 霊香は背中に掛けた弓を取り出すと、弧に付いた刃で切りつけようとする。それを避けながら『死神』は身軽に廃墟の屋根へと登った。

 

 それを追い霊香も背面から羽を生やして『死神』よりも高く飛び上がる。上空で弓を構え、狂いなく矢を射った。それを手に持った鎌で弾き飛ばし、上空へ斬撃波を放つ。

 

 その攻撃を弧の刃で相殺し霊香は下降しながら矢を連続で射った。それをしながら『死神』のギリギリで旋回し、再び弓を構える。

 

「……純翠神破弓(アグネスストライク)

 

 幾千本にも分裂した矢が『死神』目掛け降り注ぐ。やがてその姿が見えなくなるまで凄まじい音と共に矢が着弾し、廃墟ごと破壊した。

 

 他の死神部隊が『死神』の安否に固唾を飲み込んでいると、立ち込める煙の中からマントが破れ顔が露になった『死神』が立っていた。

 

……あの攻撃を喰らってマントだけって...おかしいでしょ

 

 卯一は慣れない剣を使って戦いながら素顔を晒した少年に疑問を持っていた。その隙を逃さず『兎』は卯一の腹に蹴りを入れた。

 

「グフッ‼」

 

 一撃で卯一は膝を着き上体へ回し蹴りを入れられ『変身』が解除される。すぐに起き上がろうとするも背中を踏みつけられ起き上がる事ができない。

 

「ウィッチさん!」

 

 見かねた零矢が『音速』を殴り飛ばした後に卯一の方へ向かい、『兎』と対峙した。卯一は何とか起き上がる事ができ、物陰に身を隠すが一人劣等感を感じていた。

 

……私にもあの装備さえあれば...

 

 味方三人全員があの魔王装備を使えるのは戦力的には申し分ない。しかしそれは同時に卯一自身が一番戦闘能力において劣ると言っても過言ではない。

 

 先刻翔に対して言ったのは自分に対する戒めでもあった。しかし翔も力を手に入れたことでその自身は失せてしまった。

 

「後輩クン、合図したらどいて」

 

 しかし、特攻などはしない。卯一はまだ余裕があった。これしきのことで拗ねているようではこの状況を生き延びることなど到底できない。卯一は零矢にマイクから指示をすると、予備の為に持ってきた大型の銃を召喚する。

 

 零矢の方を見ると、卯一が空いた分零矢が『兎』と『音速』両方を相手してしている。鎧を纏った分、戦力的には二人相手に拮抗しているように見えるが徐々に押されかけていた。

 

 第一、卯一側のメンバーで『音速』の速さに対抗できるのは零矢の天照状態しかない。唯一対抗できる零矢本人が攻撃力を上げるために鎧を纏っているので、今現在『音速』の速さに真っ向から対処できる者はいない...

 

 そんな事は誰しもが熟知している。だからそれが穴になる。普通なら『音速』の動きを止めなければ『兎』に攻撃を当てる事ができない。

 

 だが零矢が卯一から直線上に二人を引き付けてる間に卯一が銃撃を放てば、少しだけでも『音速』の反応を遅らせる事はできる。それで対処できないなら『音速』に、もし対処して避けられたら『兎』にダメージは通る。

 

……問題はこの考えを後輩クンが読み取ってくれるかだけど...

 

 だが零矢は卯一の合図を待ったまま彼女に背を向けて剣を振るい続けていた。『音速』に攻撃の重心をずらされ、剣が空を斬ったところで『兎』の蹴りが入る。それでも倒れずに半ばやけになりながらも剣を振っていた。

 

……ヤバいな...あの子私の考えに気づいてなさそう、ってか気づいてないなあれは。こうなるともう運良く重なったところを狙うしか...

 

 しかし機会を伺う為に前に踏み出し過ぎた卯一を『音速』は視界の端に捉え、零矢への攻撃を『兎』に任せ卯一の方へ駆け出した。

 

 卯一が気づいた時には既に『音速』は卯一の後ろに回り込んでいて振り向く前に肩を蹴られ、銃を手放しながら物陰から姿を現してしまう。それに気づいた『兎』は卯一に標準を変え、駆け出そうとするが零矢に制止される。

 

 その結果、卯一が『音速』の相手をすることになったのだが天才と言われる卯一でさえ、その速さについていけはしない。()()()()()()()()()()()だが。

 

「Summon!閃光弾(フラッシュボム)赤外線眼鏡(レーザーグラス)

 

 卯一は瞬時に手に召喚したサングラスに酷似した物を顔にかけ、野球のボールより一回りほど小さい物を地面に向けて投げつけた。

 

 ボールから光が溢れ出しその場にいた零矢、『兎』、『音速』は目を開けているのが困難になりそれぞれ顔を腕で覆って動きを止めた。その内に銃を拾い上げ赤外線で位置を確認した卯一は発砲する。狙いは...

 

「…ウッッ‼」

 

 呻くような声を捉えた卯一は当たった確信を持ったが反動が凄まじく後ろへ少し吹き飛んでしまった。やがて光が徐々に薄れて行き、顔を覆わなくても良い光度になって各々の目に映ったのは、顔を覆って倒れる『兎』の姿。

 

「嘘⁉まだ気絶しないの?」

 

 グラスを戻し、驚く卯一をよそに『音速』が様子を伺うと『兎』の手には血が滲み、よく見ると右目から出血していた...いや右目が破裂していた。弾丸が右目を貫き、更に脳を抜け頭蓋骨さえも壊し貫通していた。

 

 瞬時に『音速』は走り出し翔と対峙していた『天使』の腕を掴んで戻って来た。すぐに状況を把握した『天使』は『兎』の命の炎が消える前に回復を試みる。

 

「本物の弾を使って目を狙って気絶で済むとかお前どういう神経してんだ。まぁ、油断した『兎』が悪いが」

 

「......え?...本、物?これが?」

 

 卯一は手に持った銃を眺める。本来誓石で作られた武器は殺傷能力はさほどない。銃の場合貫通すると言うよりは弾くのである。

 

「......知らない

 

「は?」

 

「私は、これが本物だなんて知らない」

 

「何怖じ気づいてんだよ、殺し合いに人を殺す道具を持って来るなんて普通だろ。それともそんな覚悟さえないのにこの場に参加したって言うのか」

 

 零矢と卯一にその言葉が刺さる。事実、自分達の仕事は霊香の防衛、他人を殺める覚悟など持ち合わせてはいない。魔王装備を得てしても、それぞれの固有能力を駆使しても、殺しに来ている相手に手加減しようなど相手が格下でない限り命取りなのだ。

 

 卯一の銃を持つ手が震える。脳裏に浮かぶのは自分の道具で誰かが傷ついた取り返しのつかない日の光景。壊れたビデオのように何度も何度も自分の絶叫のシーンがほんの数秒の間に繰り返される。

 

 気づけば立てる気力などとうになく、腰を抜かしたように座り込んでしまった。自分がどこを見てるのかもわからない、誰が何を言っているのかも頭に入ってこない感覚を卯一は感じていた。

 

 そこに完全復活を遂げた『兎』がゆっくりと歩み寄る。しかし、卯一は微動だにせず虚空を見つめたままだった。

 

「ウィッチさん!」

 

 流石にまずいと思った零矢が駆け出す。不思議と『天使』と『音速』は零矢を止めようとしなかった。

 

「どこ見てんだよ...相手が目の前に立ってんだぞ。現実から目反らして逃げてんじゃねぇよ‼」

 

 『兎』の上げた左脚が卯一の側頭部目掛け繰り出される。それが頭を砕く前に零矢が放心状態の卯一の白衣を引っ張って体勢を崩させ、自分との位置を入れ替えた。

 

「ッ、ぐわああっッ‼」

 

 今までで最も強力な回し蹴りを防御も何もせずに受けた零矢は廃墟の壁に叩きつけられ、崩れ落ちた。それを見もせず魂が抜けたように動かない卯一を見て、

 

「お前それでもこいつらの頭かよ...おいッ‼」

 

 『兎』が胸ぐらを掴み持ち上げるが卯一は顔色一つ変えない。それを見て『兎』は卯一を心から蔑み、この自称天才を一番簡単な方法で殺す事を決めた。

 

 一方、『天使』が抜けたことで手が空いた翔は霊香が苦戦している『死神』に対峙することになり、予知で霊香のサポートをしつつ、自らも確実に攻撃を当てていった。

 

「まさか、こいつ一人加わるだけで防戦一方となるとはな。組織から抜けてこの短時間でここまでのコンビネーションとは驚きだ」

 

 『死神』は鎌で、霊香の攻撃が致命傷になるのを避け、極力翔の攻撃をもう片方の手でいなしているが、翔はいつどの位置に手が来るのかが見えているので正直押されていた。

 

「だったら先に潰すのはそっちか」

 

 霊香を蹴り飛ばし、体勢を立て直される前に翔に猛攻を仕掛ける。鎌を振り回しながら死角から蹴りや拳を入れる。流石に戦闘経験の差があるため、いくら予知したところで防御が間に合わなければ意味がない。

 

 それに翔には若干の疲労が伺えた。元々予知は落ち着いた状態で集中力がなければ発動できない。それをこの短時間で連発しているのだ。もはや予知してもそれに身体が追い付かない。

 

 たった数秒の遅れを見逃さない『死神』はがら空きになった翔の脇腹に蹴りを入れ、続けて鎌で切り裂いた。

 

「...⁉斬られてない?」

 

 なぜか痛みを感じない。攻撃は確かに当たったはず、そこまで鋭利ではないのか。こけおどしだと言わんばかりに翔は槍を突きだそうとするが、

 

「終わりだ」

 

 『死神』が鎌の持ち手に付いた何かしらのトリガーを押した瞬間、翔の身体に衝撃と痛みが走り体勢を崩してしまった。

 

……何が起きた?攻撃?だとしたらあの速い奴か?

 

 倒れた翔目掛け鎌を振り上げた『死神』に霊香が体当たりをする。が、すぐに体勢を立て直し今度は霊香に鎌を振り回した。

 

 霊香はバックステップで避け、隙ができた所に対して攻撃を入れようとするが、ある種の違和感を感じた翔は予知を発動させる。

 

 そこに映った光景はやはり攻撃を入れようとする瞬間に翔と同じような攻撃を受けている姿だった。

 

「霊香さん攻撃しちゃだめです‼」

 

 翔の言葉を聞いた霊香はすぐに距離を取るが、『死神』がまたトリガーを押すと予知で見たような攻撃を受け倒れる。

 

……あの武器が原因?攻撃を当てた後に時間差でダメージを与える事が可能ってこと...そんなのむちゃくちゃじゃないか⁉

 

 翔は動こうとするが、身体中に痛みが走って立ち上がれない。

 

……鎧の上から受けたはずなのに、身体の方にダメージが入っている。装備しててもその中身に直に攻撃できるってこと?

 

 見れば霊香も立ち上がる事が出来そうにない。絶体絶命である。どうにか卯一か零矢に助けを請えないかとその方向を見ると、零矢は壁にもたれかかり、卯一は放心状態で『兎』に胸ぐらを掴まれていた。

 

「リーダー、こいつを殺してください」

 

「?まぁ良いだろう。よく見ておけ『翠女神』、お前と関わったことで別の誰かが犠牲になる所をな」

 

 『兎』が胸ぐらを掴んだ卯一を『死神』に向かって投げ飛ばす。飛んで来る卯一に対して『死神』は静かに鎌を構えた。

 

止めろおおぉぉぉっっっッ‼」

 

 零矢の絶叫も虚しく、『死神』の鎌は卯一の首を切り裂く。そして崩れた廃墟の跡地に身体が転がりこんだ後、『死神』は鎌のトリガーを押した。

 

 噴水のように辺りに血が飛び散る、夕焼けで赤く染まる廃墟の壁をそれよりも濃い赤がべっとりと張り付いた。

 

「一人目、完了だ」

 

 その光景を見た零矢は力なく地面に倒れ、頭を伏した。砂を握り締め、涙をこらえながら叫んだ。

 

うああああああああッッ‼」

 

 自我の崩壊、暴走の前触れを感じたのは唯一体験がある霊香だった。神代の世界でさえ、いくつもの神を協力を得てしても手こずるような魔王装備。それが現代で暴走などすれば、たちまち先の宇宙戦争のような悲劇が繰り返されることは避けられない。

 

「先輩...」

 

「神木零矢...」

 

 しかし、今の霊香と翔には止めることはできない。止めてはいけないそんな気がしていた。どうすればいいのかわからず、とにかく身体を動かそうと痛みを堪え、起き上がろうとした時、

 

閃光突(シャイニング・レイ)ッ‼

 

 暴走した零矢に向けて光線のような物が二人の後ろから放たれた。零矢は避ける事が出来ず、もろに喰らったことで攻撃を放った人物をターゲットと認識する。

 

変身(チェンジ)、ガブリエル!

 

 そして後ろを見て驚く二人の間を駆け抜けながらその人は同じく驚く『死神』に対し、

 

咲けよ白百合(カサブランカ)

 

 と言うと地面から咲いた美しい白い花が『死神』の周りを囲い蕾となって閉じ込めた。

 

 その間にその脇をくぐり抜け、一直線に零矢の方へ向かっていく。

 

「馬鹿なッ‼何でお前生きて...」

 

変身(チェンジ)、ミカエル

 

 神力を纏いながら背中に生やした羽を使い、零矢以外を吹き飛ばす。暴走した零矢が剣を振るう前に紅く燃える剣を振りかざした。

 

天使の炎斬(エンジェルフレイム)

 

 剣から出た炎は鎧にまとわりつき、その手から剣を奪って装甲を解除させる。そして零矢が倒れる前に脚を入れて地面への強打を避けた。

 

「ウィッチさん...」

 

「……お待たせ」

 

 零矢に対して膝枕をする体勢になった卯一は零矢の頭をいとおしそうに撫でる。それを見た『兎』は、

 

「あり得ない、リーダーがミスをするはずがない。お前どうやって...」

 

「えぇ、確かにミスしてないわよ」

 

「だったら...ッ⁉」

 

 直後辺りを強風が吹き抜ける。砂埃を巻き上げながら吹く風に全員がお互いの位置を見失った。やがてそれぞれの身体が地面から浮き上がる。

 

「え、ちょっと待って私聞いてない‼」

 

「翔、手を伸ばして」

 

「あらあら、『音速』助けてくれません?」

 

「地面に脚が着いてない状況じゃ無理ですって」

 

 様々な言葉が飛び交ったと思うと数秒後、そこにはただの廃墟しかなく、人っ子一人としていなかった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 急に地面が見えたかと思うと、乱暴に叩きつけられた。

 

「いったぁ...」

 

 そこは草木生い茂る森の中、ここに私達はさっきの風で連れて来られたのだろうか。よく見ると、気絶した神木零矢、妖美卯一、翔が寝転んでいた。男二人の鎧は外れ、それぞれ傍らに武器が落ちていた。

 

「やっと一人目が覚めたか」

 

 声のする方を振り返ると、そこには金髪で教科書で見たような江戸時代ぐらいの子供の服を着た、見た目が小学生ぐらいの女の子が立っていた。しかも森の中なのに下駄で。

 

「いちいち話すの面倒だから私の事が知りたいならそいつら起こして、特に暴走したガキとか」

 

 言われた通り全員を起こすと、開口一番零矢が、

 

「サンキュー、天狗の子」

 

「映画のタイトルみたいに言うんじゃない。私は雨雲(あまぐも) (りん)だ。約束を守っただけありがたいと思え、くそガキ」

 

「後輩クン約束って?」

 

 神木零矢はこの子とした約束について語った。どうやらこの子は天狗で私達の所へ駆けつける前にこの子の元に行き、貢ぎ物(ただのスーパーの団子)を渡して協力を申し出たらしい。

 

 ただの団子で釣られる天狗ってどうなんだと思ったが好物だったらしく、様子を見て助け船を出してくれたとの事だった。

 

「先輩いつの間に天狗と知り合ったんですか、てか本当にいたんですか」

 

「ちょっと前かな、まぁそんな雰囲気出てたし鼻が長くないのは子供だからかなって思って」

 

「おい、さっきから子供扱いするが私はお前よりも歳上だ」

 

「じゃあいくつなんだよ?」

 

「二十一」

 

「えっ...」

 

「私よりも上じゃん」

 

 驚愕する一同をよそにその子は妖美卯一に歩み寄ったかと思うと、

 

 パシッ、

 

「...ッ‼」

 

 頬を叩いた。あまりの唐突さに全員が固まる中、

 

「あり得ない」

 

 とその子が冷たく言い放った。

 

「あの場で戦闘放棄するとか何考えてるの、あなたこのガキ達のまとめ役でしょ。一番の大人が勝機見失って座り込んで、だからあのガキだって暴走したって責任感じてるの?」

 

 妖美卯一は顔を下げた。前髪が顔に掛かって表情を読み取る事が出来ないが口元は微かに唇を噛んでいるように見える。

 

「おい、お前流石に言い過ぎだろ」

 

 零矢が止めに入ろうとするが、

 

「うるさい、だいたいお前だって感情に身を任せすぎなんだよ、そんな一番精神年齢がガキな奴に言い過ぎとか言われたく無いんだけど」

 

「はぁ?何だと!」

 

「もう止めて‼」

 

 神木零矢と雨雲林の言い争いを止めたのは妖美卯一の悲痛な叫び声だった。その場の全員が彼女の方に目線をずらす。

 

 彼女は思い詰めた顔で精一杯作り笑いをしてゆっくりと唇を開く。

 

「...私ね、怖いんだ。目の前で誰かが死ぬのが。仕事柄しょうがないとは言え、まだその覚悟はできてない...できないんだ。私さ、強くないからさ...」

 

 諦めたように自嘲気味に言葉を並べる。彼女以外の誰もが言葉を返す事が出来ない。返したところで彼女をただ傷つけるだけなのは、誰もがわかる。

 

「それでも、このまま続けるならいつかは覚悟を決めなきゃいけない時は来る...時間には甘えない方が良い」

 

 だが雨雲林だけはこの状況ではっきりと彼女に言った。それはきっと正しい、だけど正しさは時に人を残酷なまでに傷つけることがある。

 

 これは私の予想だが雨雲林はそれを考慮した上で発言しているのだろう。紛れもない年長者として。

 

「……そう言えば『死神』達はまだあそこに?」

 

「いや適当に吹き飛ばしたから正確な位置はわからないけど方角的には多分...」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 風が止んだと思ったら四人は空中に浮かんでいた。重力に逆らうことは出来ず、一直線に落下する。

 

「しょっぱ!これ海?」

 

「まさか海まで飛ばされるとは」

 

「リーダーこれからどうするんです?」

 

「どうするも何も海岸まで泳ぐしかないだろ」

 

 そう思い四人は岸に向かって泳ぎ出すが次の瞬間また落下した。突然の出来事だったが難なく受け身を取り、起き上がると聞き慣れた声が聞こえた。

 

「まさかこの四人を退けるとはな」

 

 声の主は四人がボスと呼ぶ組織の頭だった。恐らく彼の能力で海から本拠地まで移動させられたらしい。GD内の全員が把握していることだがボスの能力は空間に関する物である。しかし詳細な事は不明であり、実際底が見えない。

 

「何だったんだ、あの風」

 

「あぁ、多分天狗の仕業だろうな。だがまだ未熟な個体だろう。本当にヤバい奴だったら日本海まで、いや中国ぐらいまで飛ばされてるかもな」

 

 その返答に驚愕した四人はまだまだ修行が足りないと思ったのだった。

 

「それとしばらく『翠女神』の処刑は無し。ある組織からコンタクトがあってな、そいつらの頭は...」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「どうしましょう?もう九時過ぎてるわよ‼」

 

「わかってるが、どうしようも出来ない以上警察に安易に連絡する訳にも...」

 

 その時、玄関のドアが開く音がした。二人はすぐさま玄関へ駆けつけるとそこには傷だらけになった自分達の息子の肩を担いだもう一人、こちらも傷だらけの居候の女の子が立っていた。

 

「翔‼」

 

「大丈夫、ちょっと痛むけど骨折まではいってない」

 

「霊香ちゃんは?」

 

「私も何とか、生き延びれました」

 

「良かった‼」

 

 薫は思いっきり二人を抱き締める。

 

「痛いッ、痛いって母さん」

 

「ただいまです、薫さん」

 

 それを微笑ましく針太郎は眺めながら早く靴を脱いであがるように促すのだった。




 前に話していた番外編を製作中なのでそちらもお楽しみに。
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