ク「ウィッチは止まらない...」
卯「ハザードみたいに言うの止めてもらえます?まだ意識あるんで」
麗「鎧を纏ってから決めポーズって...」
翔「名乗りまでするのは...凄いですね」
卯「そういう痛いとこつかないで...」
零「え、カッコよくないですか?俺は別に良いと思いますけど」
卯「後輩クンッ...!」
林「見つめあってるとこ悪いけどお前ら喧嘩中だろ...ってか零矢今回出番が...」
……おいおい聞いてないぞ、四つ目の魔王装備まで持ってるなんて。確か赤と黄と緑の三つだったはず、だがあの女は青、四つ目を隠し持っていたってことか?でもそしたら元々魔王装備を三つも所持していた事になる。そんな簡単に集められるわけがないだろ
目の前で左手の甲を見せつけるようなポーズを取る卯一に戸惑いながらも爆団長は冷静に思考する。死神部隊からの情報によれば鎧を着込んだ後は装着者の声は聞こえなくなるらしい。もし聞こえたならばそれは装着者ではなく鎧自身の声だという。
明らかに戦闘能力が跳ね上がったであろう敵を目の前にして爆団長は細胞のストックを考えず十人ほどのコピーを新たに生成する。爆団長の懐にしまったペンダントに亀裂が入る音が鳴り響く。流石に現実世界でも大量にコピーを生成した状態でここまで来た為、生命力が限界だった。
……イーやチー達に翠女神の相手を任せたいが数で押しきれるかどうか。こういう時に死神部隊が一人でもいてくれれば楽なんだが今は全員地球にいないしな...
個々の能力が魔王装備のそれに匹敵するほどの戦闘力を持つ死神部隊はそのほとんどが地球で活動をしていない。基本的にどこかの星や組織にスパイとして潜り込み、召集が掛かった際に本部に集まっている。
なので基本的に本部にいるのは『主人』だけでありその下となると爆団長など幹部級なのである。しかも爆団長とは違い大抵のメンバーが表の顔を持っている為用も無しに本部に来たりはしない。
……取り敢えずこいつをぶちかましてみるか
爆団長は手榴弾のような形をした物を取り出すと付けられているピンを外す。そして次々と召喚しピンを外してはコピー達に渡していく。そして合図で一斉に鎧へ向けて投げつけた。
鎧は微動だにせずに立ち尽くしやがてそれが金属音を出して鎧に当たる。直後鎧の全身を覆うほどの爆発が起き鎧は爆炎に包まれた。
手応えがあったかと爆団長が観察していると煙の隙間から白く輝く二つの眼が浮かび上がった。刹那煙を引き裂いて二つの青色のエネルギー弾が爆団長の両脇のコピーに命中し、首を失った両脇のコピーは倒れて消滅する。
……人一人は余裕で殺せるほどの爆弾を十数発当ててるのに全く効かないとは、これはかなりヤバイかもな
爆団長がコピーを盾にするように後退すると煙を押し退けながら瑠璃色の鎧が余裕を感じさせるように歩き出て来る。見せつけるように銃を回転させランウェイを歩くかのような足取りでこちらへ歩み寄る。
爆団長はコピーに爆弾を取り付け特攻させるように命令し、順々に鎧へと向かわせるが鎧は爆団長の方に顔を向けたまま歩みを止める事はせずに近づくコピー達を寸分の狂いなく撃ち抜いてゆく。
流石に分が悪すぎると感じた爆団長がコピーを残して撤退しようと後ろへ走り出すが、それを鎧は見逃さずに逃げる爆団長の脚を撃ち抜いた。悶える爆団長に鎧は告げる。
「使命を果たせずさぞ憂鬱なことでしょう。私の身体となったこの子と同じその感情に囚われた者は儚くも美しい。ですが私はこの身体の子が更に憂鬱に染まる姿を見たいのです。そのためにあなたを撃ち殺してあげましょう」
鎧が喋った事により爆団長は中身の卯一が既に意識を失っている事に気付く。恐らく最初の爆発で意識が飛び、身体を鎧に乗っ取られたのだろうと推測した。
「
そう呟く鎧が手に握る銃に青色のエネルギーが貯まっていく。爆団長は残っているコピーを全て自身の前に連なるように配置するがそれを意にも返さず鎧は引き金を引いた。
銃口から放たれたエネルギー弾は紙を突き破るかの如くコピーの身体を貫いていき、爆団長の眼前まで迫った時、割り込んで来た何かに爆団長の身体は倒され直撃を免れる。
「あっぶな、セーフ!」
割って入ってきた者――チーが起き上がりながらそう告げる。その背中には爆団長が移動用に開発したジェットパックを背負っていた。
「ごめん、団長!連れて来ちゃった、翠女神」
そう言って指を差す方向を見ると空から翡翠色の羽を広げながら降り立つ別の鎧の姿があった。その人物は降り立つと同時に装甲を解除すると数時間前にも話した爆団長に状況を確認する。
「一体どうなってる...あれは誰なの?」
※ ※ ※ ※ ※
「ねぇ~!?繋がらないし!団長通信切ってるでしょ」
部下に愚痴を言いながらもチーは爆団長の為に地道に聞き込みを続けていたがこれと言った情報もなく難航していた。大抵が神とは何かを聞いてもそんな当たり前の事を聞くぐらいなら組み立てを行っている人々に協力しに行けと一蹴されてしまう。
イーにも連絡したがそちらも同じらしく、しかもE部隊は男性メンバーが多い為、手伝わされている真っ最中だという。
「もうこれじゃあ翠女神来ちゃうよ~!?」
「隊長、あれ!!」
部下の一人が指差す方向を見ると中世の貴婦人のような格好をしている人物が食物を売っている人に何か話し掛けていた。少しばかり浮いた服装をしたその女は紛れもない翠女神だった。
直ぐ様マントをしまって人々に紛れ込むと様子を伺うように仲間内で順番に麗華を観察する。麗華は話を聞き追えると辺りを見回しながら塔の方へと向かって行った。
それを確認したチー達T部隊は一度集合すると武器の確認をし、この場で麗華を強制送還させる事を決意する。
正直数が勝っていたとしても戦闘力は雲泥の差だという事を理解していたチーは一斉にではなく個々にだが間髪を容れず襲撃するという作戦を提案する。
その作戦を受け入れた十人弱程のT部隊は懐に実弾の銃を隠し持ちながら麗華の後を追うべく行動を開始しようとした矢先
「探しているのは、私?」
チーの背後からターゲットである麗華の声が鳴り響き、腑抜けた声を上げながらチーが振り向くと先程と同じドレスを着て、額に少し汗が浮かんだ麗華が立っていた。
「爆団長の部下達か、大量とはあなた達が共に来ているからというわけね」
「一人で任務を遂行しようとして失敗したお前と違うんだから!」
「そんな昔話興味ない、すぐにあなた達を強制送還させる」
「自信無いけど...やれるもんならやってみ...」
チーが言葉を言い終える前に遠くから爆発音が鳴り響いた。その場にいる全員が爆団長の仕業だと察し、麗華とチーがその方向へ向かおうとするが、麗華の方はチー以外のT部隊に止められる。
「隊長は先に行って下さい!」
「ここは私達に任せて団長を頼みます!」
「了解!皆、頑張って!!」
チーは召喚したリュックサックのような物を背負うと即座に翼のような二本のブレードが飛び出しウイングに変形する。背部からワイヤーで繋がったコントローラーのボタンをチーが押すと、リュックからブースターが露出しチーは空へと飛び上がった。そしてそのまま煙が立ち上る方向へと飛んでいく。
それを麗華はルシフェルに変身して追おうとするもチーを除いたT部隊に囲まれて一斉に銃を突き付けられた。だが向けられた数多の銃口に麗華は臆する事なく
「私に霊子製の武器は効かない事、知ってる?」
と挑発するも部隊のメンバー達は
「知っている、だからこれは実弾だ。裏切り者のお前を撃ち殺す為のな」
と言ってその手を緩める事はなかった。それに観念するように麗華は片手を挙げ、もう片方の手で胸元のポケットからGod-tellを取り出すと空中で手を離し、地面へ落とす。
そのGod-tellに全員が気を取られている内に麗華は右目を煌めかせながら能力を発動させ全員の銃口に蓋をするように霊子を移動させた。
そして地面に完全に落ちる前にGod-tellを自分の足に乗せると目の前で銃を構えていた女性のメンバーの顔面向かって脚を振り上げGod-tellを命中させる。
不意を着き見事に命中したGod-tellは反動で宙に浮き、女性のメンバーは後ろへ倒れる。それに驚いた他のメンバーが引き金を一斉に引こうとするのに対し
「引かない方が良い」
と忠告するがそれに耳を傾ける事なく焦りを覚えたメンバー達は次々に引き金を引いてしまった。直後に銃口内で壁と弾丸がぶつかり合い拳銃が暴発する。
丁寧に両手で構えていたメンバー達は暴発による衝撃で顔に火傷や擦り傷を負い誰もが顔を押さえて倒れてしまう。麗華はこのやり方はあまり良いとは言えないと思いながらも宙から落ちてくるGod-tellをキャッチするとイヤホンマイクと翡翠の弓矢を召喚する。
そして顔を押さえて苦しんでいるメンバー達を楽にさせる為に、それぞれの懐からネックレスを探し当て弧の先端で押し潰すように破壊していく。そして全員分破壊し終えた後で粒子となって消えゆくメンバー達を横目に麗華は変身して空へと浮かび上がった。
マイクの通信で翔に事の旨を伝えながら飛行していると、前方に先に飛行していたチーを発見する。それはチーも同じで麗華がすぐに追い付いて来たことに唖然しながらも通信機でしイーに呼び掛けた。
「ヤバイ!こっち翠女神追ってきた!!助けて!」
「えっ?あっ、こっからも見えるぞ緑色の奴が飛んでる...ってチー、あいつ止まってねーか!?弓構えてるんじゃねぇの!?早く避けろ!」
「避けろって言ったって、こんのっ!!」
チーが上体を反らした瞬間すぐ脇を翡翠の矢が突き抜けて行った。冷や汗をかきながらチーは体勢を建て直し飛行を続ける。
ようやく煙の立ち込める場所が見えたと思った時、そこには瑠璃の鎧に銃口を向けられた爆団長がチーの目に映った。すぐにブースターの威力を上げ速度を増して爆団長に向かって飛び込む。
刹那鎧が放った弾丸が背中をかすめ羽が破損し装置がダメになってしまったがチーは何とか爆団長に弾丸が当たる事は阻止した。
そして続け様に麗華がその場に降り立ち、装甲を解除すると瑠璃色の鎧の正体を爆団長に尋ねた。すると
「お前の仲間じゃないのか?貴婦人みたいな格好をした美人だ」
と麗華に呟く。すぐに目の前にいる鎧の正体が卯一だと気付いた麗華は鎧を刺激しないように距離を取りながら鎧を中心とする円の周を回るように移動を始める。
「ウイッチさん...お前の装着者は今、どうなってるの?」
「この子ならとっくに気絶してますよ、体力もない状態で私を纏うなんてさぞかし頭が悪いのでしょう。記憶によれば頭脳はかなり優れているのでしょうが想い人が関われば話は別。どうしても冷静さを欠いて感情的になる可愛い女の子ですね」
鎧は装着者である卯一を嘲るように口に手を添えて笑った。その言葉に不愉快になった麗華は地面を蹴って鎧との距離を詰め、手に握った弓の弧の刃で切り裂こうとする。
だがいとも簡単に瑠璃色の銃で翡翠色の弓は受け止められてしまい、空いた右の拳が麗華の腹部目掛け突き出される。すぐに麗華が距離を取った為、鎧の拳は空を切ったが鎧は驚くこともせず麗華に問い掛けた。
「どうしてアグネスを使わないのですか?」
「お前ごとき生身で十分だから...」
「はぁー...本当なんなんですかね。そういってなめるんですか。めんどくさいなー」
急に丁寧口調から人間らしい口調に変わったかと思うと鎧は思い切り麗華を蹴り飛ばし、そのまま弾丸を発射する。麗華は壁を作って着弾を防いだがGK銃の弾丸を喰らった時と同じように一発だけで壁を貫通していた。
直ぐ様受け身を取って起き上がった麗華に鎧は
「はぁー、早く死ねば良いのに。私の力にどうせ手も足もでないんだからさぁ!!」
と情緒が不安定になったのか急に激昂したように麗華に向けて鎧は銃を乱射する。麗華は目の前に二重の壁を生成するとやむを得ず解放の呪文を唱えた。
「魔王解放...変身!」
翡翠の鎧を纏ったのと同時、目の前の壁が弾丸を受けきれず崩れ去る。その霊子を麗華は自らの右脚に集束させると鎧の弾丸を弾きながら距離を詰めていく。
そして弓を振り上げ鎧がそれを防ごうと銃を構えたのを確認してわざと麗華は当たらないように弓を振り下ろしたかと思うと、地面を蹴りそのまま身体を回転して霊子を纏わせた右脚を鎧に対して蹴り下ろした。
膝を着いた鎧の方を振り向きながら弓を構えて横に一閃し、更に切り上げる。攻撃を喰らって宙に浮いた鎧に狙いを定め麗華は弓を引くと矢を放つ。
「
鎧へ向けて放たれた一本の翡翠の矢は空中で分裂し無数となって向かってゆく。勝負あったと麗華だけでなく爆団長やチーも思ったが鎧は瞬時に空へ発砲するとその反動で自らの位置をずらし矢の直撃を避けた。
そのまま麗華に数発発砲しながら着地すると鎧は麗華の手や脚を的確に狙って発砲を続ける。防御として麗華が壁を生成し、弓を引いていると鎧はGK銃を拾い上げ交互にトリガーを引く。
GK銃の弾丸が壁を分解し、瑠璃の銃の弾丸が麗華の鎧に火花を散らす。膝を着いた麗華に鎧は宣言するように
「だから言ったでしょ、私の力には敵わない。今や私は頭脳明晰、あなたの行動なんて完璧に予測出来る。めんどくさかったけどあなたを殺した方がこの子は憂鬱に染まる、こっちの方が簡単でした」
鎧の持つ銃に青色のエネルギーが貯まっていき鎧が引き金を引くとエネルギー弾が麗華目掛けて真っ直ぐに発射されるが
「予測は出来ても予知までは出来ない...ですよね」
という声が麗華の脳内に響いたかと思うと、弾丸を空から降ってきた琥珀の槍が貫いて爆散する。全員が槍が投擲された方向を見ると槍と同じ琥珀色の鎧を着込んだ翔が羽を広げて浮いていた。
同じタイミングで今度はイーがやって来てジェットパックを取り外して降り立つ。そして唖然としているチーと爆団長の元へ駆け寄り爆団長へ応急措置を開始した。
翔は急降下して鎧に蹴りを入れ体勢を崩させ地面に刺さった槍を抜いて麗華の隣に移動し手を差し伸べる。しかしその手は何故か震えていた。
※ ※ ※ ※ ※
「GDが一人舟の方向に飛んで行ったから追跡する。多分まだ敵がいるかも知れないから気を付けて」
という連絡を受けた翔は建設中のバベルの塔にいた。何故塔にいるのかと言うと聞き込みによって見たことも無い男達が働いているという情報を得たからだった。
その調査の為、作業員に断りながら塔を縛るように作られた階段を登って行くとその途中で耳に手を当てて叫んでいる男を見つける。
その男が向いている方向を見ると緑色の光が飛行機雲のような物を出しながら飛行する物体を追跡していた。それを見てこの男こそがGDであると確信した翔は琥珀の槍を握り締める。
「はぁ~、危ねぇ。チーの奴避けたんだろうな...ん?何だお前、さっきからこっち見て...ってお前!?」
通信中に誰かの視線を感じていたイーがその方向を見ると、身体に布を巻き付けただけのような服装をした少年が立っていた。しかしイーはその少年の顔に見覚えがあった。
エキスポで箱舟ノ書を奪い合った際に瀕死まで追い込んだ少年と全く同じ顔だった。こいつもこの世界に来ていたのかと懐から拳銃を取り出して発砲するも、読まれていたかの如く躱されてしまう。
……これが噂に聞く力って奴か?
すぐ銃口を翔に合わせるもそれを避けるように翔は段々と階段を降りて行く。埒が明かないと思ったイーがE部隊に声を掛けると壁や足場を作っていたメンバー達が一斉に集結し、翔の逃げ場を失くす。そして一斉に翔に銃を構えた。
流石に同時に発砲されては避けれないと思った翔が槍を地面に置き、両手を挙げる。メンバー達は銃を構えたまま壁側へと移動し、翔を外側へと追い詰める。
少しでも足を後ろへ退こうならばすぐに足を踏み外して落下してしまうだろう。しかし翔は落とした槍を落とすように蹴り飛ばすと自らも背中を下に飛び降りる。
飛び降り自殺を図ったのかとイーが下を見るとそこには翔が空中で琥珀色の鎧を纏っていた。そして地面に激突する前に禍々しい羽を広げ浮かび上がるとイー達がいた足場まで一気に上昇する。
そして槍を構えながら着地すると銃弾をもろともせずメンバー達を薙ぎ倒していく。しかし薙ぎ倒しただけではメンバー達はすぐに起き上がって向かってくる為、翔は迷っていた。
……ここでは現実と違って手加減はしなくてもいい...でもそれは人を殺す事と同じ
そんな事を考えながら槍を振るっているとメンバーの一人の男の腹に槍が突き刺さる。すると男の身体が粒子となって飛散した。
「……え...っ、あっ...ああっ!?」
槍の先端を見ると血がべっとりと付いていた。そしてじわじわと翔の心に殺人を犯してしまったという感情が沸き上がってくる。
翔はこの世界で現実から来た人を殺したとしてもそれは本当の意味での殺人にはならないと言う事を卯一や麗華からは聞いていなかった。
「臆するな!行けぇ!!」
しかしイーや他のメンバー達はたった一人消えただけでは狼狽えもせず動きが止まった翔に対して今度は短剣を取り出して襲い掛かってくる。
……人一人死んでるのに何で...何でこいつらは平気なんだ?
襲い掛かる他のメンバーを振り払おうと突き飛ばすと力を入れて無いのにまるで車に衝突したかのようにメンバー達は吹き飛ばされ足を踏み外して落下する。
何人かの攻撃を受け続けながらも翔はもしこのまま自分が殺されたらどうなるのかを考えていた。自分の次は誰が殺されてしまうのか。
「殺させない...麗華さんだけは絶対にッ...」
気付けば再び槍を強く握り締め、目の前にいたメンバーの女性の一人の腹に槍を突き立てていた。ふっ切れたのか震える手でその女性を塔から突き落とし、修羅の如く他のメンバーすら確実に殺せるように槍で突き、片方の手で塔から落とす。そして一人残ったイーの喉元に槍を突き付けた。
「僕はここであなたを...」
そう言う翔の手は震えていた。初めて人を手に掛けてしまった事実が翔の心を蝕み身体までもを拘束する。その隙につけ入るようにイーは翔に飛び込むと二人して階段を数段転げ落ち、塔から落下する。
このまま翔を道連れに、と思っていたイーの耳にチーの言葉が響き渡った。
「爆団長は無事だけどこっちに青い鎧がいて翠女神が戦ってる!そっちは大丈夫?」
「翠女神が戦っているって!?」
翠女神という単語を聞いた翔は自らの身体を絞めるイーを突き放すと羽を広げて舟のあった方向へと目標を変え飛行していった。
イーは地面に激突する前にジェットパックを召喚してボタンを押し何とか浮遊する。そして翔の後を追うように琥珀色に光る物体目掛け飛行した。
やがて翔が太陽の光を反射し翡翠色に光る鎧と瑠璃色に光る鎧を見つけると、それは丁度翡翠の鎧に火花が散る瞬間であった。咄嗟に翔は予知を使い、瑠璃の鎧が発砲するタイミングに合わせ槍を投擲する。
「予測は出来ても予知までは出来ない...ですよね」
見事槍が弾丸に命中し爆散したのを確認して翔は急降下し鎧に蹴りを放つ。そして地面に刺さった槍を引き抜くと麗華の元まで行き手を差し伸べた。
「翔...ありがとう」
そう言って手を握り返す麗華に翔は安心感を覚えると共にいくばくかの罪悪感も覚えた。しかしそれを払拭するように麗華の隣に立ち、敵であろう瑠璃の鎧に槍を構え直す。
太陽に煌めく琥珀と翡翠の鎧が並び立つのを見て瑠璃の鎧は憂鬱のため息を漏らしながら両手の銃を構え、発砲する。
その弾丸は翔に防がれ麗華に切り捨てられる。翔が槍を盾にして距離を詰めるように踏み込むのを見越して鎧は後退を始めた。しかしそうはさせまいと麗華が上空に矢を放つ。
「
降り注ぐ無数の翡翠の矢が鎧の動きを制限し、その隙に翔が鎧を自らの攻撃範囲に入れる。
「はあああああっっっっっ!!!!」
手前に構えた槍を持ち直して振り抜くように横へ一閃し更に唐竹割りのように頭上から振り下ろした。瑠璃の鎧から火花が散り鎧は後ろへよろめく。それに合わせ羽を広げて飛び上がった麗華が蹴りを放ち鎧を地面に転がせた。
立ち上がる鎧に攻撃の隙を与えないように二人は交互に槍で弓で鎧を切りつけた。至近距離から放たれる弾丸を翔が予知を使って受け止め、その隙に麗華が拳を入れる。
いくら天才の身体を触媒にしようと二体の魔王に鎧は劣勢になっていき発砲もままならなくなってしまう。そしてタイミングを合わせて蹴り出した脚を喰らって鎧は再び地面を転がされた。
「これで終わりです!」
翔が槍を突き立てると鎧の周りから複数の槍が鎧の身体を突き刺すように生え出し鎧の下半身を完全に固定した。そして二人は同時に飛び上がると鎧に向かって蹴りの構えを取り
「
同時に必殺の蹴りを鎧に叩き込んだ。鎧は寸前に顔を庇うように顔の前で腕を組み受け止めようとするが、二人の威力を殺しきる事が出来ず後ろへ吹き飛ばされた。
着地した二人は手応えがあったかと倒れた鎧を凝視すると鎧はゆらゆらと立ち上がって額に手を当てて笑いだした。連撃を受け二人同時の蹴りを放ったのにも関わらず鎧は堂々と笑い続ける。やがて、立ち尽くす二人を見ると鎧は
「何故攻撃が効かないか教えましょうか?」
と煽るように聞いてきた。黒い仮面に白い眼のような物が浮かんだその顔には口が無いがさながら笑っているようにも感じられる。
「私達のこの鎧は装着者の心理状態の影響を受けやすいんですよ。あなた達
鎧は銃を二人に向けて構えた。
「私の装着者が抱える
立ち尽くす二人に対して鎧が引き金を引く。
「
放たれた弾丸を予知を駆使して翔は真っ二つに切り裂くと、再び攻撃を仕掛ける為に走り出す。しかし駆け寄る二人に対して鎧は微動だにせずただ銃を構えているだけだった。不審に思った翔が予知を使おうべく集中した瞬間
「「グッ!?」」
二人の背中に何かが直撃し、二人は体勢を崩してしまう。何とか倒れる前に手を着き顔を地面に打ち付ける事は無かったが予想外のダメージに身体がうまく動かなかった。
「何ッ...で!?」
「まさか...」
二人が見上げるように鎧の立つ方向を見ると鎧は何故か中腰になって右足を前に出したポーズを取っていた。
「いやぁ、切ってくれてありがとうございました。もう一発撃たなくてもすぐに弾道を変える事が出来たので楽でしたよ。さてと、じゃあ起き上がる前に
そう話すと鎧は両手を挙げロンダートをし、二人に背を向けたまま空中に飛び上がった。そして空中で身体をひねって足を二人の方向に向け
「
と呟くと鎧の右足に禍々しい青と言うよりは紺の炎のようなエネルギーが集束し、まるでレールを滑るように二人に向かって急降下する。
直撃を避ける為、何とか麗華が手を掲げ霊子の壁を二人の前に生成するが、鎧の蹴りの威力はその程度では抑えきれず壁は崩壊し、その余波で二人は後方に吹き飛びそれぞれの武器を手放し、鎧の装甲が解除された。
蹴りの反動を受けた鎧はそのままバック転をすると中身にそぐわない運動神経でくるりと華麗に着地し、二人の前に歩いて来るとしゃがんだ。
それに対し二人はそれぞれ鎧の足首を掴むが鎧はそれに気にも止めず口を開いた。
「どうしてここまでこの子が憂鬱に染まってしまったのか、それはあなた達のせいでもあるんですよ。あなた達は強い、そうただ強い。心もその魔王装備すらも持ち合わせたあなた達のそばにいたこの子があなた達を見て嫉妬し、それを持たぬ自分と比べ憂鬱に浸っていたのです。自分勝手ですよね」
鎧は二人の手を蹴り払いながら立ち上がり、立ち上がれない麗華の腰を踏むように移動すると痛みで叫びそうになる麗華を気にも止めず自らの口を閉じる事はしない。
「だから私良い方法を考えました。この子は現実の世界に居場所なんてありませんしこのまま私の鎧の中で眠ってもらいます。だってここであなた達が死ぬ気でこの子を取り戻してもきっとまた私を使って今と同じ状況に陥りますよ、どうせその時にも君達二人は止められない、あの想い人だってそう」
今度は翔の上に座るように腰掛け脚は麗華の上に乗せたままにする。
「あなた達にとっても良い提案ですよ。こんな性悪女なんて忘れて普通の生活に戻る。この子は永遠に私の中で憂鬱だけに染まりながら因果応報のように孤独を味わう」
鎧は二人の懐からこの世界に存在し続ける為のネックレスを取り上げるとそれを右手に握り締めたまま左手でGD組に銃を構える。
「誰かと比べる事のないたった一人だけの
鎧の提案も一理あるのではと考えた二人は反論する事が出来ず黙ってしまう。その様子を見てからまるで誰から撃とうか悩んでいるかの如く銃口を順番にGDの三人に向けて動かしていく。
「じゃあ幸せの第一歩としてまずは...カッコいいリュック背負った君に死んでもらいます♪」
鎧がイーに向かって銃の引き金を退いた瞬間
「危ないッ!!」
と言ってチーがイーを庇うように突き飛ばす。
「馬鹿野郎!!!!」
チーが着弾を覚悟して眼を瞑っていたがいつまでたっても痛みが感じる事が無いので眼を開けるとイーとチーの前には爆団長が作ったコピーが盾となって二人を守っていた。
役目を終えたかのようにコピーが消え去ると守ってくれた感謝を伝えようと二人が爆団長の方を向くと、爆団長の身体は光の粒子に包まれていた。
先の鎧との戦いで細胞を使い過ぎていた爆団長は既に限界を越えていた。先ほどの一人が生成出来る最後の一体であり、それを生成した事により爆団長は身体を保っている事が出来なくなったのである。
涙を浮かべながら駆け寄る二人に爆団長は微笑み掛けると懐からカプセルのような物を取り出してイーに手渡した。
「後は頼んだぞ、ガキども」
そう言って爆団長は崩れるように光となって消えた。残されたカプセルを握り締めながらイーは泣きわめくチーの肩を抱き寄せる。
「泣かないでくださいよ、すぐに同じ所へ行けますから」
鬼畜にも思える鎧が二人に対して銃口を向けるとその引き金に手を掛ける。止めろと言う翔の声も虚しく銃声が数発鳴り響いた。
「ぐあっ!?」
しかし鎧の背中から火花が飛び散り、引き金を引いたのは鎧ではない別の誰かだと判明する。すると急にバイクのエンジン音が響き再び銃声がしたかと思うと遅れて鎧の背中にまた火花が散りネックレスを手放した。
「ぐッ...あ?氷?」
鎧が撃たれた箇所にはまるで氷の弾丸を撃たれたかの様に氷が結晶の模様を形取って付着していた。その場にいる全員が辺りを見回すと一台のバイクが近づいて来た。
鎧よりは明るい青カラーのボディのバイクにまたがったライダースーツの上に白衣を羽織りヘルメットを被った人物は鎧に対してGK銃ほどの大きさの横に薄くハンマー付近に謎の装置が付いた銃を右手に構えていた。その右手の中指には水色の指輪をはめているのが見て取れる。
「そのバイク、この子の記憶によれば本当の姿の
その人物はバイクから降りるとそのヘルメットを外す。
「来たぜ...助けに」
卯「はい前回に引き続き本編補足コーナー始めます。今回の議題は麗華ちゃん、ということで本人にも来てもらいました」
麗「上だけじゃなくてここでもこんな茶番を...(あれ、“神”いるし)」
卯「今回は番外編及びこの章の一番始めで描かれた麗華ちゃん周りの問題についてよ」
ク「レイカはカケルの家の養子になったんですか?」
麗「一応養子縁組を受ける手続きはしてる...けど」
卯「麗華ちゃんの年齢だと普通養子縁組だと思うけど、手続きには戸籍謄本と本人確認書類、養親、養子それぞれの印鑑、後は家庭裁判所の許可があれば大丈夫ね」
神「後、裁判所から調査があったりするんだよね」
卯「後、非常に言い辛いんだけど番外編の最後に「いつか時神に変わる~」ってあったけどあれ養子縁組受けたらすぐ変わるんだよね」
麗「あれは...気持ちです気持ち!一応養子と実子は結婚できますし...」
卯「ちなみに申請の仕方はこれで良いんだけど受け入れられるまでに一ヶ月程掛かるの。つまり劇中だと麗華ちゃんはまだ破神霊香名義のはずなんだけど...」
巳「劇中では虹神麗華名義になってると」
神「改名したってこと?ってか本名はレイカ・ディ・アルコバレーノじゃなかったっけ?」
麗「あぁ、本名はそれで漢字名義だと虹神麗華になるだけ。ちなみに破神霊香という名前はGDのボスが付けてそれで星籍を取ったから」
卯「えーっとさ、本編で一回も言及されてないかもしれないけど麗華ちゃん出身星って」
麗「木星ですね、まぁ今時地球以外出身なんて珍しくないですけど」
ク「あ、私も実は天王星です」
卯・巳「「え!?」」
神「何かさらっと新情報が出たけど...ってかこのコーナー最早雑学と化してるな。次回は...一ヶ月更新を休んでから零矢の宝くじ問題の解説でお送り致しますって作者 また休むの!?」